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2020インフラ健康診断書(港湾部門・係留施設)

土木学会事務局です。

土木学会では2016年度より、「インフラ健康診断」の取り組みを行っています。これは、土木学会が第三者機関として、橋やトンネル、上下水道などの社会インフラの健康診断を行い、その結果を公表し、解説することにより、社会インフラの現状を広く国民の皆さまにご理解いただき、社会インフラの維持管理・更新の重要性や課題を認識してもらうことを目的としています。

今回は2020年度の健康診断結果から、「港湾部門(係留施設)」の健康診断結果と健康状態の維持向上のための処方箋をご紹介いたします。(港湾部門の評価は係留施設・外郭施設に分けて評価していますが、処方箋に関しては、港湾部門全体を対象とした内容です。)

診断結果は、健康度(現在の状態)がC(要注意)で、維持管理体制(維持あるいは回復するための日常の行動)が、横向き(現状の管理体制が続けば、現在の健康状態が継続すると考えられる状況)とされました。

以下、「港湾部門(係留施設)」の健康診断結果を解説いたします。

港湾施設の種類と管理形態

港湾には、船舶から荷卸しをするための岸壁や桟橋などの係留施設、港湾内の波を静穏に保つための防波堤などの外郭施設、荷卸しに必要なクレーンに代表される荷役機械、後背地との物流を担う道路などの臨港交通施設など、多種多様な施設があります。これらの維持管理を行うためには、各施設の果たす役割や求められる機能や性能を考慮する必要があります。港湾内にある施設の管理は、都道府県や市などの地方公共団体など(港湾管理者)が一元的に担っており、国が整備した国有港湾施設についても、港湾管理者がその管理を受託しています。また、港湾には、民間事業者が所有している港湾施設も存在しており、地域経済を支える重要な役割を担っています。今回の健康診断では民間事業者所有の施設は対象外としましたが、港湾の機能維持のためには、これらの施設の維持管理も重要です。

係留施設の特徴

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わが国の港湾には、現在、約14,300の係留施設が整備されています。内訳は、国有施設が約1,900、港湾管理者所有施設が約12,400です。これまで着実に整備が進められてきた一方で、高度経済成長期に集中的に整備した施設の老朽化が進行しています。港湾の基幹的役割を果たす係留施設では、建設後50 年以上の施設の割合が、2014 年3月の約10%から、2034年3月には約60%に急増する見込みとなっています。このような施設の老朽化に対応するため、2013年度に公布された改正港湾法では、係留施設などの特定の港湾施設に対して、定期的な点検診断の実施が義務づけられました。現在、施設ごとの維持管理計画に基づいて定期的な点検診断が行われており、劣化や損傷が大きく進行する前に計画的に補修を行う予防保全型の維持管理が進められています。一方で、予算や人員などの制約から、十分な維持管理が実施できていない施設があることも事実です。

現状の健康状態

施設の劣化や損傷が進行すると、構造体としての安全性や使用性が損なわれます。係留施設の場合、荷役を行う事業者や、フェリーやクルーズ船などを利用する一般利用者を巻き込むエプロン陥没などの深刻な事故に繋がることも懸念されます。さらに、劣化や損傷が進行すると、その補修には多額の費用がかかるだけでなく、長期間にわたり施設が利用できなくなり、地域経済にとって甚大な損失を引き起こすことになります。既にいくつかの港湾では、劣化の進行による陥没事故の発生が報告されています。

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今回の係留施設の健康度は、C評価であり、少なくない数の施設で劣化や損傷が進行し、早めの補修が必要な状況です。また、施設の所有者(国有、港湾管理者所有)によって施設規模が異なるため、所有者別にも評価を行いましたが、両者ともにC評価であり、国有施設と港湾管理者所有施設で明確な差は見られませんでした。今後も国有施設と港湾管理者所有施設ともに、点検診断や補修などの維持管理の取り組みを着実に進めていくことが必要です。

