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第8回全国学生演劇祭 インタビューシリーズvol.3

日本学生演劇プラットフォーム代表理事・沢大洋に渋革まろんが10,000字インタビューを敢行。京都学生演劇祭の立ち上げから、全国学生演劇祭へと発展していった経緯、そしてこの10年の学生劇団がどのように変化し、どのような可能性がありうるのかについてお話を伺いました。

沢大洋はなぜ学生演劇祭をやり続けるのか 後編

──反骨精神で攻めた12年



学生の成長と出会いに感じる達成感

まろん:最初の立ち上げから12年が経って、いまあらためてこれは達成できたなと思えるものはありますか。

沢:達成感を感じるのは、学生が成長していく姿を見たときですね。蒲団座の坂口君は、第1回の京都学生演劇祭で賞にも入らないし、観客賞の採点も最下位だったんだけれど、2年目に審査員賞を受賞して、観客投票も3位に浮上した。本当に良かったなと感激しましたね。第10回京都学生演劇祭で大賞を受賞した睡眠時間も記憶に新しいです。正直、僕はあまり良いと思ってなかったんだけど、全国でやるときにめちゃくちゃ面白くなっていて。大賞・観客賞・審査員賞のトリプル受賞。主宰の小原さんという子から「この半年、めっちゃ頑張りました」と聞いたら、それはもう嬉しくなっちゃう。

まろん:他にはどうですか?

沢:そうだな、あとは出会ったとき。学生だと全然違う文化圏に属していたりするじゃないですか。そういう人たちが出会って衝撃を受けてる様を見るのも嬉しいですね。こんな演劇のやり方あるんだとか、こんな稽古の仕方あるんだとか、こんなにストイックなんだとか。そういう出会い。いま、出会っているなという目をしているときがあって、やっぱりウルッとくる……。

まろん:ウルッと。

沢:ウルッときがちです。今回もだいぶウルってます。

まろん:なるほど。

沢:東北大学学友会演劇部と西一風が賞を争った全国の第0回なんかも思い出深くて。学友会が審査員賞・観客賞・委員会賞を総ナメにしたんだけど、ギリギリで競い合う姿を見ていると、やっぱり感情移入してしまいますね。


大韓民国演劇祭で変わった団体の意識

まろん:学生演劇祭には若手の登竜門的な役割も期待されていると思います。そういうステップアップとしての役割をうまく果たせたなと感じられたときはありますか?

沢:それを一番感じたのは、2017年に大韓民国演劇祭 in 大邱に学生が参加したときかな。東アジア文化都市2017の時に京都市の方が見つけてくださって、第2回の全国に出た幻灯劇場・劇団なかゆび・劇団西一風の3組で韓国公演をしたんですよ。韓国の方では韓日学生演劇祭と言っていて、韓国の学生団体の上演もありました。そのときにやっぱり、日本語の通じない相手に対してどういうふうに伝えるかみたいなところで、学生の意識も変わる。今までにない上演のアプローチを模索するようになって、上演の評判も良かった。この経験は彼彼女らにとって大きかったと思います。

まろん:具体的な他者の視線を意識せざるをえなくなった。それがどれくらい影響しているのかわからないんですけど、元・西一風の福井君も劇団なかゆびの神田君もオリジナリティのある作品を作り続けているし、幻灯劇場も若手の人気劇団になって活躍していますね。ちなみに、日韓の交流はその後も継続しているのでしょうか?

沢:第3回の全国では、啓明大学の啓明劇芸術研究会を招聘して特別枠で参加してもらいました。そのときに、大邱の演劇協会の方が25人ぐらい韓国から来ていただいて。大変なことになりましたけど(笑)。

まろん:かなりの人数ですね。

沢:みんなで1軒家に泊まってもらった(笑)。異様な状況だったと思うけど、楽しかったですね。その後、いろいろとすれ違いもあって公の交流は実現してませんが、全国に参加してくれた啓明大学の学生は韓国でも学生演劇祭をやりたいと言ってくれて、日本に来たときに話をしたりはしていました。


シラカンの衝撃

まろん:日本国内でのステップアップという点ではどうでしょう?

