テキストカバレッジ:3/27 大分レガシー決勝 ハマダ ジュンジ(スニークショー) VS クドウ ハルカ(グリクシスシャドウ)
時は3月、別れと旅立ちの季節。
ここ九州の片田舎大分にも分け隔てなく訪れたこの季節、1人のMTGプレイヤーがこの県を去る。
個人主催による月例レガシー大会、大分レガシー決勝戦。
今回のテキストカバレッジでは本大会を機に去りゆく1人のPWの、大分での最後の戦いを記そう。
その名をハマダ ジュンジ。
マスクス・ブロック時代のデビュー以来この令和の世に至るまでスタンダードを続けてきた、大分県が誇る正しく「古参」のプレイヤーだ。
残念ながら、仕事の都合で今春3月を以て大分を去ることとなった。
かつて数々のグランプリやPTQなど、フォーマット問わず競技イベント遠征を繰り返してきた豊富な経験に裏打ちされたスキルを生かし、現在の大分では所謂「初心者〜中級者の壁」的ポジションとして店舗大会で多くの若手の前に立ちはだかってきた男である。
使用するデッキはフォーマットによってマチマチだが、撹乱的アグロやテンポデッキなどフレキシブルな立ち回りができる比較的軽量なデッキを好む傾向が強い。
構築こそオーソドックスな方向性をとることが多いが、時に意外性満点の特異なカードをもって盤面を切り返し対戦相手は勿論周囲のプレイヤーをも驚愕させることも。
今回の大分レガシー主催、ロノムjr氏の表現を借りれば時として「俺たちを熱くさせてくれる」構築センスの持ち主だと言えるだろう。
そんなハマダが今回使用するのは今や往年の、といっても問題ないであろう名作「スニークショー」だ。
リアニメイトと並んで、元祖「踏み倒し」とも称される由緒正しきコンボデッキ。《実物提示教育》と《騙し討ち》の両軸から《引き裂かれし永劫、エムラクール》や《グリセルブランド》を着地させ速やかにゲームを終了させる。
どちらかといえば前述通りビートダウンよりのアーキタイプを好むハマダだが、レガシーやモダンでは決着の早いコンボデッキを握ることも多い。特にこの「スニークショー」に関しては老練の使い手であることは大分での周知の事実だ。
あまり多くを語る人柄ではないが、それ以上に彼のプレイングやデッキが物語る「圧」から何かを感じ取り教えを乞う若者は数多い。
今回の大会を最後に、という話を聞いた大分県下のプレイヤーが大会へのエントリーをせずとも彼への挨拶に訪れたりするなどことからも彼の人柄というものが窺い知れるだろう。
そして大分最後の大会・最後のマッチとなるであろう今回もまた、やはり若手に対する「壁」として立ちはだかる形となったのも宿命か。
ではこの決勝に相対するプレイヤーも紹介しておこう。
若手筆頭、クドウ ハルカ。
コロナ禍によりテーブルトップのイベントが縮退の一途を辿る近年においてなお、競技マジックの世界に意欲を見せる期待の若手プレイヤーだ。
同世代のプレイヤーの中では比較的遅咲きながら、スタンダード・モダン・レガシーと幅広いフォーマットに熱意を燃やし、現在では某MTG専門店等いくつかのカードショップを拠点として先輩たちに厳しくしごかれながら腕を磨く日々を送っている。
その甲斐あってか、先日の日本選手権店舗予選を無事勝ち抜き5月末開催される日本選手権本戦への参加権利を手にした。
本戦での活躍に期待しよう。
本日の大分レガシーでも勢いそのままに決勝までコマを進める破竹の若手、そんな彼がこのレガシー愛用するデッキは「グリクシスシャドウ」だ。
デュアルランドがリーガルなフォーマットでありながらわざわざショックランドを用いて戦うという、モダンから殴り込みをかけてきた異端児デッキ。採用カード含めデッキの構造そのものは「デルバー」に近いものがあるが、現在のレガシーのフェアデッキとしては珍しい黒いカードとショックランドから織りなされる「ライフロス」シナジーの奇襲性がウリだ。
デッキ・プレイヤー共に対照的なマッチアップ。
熟達者の技術(スキル)か、若手の勢い(パッション)か。
ハマダのラストマッチにふさわしい好ゲームに期待しよう。
