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自由研究での成長の鍵は保護者の支援にある【後編】

後編のトピック
・自由研究への保護者の支援は時代とともに高まっている
・同一年齢で比較すると高年収者は,子ども時代に「やる気」を尊重した保護者の支援があった

調査の概要などを説明した前編はこちらです。前編からお読みください。

1 自由研究を親子で学ぶ習慣は時代とともに増加している

【概要】
 自由研究を通して生活において発見した疑問と学習した知識との関連性に気づき,学ぶ意義やおもしろさを実感するためには親の適切な支援が必要であるという認識は,時代とともに浸透していることが示されました。

【詳細】
 自由研究への保護者の支援について,「研究テーマの選定」「研究の実施」「まとめ」の相談に乗る・手伝うのほか,「すべて親主導で行う」「まったく手伝わない」「覚えていない」の6項目の回答を,回答者の年齢層「20歳未満」「20~30歳未満」「30~40歳未満」「40~50歳未満」「50~60歳未満」「60歳以上」で6つに分けて示します。

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 自由研究への保護者の支援は時代とともに変わっており,自由研究を「まったく手伝わない」保護者は徐々に減っていることが示されました。また,時代による周期的な変化一貫した変化が示されました。
 周期的な変化としては,上図に線で示したテーマ探しの変化が顕著です。60歳以上から20歳未満に向かう周期的変化は,親世代が子ども世代に自分の経験に基づいた支援をすることに起因しているのでしょう。ここで注目したいのは,親世代と子ども世代を比較すると,一貫した増加傾向を示していることです。「まったく手伝わない」や「親主導」がほぼ一貫した減少にあることからも,親世代は自由研究を通じた「やる気」の育成の重要性を理解して,子ども世代により良い教育を施そうと努力していることが推察されます。

2 もっとも高収入群は,適切な保護者の支援があった

【概要】
 同一年齢群(30~40歳未満,40~50歳未満)で比較すると,もっとも収入が高い群は子どもの「やる気」を高める保護者の適切な支援があったことが示されました。

【詳細】
 調査では個人年収を「1500~2000万未満」「1200~1500万未満」「1000~1200万未満」「800~1000万未満」「600~800万未満」「400~600万未満」「200~400万未満」「200万未満」「指定なし」で集計しました。収入1000万円を超える群を一群にまとめ,指定なしを除いて集計した結果を以下に示します。

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 年収1000万円以上の群で,まとめへの支援がやや高い傾向がありますが,はっきりした傾向は示されていません。しかし,この結果は,前述の世代による違いによって均されてしまっている可能性があります。そこで,「30~40歳未満」と「40~50歳未満」のふたつの群を抜き出して,同一年齢区間で年収と保護者の支援を比較しました。

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 同一年齢で比較すると,年収1000万円以上の群は自由研究の「実施」「まとめ」に対する保護者の支援が大きいこと,自由研究を「手伝わない」「親主導」で行う傾向が少ないことが示されました。一方で,研究テーマへの支援はもっとも少ない傾向を示しています。この結果から,もっとも高年収群の保護者は子どもの興味関心に共感することで,子どもの「やる気」を高め,子どもの主体性を尊重しつつ活動を適切に支援していることが示唆されます。一方で,他の群では自由研究を一切「手伝わない」もしくは「親主導」で行う保護者が多い傾向が示唆されます。

3 成長には保護者の支援が重要

 自由研究は,テストと違って短期的な成果を得ること・能力の向上を実感しにくいからこそ,保護者の支援が重要です。学ぶ意義やおもしろさを,子どもが独力で発見するのはとても難しいことです。そこに保護者の適切な支援があることで,子どもは学びに対して意欲的になれます。ベネッセ教育総合研究所の「中学1年生親子インタビュー調査2016」でも,学ぶ意義やおもしろさの理解の端緒として保護者や教員の声掛けが挙げられています。


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 子どもの脳は未成熟です。思考を司る前頭葉の発達が未成熟で,楽しさを感じる側坐核の反応が活発ですので,瞬間瞬間の自分の興味関心を優先し,地道にコツコツ活動したり,客観的に評価することを苦手としています(参照「10代の脳」)。自分が何をしたいのかを明確にすること(テーマ探し),発見した課題を解決するために何をすれば良いのか(実施),得られた結果は何を意味しているのかを整理する(まとめ)ために必要な,前頭葉による粘り強い思考が働きにくい傾向にあります。そのため,子どもが自由研究を通して成長するためには,保護者の適切な支援が必要なのです。

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 また,自由研究は学校に提出すると学校や教育委員会から表彰されますが,この表彰制度への複雑な思いが強く記憶に残っていることが示されています。ひとりひとりにはフィードバック(評価)がないため,自由研究のどこが評価され,どこに改善が必要なのかわからないことへの不満があるようです。「一生懸命やったのに何の評価もされず,自分が否定されたように感じた」「明らかに私より手抜きの作品が受賞した」などの経験が,「どうせやっても無駄だ」と自己肯定感を低下させ,学ぶ意義やおもしろさを実感できなくしてしまうことが示唆されています。ここでも保護者の支援が重要です。子どもの世界は狭く,学校が世界のすべてだと考えてしまいがちですが,子どもの意欲を評価してくれる場所,たとえば自由研究を提出するところは学校以外にもたくさんあります。すべての投稿作品にコメントが返されるコンテストや内容に即した専門家が審査するコンテストなどのたくさんのコンテストがあります。なにより,一緒に考え,共感した保護者が子どものがんばりを評価することが,長期的な子どもの「やる気」を育成することが示されています。

4 研究の方法やルールを解説しました

 研究の遂行で迷わないよう,研究のロードマップを作りましょう。『13歳からの研究倫理(大橋淳史著,化学同人)』では,主人公「ぼく」としっかり者の「姉さん」,科学者の「叔母」の3人が,研究のテーマからまとめまでを話し合うストーリー形式で話が進みます。また,NHK基礎英会話などの多数の教育書籍でイラストを描かれているTAKAさんが,わかりやすく,親しみやすい挿絵をつけてくださいました。第3章,第4章では実際に即して,研究で守らなければならないルール,研究倫理をシミュレーションで学びます。親子で楽しく研究と研究のルールを理解する,世界ではじめての書籍です。お陰さまで現在,第4版が好評発売中です。
 夏休みに向けて,自由研究と保護者の支援について分析しました。今夏の活動の参考になれば幸いです。

【参考資料】

「10代の脳 反抗期と思春期の子どもにどう対処するか」文藝春秋
フランシス ジェンセン (著), エイミー・エリス ナット (著), Frances E. Jensen (原著), Amy Ellis Nutt (原著), 野中 香方子 (翻訳), 渡辺 久子

「自信力はどう育つか―思春期の子ども世界4都市調査からの提言」朝日選書
河地 和子 (著)


いつもより,少しだけ科学について考えて『白衣=科学』のステレオタイプを変えましょう。科学はあなたの身近にありますよ。 本サイトは,愛媛大学教育学部理科教育専攻の大橋淳史が運営者として,科学教育などについての話題を提供します。博士(理学)/准教授/科学教育