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カミングアウトしていない私が身内の葬儀に参列してきた

先日、母方の祖母が永眠しました。危篤の報せを受けて病院に駆けつけ、告別式を終えるまでの1週間。原家族をはじめ親族の誰にもセクシュアリティをカミングアウトしていない私にとっては、まさに息の詰まる1週間でした。今回の記事は「高齢の身内を抱える、男性として生まれたトランスジェンダーで、未カム又は親族から反対されている者」というかなりピンポイントな対象に向けたものですが、お付き合い頂けますと幸いです。


危篤の報

それを知ったのは日曜日。自分の予定で外出しようと思った矢先のことでした。実父より『病院に来てください』と連絡があり、その日の予定を断念し慌ててメイクを落として駆けつけることに。当時の私の髪はカットの直前で、首を半分以上は覆う長さまで伸びていました。昨年末の帰省の折にも同程度の長さでしたが、実母からは頻りに切るようにと言われていました。それから実家には寄り付かなくなり、今年初の顔合わせに。絶対に外見を指摘されると思い、髪をジェルでオールバックにして私服も手持ちで一番ユニセックスなものを選びました。
ところが、病院で会った実母の第一声は『あんたどうしちゃったのぉ…?女の子みたいな格好して…LGBTとか、トランスジェンダーなんじゃないの!?』というもの。それに実父も『こいつ、絶対髪垂らして女装してるよ。本当に普段からオールバックなのか?源氏名は何だ?』と便乗。祖母の命の瀬戸際にも関わらず、最悪の再会でした。私はあくまで自分のファッションスタイルであると主張し、最近流行の「ジェンダーレス男子」だと反論。すると、『ジェンダーぁぁ!?』と顔をしかめ大罪人を見るような目。もしも私がLGBTQだとしたら『大問題だよ!!』と実母。こちらはセクシュアリティに関する言及をこれまで原家族には避けてきた。実母にLGBTQの知人やそうしたネットワークがあるとは思えない。しかしこうした言葉は知っており、怖いくらいに鼻がきくのだ。
「それより」と祖母の容体に話を移すことでその場は逃れたものの、カミングアウトどころかその前に向こうからバレるという最悪の事態になるところでした。容体について連絡待ちということで、この日は解散。

訃報

逝去の報せを受けたのは、木曜日の早朝でした。今後のことは決まり次第連絡するとの実父のお言葉に甘え、職場に連絡ののち待機。駆けつけたかったのは山々ですが、今の外見で実家に泊まるなんて自分が耐えられないと確信があったので断念。苦渋の決断です、わかりますね?葬儀まで原家族とは顔を合わせないことに成功しましたが、その間もメールによる「口撃」は止むことはありませんでした…。

実父からは『当然、葬儀には参列してくれると思うが、社会人として、また、婆ちゃんの孫として恥ずかしくない姿で最後のお見送りするように願います。一人前の社会人である男子に余計なことをと思いつつ先日の姿を思い起こすと、敢えて一言わせてもらいました。』、実母からは『葬儀の際、お願いだから前の様な○○君で参列して欲しいです。ヘアと眉毛を、、、なんとか宜しくお願い致します。』と。

正直このせいで、葬儀が終わるまで心身共に非常にしんどかったです。「私が髪を切りさえすれば…」と何度思ったことでしょう。そもそもカットの予定自体は納棺の前日に入れていましたが、日程が出る前だったので逝去の日に急遽予約を変更し美容室で相談。普段よりやや短めにしつつも結べる長さはキープ。その後も当日まで圧力に屈しそうになりながらも、支えてくださる皆様のおかげで何とかそれ以上切って昔のような男の短髪にすること無く、葬儀当日を迎えられました。その節は本当にありがとうございました。

納棺〜告別式 

いよいよ本番。納棺は日曜日、告別式は月曜日と2日間。通勤時に似たスーツスタイルに、髪はジェルとスプレーを使ったオールバックで臨みました。眉をちゃんと描けだのそのオールバックはいつも後ろをピンで留めているのかだの、実母からちまちまとねちっこい口撃はありましたが、基本的には故人を偲び死を悲しんで他のことに気を回す余裕が無かったというのが実感。セクシュアリティの話にも幸いならず、火葬まで恙なく終了しました。

今後のこと

無事に祖母を見送りホッとした私。ただし、今回はそう遠くない未来に起こり得ることを先延ばしにしたに過ぎません。原家族へのカミングアウト、冠婚葬祭の服装、今後より外見が変化していった場合の対処、葬儀手配の諸々…。これらの問題はまた考えることになります。その頃には、原家族が「普通」の生き方に囚われること無く「私個人」を見てくれるようになっていると良いのですが、なかなか難しいもので。男性として生まれると、性別に典型的でない見た目への風当たりは女性のそれより遥かに強いからなぁ…。


以上が、私が今回の葬儀で体験した一部始終になります。カミングアウトをしておらず、LGBTQ…というか、「普通」「伝統的」なレールとは異なるSOGIや生き方に偏見のある身内を持つと、親族の送り出しすら純粋な気持ちではできないというお話でした。私は隣県在住なので顔を出さざるを得ませんでしたが、場合によっては理由を付けて参列しないことも選択肢に挙がるかも知れませんね。

もしよろしければ、ご無理の無い範囲でお願い致しますm(__)m