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研究とは時代を超えたコミュニケーション!

 研究と自由研究(や課題研究)とのもっとも大きな違いは「コミュニケーション」にあります。研究とは,現在,過去,未来の研究者との対話的な活動であり,対話を伴わない個別的な活動である自由研究とは本質的に異なるのです。このふたつの混同が,研究や科学者という職業への誤解につながっているのではないかと考えています。そこで,まずは研究について考えてみたいと思います。

研究とは時代を超えたコミュニケーション

 私が彼方を見渡せたのだとしたら,それは巨人の肩の上に乗っていたからです。――アイザック・ニュートン

 研究におけるコミュニケーションの重要性は,この言葉に凝縮されています。どれほど優秀であろうとも研究者の力には限界があります。そこで研究者は限界を突破して「その先」を見渡すために,過去から現在までの多くの研究者とコミュニケーションするのです。ニュートンの言葉は,それを明確に伝えるものです。

コミュニケーションとは思考を伝達する力

 ここで言うコミュニケーションは本来の意味のコミュニケーション,思考を過不足なく伝達する能力のことを指します。「誰とでも仲良くなる能力」ではありません。
 コミュニケーションは対面での直接対話に限定されたものではありません。紙面や文章を通した思考の伝達は,著者と読者の間接的なコミュニケーションなのです。この定義では,学術論文を読むことは過去とのコミュニケーションであり,研究は時代を超えたコミュニケーション活動なのです。

学術論文はコミュニケーションである

 時代を超えて対話するために研究者が編み出した手法が学術論文です。
 学術論文は,内容を理解することで,執筆者とおなじ境地に至ることができるように書かれます。そのため研究者は学術論文を読むことで,過去から現在に至るまでの研究者の成果を追体験できるのです。そして,研究者の執筆した学術論文は,現在だけでなく未来の研究者との対話になるのです。研究者は,時間や場所の制約を超えて対話を繰り返し,個の限界を超えた「その先」を目指すのです。

有名無名の研究者の成果の上に立つ

 科学もやはり頭の悪い命知らずの死骸の山の上に築かれた殿堂であり,血の川のほとりに咲いた花園である。――寺田寅彦

 時代に名を残す研究者の成果は,過去から同時代の無名研究者の成果の上に成り立っています。どれほど優れた研究者であっても,他の研究者とのコミュニケーションなしに偉業を達成することはできません。
 そして,人類社会に広い意味で成果をもたらす研究は,非効率的な試行錯誤の繰り返しです。その成果の多くは記憶に明確に残るものではないかもしれません。しかし,有名研究者の影に隠れた無数の無名研究者の研究がなければ,歴史に偉業として記憶される研究も生み出せないのです。雨だれ石を穿つというように,多くの研究の積み重なりによって石に穴が穿たれるのです。

時代を超えた壮大なコミュニケーション

 コミュニケーションを恐れては研究はできません。あなたが思いついたことは,きっと他の誰かも思いついているでしょう。しかし,それは失敗ではありません。その「誰か」とコミュニケーションすることで,新たな発見に繋がるのです。
 誰かは,遙かなる過去にいたのかもしれませんし,近くにいるかも知れませんし,もっともっと後の時代に生まれてくるのかもしれません。それを知ろうとすること,つまり時代を超えてコミュニケーションを取ろうとする姿勢が研究には必要です。
 研究とは過去から未来に続く,歴史の大河に新たな流れを生み出す活動です。大河に見えても小さな支流かもしれません。源泉に見えても地下に川があるかもしれません。広い視野を持つことではじめて見えてくることがあります。それは直接・間接を問わないコミュニケーションによって得られるものです。
 研究にはコミュニケーション能力が必要です。研究者は,時間や場所の制約を超え,自らの限界を突破して「その先」を見渡すために,過去から現在までの多くの研究者とコミュニケーションするのです。

いつもより,少しだけ科学について考えて『白衣=科学』のステレオタイプを変えましょう。科学はあなたの身近にありますよ。 本サイトは,愛媛大学教育学部理科教育専攻の大橋淳史が運営者として,科学教育などについての話題を提供します。博士(理学)/准教授/科学教育