沢:全国の第2回で大賞をとったシラカンは出世株だと思います。今回の全国ではシラカンの西君に審査員をお願いしてるんだけど、本当に衝撃的なデビューでした。

まろん:シラカンは東京学生演劇祭で旗揚げしていましたね。

沢:そうそう。王子小劇場の玉山さんが初めてシラカンの劇を観た時、本当に肩を揺らして笑ってて。終わった後、僕のところにジャンプしてきて、「沢君やったね、現れたね」みたいなことを言うんですよ(笑)。全国の審査員に松田正隆さんがいたこともあって、F/T17で松田さんがキュレーションした「実験と対話の劇場」にシラカンが参加する展開につながっていきました。

まろん:まさに学生演劇祭が若手の才能を発掘するコンペティションとして正しく機能した事例ですね。

沢:クマ財団のクリエイター奨学金に学生演劇祭出身の人が初年度から4年連続で選ばれているのも、学生のキャリア支援になにかしら貢献できた点かなと思います。初年度は、亜人間都市の黒木君。それから福井君、多摩美術大学出身でミチタ カコという団体の演出をしていた相原雪月花さん。

まろん:やはり学生劇団を外につなげる回路を開いてきた、とは言えそうです。

沢:でも、まだみんな20代だから。ゆっくり見守っていきたいですね。


学生劇団の”集まり方”を変えた

まろん:この12年間で感じる変化があれば聞いてみたいです。

沢:今までにはなかった演劇を始める回路みたいなものはできたよね。絶対。10年前の学生劇団は本当にガラパゴスだったし、それがいいだろうみたいなこともあったけど、学生演劇祭ができたことで、いわゆる大学サークルというよりも新しいカンパニーを作ってチャレンジしてくることが多くなったと思います。

まろん:ガラパゴス化してた学生劇団が、サークルの外でもユニットを作るようになって、創作のやり方も変わってきた。学生演劇祭が与えたインパクトは相当に大きなものがありそうです。

沢:どっちかというと変わってないという気持ちも強いんだけど……京都なんかは演劇にたずさわる人の変化を感じるところはあります。10年前は若手でも京都造形芸術大学の出身者が多い印象を持っていたけど、2年前ぐらいから、京都芸術センターの制作室を借りている若手の使用者がほとんど学生演劇祭に参加した人たちになっていました。そういう意味での影響はあったかもしれません。

まろん:継続は力なり、じゃないですけど、10年続けると文化になっていく感じがします。

沢:逆に言えば当たり前になってきて……みたいなのもあると思います。学生演劇祭がベースにある状態にはなった。良くも悪くも。それがあることで、既存の大学サークルから外に出ていく人が増えちゃった可能性もありますし。

まろん:2022年にKYOTO EXPERIMENT賞が設けられたのも大きな変化だと思います。10年前ではとても考えられない試みです。

沢:あれは嬉しかったですね。

まろん:どういった経緯で?

沢:KEXが共同ディレクターの3人体制に変わって、京都の若手がどのような活動をしているのか知りたいという意識があったみたいで、KEXのディレクターから声をかけていただきました。これからなにかしらこの関係をふくらませていきたいですね。


存続の危機に立たされる学生演劇祭

まろん:学生演劇祭をやるなかで感じた課題について聞かせてください。

沢:学生演劇祭もまだまだ効果の出る範囲が狭いと思っています。一時的な盛り上がりにはなっても、その先が続かないということもある。一方で、規模の拡張にともなってコストも膨れ上がっていく。これから演劇祭を支えていくための資金をどうやって調達していくかは大きな課題です。

まろん:お金は天から降ってくるわけじゃないですからね。予算の獲得については、何かしらの対策を講じようという動きもあるんですか?

