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【Pick Up Analyst】分析とは「問題を要素分解し、課題として再統合する」こと:ラグビー・木下倖一氏

第一線で活躍しているスポーツアナリストに仕事への思いや考えを語ってもらう連載企画「Pick Up Analyst」。第27回は、今週開幕を迎える「NTTジャパンラグビーリーグワン2022」に参戦するNTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安にてヘッドオブアナリシスを務める木下倖一氏にお話を伺いました。

※こちらは抜粋バージョンです。全編読みたい方はこちらから▶︎http://jsaa.org/pick-up-analyst/3619

スポーツアナリストへの道を開いた一本の電話

-スポーツアナリストになったきっかけを教えてください。

もともと慶應志木高校でラグビーをやっていましたが、大学のラグビー部で選手として競技を続ける才能は無いとわかっていたので、トレーナーなど何かしらの形でラグビー部に携われたらいいなと思いつつ、入部するか否か迷っていました。ただ、自分には兄弟がいて、慶應のラグビー部はかなりお金がかかる部活だったので、金銭的な理由で入部を断念しました。その後、何となく大学生活を送っていたのが、大学1年生の頃でした。

大学2年生になり、2年生だった先輩が3年生になると、周りから就職活動の話が聞こえてきました。慶應の場合だと、大学3年の頭には就職活動を始めるので。そこで自分がどうしたいのかを悩んだ時に、ラグビーでご飯を食べられたらいいなぁとぼんやり思ったのがスポーツアナリストになろうと思ったきっかけですね。

具体的にラグビーでご飯を食べるといっても、これから選手になるということはないですし、トレーナーになるにも学校に入り直さないといけない。そんな時間とお金は無いなというところで、レフリーなのかコーチなのか、それともアナリストなのか。結局その3択であれば可能性はゼロじゃないと思いました。コーチは望み薄だとは思っていたので、それならレフリーかアナリストだろうということで、色々なところでレフリーを始めてみたり、アナリストになりたいと思って色々な人に伝えたり、会ってみたりしました。

実は大学3年生の時、慶應のラグビー部に入部したいと話を持ちかけたのですが、断られてしまったんです。大学3年生から入部するということと、ラグビー部の方から「体育会のラグビー部でやるアナリストは、君が求めるものとは違う」というお話がありまして、入部は叶いませんでした。でも断られた正にその帰り道、運良くNECのラグビー部がアナリストを探しているという電話がかかってきたんです。その後、NECの方と直接お会いしまして、大学3年生の時にアシスタントとして関わらせていただいたというのが、自分がスポーツアナリストになった経緯です。

-スポーツアナリストの仕事で一番大変なことは?

基本的に業務量は多い方だと思うので、全然終わらないなと思うときはあります。その点では、2020年のスーパーラグビーが一番きつかったです(笑)。仕事量が結構エグい量だったので、本当に寝れず…という感じでした。正直、寝れないのは要領が悪いと言う話で、カッコいいとは全く思いません。アナリストとしての仕事という意味ではそれが一番きつかったですね。ただ、もう少し大きく、仕事という意味で捉えると、2019年にヘッドアナリストとしてニュージーランドのチームと契約した時に英語でとても苦労をしました。もともと自分は帰国子女でもなく、純ジャパとして英語を学んで、第二言語として英語圏で働く、それも契約を貰って、お金を貰って働くという環境の中で、「日本語だったら俺はもっと賢いのに…」「日本語だったらもっと上手く伝えられるのに…」というストレスも仕事をしていて大変でした。

分析を通して取り組むべき課題をセットしていく

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(©︎ShiningArcs)

-木下さんの考える「スポーツアナリスト」の定義を教えてください。

自分の中でのスポーツアナリストの定義は、「スポーツチームの中にいる分析ができる人」です。ただ、スポーツアナリストという言葉を定義するよりも、分析という言葉を定義しないと決められないのかなと思っています。分析とは何か?というと、まずは、いわゆる「アナリシス(Analysis)」の語源、すなわち要素分解をすることです。例えばチームが抱えている問題、個人が抱えている問題、そして起きた事象が抱えている問題。そういう問題を要素分解する「アナリシス」の意味。そして、「シンセシス(Synthesis)」、すなわち統合。分析したものを問題ではなく課題に再統合していくことを合わせて、分析なのかなと思っています。従って、例えば問題だけを指摘するとか、逆に問題を分解しすぎて細かい一事象になりすぎているみたいなものは、分析では無いかなと思います。アナリストというのは、「起きている問題を原因などに要素を分解して、具体的に課題としてもう一度組み上げ直す、そして課題をセットしていくことができる人」というイメージですね。

-スポーツアナリストを始めた時と比べて、「分析」の定義は変化しましたか?

