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みかん農家になりたい、あるいは0から作ってみる【ボードゲーム】

Yukoです。一番好きな果物は?と聞かれたら、クイズ王並のスピードで「みかん」と答えています。毎年冬に祖母が送ってくれる大量のみかんがありがたいです。

ふと、0からボードゲームを作る過程を記録してみたい、と思いました。あっという間に過ぎてしまうプロセスを書き残しておくのも、悪くはないかなと思います。
書きながら作っているので、最初と最後で内容が変化する可能性があることをご承知おきください。

テーマを決める

今回は0からのスタートなので、思いつい(てしまっ)た単語をそのままゲームにしてみます。
その名も「豊作貧乏」
みかん食べたいな〜と思っていたら浮かんできました。なんて風情のない…
ゲームの根幹なので、このテーマをずらさない様に気をつけます。

他にも色々と思いつく単語はあったのですが、その中でも豊作貧乏は「閾値的な得点推移が表現できる」「ランダマイザが関与する(天候やトレンド)」「生産→売却はゲームの形として表現しやすい」といった特徴から、最終決定しました。簡単にいえば「なんかゲームっぽい」です。
ここで深く考えていても良くないので、ちゃっちゃか進みます。

ゲームの概観をデザインする

どんなゲームにするのかを決めます。ここで注意するのが、作りたいのは面白いゲームだということです。ゲームデザインの最終目的は遊んで楽しんでもらうことで、現実の事象をそのままトレースすることではありません。

まず、豊作貧乏について考えてみます。
豊作貧乏とは、価格弾力性の低い商品(すなわちみかん)を作り過ぎてしまうことで需要と供給のバランスが釣り合わなくなり、作物の価格が暴落してしまうことで農家が困窮してしまうことを指します。したがって、このゲームが経済ゲームとなることが確定します。
加えて、プレイヤーが認識しやすい勝利条件ということで、ゲーム終了時に最も所持金が多いプレイヤーが勝ち、ということにしてみます。

みかんを生産・処理する部分に支出が発生し、売却する部分で収入が発生します。ここで、支出を最小化し、収入を最大化することが勝利にそのまま結びつくような形にします。

上で述べた「商品を作り過ぎてしまう」は農家のミスと言うよりも、天候などの人間の手に負えない部分に左右されがちです。ここで、ランダマイザをメカニクスの軸に置くことを確定します。

ランダマイザの中でも、いかに過剰生産を視覚化できるかが重要になるのに加え、小さくてもトークンなど様々な用途として使えるダイスを、今回は使用しようと思います。テストプレイで大きな問題が発生しない限り、今回はこれで確定させて突き進みます。ダイスゲーム楽しいからね!

このゲームはダイスゲームです。
運に左右されるゲームには大まかに「プレイヤーの意思決定後にランダム要素が発生するもの」と「ランダム要素が発生した後にプレイヤーが意思決定をするもの」との2種類があると考えていますが、今回のテーマを考える限り、前者を採用した方が良いでしょう。前者はプレイヤーに「考えてもしょうがない」と思わせるので、できるかぎりシンプルなゲームにします。
ところで、プレイヤーの思惑にダイスがしたがってくれない、というのはなかなかストレスフルで、盛り上がりのピークが存在すると思っています。
なので、できるだけ短時間で終わるゲームにします。

以上で出た要素を並べてみます。
・みかんの生産量(ランダマイザに依存)
・市場の需要(微量に変化する、あるいは変化しない)
・市場の供給(生産量に依存)
・みかんの価格(生産量に依存)

ここで、ゲームの大まかな流れが決まります。
「ゲームの開始時に市場の需要を確定し、プレイヤーは生産するみかんの大まかな量の基準を決める。その後栽培を行い(生産費として支払いが発生)、需要にしたがって商品を売却する(収入が発生)。余った商品は破棄する(処理費として支払いが発生)。」

プレイヤー人数は2~5人、プレイ時間は10~20分と仮決めします。

アクションをデザインする

ボードゲームはアクションの集積です。アクションの全てはそのゲームに関連している(=得点経路に密接に関連している)必要があります。

アクションはインプットを発生させるものとアウトプットを発生させるものに大別でき、前者はゲームへのプレイヤーの意思決定の入力、後者はゲームからの出力と定義できます。

今回は、インプットとアウトプットを以下のように定めます。
インプット:
「種まき」需要に基づいて、生産するみかんの量の基礎を確定する。
「栽培」生産するみかんの量を調整する。
「売却」需要に合うまで生産したみかんを売る。
「処理」売り切れなかった余剰在庫を処理する。
アウトプット:
「みかんの完成」最終的な生産量が確定する。(日本語が思いつきません)
「需要」基本的に基本固定値(=価格弾性力は低い)の予定。
「みかんの価格」生産量に応じて変化する。需給曲線に基づいて算出する。

