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JUMP j BOOKSオリジナル作品紹介①『地下芸人』

初回はおぎぬまX「地下芸人」

…いきなりJブックス作品ではありませんが、こちらの作品はジャンプ小説新人賞受賞作なのです!! そして、この作品を紹介しないわけにはいかない!!


2021年現在、世の中は何度目かのお笑いブームを迎えていると言えます。時間帯問わず多くのお笑い番組がある中で、「第7世代」と言われる多様な若手芸人が台頭し、お茶の間で見ない日はないほどの人気を獲得し、お笑いコンテストのM-1グランプリやR-1グランプリ、THE Wなどがテレビで放映され、そしてその結果が大きく話題になる。
その一方で、2020年M-1チャンピオンとなったマヂカルラブリーをはじめ、ファイナリストの錦鯉、敗者復活戦に残ったキュウ、ランジャタイ…これまでテレビではあまり見ることの出来なかった芸人たちにもスポットが当たるようになりました。
彼らこそ、地下芸人と言われる、華やかな芸能界とは全く違うお笑いの世界に活きる者たちだったのです。
この地下芸人までもが、SNSや動画配信サイトなどの影響によって注目を浴びるようになったことが実感できる今、改めて昨年出版された「地下芸人」について、担当編集者に伺ってみました。
すると担当編集の方からは、「何より、"小説として如何に面白いのか"ということを知ってほしい。作者のおぎぬまX先生は多方面で活躍されている方なので、普段から小説を読む人や、お笑いファン、漫画のファンなど、多くの人に小説として面白い、ということが伝わってほしい」という、お笑い好きだけではなく、もっと幅広い層に届いてほしいという想いを聞くことができました。

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地下芸人書影帯あり

「面白い」の答えを求めて

『地下芸人』は解散寸前のお笑いコンビ”お騒がせグラビティー”の最後の一か月を描いた物語ですが、同時に、そのメンバーである主人公のオダが「何が本当に面白いのか」を模索する話でもあります。言い換えると、一方でコンビの活動が終わりへと向かっていき、他方でオダの笑いは最後まで進化していくという二点を軸にして物語が進んでいきます。そのため、作中ではお騒がせグラビティーをはじめとして何組もの地下芸人の苦しい生活が描かれますが、そんな中にも、思わず笑ってしまうような場面が多く存在します。一例をあげると、オダの先輩に才造さんという引退を決めた芸人がいます。オダは別の先輩とともに、才造さんがこれまでに作ってきた小道具の処分を手伝うことになります。いわば思い出を壊すという辛い作業。ところが、三人はそれらを使ってモノボケを始めてしまうのです。本当は悲しいはずなのに、それでも面白いことをやろうとする。こうした哀愁と笑いのバランスが本作の魅力のひとつです。
才造さん以外にもオダをとりまく芸人は多種多様。彼に憧れる後輩や、ひたすらバイトに励む先輩、事務所を移籍して売れていく同期など、一人ひとりと向き合うことで、否応なしにオダは自分自身についても考えることになります。芸人の数だけ人生がある。この作品のタイトルは「地下芸人」ですが、登場する地下芸人の誰に視点を置くかで、色々な読み方ができると思います。
そして、こうした面々との交流を経て、自分でも散々思い悩んだ果てに、オダが出す回答は何か。そのとき、相方・広瀬はどうするのか。クライマックスにいたるまでの物語の構成力、文章の熱量には唸るものがあります。ぜひ見届けてほしいです。

ネタを書きまくっている

『地下芸人』はフィクションですが、作中のエピソードにはおぎぬま先生の実体験が反映されている部分も多いそうです。バラエティ番組の罰ゲームを実際に受けてみて安全性を確認するといった仕事やアルバイト事情など、テレビや劇場からは見えてこない芸人の姿がリアリティをもって描かれています。
また、作中ではピンやコンビ、漫才にコントと様々な芸人の様々なネタが披露されます。芸人時代よりもネタを考えたと先生も仰っていましたが、たしかにこれだけ多くのネタを読むことができる小説は珍しいのではないでしょうか。お笑いファンの方にもおすすめしたいです。

憧れの芸人との対談も

巻末にはおぎぬま先生とカズレーザーさんの対談が収録されています。カズさんは、おぎぬま先生曰く、自分と同時期に地下芸人だったなかで売れていくところを近くで見ていた人。つまり憧れの存在です。地下芸人と売れっ子の芸人。その両方を知るカズさんは本作をどう読んだのか。さらに今のお笑い賞レース事情や、売れない辛さと芸人の楽しさとの葛藤についてなど、話題は多岐にわたり読み応え抜群の対談になっています。

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小説「地下芸人」は集英社文庫より発売中です(電子版も発売中)。

JBOOKSのnoteでは、おぎぬまX先生のインタビューや短編小説も公開中です。
・【投稿者必読!ジャンプ小説新人賞】2019年度受賞者おぎぬまX先生インタビュー
・【「地下芸人」とはどのような存在なのか?】おぎぬまX先生インタビュー
・【短編】『地下芸人 ~バーニング岩田単独ライブ編~』おぎぬまX