最初の方は分析とは何かというと、例えば映像をちゃんとシェアするとか、タックルの数を数えるとか、そういうものだと思っていました。入って1年目、2年目くらいで、数字を扱うにしては、数学的な要素が少なすぎるし、映像を撮るだけなら正直誰でもできるというか…よくある監督の見たいアングルですごく良い画角でお届けするみたいなのは、VHSの時代の話なのかなと感じました。僕はカメラマンではないので。もちろん大事ではあるのですが、そこに拘りをもって…みたいなのは違うかなと。1年目、2年目くらいで色々な人と話をして、色々な人がそういうことを言うので…。いわゆる従来のアナリストの方達の考え方に違和感を持ち始めたのはそれがきっかけだと思います。

スポーツアナリストはチーム文化の醸成を担っている

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-スポーツアナリストとして一番やりがいを感じる瞬間は?

日々のミーティングが特にミスなく終わって良かったというのもありますが、やはり勝ち負けの世界で働いているので、勝つことが一番スポーツアナリストをやって良かったなと思うところですね。そういう意味では、自分の仕事が勝利につながったかはわかりませんし、またつながっていたとしても本当に数パーセントだと思いますが、それでも勝った時が一番やりがいを感じますね。その勝つという中にも、自分がコーチに話した戦術分析が予想通りにいったかどうか、予想した事象が起きたかどうか、そういう自分の分析と予想が当たるかどうかもありますし、それこそモチベーションビデオだったり、メンバー発表だったり、アナリストとして様々なものを通じてチームの文化を築く手助けを担っている部分があると思います。それらの積み重ねで、チーム文化の醸成に少しでも貢献できたのかなと思える瞬間がありますね。

-Sports Analyst MeetupやARCS IDEATHON*2など様々な取り組みをされていますが、ラグビー以外からも積極的にアイディアを吸収するよう意識されているのですか?

そうですね。正直ラグビーだけしか知らない人はラグビーを知らないと思いますし、スポーツだけでなく、世の中そういうものだと思っています。2020年の夏に3、4年ぶりにちゃんとした休みがありました。もちろんオフシーズンもラグビーを観たりしますので、日本代表の練習を見学しに行くのも良いのですが、なるべくラグビー以外のものに触れようと思いまして、Jリーグのあるチームで1週間程、練習やミーティングを見学させていただきました。そこで得た学びはチームに持ち帰るなどしています。他にも本はビジネス書も色々と読みますし、サッカー関係の書籍も多く読んでいます。

Sports Analyst MeetupARCS IDEATHONも自分自身が学びを得る場ですね。もともと数学とかも好きではないですが、スポーツ好きなエンジニアの方、データサイエンティストの方々と色々と意見交換をする、交流をして学んでいかないと、紙とペンでパスの数を数えているという域を出る仕事はできないと思います。そういう交流の機会を持つと、毎回発見がありますね。それを実装できるかどうかは僕の腕にかかっているのですが(笑)

嫌いなこと、苦手なことに対しても時間と努力を惜しまない

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(©︎ShiningArcs)
-スポーツアナリストに必要な資質は?どうすればスポーツアナリストになれますか?

資質として、スポーツを好きな気持ちがあれば…というのがよくある話ですけど、じゃあ実際に「好き」とは何か?といったら、嫌なこと、苦手なことに対してちゃんと時間と努力を費やせるかどうかだと思っています。自分自身、数学はめちゃめちゃ苦手ですし、英語も高校の成績とか酷いですし、何ならITとかはあまり好きじゃないので。趣味が映画とラジオと読書で、正直そういうアナログなタイプの生活で良いと思っている人間です。ただ、アナリストであれば、嫌でも好きでもトレンドについていかないといけないですし、英語もそれこそ、日本で日本語だけで暮らしていくことが一番だと思っていますけど、それを言っていても仕方がない。重要なのは苦手なものに対して努力が出来るかどうかだと思います。選手としてダメだから、トレーナーとしてダメだから、何となくパソコンを使っていてかっこいいからという理由だけで出来るほど簡単な仕事ではないと思っています。

どうしたらスポーツアナリストになれるのか、という点で言うと、まずはなりたいという意思表示をちゃんと周りに向けて発信していくこと。周りに知ってもらうということが一つ。もう一つは、チームが何を求めているか、どういう人を求めているかということを考えた上で、そこにあるギャップに対して、しっかりと自己分析をして、ギャップを埋めるということだと思います。それはスポーツアナリストとして生き残っていく上でも大事なことです。

-今後スポーツアナリストという職業をどのように発展させていきたいですか?

スポーツアナリストが置かれている現状として、チーム側はスポーツアナリストというものを認識して、必要だと思い始めています。しかし、スポーツアナリストの担い手である学生などが、その職業を知っているか、なりたいと思うかと言うと、野球のような少し特殊なケースを除けば、そのような状況に無いのではないかと感じています。今後、例えば毎月色々な競技のアナリストをゲストに招いて配信するなど、スポーツアナリストの認知度を上げる、学生など今後の担い手にスポーツアナリストを知ってもらうような場、スポーツアナリストを応援してもらえるような場を作っていきたいなと思っています。

※こちらは抜粋バージョンです。全編読みたい方はこちらから▶︎http://jsaa.org/pick-up-analyst/3619

木下倖一氏も登壇するSAJ2022 -スポーツアナリティクスジャパン2022-の情報はこちらから▶︎http://jsaa.org/saj2022/


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