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日本インフラの体力診断-公園緑地-

土木学会事務局です。

土木学会では、インフラ健康診断・日本インフラの能力診断との組み合わせで、日本のインフラの「強み」「弱み」を総合的に評価する資料・データとして活用していただくよう、インフラの体力診断を行い、2023年6月6日に第三弾となるレポートを公開いたしました。

本記事は、インフラ体力診断のページに掲載したPDFレポートの内容から、公園緑地WGの内容をnote向けに再構成したものです。コラムや脚注、参考資料等省略している部分やリンク等を追記した部分がございます。詳細は「日本インフラの実力診断」のページに掲載しているPDFをご確認ください。

はじめに

2020年以降、世界中に感染が拡大した新型コロナウィルス感染症(COVID-19)は、これまで都市生活のメリットであった集積、賑わい、交流などの機能をデメリットに一転させた。地域に閉じられた生活の中で、身近な公園緑地を日常的に利用する人が増加した。

主要な36の都立公園の別利用者数の変化
出典|竹内智子(2022)COVID-19感染拡大下における都市公園の利用実態から考える今後の展望. 公園緑地82(4), 18-21

運動をしたり、花や草木や小鳥たちに癒されたり、近所の人と出会って会話を交わしたり、公園緑地[1]は、私たちの心身の健康に必要不可欠なものであることを世界中の人々は改めて実感している。

子どもの豊かな感性を育む公園 (東京都世田谷区)
写真:©土木学会インフラ体力診断小委員会公園緑地WG

政策目標としても、肉体的・精神的・社会的に満たされた幸福な状態を示す概念である「Well-being」が注目されており、公園緑地はその具体的な展開の場として、ますます重要な意味を持っている。

また近年、夏の気温上昇や山火事、豪雨による水害や土砂崩れなど気候変動がもたらす自然災害が甚大化している。我が国においても、桜の開花がもはや4月の入学式のシンボルではなくなり、夏には大部分の地域でエアコンが欠かせなくなるなど、気候変動を体感している。このような中、自然が有する多様な機能を活用した取り組みである「グリーンインフラ」が注目されている。国際自然保護連合(IUCN)は、自然の力を活用して生態系と人々に恩恵をもたらしながら社会的な課題を解決する「Nature-based Solutions」を提唱しており、人口が減少する中で、自然の恵みを賢く活かした持続可能なインフラへの投資が求められている。

このように都市における公園緑地は、個人と社会のWell-beingの向上、地域の社会的課題や環境問題解決に少なからず貢献することが世界共通の認識となりつつあり、欧米各都市は、緑を都市戦略の重要な柱に位置づけている。我が国もこのような世界的な動向に遅れを取ってはならない。

本提言は、緑にあふれた健康な都市生活のために必要不可欠なインフラである公園緑地に関して、これまでの政策を総括し、市民それぞれが「自分ごと」として公園緑地に関わり育てることで、Well-beingを向上させていくための指針としてまとめたものである。

[1] 本提言における「公園緑地」は、都市公園、都市公園以外の公共施設緑地、民間施設緑地(公開空地、民間施設の屋上緑化)、法律や条例等により保全されている地域制緑地(特別緑地保全地区、生産緑地地区、市民緑地、協定による緑地の保全地区等)を包含する概念として位置づけている。

1. 公園緑地は私たちの生活にどのように役立っている?

1-1. 公園緑地の機能と効果

公園緑地は、私たちに環境面、社会面、経済面において様々な機能を発揮してくれる。
私たちが利用する時の効果(利用効果)だけでなく、そこにあるだけで環境保全等の効果(存在効果)をもたらし、さらに間接的・長期的にひろがっていく効果(波及効果)もある。

公園緑地は、元々その土地にある自然環境、文化的環境に立脚して整備されたり保全・創出されたりするものであり、街を彩り、人々の生活に安らぎや潤いを与え、スポーツや健康づくりの拠点、大気の浄化やヒートアイランド現象の緩和、生物多様性の保全等、多様な機能を発揮するグリーンインフラとしての役割を果たしている。また、コロナ禍において自然と身近に触れ合い、心身の健康を保つことができる貴重な屋外空間として再認識され、さらには、災害時には避難地や防災拠点として安全・安心な国土の形成にも寄与している。このように、公園緑地がもたらす機能は実に多様であり、大きく経済面、社会面、環境面に分けることができる。

公園緑地が有する多様な機能
図および写真|©土木学会インフラ体力診断小委員会公園緑地WG

私たちは、ベビーカーで公園に散歩に行き、雑木林で虫取りに駆け回り、グラウンドでサッカーに興じ、街角の街路樹に癒され、庭で野菜や花を育てる等一生を通じて様々な形で公園緑地を利用している(利用効果)。
また、公園緑地はそこに存在するだけで、CO2を固定したり、都市気象を緩和したり、雨水の貯留・浸透により流域の治水に寄与したりする等の効果(存在効果)を有している。

さらに、公園緑地が存在し、それを利用することで、その都市に対する誇り(シビックプライド)が生まれたり、地域コミュニティが形成されたり、観光客が訪れるようになったりする等、間接的・長期的に広くもたらされる効果(波及効果)もある。


