鬼と認知症のきまぐれラプソディー

昔昔、あるところに、くだらない人生を謳歌し、あとはお迎えが来るのを待っているだけのおじいさんとおばあさんが生息していました。
いつも2人は「ざこば師匠」と、口癖のように言っており、半ば認知症一歩手前でした。
おじいさんは山へ行ったり来たり、おばあさんは川へ行ったり来たりとほぼ認知症全開のような感じでした。
たまに帰り道がわからずその辺で過ごす時もありました。
そんなある日、おばあさんが川へ行き、何をしたらいいのか忘れて帰ろうとした時、川の上流のほうから大きな大きな桃が流れてきました。
どんぶらこ、どんぶらこと大きな桃はおばあさんの前で止まりました。
おばあさんはびっくりし、大きな声で、
「ざ、ざこば師匠!!」
と言いました。
しかし、ハッ!!と我に返ったのか、その桃をまるでサッカーのゴールキック並みに遠くへ蹴りながら家まで帰りました。
家に帰るとおじいさんが雑草を抜いたり、また土に戻したりと認知症がかなりの速度で進んでいることがわかりました。
しかしおばあさんは気にせずその大きな桃を、かかと落としで割ろうとしてました。
そのおばあさんのことを見たおじいさんが大きな声で、
「わ、ワレ!そのかかと落とし痛そうやのう」
と、完全に桃のことよりおばあさんのかかと落としのほうを気にしていました。
おばあさんが連続かかと落としを数回した時、
パカっ!!
と桃が真っ二つに割れ、中からさっきの桃よりちょっと小さめの桃が出てきました。
おばあさんは、
「桃からまた桃が出てきた!」
と、目の前で起きたことをただ言ってました。
おじいさんが、
「桃から第2の桃が出てきた!」
と、おばあさんの言ったことを少し言い回しを変えただけのことを口ずさみました。
おばあさんはかかと落としを何回もしたので体力がだいぶなくなっていたので、家から刃渡り80センチくらいの包丁を持ってきて、それでその桃の上に切れ目を入れて、そこに渾身の力を込めて再びかかと落としを一発かましました。
すると、桃がパカっ!!
っと割れ中から可愛らしい鬼が出てきました。
「オギャー、オギャー、」
と泣く鬼を見ておばあさんは、
「よしよし、可愛らしい鬼だこと。おじいさん!!見て!可愛らしい鬼よ!!」
おじいさんはさっき掘った土を近くの木に思い切り投げつけていたところでした。しかし、おばあさんの声に気づいたのか、おばあさんのほうを振り返り、
「オギャー!オギャー!」
と言いました。おばあさんは、これはもうダメだ、と思い、おじいさんをほっといて鬼をおぶって、垂れた乳を吸わせるために家に入りました。
それからおばあさんは毎日毎日その鬼にミルクをあげて育てていました。
その間おじいさんは行方不明になっていましたが、おばあさんは全く気にせず鬼を育てました。

何ヶ月か経ち、鬼は人間より早く大きくなり、一年が経つ頃には身体が綺麗な青になり、角も30センチくらいまで伸び、背も180センチを軽く超えるくらいまでに伸びました。
ある日、鬼はおばあさんにこう言いました。
「僕、鬼だからこれからは一緒には暮らせない。今まで育ててくれてありがとう。これからはどっかの島でひっそり暮らすよ。」
おばあさんもその頃にはだいぶ認知症が進み、
「あんた誰??」
鬼はすこぶる角を光らせましたが相手がおばあさんなので穏便に事を済ませました。

そして鬼はそのまま島に向かい、先住民の鬼と出会い、ガチの恋愛をして幸せに暮らそうとしたとさ。

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