沢:今、僕が代表を務めている「日本学生演劇プラットフォーム」を法人化して会員を集めようという話もしてるんだけど、なかなか前に進まない。演劇祭はなんらかの組織化を目的にしているわけではないから。

まろん:とはいえ、演劇祭を支える組織と予算は必要になります。やっぱり現状では沢さん個人で赤字の補填を支えてる部分も大きいのかなと思います。

沢:なかなか難しいところですが、学生演劇祭に持続性を持たせるためには、企業からの協賛金を獲得するか、助成金をコンスタントに取っていくか、学生の参加費を上げるかしかない。結局、今はそのあたりです。

まろん:学生演劇祭もまだまだ安泰というわけでもないんですね。

沢:文化予算の動向を見ても、助成金は削減されていく方向だから、演劇を取り巻く環境は厳しくなってきているのかもしれない。ただ、やっぱり今回も本番の舞台を見ていると、学生演劇祭に関わってくれた各地の実行委員の姿とか思い返すわけです。あの地域は去年盛り上がったけど、今年は人が集まらなくて苦労したなとか、演劇祭の歴史が脳裏に浮かんできて。そういう大変な状況の中で、これまで見たこともないような素敵な団体や作品が現れるのを見てしまうと、何としてでも続けていかなければという気持ちになります。

まろん:実際、学生演劇祭は、演劇の新しい才能とか若い劇団が生まれてくるための下地を作っているというか、良し悪しはあるにせよ、次世代の演劇を支えるよく出来たシステムを作り出したと思います。それが終わってしまうというのは10年かけて築き上げてきた創作環境を破壊するという意味でも大きなマイナスになってしまう。

沢:若手の育成という意味では、学生演劇祭のコストパフォーマンスは悪くないはずなんですよね。そのあたりはもっと訴えていきたいと思っています。


学生演劇の衰退? 新しい回路をつなげる

まろん:最後に、学生演劇祭の未来について沢さんの考えを聞いていきたいと思います。

沢:若者が成長する姿、出会う姿に惹かれて、見たくて、続けることができているので、学生演劇祭を出会いと成長の場にしていく方向性は大事にしていきたいですね。

まろん:一方で、僕としては学生演劇という枠組み自体が失効しつつあるのではないか、と感じるところもあるんです。少なくとも10年前の京都で活動を始めた若手の団体は──東京その他も変わらないと思いますが──学生劇団から始まる小劇場すごろくのサクセスストーリーを信じていました。悪い芝居の『東京はアイドル』が最も象徴的だったと僕は考えますが、サクセスを信じているがゆえに疑心暗鬼になっていた。でも、劇団二進数の樋口さんが言われていたように、演劇は音楽等のさまざまな表現方法の中のひとつに相対化されているところもあるわけですよね。演劇の成功が特別な意味を持たなくなっている。別の観点から言えば、若者や学生が未来の象徴として了解される時代は終わったんだと思います。そもそも業界や社会全体で共有可能な未来像が消滅しているからです。

沢:実際、現実問題として京都でもコロナの影響で、3つぐらいの学生劇団が解散しました。活動休止かもしれないけど。かつ、少子高齢化で日本の人口はこれからどんどん先細りになるし、大学生の数も減っていく。そういう意味では学生演劇の先細りというイメージをもちろん持っているんだけど……それと、10年前に比べて、演劇シーンのトレンドもあんまり思いつかないし、小劇場演劇全体が先細っているんじゃないかな? 今の小劇場演劇の勢いを考えると、若い人に演劇は選ばれないという感覚はあります。

まろん:だから私的には、業界の内部で知名度を高めて観客動員数を増やしていく単線的な方向より、価値観や文化の違うジャンル、グループ、クラスター、地域とつながるリンクの数を増やしていく分散接続型の活動モデルを考えたほうがいいのかなと思っています。それこそ、日韓合同の学生演劇祭とか、思いがけないリンクを生み出していくわけじゃないですか。