公園緑地の効果(存在効果、利用効果、波及効果)
図|©土木学会インフラ体力診断小委員会公園緑地WG

1-2. 公園緑地政策の体系と計画目標

我が国における公園緑地政策は、「公園緑地の整備」、「緑地の保全」、「緑化の推進」の3つから構成されている。都市緑地法に基づいて市町村が策定する緑の基本計画において、公園緑地政策の目標やその実現のための施策等が定められ、それに基づいて関連施策が計画的に展開されている。
「緑の政策大綱」では、長期的には住民一人当たりの都市公園等面積を20㎡とすること、市街地における永続性のある緑地を3割以上確保する目標が掲げられ、都市公園法施行令では、住民一人当たりの都市公園面積は、一の市町村の区域全体で10㎡以上、市街地で5㎡以上とされている。

我が国における公園緑地政策は、大きく分けて「公園緑地の整備」、「緑地の保全」、「緑化の推進」の3つから構成されている(図1-3)。都市緑地法に基づいて市町村が策定する緑の基本計画において、公園緑地政策の目標やその実現のための施策等が定められ、それに基づいて「公園緑地の整備」、「緑地の保全」、「緑化の推進」に関わる施策が計画的に展開されてきている。

公園緑地政策の体系 ©土木学会インフラ体力診断小委員会公園緑地WG
公園緑地政策の体系
図|©土木学会インフラ体力診断小委員会公園緑地WG

公園緑地に関する整備目標としては、平成6(1994)年に建設省(現在の国土交通省)によって策定された「緑の政策大綱」において、「長期的には住民一人当たりの都市公園等面積を20㎡とする」、「市街地における永続性のある緑地を3割以上確保し、緑豊かな市街地の形成を推進する」等が掲げられており、この目標等を踏まえ、都市公園法施行令では、「一の市町村の区域内の都市公園の住民1人当たりの敷地面積の標準は、10㎡以上とし、当該市町村の市街地の都市公園の当該市街地の住民1人当たりの敷地面積の標準は、5㎡以上」とされている。

なお、令和3(2021)年に閣議決定された第5次社会資本整備重点計画においては、「都市域における水と緑の公的空間確保量」(都市域における自然的環境(樹林地、草地、水面等)を主たる構成要素とする空間であり、制度的に永続性が担保されている空間の面積を都市域人口で除したもの)が指標として掲げられており、令和7(2025)年度末の目標値として、15.2㎡/人が定められている。

また、公園緑地分野は、「Think globally, Act locally.(地球規模で考え、地域で行動する)」という考え方のもと、気候変動や生物多様性などの地球規模の課題解決に貢献していくことも求められている。


2. データでみる日本の公園緑地政策の成果と課題

2-1. 「公園緑地の整備」の成果

都市公園等面積は、令和3(2021)年度末時点で、全国で約11万箇所・約13万haに達し、全国平均では住民一人当たり約10.8m2となり、都市公園法施行令が定める標準値である一人当たり10m2を上回っている。この10年間は都市公園の整備量が鈍化しているものの、人口減少もあって、住民一人当たりの都市公園等面積は増えている。
一方で、都道府県別の一人当たり都市公園等面積を見てみるとばらつきが大きく、概して三大都市圏に位置する自治体では値が小さく、一人当たり10m2を大きく下回っている。また、都市計画決定されている公園緑地の供用率は、現在、約71%であり、未だ不十分な状況にある。

昭和31(1956)年に制定された都市公園法は、戦後の混乱期に都市における緑とオープンスペースが不足している状況下において公園の改廃が相次いだため、都市公園の定義、設置基準等を明確にし、都市公園の安定した管理を図るために制定された。以降、同法は都市公園の適正な管理の根拠として、また、都市公園の計画的な整備の指針として大きな役割を果たしてきた。その後も都市公園法は、昭和51(1976)年の国営公園(写真2-1)制度の創設、平成16(2004)年の立体都市公園制度(写真2-2)の創設や公園管理者以外の者による公園施設の設置管理の許可の要件緩和、平成23(2011)年の公園施設の建ぺい率の参酌基準化、平成29(2017)年の公園施設の公募設置管理制度(Park-PFI)(写真2-3)の創設や公園協議会制度の創設等、時代の変化等に対応するための改正を重ねてきた。

写真:©土木学会インフラ体力診断小委員会公園緑地WG

都市公園等の整備は、昭和47(1972)年の都市公園等整備緊急措置法の制定以降に本格化し、同法に基づく六次にわたる都市公園等整備五箇年計画、平成15(2003)年に制定された社会資本整備重点計画法に基づく社会資本整備重点計画により、計画的な整備が進んだ結果、昭和47(1972)年度末時点で約1万2千箇所・約2万4千haであった都市公園等面積は、令和3(2021)年度末時点で、約11万箇所・約13万haに達している。

全国平均では住民一人当たり約10.8m2となり、都市公園法施行令が定める標準値である一人当たり10m2を上回っている。この10年間は都市公園の整備量が鈍化しているものの、人口減少もあって、住民一人当たりの都市公園等面積は増えている。

