幽霊たちの子育て記録!? 『グッド・オーメンズ』の作者が描く暖かな墓場物語。ニール・ゲイマン『墓場の少年 ノーボディ・オーエンズの奇妙な生活』

(この記事は、2019年3月2日にブログ「ミニキャッパー周平の百物語」に掲載した内容を再構成し転載したものです)

テレビドラマ『グッド・オーメンズ』が2019年5月31日からAmazonビデオで配信され、話題を呼んでいます。原作者の一人、ニール・ゲイマンは、英米で絶大な人気を誇る英国人ファンタジー作家。過去に、ノーベル文学賞休止時の代替として開催されたニュー・アカデミー文学賞の候補になったことも。そして、ニューベリー賞・カーネギー賞という、アメリカとイギリスそれぞれの図書館協会が優れた児童文学に与える賞を、史上初めて一つの作品で受賞した人でもありますが、今からご紹介するのがその作品。

今回の一冊は、ニール・ゲイマン『墓場の少年 ノーボディ・オーエンズの奇妙な生活』。

とある家族の平穏は、一夜にして破られた。家に侵入してきた何者かの手で、両親と娘が惨殺されたのだ。だがたったひとり、生まれたばかりの赤ん坊は難を逃れた。偶然から夜の墓地に辿り着いた赤ん坊を助けたのは、そこに住む住人……幽霊たちだった。幼い命が未だ殺人者に狙われていることを知った幽霊たちは、赤ん坊を匿い、自身らの手で育てることを決める。ノーボディ(誰でもない)と名付けられた彼は、すくすくと成長していく。

という訳で、本作品は心優しい幽霊たちを描くジェントル・ゴースト・ストーリー。であると同時に、『ジャングル・ブック』(狼に育てられた少年の物語を含む連作)を下敷きにした、幽霊たちに育てられた少年の成長物語です。

墓をテーマにしたホラー・ファンタジー作品は「炎天」「墓を愛した少年」「墓読み」など様々ありますが、これだけ賑やかな墓場が描かれたことはあまりないでしょう。先史時代からの死者が眠っている墓地だけあって、二千年前のローマ人とか、魔女狩りで殺された少女とか、十八世紀の詩人とか、十九世紀の政治家とか、そういう生まれた時代も立場もバラバラな幽霊たちが暮らしています。ボッド(ノーボディの愛称)の親を引き受ける夫婦の霊も、恐らく十九世紀生まれで、現代人とのジェネレーションギャップがあったりします。

彼らキャラの立った幽霊や、人ならざる種族から、墓碑銘を用いて綴りを教わったり、霊的な技術(人間に見えない姿になる、物をすり抜ける、他人の夢の中に入り込む、などなど)を授けられたりして、ボッドは決して孤独ではない子供時代を送ります。そして、食屍鬼(グール)に襲われたり、先史時代の墓で主人の帰りを待つ怪異に出くわしたり、様々な冒険を繰り広げて成長していくボッド。しかし同時に、彼の家族を殺害した正体不明の犯人“ジャック”は、今でも殺し損ねた赤ん坊の行方を追っていて、やがてボッドの身を脅かすことになり――。

積み重ねられる小さなエピソードのそれぞれに、最良のジュブナイルのもつ輝きがあります(個人的な一推しエピソードは、墓を作られなかった少女の霊に、墓を用意してあげようとするボーイミーツガール話)。しかし年を重ねるにつれ(描かれるのは十代半ばくらいまで)、普通の人間ではないけれど幽霊でもないボッドは、すれ違いや苦い別れも経験することになっていきます。やがて訪れるのは暖かく、涙を誘うラスト。優しいホラー、暖かく軽快なファンタジーをお求めの方は、必読の名品です。本書が気に入った方はぜひ本日発売の短篇集『壊れやすいもの』も手に取ってみて下さい。


(CM)ジェントル・ゴースト・ストーリーももちろんホラー。第5回ジャンプホラー小説大賞の〆切は6月30日です。

第4回の受賞作にして、ポップで切ないゾンビ青春ドラマ『マーチング・ウィズ・ゾンビーズ』も宜しくお願いいたします!