沢:樋口君のヒップホップと演劇とかもね。

まろん:クマ財団の採択も既存の成功物語にはなかったものですし。

沢:自分たちのグループだけに引きこもっても先はないと思うから、回路を増やしていくのは良い思う。ただ、韓国やアジア、海外とつながるんだとしてもやっぱり予算の問題は出てきちゃうから、他の文化系サークルとか、高校演劇とか、色んな方向に回路を伸ばしていければ良いよね。

まろん:学生演劇祭は、他の大学では、他の地域では、他の国では、他の世代から見たら……という具合に、学生劇団を外に外に開いていったと思うんです。だから日本の小劇場演劇の狭い業界を再生産するというより、外に出ていくためのきっかけに学生演劇祭がなればいいなと願ってます。


反骨精神で行く!

まろん:あらためて、ここはひとつ未来の抱負などいただけますか。

沢:まさに回路を増やしていく、ということかな。例えば、全国で評価を受けた団体を他の何かしらにつなげる仕組みをもっと作りたいし、アジア学生演劇祭、世界学生演劇祭のプラットフォームを作って若いうちから全く違う文化圏の人と強烈な出会いをして欲しい。上の世代の人ともフェスを開きたいと思ってます。

まろん:今までの大賞を取った劇団が総出演する超学生演劇祭とか…(笑)。

沢:2年後が全国の第10回だから、今まで参加した劇団をみんな呼んで、成長した姿を見せてくれ!みたいなことをやれたら楽しいだろうな(笑)。

まろん:今後は資金面をクリアしつつ新しい試みに着手して、多様なつながりの回路も作っていくと。

沢:でもお金のことはね、正直、自分から行ってないだけかもしれなくて。なんだろうな、反骨精神があったりするんだよ。

まろん: 反骨精神!

沢:助けられてたまるか!みたいなところ。例えば平田オリザさんには頼らないぞみたいな気持ちがあったりはする。どこかで。自分の力でやりたい。そういうのも大事だと思うんだけど、アーツカウンシルや文化庁、他にも可能性のあるところには積極的に相談していくべきなのかもしれない。

まろん:平田オリザさんという人に頼らないというか、何かしらの権威・権力に乗っからないということですよね。実際、この12年、やってこれたのも反骨精神の賜物だったり…?

沢:めっちゃあると思います。でもそれのせいで赤字が増えることもある。例えばコロナ禍で劇場が使えなくなったときは、「じゃあ、自分の場所を作ってやってやるよ」みたいな気持ちで、野外の学生演劇祭を開いた(笑)。

まろん:演劇祭をコロナ禍でもやめなかった事実はしっかり歴史に刻まれて欲しいですね。コロナ禍の演劇人が劇場の自由について十分な思考や議論を展開できたかというと、かなりあやしいと私は思っていて。「わたしたちはやる」という反骨精神は貴重ですよ。

沢:だから全地域でやりました。全国も止めなかった。オンラインになったところはもちろんあるけど、それでもやった。

まろん:すごい。

沢:それはね、乗り越えた。でもそのときの赤字の傷が今に響いてます。とてもまずい…(笑)。

まろん:ではそろそろ締めの言葉をいただけますか。

沢:最初に持っていた反骨心、若い世代でやっていくんだという気持ちは忘れないようにしながら、相談することは相談して、学生演劇祭の価値をちゃんと認めてもらえるように頑張りたいと思います。まろんは10年前にもインタビューしてくれて、そこで10年後の未来の話をしたんだよね。その未来がいまやってきて、色々とピンチだけど続いてはいるので、どうせなら次の10年はさらにスケールアップしていきたいです。

※2023年3月にインタビューを実施した記事です。


編集・インタビュー:渋革まろん

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