各インプットのアクションを具体的に確定していきます。

他プレイヤーとのインタラクションを強くしたいとも思っていましたが、ダイスゲームは自分の運を楽しむものなので、あくまで個人のアクションで完結することをベースに作ろうと思います。

「種まき」
ここでは、振るダイスの量を確定します。仮に4つとしてみます。この時の期待値が14となることを頭の片隅に留めておきます。

「栽培」
種まきで確定させたダイスを振っていきます。ダイスを1回振るだけではどうしようもないことがあり得るので、振り直しをさせたいです。
ここで生産費の支払いが発生しますが、これは振り直すたびにコストがかかる、ということにします。いくら支払うことでいくらもらえるのか?というオッズを考えるところに注意を向けて欲しいという気持ちがあります。
すなわち、「振り直すたびに、振るダイスの数と同じだけお金を払う」というものです。

「売却(閾値以下)」
各プレイヤーは生産したみかん(各自のダイスの出目)を売却します。
できるだけシンプルにしたいので、ダイスの出目だけで点数が出るようにしたいです。
作りすぎになってしまうラインを、ダイスの期待値である14と設定し、それ以下ならばお金がもらえるようにします。
もらうお金は「最小の出目と最大の出目の合計」としてみます。ダイスの振り直しに使うお金の数が3~7金ぐらいで推移すると見ているので、それより少し多くなるはずです。(14を作る時点数の組み合わせ最大は2,3,3,6の時の8点になります。)

「売却と処理(閾値より上)」
15以上になってしまった場合、豊作貧乏になってしまいます。
「みかんの価格は大幅に下落」し、「余剰在庫の管理費がかかる」というのを端的に表現したいので、これを読み替えて「得点が減る」「超過分が失点になる」とします。すなわち、「最小の出目と最大の出目の合計を半分にし、14を超えた数字1につきマイナス1金」としてみます。得点がマイナスになった場合、所持金から差し引きます。

ルールに起こしてみる。

ゲームには達成感が必要です。ということは困難が必要です。簡単に達成できてはつまらない。現在は達成率を50%ぐらいの確率にしていますが、難易度に合わせて変動させるかもしれません。

さて、先ほどのアクションの概観を受けて簡単なルールに起こしてみます。
種まきは面倒なのでダイスの量は固定しました。

「豊作貧乏」
・プレイヤーはゲーム開始時に5金を受け取る。
・自分の番に、ダイスを4つまとめて振る。
・その後、好きなだけ振り直せるが、振り直すたびにその時振るダイスの数だけお金を支払う。
・振り終わったダイスを確認する。合計値が14以下なら「最小の出目+最大の出目」と同じ額のお金を受け取る。
・合計値が15以上なら、上と同じように得点を計算した上で、その点数を半分にし、さらに14を超過している分だけその得点から差し引く。得点がマイナスになった場合、所持金から支払う。所持金は最小0。
・これを4ラウンド繰り返し、最も所持金が多いプレイヤーが勝利。

割とシンプルに落ち着きました。
テーマ性がなければどこかに転がっていそうなゲームです。
ここまではテーマに基づいた要素を簡易化してゲームシステムの形に落とし込んできただけなので、そこまで大変なことはしていません。

現在の懸念点は、達成難易度の高さ、チップの量、あとは単純に遊んで楽しいか?です。加えて、ラウンドごとの繋がりの薄さも少し気になります。

合計値が12, 13 ,15, 16,になる組み合わせはそれぞれ大体10%なので、(プレイヤーのアクションが関与してくるので実際の確率は多少変化しますが)閾値を14から上下させるだけで、達成率を10%ずつ変えることができます。

ここで、テストに移ります。
実際に遊んでみて、何か問題点がないか、アイデアを思いつかないかを考えてみます。

テストプレイ

数回遊んでみました。当然のように問題点が出てきました。

1点目は、目的が案外簡単に達成できること
2点目は、豊作貧乏状態にならないこと
3点目は、プレイヤーによって利益の差が激しいこと
4点目は、ラウンド数が短く感じること

「目的が案外簡単に達成できること」について、理由は簡単で、14という数値は期待値に基づいて出しているので、リロール(振り直し)をする必要がない可能性が50%あるんですよね。振り直しに資金を使うゲームなのに、プレイヤーによってそれを払う・払わないの差が頻繁に発生するのはアンフェアです。
解決策として、閾値を下げることでリロールの可能性を高めてみます。閾値を12に設定し、達成条件を厳しくします。