都市公園等面積および一人当たり公園面積等面積の推移
データ|国土交通省提供資料


都市公園の供用面積と供用率の推移
データ|国土交通省提供資料

一方で、都道府県別の一人当たり都市公園等面積を見てみるとばらつきが大きく、概して三大都市圏に位置する自治体では値が小さく、一人当たり10m2を大きく下回っている。また、都市計画決定されている公園緑地の供用率は、現在、約71%であり、未だ不十分な状況にある。

都道府県別一人当たり都市公園等面積
※2020(令和2)年3月現在 北海道(39.9m2/人、 11572ha)を除く
出典|寺田徹(2021)「一人あたり公園面積」の今後. 都市計画70(5), 70-73

2-2. 「緑地の保全」の成果

特別緑地保全地区の指定は平成12(2000)年以降も増加傾向にある。市民緑地契約は、平成27(2015)年頃まで増加傾向であったが、近年やや減少傾向にある。三大都市圏の特定市では、市街化区域内農地のうち、生産緑地地区に指定された農地はおおむね保全が図られている。

公園緑地政策を推進する上では、都市公園の整備や公共施設の緑化だけでなく、民有地における緑地の保全や緑化の推進も重要となる。民有地における緑地の保全策としては、都市緑地法に基づく特別緑地保全地区制度や市民緑地契約制度、生産緑地法に基づく生産緑地制度等がある。

特別緑地保全地区は、令和3(2021)年度末時点で、計2,910haが指定されており、平成12(2000)年以降も着実に増加してきている。

特別緑地保全地区の指定面積の推移
データ|国土交通省提供資料


市民緑地は、令和3(2021)年度末時点で契約面積が98.6haとなっている。平成27(2015)年頃までは増加傾向であったが、近年はやや減少傾向となっている。

市民緑地契約の面積の推移
データ|国土交通省提供資料

生産緑地地区は、令和3(2021)年末時点で、三大都市圏の特定市で計11,837ha、三大都市圏の特定市以外で計11,967haが指定されている。三大都市圏の特定市では、市街化区域内農地のうち、生産緑地地区に指定された農地はおおむね保全が図られている。

三大都市圏特定市の生産緑地地区の指定面積の推移
データ|国土交通省提供資料

2-3. 「緑化の推進」の成果

道路緑化樹木(高木)の本数は、平成14(2002)年以降、横ばい傾向にある。屋上緑化・壁面緑化の施工面積は、平成12(2000)年以降も着実に増加してきている。

○道路緑化の成果
道路緑化(写真2-7)は、通行の快適性の向上や良好な生活環境の創造に寄与する。全国の道路緑化樹木(高木)の本数は,平成28(2016)年度末時点で、約670万本である。平成14(2002)年度以降、道路緑化樹木(高木)の本数は横ばい傾向が続いている。

道路緑化樹木(高木)の本数の推移
データ|国土交通省提供資料


○屋上緑化・壁面緑化の成果
屋上緑化(写真2-8)や壁面緑化(写真2-9)は、美しく潤いのある都市空間の形成やヒートアイランド現象の緩和等に寄与し、全国的に取り組みが進められている。国土交通省が実施した、全国の屋上・壁面緑化の施工実績の調査によると、平成12(2000)年から令和3(2021)年の計22年間の合計で、屋上緑化は約579ha、壁面緑化は約114haが施工されている。

屋上緑化・壁面緑化の累計施工面積推移
データ|国土交通省提供資料

2-4. 公園緑地政策の課題

都市公園等面積一人当たり10㎡の目標を達成していない自治体も多く、更なる整備や魅力の向上により、都市公園を核とした人中心のまちづくりを展開していくことが必要である。また、開発圧力の低下や都市農地の位置づけの変化等を契機として、更なる緑地の保全・活用や緑化の推進等が必要である。

○都市公園の整備・維持管理運営に関する課題
都市公園等面積は、令和3(2020)年度末時点で約11万箇所・約13万haに達し、全国的に見れば住民一人当たり約10m2を達成しているものの、この目標を達成していない都府県も未だ数多くある。また、都市計画決定された都市公園の供用率は約70%となっている。さらに、前述の「緑の政策大綱」では、「長期的には住民一人当たりの都市公園等面積を20m2とする」という目標が掲げられている。

このため、都市公園のさらなる整備に向けた取組が必要である。また、既存の都市公園の再整備等による魅力の向上(写真2-10)や老朽化対策を限られた財源で効果的に行うとともに、都市公園がまち全体の居心地のよさに貢献するため、多様な主体とのパートナーシップによる、都市公園を核とした人中心のまちづくりを展開していくべきである。

○緑地の保全及び緑化の推進に関する課題
前述の「緑の政策大綱」では、「市街地における永続性のある緑地を3割以上確保する」という目標が掲げられている。一方、都市における緑被率を見ると、例えば東京23区においては約2割となっている(参考資料e参照)。また、都市化に伴って緑地が消失している例も未だにみられる(参考資料e参照)。我が国全体でみれば、人口は減少傾向にあり、開発圧力も以前より低下している。このような傾向を好機としてとらえ、空き地の緑地的活用の取組などのさらなる充実も求められる(写真2-11)。

