ジュニア期以降に伸びない問題を考える(22:50分 追記あり)

スポーツ選手において、中学時代や高校時代にトップ選手として活躍したのに、大学や社会人となる頃には消えてしまう選手というのがいます。これは早熟だったという点で片付けられますが、本当にそれで良いのか、というお話です。
 そもそも早熟って何ですか?という点に関しては、競馬なんかをやられる人はご理解いただけているかと思いますが(なお、これを書いているのは川崎競輪場です)、馬で言うならば2歳でデビューし、12月の朝日杯(芝1600m)を勝って翌年の日本ダービーに向けて有力な候補が誕生、といった評価を受けることになります。ところが馬において距離適性と早熟、晩成という話がここに影響を与えてきます。

ゲームのように分かりやすく能力値として示しますと

A;スピード100 スタミナ100 早熟
B;スピード50  スタミナ50  晩成

この場合、早熟タイプは2歳の冬に成長のピークを迎えて、3歳の春頃から衰えていくといったことが指摘されます。もちろんそれもあるかと思いますが、3歳の春、日本ダービーの前になりますと

A;スピード100 スタミナ100 早熟
B;スピード150 スタミナ150 晩成

という形で成長が遅かったためにBの馬がAを追い抜くといった現象が起こります。あれだけ強かったAなのに、翌年になったらダメだなというのは他の馬の成長が著しいということにより起こります。また、距離適性という問題もありますので、どれだけトレーニングを積んでも1600mよりも長い距離は走れないという馬もいます。これが4歳になると、

A;スピード60  スタミナ40  早熟
B;スピード250 スタミナ280 晩成

といった形で大きな差がつくようになります。こうしたものが成長期のタイプによる差となるかと思います。能力が衰えているのでトレーニングでのタイムの衰えも見られるし、ということで引退を迎えます。さて、では人間においては成長期だけで判断が出来るのか、という話です。これに関しては賛否両論あるかと思いますが、

成長期に成長をさせていないのが問題である

という点は確実にあります。先の馬の例で言えば、2歳で大きなレースを勝った時がベストコンディションであると考えてしまう、というものです。しかし、競馬の世界をご存知の方ならばご理解頂けますが、

競走馬は成長期において大幅に体重が増える

という事実があります。日本ダービーを勝った後、夏の放牧を挟んで休養明けの秋のレースに出てきたら、馬体重がプラス18kgなんていうのはよくあることです。この場体重の増加は筋肉やら内臓やらの増加であり、デブになったというわけではありません。次のステップに向けて大きく成長してきたと判断されます(もちろん、ただ調教に失敗して大幅にデブった場合もよくありまして馬券で泣かされるわけです…)。このステップレースの後にさらに増える馬もいれば、調整して少し落としてくる馬もいます。