港湾施設の維持管理の重要性

港湾施設は、高波や強風に加え塩分が作用する厳しい環境下に置かれることから、経年劣化や突発的な損傷などにより、供用期間中に性能の低下が生じることが懸念されます。しかし、大部分が海中に没している施設も多く、容易に劣化・損傷の状態を把握できないといった特徴があります。このため、海中部の劣化・損傷が見逃され、事故に繋がりかねない事態も発生しています。港湾施設を安全・安心で便利なインフラとして長期間にわたって使い続けていくためには、確実に点検診断を行い、その結果を評価した上で、適切な対策を行っていくことが不可欠です。

港湾施設の維持管理体制

港湾施設では、施設ごとに維持管理計画を策定し、これに基づいて点検診断や補修が実施されることになっています。現在までに、維持管理計画の策定率や点検診断の実施率は高まってきており、劣化や損傷が大きく進行する前に計画的に補修を行う予防保全型の維持管理が進められています。一方で、予算や人材などの制約から、十分な維持管理が実施できていない施設も散見されます。特に、小規模な自治体では、予算や人材が逼迫していることから、点検診断の効率化が強く求められています。一方、大規模な港湾では、施設が利用できなくなった場合の社会的、経済的な影響の大きさから、維持管理体制の一層の充実が望まれます。

健康度の維持・向上のための処方箋(港湾部門)

国および港湾管理者(都道府県や市などの地方公共団体など)は、施設ごとに定めた維持管理計画に基づいた維持管理を確実に行うとともに、港湾ごとの施設群を対象とした管理計画(予防保全計画)の策定を進め、港湾全体での最適な維持管理を推進する。

は、グローバリゼーションの進行に伴い船舶の大型化が一層進んでいる状況から、大水深バースなどの整備も進めながらも、既存ストックの有効活用も並行して推進していくための戦略を検討する。

港湾管理者は、老朽化が深刻に進行した施設や荷役形態の変化から利用が進んでいない施設などの用途転換や更新などの既存ストックの有効活用にも着手し、港湾全体の活性化を図るための検討を進める。

民間企業および研究機関は、点検の効率化や補修の省力化に資する技術開発を一層推進し、国および港湾管理者は、その現場導入を進める。

国、港湾管理者、民間企業はICT などを活用した点検業務の効率化を進めるとともに維持管理情報を共有できるシステムの充実を図るなど、維持管理業務における生産性の向上を推進する。

国および港湾管理者は、自らの職員に加えて、民間の施設管理者も含めて、人材の確保・育成と技術力向上のための取り組みを継続して行う。

土木学会は、技術開発や人材育成の面で上記の取り組みが円滑に進むように、関連する知見や成果などの蓄積、提供を積極的に行う。

健康診断書の解説動画

土木学会では2020年6月16日にインフラ健康診断書の結果を受けて講習会を開催しました。港湾部門の診断結果の解説動画(約13分)を以下でご覧頂けますので、あわせてご覧下さい。

インフラメンテナンス総合委員会

現在土木学会では、インフラメンテナンスを力強くなおかつ恒常的に位置づけるため、既存の関連委員会を発展的に統合し、会長を委員長とする「インフラメンテナンス総合委員会」を2020年度から常設し、活動を推進しています。活動予定など、最新情報は以下のサイトでご確認ください。

おまけ:まんがひみつ文庫「港のひみつ」

日常の生活を支える港湾ではありますが、どういうものか?というのはなかなか知る機会はないと思います。そこで紹介するのが、学研キッズネットで無料公開されている学研まんがでよくわかるシリーズ「港のひみつ」です。

こども向けと侮るなかれ。大人でも、土木技術者でも面白い読み物です。

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国内有数の工学系団体である土木学会は、「土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質向上を図り、もって学術文化の進展と社会の発展に寄与する」ことを目指し、さまざまな活動を展開しています。 http://www.jsce.or.jp/