また、市街化区域内の農地は、生産緑地制度により計画的な保全を図りつつも、宅地化が推進されてきていたが、平成27(2015)年の都市農業振興基本法の制定及び平成28(2016)年の都市農業振興基本計画の閣議決定を受け、「宅地化すべきもの」から都市に「あるべきもの」へとその位置づけが大きく転換されている。都市農地は、景観や防災のほか、農体験や新鮮な食物の提供など、都市住民に対するさまざまな利点があることから、その保全・活用のさらなる充実が必要である(写真2-12)。


3. 国際比較による日本の公園緑地政策の特徴

ここでは、国際的な視野から見た日本の公園緑地の特徴を概観する。明治時代から始まる近代的な公園整備や緑化事業について、世界水準との比較を通して、その成果や課題、未来への展望について探る。

3-1. 国際水準でみる日本の公園緑地

欧米やアジアの各都市と比較すると、日本の都市には一人当たりの公園面積も、視界に入る緑の量も格段に少ない。

図は一人あたり公園面積や緑視率を世界各都市間において比較したものである。こうした数値データの単純比較については、統計年が異なったり、国によって公園や緑地の定義が異なったりするため、その解釈は慎重にならざるを得ない。しかし、以下の点は指摘可能である。

  •  日本の全国平均や東京23区の一人当たりの公園面積と比較すると、日本の水準はやはり欧米の各都市に比べて格段に低い。開発の余白が多く残るアジアの新興都市と比べても、その数値は決して高くない。

一人あたり公園面積(㎡)の都市別比較
データ出所はレポートを参照
  • 人の視界にどれだけ緑が入るか、という緑視率からみても、日本の都市内で緑(公園の樹木や街路樹等が作る樹冠の量)を感じる機会は世界の他都市と比べてかなり少ないことが推察される。

緑視率(%)の都市別比較
データ|米マサチューセッツ工科大学Sensible City LabによるGoogle Street Viewを介した、空間内の緑の量の分析、2016年開示のTreepediaプロジェクトを引用

3-2. 海外の都市は何に着目して公園緑地を評価しているのか

アメリカでは公正さやアクセス性という観点から、地域格差をなくし、全ての人が公園緑地の恩恵を得られる、という社会面を重視する傾向にある。他方、シンガポールでは公園緑地の持つ生態系サービスを最大限発揮できるような整備・デザインが重視され、その高い機能性が評価軸に据えられている。

アメリカでは経済の地域格差といった社会課題が公園緑地政策にも強く反映される傾向にあり、その評価基準にも影響がみられる。例えば、米NPO:Trust for Public Landはパークスコアというシステムを用いて、全米各都市の公園をより詳細に評価し、ランキング化している。その際に用いられている5つの指標は、公正さ、アクセス性、投資、アメニティ、そして大きさである。

特にコロナ禍において、公園緑地が人々の健康に与える良好な影響が再認識されたのに対して、非均質な分布やアクセス性の偏り、不十分な管理の実態等が同時に露見してしまった。

これはヨーロッパ諸国にも当てはまり、低所得者の多く住む街区では、公園緑地へのアクセス性や近接性が乏しいことが大きく問題視されている。

例として、ニューヨーク市のパークスコアの結果を示す。

ニューヨーク市のパークスコア(左)と公正さ(Equity)の項目の具体的なデータ(右)
データ|Trust for Public Land HPのニューヨーク市のスコアから引用

こうした情報は一般に公開されており、分かりやすいグラフィックと数値等で示されている点が特徴的である。より具体的にみていくと、下図は徒歩10分以内のアクセスという観点から市内の公園緑地を評価したものである。都市解析の結果、NY市民の99.1%はその範疇に含まれるが、残りの約7.7万人が住む、紫で表示されたエリアでは足りておらず、公園緑地が優先的に整備される必要があることが一目瞭然となってる。公正さ、アクセス性、投資といった指標は、日本では馴染みの薄い視点であるかもしれない。

ニューヨーク市内の公園緑地へのアクセスに着目して地域間の差異を地図化したもの
出典|Trust For Public Land(2022):ParkScore Index® 、 New York、 NY.

他方、東南アジアに位置する高密な都市国家シンガポールでは、1960年代からガーデンシティ構想の下、公園緑地に対して常に先鋭的であり、図3-1および図3-2が示すように公園緑地の量で世界をリードしている。シンガポールではEcosystem Service(生態系サービス; 環境省では、“私たちの暮らしを支える食料や水の供給、気候の安定など、生物多様性を基盤とする生態系から得られる恵み”と定義)を最大限引き出すことを公園緑地の整備の際に重視している。より具体的には5つの側面(土壌・水・動植物・快適性・人)から得られる便益に対して実利的な評価を行い、公園緑地にも“ちゃんと仕事をさせる”、というモットーを持っている。

言い換えると、東京都23区ほどの限られた土地を有効利用する、という発想とも相まって、シンガポールでは公園緑地が単一の機能のみを有するということはなく、幾重にもわたる複合的な利用や立体的な整備が中心となっている。

3-3. 国際的にみた日本の公園緑地の強み

歴史を基調とした公園緑地(社寺・庭園・城など)はインバウンド観光に大きな可能性を有する。そうした伝統文化を土台とする意匠や技術もさることながら、翻って、生活のなかでの屋内外の環境の分け隔ての少ない日本人のライフスタイルや自然観そのものも、日本の公園緑地を底上げする上で欠かせない要素であろう。

