O(オー)①
私は、一国の王である。
生まれたときから、その定めであった。
私の父は小国を戦争で拡大し、この地に大帝国を建設したのだ。
子供の頃から2代目として英才教育を受け、やがて父が死ぬと、私は王の位を引き継いだ。
正直、別にやりたくない。つまんない。
そうは言うが、これは運命である。代わりもいないし、私がやるしかないと思って日々を過ごしている。
みんなで統治する人を選べばいいのに、、、。きっとその方が国民の理解を得る政治ができるし、民の声を反映できるよ。まぁ、そんなこといってもしょうがないんだけどね。
私には息子もいない。妻はいるが、子はできなかった。
養子を取ったが、私はその子とはあまりふれあっていない。別にいいけど、でも少し責任は感じている。いや、責任を感じているのは妻の方だろうか。多分。
毎日、特にすることもないのだ。
たまの儀礼に出たり、軽く演説したり、地方にお出かけしたりするが、あまり面白くない。
周りの敵はほとんどすべて父が滅ぼしてしまった。
彼が建設したこの都市と法はまさに立派でよくできたもので、国の統治に困ることはない。
すべては官僚がやってくれるし、かといって官僚らが権力を持つようにもできていない。すばらしいな、まったく。
そんなこんなで、私はまったく甲斐のない王様生活を過ごしている。
うん?だれかきた。どうぞ~。
夕食の準備ができたってさ、食べてくるね。
☆☆☆
ごちそうさま。
あぁ~。暇だなぁ。
一日あんまり動かないからそんなに眠くもないし。
聞くところによると、中国の清王朝の皇帝たちや、古代ローマの皇帝などは、勉学や仕事に励んでいたらしい。
でも、思うんだよね。私が何もしないでも国が回るならそれでいいじゃんって。むしろトップ一人の能力に頼りすぎる状態こそ、国家が危ういよね。
一人でいるとこんなことばっかずっと考えちゃうなぁ。
そうだ、お散歩に行こう。一人で、抜け出してみよう。
☆☆☆
出てきちゃった。夜なのに。暗いなぁ。
ていうか、この城外から引きで見ると結構でかいんだな。かっこいいし。
ずっと塀の中にいると、息が詰まるね。外に出るの大事。
久しぶりに、町に出てみよう。民の日常を観察するのも仕事のうちだよね。
でも、一人で外出なんてさせてくれないからさ、立場上。
だれもいないな。もう夜だし、そりゃそうか。夜は結構静かなんだ。
あ、あそこ。お店かな?明かりがついてるし、声も聞こえる。
(がらがらがら)
入れます?
「あい、お一人?」
あ、一人です。
「カウンターどうぞ!飲み物どうします?」
あ、どうも。えっと、、お茶でいいです。
「お茶ね!メニューこちら。」
あ、ありがとうございます。
民としゃべることあんまりないから、慣れないな。
それに、ばれてないし。全然隠していないのに。なんでだろ。
食べてきちゃったんだよな、、、どうしよ。
じゃ、、煮込みください。
「はい、煮込みね。こちら、お茶と突き出し。」
あ、突き出しひじきだ。好きなんだよねひじき。わかってるなぁ。
さて、次何頼もうかな。(続く)
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