・R1
両者あまり悩むことなくキープを宣言、初手は互いに悪くなさそうだ。
先行は順位が上のクドウ。
《湿った墓》のショックインから、《思考囲い》をプレイ。昨今レガシーではハンデスを使う色が少なくなって久しいが、ハマダの操るスニークショーに代表されるコンボデッキに対してはもちろんのこと今なお強力な一手だ。
ましてクドウのデッキにおいては本人の語るように「2点も払える」という点でのシナジーも見逃せない。
否応なしに公開されたハマダの手札は《引き裂かれし永劫、エムラクール》×2《騙し討ち》《思案》に土地3枚。
コンボはひとまず揃っていて、キャントリップから整えていくであろう手堅いハンドだが、クドウは1秒も迷うことなく次ターンのアクションとなる《思案》を落とすことを選択。
本命である《騙し討ち》を迷うことなく残すのは、無論「次もハンデスですよ」という無言のメッセージだ。
しかしそれがわかったところで、後手のハマダにできることは土地を置いてターンを返すのみ。
続くターン、クドウは《秘密を掘り下げるもの》を置きつつやはり《思考囲い》二発目。新たに《意志の力》が加わっているハマダのハンドを見て一瞬逡巡するも、予定調和にキーカード《騙し討ち》を落とす。手を進めるためのカードとキーカードの双方を咎められる強烈な立ち上がりのハンデス連打を前に流石のハマダも沈黙、土地を置くことしかできない。
ここは勢いに乗って攻勢を強めたいクドウだが、アップキープのデルバー変身チェックは失敗。1点アタックから特にアクションなくターンを渡す。
しかし続くターン、ハマダは土地を置くとおもむろにフェッチランドを起動。3枚の土地を勢いよく寝かせマナを捻出すると、送り出すのは当然《実物提示教育》!
デイズケアも一切なしの漢気突っ張りだ。
トップから引き込まれたであろうその致命打には、流石に「マジか…」と狼狽えるクドウ。その態度に偽りはなく、無念の解決。
当然戦場に舞い降りるのはゼンディカー絶望の象徴、初手で見えていた《引き裂かれし永劫、エムラクール》だ。
「ハンデスはトップされたら諦めろ」とは黒使いの一般論だが、それを決勝のファーストマッチから体現してくれるのがこのハマダという男。
これを見守るギャラリーらも口々に「やるなあ」と称賛の声を上げる中、まさしく「トップにイカれた」男クドウは白旗を上げる以外の選択肢を持たなかった。
ハマダ WIN! 1-0
サイドボードを広げながら「嘘だろぉ・・・」と情けない声を上げ机に突っ伏すクドウ。ハンデス連打スタートというコンボデッキ相手にこのうえないオープンハンド故にさぞ勝を拾いたかった一本だったのだろう。一挙手一投足に悔しさがにじむ。
他方、いわば1勝がうまく転がり込んできた形のハマダ。
こちらは浮かれることなく粛々とサイドボーディングを進める。
感情の起伏にも経験の差が出る決勝戦、セカンドマッチの行方に注目しよう。
・R2
2戦目もお互いマリガンなしでのスタート。
1戦目とは打って変わって、お互いに土地を置き合う静かな立ち上がりから始まる。
先手2T目、《湿った墓》ショックインからクドウが《渦まく知識》で動く。これに応じて、後手のハマダも《溢れかえる岸辺》から《Volcanic Island》を追加しつつこちらも《渦まく知識》。
互いに手札を整えつつ仕掛ける機会をうかがう。
3T目、クドウはフルタップから《表現の反復》を撃つことで手札の更なる充実を図る。
ここに迷うことなくハマダがレスポンス、先ほどブレストのために寝かせた《Volcanic Island》を手札に戻し《目くらまし》をキャストする。
デルバー系のようなクロックパーミッションからならともかく、コンボであるスニークショー側から飛び出てくるのは少々珍しい光景だ。
これに対してクドウからもレスポンス、《湿った墓》を戻しての《目くらまし》。
勇んで撃ったのはいいがハマダの場には起動していないフェッチランド、《沸騰する小湖》が残っているため1マナ要求は払えてしまう。見た目としてはやや悪手に見える。