海外の都市と比較すると、日本の公園整備が遅れていたり、その量が少ない印象を持ってしまうが、統計には表現されていない“緑”が実は日本には多い。例えば、東京都の都市計画区域内の緑地面積のうち、私有地内のものが公共用地の3倍以上も存在する。つまり、農地や樹林地のように個人が所有する土地や、神社・仏閣・お城・庭園のような史跡内にも緑地は多く含まれており、大小、新旧様々な大きさ・タイプの緑地が混在している、というのが日本の都市の本来の姿といえよう。

その中には、国内外からの観光客を惹きつけ、また地域のランドマークとしての役割を担うものも実に多い。外国人に人気の日本の観光スポットランキングでは、上位に日本の伝統文化を色濃く反映させた名所がずらりと並ぶ。作庭ノウハウや維持管理の技術が継承されていくことが、ゆくゆくは日本の都市空間に彩を与え、国際的な競争力を押し上げる底力へと繋がるはずである。

また一方で、日本人に備わる身近な自然や季節変化を愛でる感性もこれからの公園緑地を考えていくうえでの大きな強みになる。海外に住んでみて気づくことは、日本の日常生活の中には身の回りの自然と触れ合う習慣がとても多いことである。例えば、初詣にいく、花見をする、花火を見る、落ち葉を掃く、雪かきをする等、どれも屋外での自然体験が基礎にある。このような生活のなかで屋内外の環境の分け隔てが少ない、という日本人が代々受け継いできた価値観そのものも、これからの公園緑地の捉え方・活かし方を模索するうえでの重要なヒントとなるのではないだろうか。

外国人に人気の日本の観光スポット2020
ランキング出典|TripAdvisor 旅好きが選ぶ!外国人に人気の日本の観光スポット2020
写真|©土木学会インフラ体力診断小委員会公園緑地WG

4. 公園緑地の捉え方・活かし方

公園緑地の体力診断のためには、他のインフラとは異なる特殊性を踏まえた評価の視点が必要である。インフラとしての公園緑地の特質として特に重要だと考えられる視点は以下の3つである。

  • 「多機能な」インフラ:多面的な機能を持っており複合的な効果を発揮することができる

  • 「関わる」インフラ:国民が日常生活のなかで利用するだけでなく管理や運営に参画することができる

  • 「育てる」インフラ:適切な管理や運営によって時間の経過による劣化を防ぎ価値を向上させることができる

4-1. 「多機能な」インフラ

公園緑地は安全・安心や健康・福祉、地域コミュニティといった日常生活の質を担保するための社会面の機能から、地域の観光や活力といった経済面の機能、さらに自然との共生や循環型社会といった環境面の機能まで幅広い役割を複合的に担っている。そのため、ひとつのインフラに対して、これらいくつもの機能を複合的に評価することが必要である。また、それぞれの機能の捉え方についても、ローカルなレベルでの即地的な効果から、グローバルなレベルでの地球環境問題への貢献度まで、同じ機能であっても多層的な評価の視点が考えられる。

公園緑地は他のインフラと比較して、特に多面的な機能を持っており、それぞれの機能が発揮する効果の評価指標も多岐にわたる。一人当たりの面積に代表される公園整備量などの量的な評価は、都市公園の存在効果を中心とする基盤的な効果を把握する上で不可欠な指標であるが、その上で展開される利用効果や波及効果を捉えるための質的評価も重要である。ここでは、社会面、経済面、環境面の3つの側面について説明する。加えてこれらは本来、相互に関係をし合いながら相乗的・複合的な効果を発揮するものであり、それらの総合的な機能が公園緑地の価値であると言える。

社会面の評価

公園緑地は、住みやすい居住環境の形成だけでなく、自然環境を保全し、地域特有の風景や文化の継承に貢献している。また、そこでの利用を通じて、ソーシャルキャピタルと呼ばれる市民間の関係資本の形成や市民の地域に対する誇りや愛着を醸成する役割を担っており、地域コミュニティの再生に寄与する場となっている。

また、人工物に囲まれた生活を余儀なくされる都市の中で、身近に自然と触れ合うことのできる公園緑地は、ストレスの軽減などの心理的な効果をはじめ、自然体験や運動による心身の健康の維持・増進、免疫力向上などの生理的な効果を発揮している。コロナ禍においてますます心身の健康に対する都市生活の課題が顕在化するなかで、公園緑地のこのような役割はこれからますます重要となる。このような社会面での公園の果たす役割は、私たちの日常生活に最も身近で、直接的にメリットを体感することができるものである。

一方で公園緑地は、非日常時にも重要な役割を果たす。自然災害の多い日本は、これまでにも幾度の地震や津波などの被害に見舞われてきたが、その度に復旧・復興を遂げてきた。特に平成7(1995)年の阪神・淡路大震災では、都市直下型の地震によって市街地が大きな被害を受けた中で、公園緑地が復旧・復興の過程において大きな役割を果たした。その経験を踏まえ、防災公園のメニューやノウハウが蓄積され、全国での整備に展開されている。自然災害そのものを防ぐことはできないが、事前にそれに備えるレジリエントな都市のために、公園緑地の持つ防災機能は欠かすことのできないものであり、この視点は特に日本の公園緑地が世界に向けて発信することができる先進的な点であると言える。

