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第8回全国学生演劇祭 インタビューシリーズvol.6

昨年の第8回全国学生演劇祭を振り返るインタビューシリーズ。
今回は、大胆不敵ダイヤモンドダスト・Route・餓鬼の断食へのインタビュー記事です。


札幌:大胆不敵ダイヤモンドダスト(出村)

東京:Route(代市)

奈良:餓鬼の断食(堀、川村)

編集・インタビュー:渋革まろん



Q1.なぜ学生演劇祭に参加しようと思われたのでしょうか?


川村(餓鬼の断食):自分は奈良学生演劇祭の実行委員長をしています。2年前に立ち上げて、1年目は実行委員の仕事に専念していたのですが、2年目はせっかくだから自分も出ようと思って、参加を決めました。そもそも地元の奈良で演劇をやりたかったという下心から始めた演劇祭だったので(笑)。


出村(大胆不敵ダイヤモンドダスト): 私達は札幌大会に向けて有志で組まれた団体だったので、スケジュールが合わなかったりで、ほとんどのメンバーが参加できなくなってしまいました。札幌大会のときの演出家も同じく都合がつかずで、私は全国から誘われて参加することになりました。


代市(Route):包み隠さず言うと、お金をあんまりかけずに多くの人に届けるためには、演劇祭に出るのが一番、効率的というか、手っ取り早いと。自団体で公演を打つとなると、自分たちの知り合いにしか届けられないことがほとんどなんですけど、演劇祭では他団体のお客さんにも届けられるし、小屋代を支払うことに比べれば、演劇祭の参加費はとてもリーズナブル。自分たちが参加したのは、この2点が大きいです。


──それぞれの地域では、どれくらいの数の学生劇団が活動しているのでしょうか?


川村:奈良県内の大学を母体とするサークルはおそらく10前後ですね。


──かなりありますね。


川村:そうですね。ただ、奈良は京都・大阪・兵庫に電車で通える、学生のベッドタウンなので、奈良に住みながら他地域のサークルに入ったり、自団体の上演をやったりするケースが多いなっていうふうに思います。


出村:札幌は奈良と同じように、大学のサークルを母体としたところが多くて、それが7つくらいあります。そのほかにもサークルから派生した団体を含めると少なくとも10前後はあるかなと思います。コロナ禍以前はもう少しあったんですが。


──東京はどんな感じでしょうか?


代市:参加している座組でお金を出し合えば小屋代くらいにはなるので、自分たちで団体を組んで公演する学生の劇団は数え切れないくらいあると思います。


──大学を超えた学生同士の交流も盛んに行われてる印象ですか?


代市:インカレサークルとして活動している学生劇団はいくつもあって、僕らの場合は、僕が立教大学で、他のメンバーは明治大学の学生という感じです。もともと、明治の先輩が立ち上げた劇団に役者として呼ばれたことがあって、そこから広がったコミュニティでRouteも活動を始めました。


──大胆不敵ダイヤモンドダストさんは有志の集まりということでしたが、それも色々な大学の学生が参加しているんですか?


出村:そうです。色々な大学の人が集まってます。


──餓鬼の断食さんはいかがですか?


川村:餓鬼の断食は僕の個人ユニットで、堀は違うんですけど、基本的にキャストは大学のクラスメイトがメインになります。


──クラスメイトを誘って?


川村:そもそも母体が大阪芸術大学なので、学生劇団としては少し特殊なケースかもしれません。舞台芸術学科の演技演出コース、それからミュージカルコースのメンバーを何人か誘いました。個人ユニットなので、毎回、ほとんど違うメンバーで公演をしていますね。全国学生演劇祭のメンバーも全員「はじめまして」の人達でした。


Q2.立ち上げてからどれくらいの団体になりますか?