しかしハマダ、フェッチを切らずにこの《表現の反復》を通すことを選ぶ。
先のターン、自らの《渦まく知識》でトップに積んだカードをシャッフルしたくないようだ。
クドウの果敢な《目くらまし》は一応の功を奏し、ひとまず《表現の反復》は解決。手札を今一度充実させる。
戻した《湿った墓》を置きなおしつつ、《表現の反復》からもたらされた《秘密を掘り下げるもの》を戦線に追加。一応のクロックをかけにいく。
ドロースペルをめぐる細かい攻防を経てターンを受けたハマダは《裏切りの都》から《目くらまし》によるマナ不足を補いつつ、《秘儀の職工》を送り出す。
手札のクリーチャーカードをコピートークンに変換できる、3枚目の「踏み倒し装置」。当然マストカウンターだが、先のターン《目くらまし》を切った故かフルタップのクドウにレスポンスはなく静かにこれが着地。
召喚酔いが解ける前にこれの処理を急ぎたいクドウ、4T目を始めるにあたり緊張の面持ちで《秘密を掘り下げるもの》の変身チェック。
《思案》をめくりつつ変身に成功、すぐさまアタックに向かわせひとまずの3点ダメージ。
「いや、控えめにいって非常にやばい」と震える声でつぶやきつつ、第2メインに入ると3枚目の土地を置きつつ即座に《稲妻》を《秘儀の職工》に差し向け排除を試みる。
しかし、除去が見えるや否やハマダが動く。
《目くらまし》を追放しつつ《誤った指図》でレスポンス!
《稲妻》を打ち消すだけならまだしもそれを利用して相手のクロックをも葬ろうとする、周囲のギャラリーもどよめく仰天の一手だ。
流石にこれを通すわけにはいかないクドウ、さんざん悩んだ末に「なんでそんなのあんの・・・!?」と動揺を隠せないながらも恐らく虎の子だったであろう《赤霊破》でこれを打ち消す。
さしものハマダの奇襲もここで打ち止め、無事《稲妻》が解決され《秘儀の職工》は退場。目下の脅威排除に成功する。
攻守入れ替え、ここでたたみかけておきたいクドウ。
ここまでの攻防を経てフェッチ⇒ショックインを繰り返してきたことで彼のライフは12を切って10。召喚条件は既に満たしている。
《湿った墓》から黒マナ、デッキのキーカード《死の影》を送り出す。
コンボパーツを守りにいって除去された挙句、クロックを追加されじわじわと逆王手をかけられつつある格好のハマダ。
ターンを受けてからやや思考する間があったが、ここは《裏切り者の都》を諦め《すべてを護るもの、母聖樹》をタップインするのみでターン終了。次で確実なコンボ成立に望みを託す。
当然勝負を急ぎたいクドウ、慎重に《思案》でトップを並べ替えると全軍突撃で6点ダメージ。ハマダの残りライフは9、イエローゾーンまで近づいてきた。更に第2メインで《死の影》2号機を追加しチェックメイト目前までこぎつける。
事実上のラストターン、ハマダはやはりというべきか意を決しての「お願い」じみた《実物提示教育》を《すべてを護るもの、母聖樹》からダメージを受けつつキャスト。
打ち消されないので当然解決。第1ゲームに続いて《引き裂かれし永劫、エムラクール》を降臨させる。
残りライフは7、一応エムラクールをブロックに回せばライフは残り返しの滅殺6で捲れる計算ではある。
しかし再び現れた超大型エルドラージに対し、今回のクドウは動じる様子がない。
予定調和とばかりに静かにターンを受けると、徐に全軍突撃。
ハマダの残りライフは2。
そしてコンバット終了と同時最後に手札から見せたこの1枚。
無論、このカードの存在にあきらめをつけていたであろうハマダ。
結果はわかっていたとばかりに土地を片付け始めるのであった。
クドウ WIN! 1-1
静かな攻防から、ハマダの奇策《誤った指図》を契機に急にボルテージの上がる中々に熱いゲーム内容。
最終的にはリソースをその奇策に割いてしまったがために展開が遅れ、ライフ面で差をつけられた都合《すべてを護るもの、母聖樹》からのダメージが結果として敗着となってしまったがやはりハマダの「らしさ」という面ではファーストゲームに続いて魅せてくれる展開だったと言えよう。