経済面の評価

公園緑地は、直接的・間接的に経済的な価値を発揮している。特に近年では、平成29(2017)年の都市公園法の改正によって公募設置管理制度(Park-PFI)が導入されたことなどを受けて、民間の創意工夫によって、公園内での直接的な経済効果を高めるとともに公園の魅力向上を図る取り組みが進んでいる。

このような直接的な公園内での経済活動だけでなく、公園緑地の存在は周辺の地価の維持・向上にも貢献している。また、地域の文化・歴史資産と一体となった公園緑地の整備や、周辺の観光資源等との連携による地域における観光価値の向上を図ることもできる。特に昨今では、国内にとどまらず、海外からのインバウンド観光を見据えた公園緑地の観光資産としての活用も重要となる。

 〇観光振興の拠点
都市公園は、地域の資源や文化と一体となり、観光資源として国内外の観光客を誘引し、観光振興の拠点となることによって、物販・飲食・宿泊等観光消費の拡大や他の観光関連施設への波及効果などにより地域の観光振興に寄与する。

〇地域経済の活性化
都市公園は、公園が中心となったイベントの開催等を通じて、地域の雇用の場を創出するとともに、周辺への新たな企業立地や住宅立地等を誘発することにより、地域経済の活性化に寄与する。

環境面の評価

環境配慮型の都市構造への転換が求められるなか、公園緑地は自然と共生した持続可能な都市環境の形成のために不可欠なインフラである。公園緑地が保有する水と緑の資源によって、地域固有の生態系の保全や再生を進めることが可能であり、都市の生物多様性向上に資する効果を持っている。特に近年は30by30と呼ばれる、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として保全しようとする国際的な枠組みでの目標が掲げられ、公園緑地はこれを実現するためにますます重要な役割を果たすことが期待されている。また、温熱環境の改善や温暖化の課題に対しても、雨水の貯留浸透による洪水緩和、植物の持つ蒸発散効果等によるヒートアイランド現象の緩和、脱炭素社会の実現に向けたCO2吸収源としの機能を発揮している。

このような環境面の評価は、身近な居住環境の改善から地域の生態系の保全、ひいては日本全国の自然環境の再生から地球規模での環境問題への寄与まで連続した複層的な効果が考えられる。

4-2. 「関わる」インフラ

公園緑地は私たちの暮らしにおける最も身近なインフラのひとつであり、いつでも自由に利用することができるだけでなく、その管理や運営に国民が気軽に参画することができる。そのことによって、公園緑地の状況や地域の課題に対応した柔軟で順応的な管理が可能となり、インフラの質の維持だけでなく、地域の課題の解決につながり、魅力を高めることが可能となる。さらに国民がマネジメントに参画することで、心豊かな暮らしを支える社会装置としても機能している。

公園緑地は、供給する側として行政が整備し、利用する側として国民が使うという一方通行のインフラではない。国民がそれを単純に利用することによって効果が得られることに留まらず、その管理運営といった、本来、行政が担うべき役割を国民が積極的に担うことによって、得られる効果もある。特に単純な維持管理だけでなく、公園緑地をどのように使いこなすかといった運営管理に国民が関与することで、地域の実情に応じた機能を高めることができる。加えて、そのプロセスにおいても、個人の生きがいづくりやコミュニティの形成をはじめとする多様な効果が発揮されることが期待できる点は、他のインフラとは大きく異なる特徴であると言える。これまでは、このような管理運営の機会は、自治会や公園愛護会といった地縁的な組織に限定的であったが、今後はより効果的なマネジメントのためには、その機会の枠を広げるとともに新たな担い手の育成が求められているところであり、あなたもぜひ身近な公園のマネジメントに気軽に挑戦してみてもらいたい。

4-3. 「育てる」インフラ

公園緑地は植物をはじめとする生きた素材を構成要素とするインフラであることから、時間の経過によって変化する。適切な植物管理は公園緑地の課題でもあるが、一方で、適切な手入れを行うことで時間の経過が公園緑地の価値を高める。その際には、中長期的な目標設定によって、長い時間をかけて育てていくという姿勢を持つことが求められる。既に長い時間をかけて培われてきた地域の歴史を継承するとともに、あらたな文化を生み出していくような働きかけが重要である。また、このようなそのプロセスを通じて、地域コミュニティの再生や地域に対する愛着や自負心の醸成といった人の気持ちも育っていくという効果を得ることもできる。


自然環境と共生した都市の形成のためには、長期的な視点に立った持続可能なインフラのあり方を考える視点が不可欠である。特に人口減少社会において居住や都市機能の集積によるコンパクトな都市域の形成が求められるなかで、都市域内外の公園緑地をはじめとする緑地の適切なマネジメントが重要となる。このような緑地は自然の摂理によって遷移し、自立的な環境を形成するが、そこに人間活動をうまく組み込むことで、都市環境としての価値を高めることできる。あわせて、このような長い時間経過の中で、公園緑地を育てることを通じて地域社会の歴史や文化を守り、育てていくことも可能である。 