代市:去年の東京学生演劇祭をきっかけに立ち上げた団体なので、まだ1年経ってないですね。


出村:大胆不敵ダイヤモンドダストも同じです。昨年の10月にあった札幌学生演劇祭をきっかけに立ち上げました。


川村:餓鬼の断食としては2021年に初めて公演を打ったので、2年目になります。


Q3.演劇というメディアを通じて、やりたいこと・実現したいことを教えてください。


川村:僕が演劇をやり続けるモチベーションは、地元の友達に楽しんでもらえるような作品を作ることです。みんなで集まったときに飲みのタネになるような作品になれば満足ですね。


出村 :僕は演劇を通して実現したいことがあるというより、それ自体が楽しくてやっている部分があります。演劇に限らず、創作一般はある意味で手段だと思っていて、その手段そのものを面白がっている感覚があります。


代市:僕は川村さんに多分近いですね。見に来てくれた人が楽しんでくれる空間を作りたい。そこが一番根底にあります。Routeの公演があるからそれまで頑張ろう、明日からも頑張ろうと思ってもらいたいです。そういうふうに演劇を届けていきたいし、お客さんが楽しんでくれるのが嬉しくて演劇を続けているんだと思います。


──堀さんはいかがでしょうか?


堀(餓鬼の断食):制作者の立場からは、もうちょっと演劇を観に行くハードルが下がったらいいなと思っています。知り合いが出ているからとかじゃなくて、「あっこの劇場でこれをやってる」くらいのテンションで観られるものにしていきたいです。


──そうした劇場は堀さんの住んでいる京都にあったり…?


堀:ほぼ毎日公演している「ギア-GEAR- 」は近いと思います。


──10年以上前になりますが、ART COMPLEX 1928だったところですね。


堀:そうです。今はもうギア専門劇場になっていますが、四条河原町にある劇場です。


Q4.注目している(影響を受けた)演劇団体や個人、アーティストがいれば教えて下さい。


川村:自分の団体でやっているような会話劇の原体験は、高橋いさを、岩松了、つかこうへいです。観劇して衝撃を受けたのは、ロームシアターでやっていたディミトリス・パパイオアヌー『THE GREAT TAMER』です。それを高校生のときに観て、意味分からんくて涙が止まらなくなりました。それと、演劇って楽しいかもと思ったのは、柿喰う客とMONO。最近、影響を受けているのは劇団不労社ですね。


代市:僕が大学に入学して一番最初に参加した団体が、劇団イン・ノートでした。昨年の全国学生演劇祭で大賞を受賞した団体で、無対象演技が素晴らしいんです。主宰が高校のときの演劇部の先輩だったんですけど、会話の面白さ、役者の身体を使った表現の良さは劇団イン・ノートから学んだ部分が大きかったです。最近だと、ダウ90000。そして僕の一番根っこにあるのはお笑い芸人のバカリズムさんだと思います。非日常なものをまるで当たり前かのようにすり替えていく、絶対意味わからないのに笑ってしまう、あの感じに影響を受けています。


出村:僕は演劇よりも映画を見ることが多くて、『万引き家族』とか、人間の生活を描いたものが好きですね。そういう意味で、餓鬼の断食さんはすごく好みです。あと、一昨年の全国学生演劇祭で最優秀賞を受賞したポケット企画さんは札幌の学生団体の中では頭ひとつ抜けた存在という感じがあって、自分としては応援したい気持ちがあります。


堀:演劇にハマったのは、劇団☆新感線さんを観てからですね。私はプロデューサーを目指しているから、『テニスの王子様』のミュージカルを企画した片岡義朗さんを尊敬しています。最初は批判されていたのに、2.5次元ミュージカルを一つの市場として確立するまでに成長させたのはすごいと思います。


Q5.学生劇団の課題について思うことがあれば教えてください。


代市:ぱっと思い浮かぶのは、お金関連のことで。例えばテニスが趣味の場合は、テニスコートを押さえれば2人集まればできるけど、演劇は役者、音響、照明、制作……関わる人の数が多いし、お客さんを呼ばないと成立しない。稽古場代や小屋代もかかる。金銭的な部分はやっぱり課題です。学生団体だから、テスト期間がかぶると稽古に時間を避けないとか、勉強やバイトの学生生活と両立が難しいところもあると思います。


──Routeとしては大学卒業後も演劇活動を続けていく予定ですか?