成長期には体重が増えるのが当たり前

これが競走馬の世界での共通認識としてあるかと思います。ところが人間の世界におきましては、体重の増加は太った、体脂肪が増えた、という感じで好ましく思われないことが多々あります。それによって起こるのは、成長期における体重の制限です。陸上競技におきまして、成長が比較的早い女子では、中学生の頃に競技成績が良かったらその体重をキープするという傾向が強く見受けられます。男子に比べたら比較的早いというだけであり、女子にも人それぞれでタイプはあるので、高校生くらいまでは成長期に伴う体重の増加は起こります。それ以降に成長期のピークが来る人もいるでしょう。また、トレーニングによって筋肉やら内臓やらの肥大が起これば、それに伴って体重の増加は起こります。こうした体重の増加というものを無視して体重制限をするとどうなるか。まず、カロリーの不足によって成長が不十分となります。筋肉だけでなく内臓、骨などなどの成長が不十分となることで、成長期以降に問題を引き起こします。女性であれば特に大きいのが、骨密度が低いという問題です。人間の身体は骨→腱→筋肉→腱→骨という形で接合しています。骨の量に応じて筋肉も増えるといった話もあるように、より筋肉をつけるためには骨の成長が大事です。もし筋肉が増えて骨が成長不十分だったら、腱や筋肉が骨を引っ張って剥離させようとします。それでは十分なトレーニングを積むことが出来ません。中学生や高校生の時に高いパフォーマンスを発揮していたとして、その次の段階に進むためには一回り上の身体作りが必要になります。そのためには筋量の増加などは求められますが、そうしたことが出来ないとなります。中学生や高校生の時に次のステップを見据えた身体作りをしておかないと、成長期に伴って身体を成長させておかないと、その次の段階へと進めないという問題につながります。近年、陸上競技においては高校生の活躍、特に女子の選手での活躍が見られますが、その多くが高校生頃にはパフォーマンスを下げていき、大学や実業団ではまったく名前を聞かない、という傾向がよく見られます。これは中学や高校を卒業して新たなステージで活躍するための身体作りが出来ていない、というのが大きく影響していると考えられます。より良い記録を残すためにはより高いレベルでのトレーニングが必要となります。ところが、中学や高校で身体を成長させていないので上のレベルを狙ったトレーニングを実施するとすぐに故障してしまう。これは実業団や大学の指導者に問題があるというよりは、中学や高校の指導者の問題と捉えるべきであろうと思います。高校生でインターハイを勝つために身体を絞り切っていくのは大事かもしれませんが、1年を通して、高校3年間を通してその身体では成長しません。多くのカロリーを摂取して筋肉や内臓、骨その他をしっかりと成長させることで、一時的には太ったようになるかもしれませんが、その増加した所から絞っていくというサイクルが無いと、ジュニア期の次のステージで活躍が出来ません。この辺り、中学や高校で結果を残すための指導によって、大学や実業団で基本的な身体作りをしないとどうしようもない、という現実があるかと思われます。伸びない理由はジュニア期にもある、ということにそろそろ気が付くべきでは、と。女子がメインのような話ですが、男子においてもこれは当てはまる話です。最も良かったパフォーマンスに引きずられて、成長した分の体重を削ったり、成長するために必要なカロリーやら栄養を摂取していなかったり、ということは目にします。それによって中学や高校といった段階で勝てるかもしれませんが、その先を見据えたら勝てなくなっても当然です。早熟ではないのにトレーニングによって早熟のようにしてしまっている、という現実がそこには見える気がします。

中学生や高校生はもっと食べて大きくして、少し太ったからトレーニングを増やして、といったサイクルを意識して身体を、体重を大きくしていくべきでしょう。成長期という話であれば大学生レベルでも言える話ですし、トレーニングのサイクルという観点であればジュニア期よりも後の人たちにも当てはまる話です。カロリーを十分に摂取しないと強くなる速度は遅い。そうした理解がもっと進んでいけば、と思います。

Take home message
・中学生や高校生は体重の増加は特に気にしない。体脂肪が増え過ぎたら絞ったりして、身体を大きくすることを意識
・早熟や晩成というタイプは人それぞれで違うので、他の人を完全に真似しても効果は薄かったりする
・ジュニア期以降で選手が伸びていない原因はジュニア期の選手指導に原因があるのでは、という考えをもっと持つべき
・より質の高いトレーニングをするためには、それに耐えられる身体が必要。高校時代に強かったからと言って、その身体で次のステージに向けたトレーニングが出来るわけではない
・高校生が強いからといって、そこを見習って真似したら本末転倒な事態になる可能性も高い

以上です(競輪のレースの合間に書いておりますので、誤字脱字などございましたら気にせず脳内変換でよろしくお願い致します)。

追記;10/21 22:50
早熟タイプの子はジュニア期にしっかりと練習をしても問題ありませんが、中学生の強い選手が同じ学校や地域にいたら、あいつの真似をすれば強くなる!!と短絡的に考えてしまう子が出るのは当然かと思います。そうした子に対して、君の成長期はまだまだこれからだから、先を見据えて練習をしよう、しっかりとやることをやろうと教えるのが大事であろう、という点をご理解頂ければ。

近年、マラソンで2時間を切ろうというプロジェクトが活動しておりますが、数年前までは月間600kmも走ればオリンピックを勝てる、日本人は走り過ぎだと言われたりしていました。しかし、本気で2時間を切ろうとしている彼らは、それを実現するためにトレーニングを見直し、シューズやドリンクなどを開発してきました。そして今となっては月間走行距離は1000kmという、その昔にマラソンが強かった頃の日本でやられていたような距離の走り込みを当然のようにやっています。より上のステップを狙うためには、より質の高い練習をやらないとダメ。そのためにはそれに耐えられる身体が必要、という当たり前の話ですが、ジュニア期で身体が作られないでいるとそうした世界のトップと戦うことは不可能となってしまいます。マラソンで日本が外国勢と勝負できない問題には、ジュニア期でのすり減り、十分な身体作りが出来ていないことが原因の一つとしてあると考えられます。

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