5. 緑にあふれた健康な都市生活のために ~公園緑地を育てよう~-総合アセスメントと体質改善アドバイス-

5-1. まとめと今後の方向性 -総合アセスメント-

公園の整備・緑化の推進・緑地の保全の目標を設定、着実に成果を上げてきたが近年鈍化。
世界の主要都市と比較すると未だ大都市の公園緑地は量的に不十分で、その配置や規模も偏在。維持管理も十分とは言えず、最低限の量とさらなる質の向上が必要。一方、公園緑地は歴史・文化を生み、地域を育む。伝統的な文化や造園技術、ライフスタイルや価値観も日本の強み。
公園緑地は、市民生活に必要不可欠であり、「多機能な」・「関わる」・「育てる」インフラである。長期的な視野を持って人間活動を公園緑地のマネジメントに組み込む必要がある。
みんなで公園緑地を育み、Well-being(肉体的・精神的・社会的に満たされた幸福な状態)を高めていきましょう。

これまでの公園緑地政策は、全体量の確保と最低限必要な生活基準としての公園緑地を提供することを目指し、一定の成果を上げてきた。しかし、公園の量は増えたがその配置や規模は偏在している。特に大都市では一人当たりの公園面積は未だ低水準であり、身近な公園の量的確保が必要である。一方で、開発の提供公園など多くの小規模公園や老朽化した公園の管理が課題となっている(第1章~第2章)。世界の大都市と比較しても、日本の公園緑地は未だ量的に不十分であり、量の確保が重要である。さらに歴史や文化、自然に対する価値観などの強みも、政策評価に組み込むことが重要である(第3章)。

公園緑地は、「多機能な」・「関わる」・「育てる」インフラである。しかし、人々の豊かで幸せな暮らしに必要不可欠な、コミュニティ形成や心身の健康への寄与等の機能については、その認知や評価
が不十分である。公園緑地の社会にとって必要不可欠なインフラとしての機能、それらが相乗的・複合的に発揮する効果を可視化・発信することが重要である。

すでに各地で浜松市のように、公園緑地を育てることよって、人々の幸せを向上させるようなボトムアップの取組が生まれている。公園緑地に関わることで、地域の人々の活動や気持ちを育てていくことが大切である(第4章)。

 公園緑地政策は、市民のWell-being(肉体的・精神的・社会的に満たされた幸福な状態)の向上や、気候変動への対応という大きな目標に向け、ボトムアップの取組に寄り添い、公園緑地の量も質も、より充実させていく必要がある。さらにシンガポールのパークコネクタのように緑を都市の中で育み、繋いでいくことが重要である。公園緑地のみならず、道路・河川・下水道などと連携し、都市のインフラ全体を、自然の力を活かした「多機能な」緑溢れるインフラとして、「関わる」市民とともに持続的に「育てる」。一人一人が、緑溢れる健康な都市生活のために、公園緑地を育てていく。たくさんの大小の緑が繋がっていき、さらに私たちのWell-beingが高まっていく。そのような好循環を育てていきたい。

5-2. 体力を向上させるために -体質改善アドバイス- 

 前述までのインフラ体力診断の結果を踏まえて、公園緑地を育む体力を向上させるため、体質改善に向けて4つのアドバイスを提示する。

  • 官民連携の地域マネジメントへ:計画~管理運営まで地域ごとに実施、官民の人材を育成し、市民力を活かしていく

  • 他のインフラ事業と連携へ:道路・河川・港湾・下水道・再開発事業などと連携して公園緑地を整備・マネジメントし、相乗効果を高める

  • 整備後のマネジメントを重視、長期的に複数財源で:小規模でも継続的に管理運営に人・金を投じ、税金だけに頼らない財源も確保していく

  • 新技術・DXの活用・エビデンスに基づく政策立案へ

■「画一的な計画・設計・施工・管理・運営の分業」から「官民連携の地域マネジメント」へ

COVID-19の感染拡大以降、様々な人々のライフスタイルや価値観を認め合い、多様な選択肢があり、人々が関わることで新たな価値を生み出す、人中心のまちづくりへの機運が高まっている。中でも公園緑地は、人々の心豊かな暮らしに資するものとして、ますます重要になっている。今後は多様な主体のパートナーシップによる、公園緑地を核としたまちづくりを目指していきたい。そのためには、既存の公園緑地の配置計画や整備計画を改めて見直し、将来的な人々の暮らしを考えながら、これからの公園緑地のあり方を地域のまちづくりの一環として考えることが重要である。

また、近年公園整備や管理に民間が参入できる機会が増え、官民のよりよい連携のあり方が求められている。「官」の役割を整理したり、官民双方でトータルマネジメントをする人材を育成したり、その職能の確立、市民力の支援・育成など、さらなる参加を促し、継続させる仕組みづくりが必要である。

地方自治体職員は人員が増えない中で、これからは、小さな改修、官民のコーディネート、市民の力を引き出す業務などに対し、人員を重点配分する必要がある。

これまでの行政組織は、「計画・設計施工・管理運営」の担当が分かれていることが多かった。予算額に応じた整備重視の業務の分離体制から、管理運営・人との関わりを持つ仕事を重視した、地域ごとのトータルコーディネートを重視する体制へ転換する必要がある。そしてマネジメントに関わり、公園を育てる市民や事業者等の活動や人材育成を支援していくことが重要である。計画・設計施工から管理運営まで、トータルにマネジメント・実働できる人材を官民双方に育成していきたい。