代市:難しいですね。これはもう大胆不敵ダイヤモンドダストさん、餓鬼の断食さんにも聞いてみたいんですけど、現実問題、演劇でお金を稼いで食べていけるかとなったら厳しいものがありますよね。それこそ学生のうちに続けていく目処が立てば続けていこうと思いますし、無理だったら学生サークルの延長で思い出として終わっていいかなというのが僕個人の考えです。


──大胆不敵ダイヤモンドダストさんはいかがですか?


出村:私は「劇団しろちゃん」という北海道大学の演劇サークルに所属しています。アクティブなメンバーが大体70人くらいの大きな団体なんですけど、活動の流れみたいなものがもう決まってしまっていて、あんまり身動きが取れない部分があります。演劇に対するモチベーションも人によって違うから、そこの統一を図るのも難しい。なので、もっと制作に力を入れたい人はどんどん外に出ていく状況になっています。色々な人が集まるがゆえにあまり遠くまでいけないというのは、学生演劇の宿命かも知れないから、解決する課題なのかは微妙なところなんですけど。


──出村さんは演劇に関わる卒業後の進路を考えていたりしますか?


出村:生活の中で、創作から全く離れてしまうのは寂しいなと思っています。ただ、やっぱり代市さんが言われていたように、演劇を職業にするイメージは湧きません。個人としてはやっぱり創作一般が好きなので、働きながらときどき小劇場で演劇をできたらいいなと思っています。


──餓鬼の断食さんはいかがですか?


堀:まずは私から地域の問題についてお話させてください。私は京都芸術大学に通っているんですが、大阪・奈良・兵庫・京都などの関西圏では学生が公演できる小屋がかなり限られているという問題があります。京都だとコロナ禍の前後で5つの小劇場が潰れてしまったのも痛手でした。学生が公演を打ちたいと思っても場所がないんです。ただ、京都は若い世代に対する支援がまだ多い方で、ロームシアター京都と京都芸術センターが協働して行っているU35創造支援プログラムに「KIPPU」という制度がありますし、京都府の事業で若い方に無料で劇場を貸す施策も行われています。それと、文化に対してお金を出す土地柄があるのかなと思っています。これは4月に京都のTheSITEで上演する『班女』のチラシなんですが……。


──一般2,500円、応援チケット4,000円、サポーターペアチケット8,000円……一般よりも高い価格帯のチケットを販売してるんですね。


堀:試しに始めてみたら応援チケットを買ってくれる方も多くて。お客さんとして応援してくれる方が京都には多いイメージがあります。ただ、奈良の場合は……そもそも小劇場がないんだよね?


川村:そうだね。奈良の問題としては、学生が公演を打てる規模の劇場がないという状況が前提にあって。そのうえで、学生劇団の課題について思うのは、かつて「小劇場すごろく」と言われていたような活動の指針が全く見えないことです。自分たちの現在地がわからない。それが心理的なプレッシャーになっているのかなと思います。


──餓鬼の断食として何かしら目標があったりはしないんですか?


川村:KIPPUの採択は目指してますね。ただ、関西全体では、KAVC(神戸アートビレッジセンター)のリニューアルオープンにともなって「FLAG COMPANY」の舞台芸術セレクションがなくなり、アイホールの次世代応援企画「break a leg」も終了しました。若手支援や発掘・育成の場はどんどん先細りになっています。加えて、コロナ禍の影響です。餓鬼の断食も旗揚げ公演がコロナ禍で無期延期になりましたし、奈良だけでも演劇を始めようとしていた3組くらいの団体がなくなりました。全体の母数が減って、横のつながりもうすくなったと思います。


堀:劇団を始めるためには資金が必要になります。でも、受賞歴がないと助成金が取りにくかったり、制作の立場からもスタートアップの難しさを感じています。


──審査員最優秀賞や観客賞がある全国学生演劇祭は賞レースの側面もあると思います。そうした何かしらの評価が得られる場を皆さんは求めていたりするのでしょうか?