このゲームを制したクドウに準決勝で敗れた主催者、ロノムjrは「テクいことをやると盛り上がるけど、なんか意外と負けてしまうんよね」と経験者らしい総括を述べた。
同じく観戦していたスミタ ジン(予選敗退)は《誤った指図》による奇襲について「幻の6人目(シックスマン)がハマダさんの元に…」とよくわからないうわ言を宣った。
特に意味はないが今回の失言として記録しておく。
話は脱線したが、いよいよ決勝戦サードゲーム。
ハマダにとっては文字通りここ大分でのラストゲームとなるであろう、最後の試合の行方に注目しよう。
・R3
先行はハマダから。
《島》⇒《思案》のノーシャッフルと無難な立ち上がり。後手クドウも負けじと《蒸気孔》からの《秘密を掘り下げるもの》で好発進。
続く2T目、土地を置くのみでハマダはノーアクション。
対するクドウ、それにはお構いなしに《表現の反復》をトップから公開しつつ《昆虫の逸脱者》へと変身させると即座にアタック。
第2メインでクドウが《渦まく知識》を唱えると、これに素早くレスポンスしてハマダも《渦まく知識》。手札の整理機会を逃したくなかったか、あるいはクドウが土地を探してのドロースペルだと見越して《紅蓮破》を探しに行ったか。
真意はともあれ、やや長い思考の後にお互いの《渦まく知識》が無事に解決。クドウは《沸騰する小湖》を置いてターンを渡す。
しかしハマダの3T目。
手札から《古えの墳墓》をセット、置いてあった《沸騰する小湖》を起動し《Volcanic Island》、更に《睡蓮の花びら》・・・と淀みなくカードを並べていく。
どうも雲行きが怪しい。
ギャラリーである我々もそれを感じたし、対面に座るクドウはなおのこと色濃く感じ取っていたのであろう。徐々に表情が強張る。
《古えの墳墓》のマナジャンプを絡めて、《睡蓮の花びら》を浮かせつつの4マナ。
ファーストゲームで《思考囲い》によってキャストすることすら叶わなかった「あのカード」が出現した。
《騙し討ち》。
これに対するクドウのレスポンスは静かに右手を差し出し「通し」の意を示すのみ。
着地してしまう。
そして《睡蓮の花びら》から赤マナを捻出し、能力起動。
出てくるのは当然、《引き裂かれし永劫、エムラクール》。
このマッチ幾度となくクドウに立ちはだかってきた最強のエルドラージが、ついに速攻でもって牙を剥く。
滅殺6が誘発。ここまで抗い続けてきた若者の鼻っ柱も粉々に粉砕する強烈な一撃に、クドウは苦悩の叫びをあげて投了の言葉を絞り出すほかなかった。
ハマダ WIN! 2-1
あまりに呆気ない、そして圧倒的な3ターンキルでの決着。
コンボデッキらしいといえばらしい。
《渦まく知識》から整えた手札が聴牌だったのであろうが、しかしそのいわゆる所の「ドブン」を様々な意味でのラストゲームに持ってきたハマダには脱帽せざるを得ないところ。
優勝に至るまで含め、今日はまさに彼の日であったと言えよう。大分県での最後の大会で有終の美を飾ったハマダの新天地での活躍に期待したい。
他方、惜しくも最後は見事に叩き潰された若手クドウ。
試合開始前には「ハマダさんには最後に悔しい思いを持って大分を去ってもらいます」と意気込んでいたが、見事逆に悔しさを存分に味わう羽目になった。
まだまだ勝負の世界に挑戦し始めたばかりの若者のこれから、そしていつかはまた相見えるその時のリベンジマッチにも期待を寄せたいところだ。
まずは来たる5月開催予定の日本選手権本戦での彼の活躍に注目したい。
最後に改めて筆者よりこれまでの個人的な縁、そして大分MTG界におけるハマダジュンジ氏の多大なる貢献の双方に感謝の言葉を述べて、本観戦記の結びとしたい。
ハマダさんありがとう!また会う日まで!
※なおハマダ氏は来年2023年4月に大分に戻られる予定です。
お前なかなかおもろいこと書くやんけ、と思って頂けたらなんか下のボタン押すと僕にジュース奢れたりとか、記事のオススメとかできるっぽいです。何卒。