■「各事業別」から「他のインフラ事業と連携」へ

公園緑地以外のインフラについても、環境面、社会面、経済面の多機能性が求められている。このことから、あらゆる事業にグリーンを組み込むことで、「インフラのグリーン化」を進めていくことが重要である。これまで主に個別に実施されてきた道路、河川、港湾、下水道、再開発事業などと公園緑地を一緒に整備したり、一体的に管理したりすることで、インフラの整備・改修・管理の効率化、機能発揮の最大化・相乗効果が期待できる。道路空間や河川空間、再開発事業など、公園緑地と一体となった優れた事例が既に多く生まれている。また、公園内の保育所や福祉事業と結びついた農園など、公園緑地事業は、教育や福祉・健康・スポーツ政策ともより連携を強め、その効用を発揮するべきである。 

■「初期の整備への投資」から「整備後のマネジメントを重視、長期的に複数財源」へ

インフラを支える財源について、特に公共事業は初期の整備時に大きな投資をし、量が増えても増えた分の維持管理・運営費が充当されない傾向にある。公園緑地は、新規整備時よりも緑のボリュームが育つインフラであり、その波及効果も増大していく特徴がある。小規模でも継続的に整備後のマネジメントに財源や人材を投資していくことで、より効率的に多様な機能を発揮させることができる。また、市民が主体的に「関わる」ことで、目的に応じて幅広い財源やそれを支える人材の確保が可能である。このため、緑に特化した基金やPark-PFIなど公園緑地の独自の収入源を多方面から得られる可能性がある制度を活用し、公園によってもたらされた財源を、一般会計に組み入れるのではなく、公園の独立財源として還元することが望ましい。
 
加えて、公園緑地の特性から、予算配分については初期投資よりも、継続的な維持管理やソフトの充実を重視して配分することが望ましい。例えば、国の交付金も地域再生のためのビジョンづくり、情報発信、社会実験、再整備、改修、人材育成、協議会運営事業など、現場の工夫による公園の質的向上や既存の緑地の保全にもつながる取組への支援があるとよい。

■新技術の活用・エビデンスに基づく政策立案(EBPM:Evidence-based Policy Making)へ

新技術を活用することで、公園緑地に関わる多様な主体が、ボトムアップの取組による政策効果や広域的な目標への寄与を把握し、効率的・効果的に公園の設計・施工・マネジメントを行うことができる。公園の施設、自然環境及びその機能、利用状況等の基礎的な情報をデジタル化することにより、エビデンスに基づく公園の利活用や運営状況等の評価、目標設定、取組の企画立案も可能となる。公園緑地の機能としては、エコロジカルネットワークを形成する拠点や回廊、雨水の貯留浸透に寄与する場所など広域的な視点で分析が必要なものも多い。例えば、小さな雨庭づくりなどの個別の取組が、広域的に流域治水に寄与していることが可視化されると、ボトムアップの取組の促進に繋がる。そのためには特に自治体ごとに異なる緑のデータベースの共通プラットフォームをつくることが重要である。 

おわりに

公園緑地は、人々の心豊かで幸せな生活に欠かせないインフラであり、国の政策として、量の拡大も質の向上ももっと力を入れていくべきである。そのためには公園緑地の大事な特徴を、もっと多くの人々に伝える必要がある。公園緑地は、すべての市民が親しみやすく身近な存在だが、地域ごとに特徴があり、多種類で規模も様々、機能も多岐にわたる。公園緑地WGのメンバー10名は、どうすれば公園緑地の特徴をわかりやすく伝えられるのか、そもそも異なるものを一部のデータで比較することは本質を伝えられないのでは、何のためにどのような評価すればよいか、そもそも「Well-being」とは何か、という全体の考え方や構成に多くの議論の時間を割いた。そして、「緑にあふれた健康な都市生活のために~公園緑地を育てよう~」というメッセージを込めた構成とした。さらに、本報告が多様な主体の行動変容に繋がるよう、「体質改善アドバイス」という形で少し踏み込んだ提言を行った。

COVID-19感染拡大から早くも3年以上が経ち、世界の都市生活は日常を取り戻してきている。しかし、公園緑地が私たちの心身にもたらしている大変重要な役割については、忘れることなく、健康な都市生活のために多くの主体の協働によって、公園緑地を、まち全体を、共に育て充実させていきたい。
土木学会から発信する本報告が、市民、政府、自治体、民間企業、研究者など、多様な主体が協力・連携して国をあげて、よりよい環境を育てていく一助になることを願う。

公園緑地WGメンバー

荒金 恵太 国土交通省 国土交通政策研究所
飯田 晶子 東京大学大学院
遠藤 賢也 シンガポール国立大学
島田 智里 ニューヨーク市 公園・レクリエーション局
曽根 直幸 国土交通省 近畿地方整備局
竹内 智子 千葉大学大学院
武田 重昭 大阪公立大学大学院
辻野 恒一 国土交通省 都市局
戸田 克稔 国立研究開発法人建築研究所
中村 浩一 浜松市 都市整備部

国内有数の工学系団体である土木学会は、「土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質向上を図り、もって学術文化の進展と社会の発展に寄与する」ことを目指し、さまざまな活動を展開しています。 http://www.jsce.or.jp/