川村:そうですね。餓鬼の断食はウイングフィールドが主催する「ウイングカップ」で最優秀賞をいただいて、劇評を書いていただいたことがきっかけで一気に知られるようになった実感があるので。


代市:僕もめちゃくちゃ求められていると思います。あと、全国に参加して思ったのは、やっぱり全国学生演劇祭は他団体を知る最初のきっかけになるということです。昨年は奈良から劇団カチコミさんが参加されていたんですが、僕の先輩はその団体の公演を観るために奈良へ足を運んでいました。賞レース的に競い合う場が、見る側、やる側の双方に出会いの機会を提供するのは、すごく価値があることだと思います。


出村:昨年、ポケット企画さんが、おうさか学生演劇祭に招待されて最優秀賞を受賞するということがありました。ポケット企画さんは札幌の学生演劇の中では勢いのあるところなんですが、それでも札幌を離れるとなるとなんらかの支援や機会がないと難しい。若手支援や評価の場は、小規模な学生団体にとってものすごくありがたいものだと思います。


沢:ポケット企画は最初、おうさか学生演劇祭に招待されて、そこからウイングカップ2022の参加にもつながっていきました。そこでも最優秀賞を受賞しています。


──なるほど。非常に面白い動きが生まれていますね。僕自身、札幌出身だから本州との心理的・実際的な距離感は身に染みてわかっているつもりです。海を超えなければいけないので、東京─大阪間の移動とは負担感が変わってくるし、どうしても本州と切り離されてしまうところがあります。そこのつながりを作り出す学生演劇祭は、非常に重要な役割を果たしているんじゃないでしょうか。


Q6.学生劇団の可能性について思うことがあれば教えてください。


川村:自分は個人ユニットなので、学生劇団とはちょっと違うかもしれないんですけど、同世代が集まる独特のグルーヴ感を生み出せるのは学生劇団だけだよなと思います。


出村:正直、僕は大学に入るまで演劇にほとんど触れずにきたんですけど、映画や漫画、他のメディアにはたくさん触れる機会がありました。潜在的に演劇を好きな人、やりたい人がたくさんいてもなかなかそれに触れる機会がない。そこで学生劇団は、演劇というメディアに気軽にアクセスできる機会になるのかなと。生活がかかっているわけでもないから、サークルの友達を作るノリでなんとなく参加できる。そこに学生劇団の可能性があるかもしれません。


代市:確かに、芝居づくりに関わる経験は、普通に生きてる中でそんなに通る道ではなくて、でも、学生劇団は敷居が低いというか、演劇に触れるきっかけとして間口が広いはずのものです。希望すれば役者でも裏方でも就くことができるから、演劇のキッザニアというか職場体験みたいな意味もあるだろうし、舞台に上がる経験もすごく価値のあるものだから、それをきっかけに演劇が社会に広まったらいいと思いますね。


堀:学生劇団は横のつながりを作りやすいのかなと京都のゲスワークさんや劇団ケッペキさんを見ていて思いました。それこそ代市さんが言われてたみたいに、劇団だったら今回は照明やってみたいから照明をやるみたいなことができる。社会に出たら、音響は音響、照明は照明の仕事に従事することになるだろうから、それはすごく大きいことだと思います。


──演劇を職業にした場合、それぞれが専門的な職能のなかでクリエイションに携わることになりますが、学生劇団はトータルに「演劇」という体験ができますね。その経験は学生劇団という場所でこそ得られやすいものかもしれません。本日は長時間のインタビュー、ありがとうございました。


※2023年3月にインタビューを実施した記事です。



餓鬼の断食「或る解釈。」


Route「恐怖!奇想天外館」


大胆不敵ダイヤモンドダスト「weRE、カコウ。」

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