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女性研究者の比率は増えている?【学校基本調査編 part1】

 前回の「女性研究者の比率は増えている?」では,日本化学会の会員数の推移を基にして化学領域の女性研究者の推移を考えました。そこで,今回は文系理系含めた学部・大学院で,女性研究者の養成について考えてみたいと思います。

1 e-Statで調べよう!

 大学に在籍する学生・大学院生の性別ごとの人数は,政府統計としてまとめられ,e-Stat(総務省統計局)で確認することができます。

図1 e-Statトップページ(出典:総務省統計局)

 目的の情報は,学校基本調査(文部科学省)で公開されていますので,キーワードに学校基本調査と入れれば,データにアクセスできます。たとえば,大学の在学生数の推移を見てみましょう。

図2 大学の学生数推移(1948~2016,出典:学校基本調査)

 e-Statのサイト上で,グラフを描くこともできます。紫色が全学生数,臙脂色が男子学生,黄色が女子学生の推移です。e-Statではグラフの色を変えられないので,少し見にくいのは勘弁してください(正直,黄色がデフォルトなのはどうなのかとおもいます)。女子学生は1985年前後を境に増えているようですね。1985年といえば,男女雇用機会均等法が制定された年です。雇用における男女の均等な機会や待遇の確保が法律によって定められたことで女性の社会進出が進んだことがひと目で分かります。このように政府統計を活用することで,女性研究者の養成の状況について分析します。

2 女性が多いかどうかと研究者を目指すかには相関はない?

 学部の女性比率の高さは,研究者を志望する(博士課程進学する)ことと,あまり関係がないようです。学校基本調査の2018年のデータを,Tableauでグラフにしました。横軸に学部の女性比率,縦軸に大学院の女性比率(修士・博士)を示しています。中心を横切る回帰直線よりも上側は学部生に対して大学院生の女性比率が高いもの,下側は大学院の女性比率が低いものを表しています。

図3 学部生と大学院生の女性比率比較(出典:学校基本調査)

 図3の直線から外れたところは,女性比率が変化する特徴がある学部といえます。たとえば社会科学は,博士課程の女性比率が学部より高いので,女性が研究者を目指しやすい学部であると言えるかもしれません。ここでは特徴のある変化として,歯学・医学部,薬学部,工学部について考えてみましょう。

2-1 歯学部・医学

 歯学部・医学は修士課程の成り立ちの違いから,修士課程で女性比率が大きく向上するようです。そのため,修士課程では女性比率が大きく向上しますが,博士課程では女性比率は学部と同程度になります。

 歯学部の飛び抜けて高い値は,歯科衛生士や歯科技工士などに向けた修士課程があることに関係がありそうです。この歯科学修士課程は,東北大学,東京医科歯科大学,岡山大学,広島大学に設置されています。医学部の場合は,医師ではなく,研究者,保険医療などに携わるヒトが進むコースとして修士課程があります。これらを除いて考えると,歯学・医学での研究者養成では,学部から博士まで女性比率はほぼ一定と考えて良さそうです。

2-2 薬学部

 薬学部は薬剤師の資格を取得して学部で卒業する割合が多いため,大学院に進学する女性がとくに少ない傾向にあるようです。そのため,大学院の女性比率は,他の学部とはまったく異なり,直線から大きく下がっています。

 同じ目的養成系学部である,教育学部,医学部と比較しても女性比率の大きな減少は,薬剤師という資格の有用性とともに,薬剤師という職種の性別の偏りを示唆します。

2-3 工学部

 工学部は学部・修士と比較して,博士課程で女性比率が高まるという,他の学部にはない特異な傾向があります。近年,女性エンジニアについて取り沙汰されることが多いですが,研究者としてのエンジニアを目指す女性が増えていることが示唆されます。

 この傾向は,薬学部とコインの裏表にあるかもしれません。工学部では,エンジニアとして男性が就職するなか,専門性を高め研究者を目指すのは女性という傾向があるかもしれません。

2-4 周りに女性が多いかどうかは博士課程進学とあまり関係ない

 一般的な傾向として,女性比率は修士課程から博士課程で低下する傾向にあります。この傾向は女性比率が高い学部で顕著であり,たとえば家政では修士(85%)から博士(73%)で10%も低下します。博士課程進学での女性比率の低下は一般的な傾向であることから,研究者を目指して博士課程に進学するかどうかは,学部に女性が多いかどうかとは関係が薄いようです。

3 まとめ

 直近の2018年の女性比率から,女性が研究者を目指すときに女性が多い学部かどうかはあまり関係がなく,理系分野では工学部で博士課程の女性比率が高まっていることが示されました。また,女性が多く資格が必要とされる分野では一時的に女性比率が高まる(歯学・医学・薬学)ことが示されました。この傾向は,最近のものなのでしょうか。それとも違うのでしょうか。次回は,この傾向について経年比較をしてみましょう。


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