「豊作貧乏状態にならないこと」について、上記の理由の他に、振り直しが何回でもできるために、ほとんどの場合資金が底を尽きる前に達成できる、ということがあります。
底を尽きても次の回に(達成収入として)前回の所持額と同じ額をもらえるのであれば、ひとまずは安心です。
思いついた解決策は2つ。
1つ目は、最初の所持額を減らすこと(5→4など)。
2つ目は、振り直すたびに1つ以上をキープさせること。
3つ目は、振り直しの回数を制限すること。
1つ目は、単純に振り直しの制限を強くします。運が良い悪いで大きな差が出ることに変わりはありませんが、最初を少なくすることで後半のリロールの選択肢が増え、プレイヤーの成長体験をデザインできます。
2つ目は、振り直しの制限がかかるので、単純に豊作貧乏になる確率が上がります。最大3回の振り直しで手番が終了するため、ダウンタイム(待ち時間)を減らすことにもつながります。
3つ目は、2つ目に似ていますが、プレイヤーに対してより多くの選択肢を与えることになります。閾値を12に下げる変更との相性も良さそうです。
1つ目について初期枚数を4枚にし、3つ目を採用します。

「プレイヤーによって利益の差が激しいこと」について、例えば閾値14の時に14を初回で達成した場合、最大で8金を獲得します。一方で運悪く豊作貧乏になった場合、マイナスにならないにしても1金程度しかもらえません。この7金の差は結構なものです。
簡単な解決策は2つ思いつきました。
1つ目は、もらう点数を確定させること。例えば、プレイヤー全体で最も閾値に近いプレイヤーは6金、次に5金、以降は全員4金などです。
2つ目は、最大値のみを収入対象とすること。最小の数字を気にしなくなりますが、シンプルを目指しているので許容範囲かなと思います。1手番で振り直しにかかる費用は2〜3枚が平均になりそうです。毎ラウンド少しずつ増えていくイメージができます。運による大量得点の逆転は難しいですが、今回はそこまで振れ幅を作らないことにします。
1つ目は手番順によって有利不利が出てしまうため、2つ目を採用します。

「ラウンドが短く感じること」について、1手番40秒ぐらいなので、4人プレイで4ラウンド回すと10分、5ラウンド回すと15分弱で1ゲームが終わることになります。
運要素が強いゲームはラウンドが多くなるほど試行回数が増えてプレイヤー同士のバランスが取られていきますが、このゲームは純粋に運を試すゲームなので、ラウンド数は少し足りないと思うぐらいが良い気がします。
ただ、最初のラウンドが終わった段階で「あと3ラウンドか」と「あと4ラウンドか」を比べると、「あと3ラウンド」はダイスゲームとしては(個人的には)早すぎるように聞こえます。最初からお金が減ってしまうと悲しいですが、そこからのリカバリーと後半の資金拡大の嬉しさを少し持続させるため、5ラウンドに設定します。

目的が簡単に達成できる問題については、振り直しの制限で解決できるような気がします。後半で達成感とお金が増えていく楽しさを産みたいので、閾値は12に設定します。

以上の3点についてルールを変更して遊んでみたところ、なかなかいい感じです。

完成!

修正したルールの感触が良かったので、ルールの形に書き直してみます。

「豊作貧乏」
◆ゲーム概要
頑張ってみかんを育ててお金を稼いで、最強のみかん農家になろう!
◆ゲーム情報
2人〜・20分・8歳〜
◆用意するもの
・ダイス:4つ
・チップ:たくさん
◆ラウンドのプレイ
・各プレイヤーは、ゲーム開始時に4金を受け取ります。
・親から順に手番を行います。
・自分の手番には、まずダイスを4つまとめて振ります。
・ダイスは好きなものを選んで3回まで振り直すことができます。
・振り直すたびに、振り直すダイスの数だけチップを支払います。所持チップ以上のダイスを振り直すことはできません。
・振り終わったら、手番を終了します。
◆ラウンドの終了と得点計算
・全てのプレイヤーが手番を終えたら、ラウンドが終了します。
・振り終わったダイスの合計値を確認します。これがみかんの生産量です。
・合計値が12以下なら、最も大きいダイスの出目分のチップを得ます。
・合計値が13以上なら、最も大きいダイスの出目を半分(端数切り上げ)にし、さらに14を超過している分だけその点数から引いて、チップを得ます。
・得点がマイナスになった場合、所持チップからマイナス分を支払わなければなりません。所持チップが0枚を下回ることはありません。
◆ゲーム
これを5ラウンド繰り返し、最も所持チップが多いプレイヤーが、「最強のみかん農家」となりゲームに勝利します!

いい感じになりました。

もっと調整できるところはあると思いますが、記事が長くなってしまったので、今回はこれでひとまずの完成とします!

「もっとこうしたらいいのでは?」と思うところがあったら、ぜひ教えてください!

今回は、「みかん」からテーマドリブンでゲームを作ってみました。
2日ほどで完成させた作品でしたが、それなりに楽しめるものになったのではと思います。もし良かったら遊んでみてください。

ゲームが形になっていくのは、楽しいですね。

Thank you so much for reading!
(February 10, 2022)

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