図版93枚。ホームルーム前の教室で起きた殺人を驚愕の形式で追う、綾辻行人激賞の学園ホラー。両角長彦『ラガド 煉獄の教室』


(この記事は、2015年1月6日にブログ『ミニキャッパー周平の百物語』に掲載した内容を、再構成のうえ転載したものです)

 こんばんは、ミニキャッパー周平です。いきなりですが、まずはこの図をご覧ください。

 
 40人の生徒がそれぞれの座席に座っているらしい教室。スペードが男子、ハートが女子を示しています。そこに、教室後方から入り込んだ「犯」の不穏な文字。……これは、ホームルーム前の中学校の教室に、部外者が入り込んで女子生徒を惨殺した、という痛ましい事件の、その現場検証のために作られた図なのです。

 普通の小説は、その物語にのめり込んでいる読者や、その作品を読み終えた読者の心を動かすものです。けれど、世の中には、書店でパラパラめくっているだけで「?!」と驚かされ、慌ててレジまで運ばされてしまう、そういう「普通ではない」特徴を持った本もあるのです。

 たとえば、文庫で400ページくらいの物語の中に、前掲したような「図」が100枚近く収められている、とか。

 という訳で、今回ご紹介するのは「学園ホラー」というよりも「教室ホラー」とでも呼ぶべき異色作、両角長彦『ラガド 煉獄の教室』です。


 高校の教室に刃物を持った男が侵入し、一人の女子生徒が刺殺された。犯人逮捕ののち、警察やマスコミによって、犯行当時の状況を再現する実験が行われる。
 ところが、犯人も被害者も動機も分かっているはずなのに、犯人の供述も、生き延びた生徒たちの証言も、なぜか曖昧だったり互いに矛盾していたりしていて、信頼が置けない。惨劇の瞬間、その教室で何が起きたのか?
 手がかりや新証言のたびに、『再現』される状況は二転三転する。真相究明は混迷を極め、警察やマスコミが右往左往させられる中、過去に起こった悲劇や、教室内の闇が暴き出されていく……。

 膨大な量の図は、いずれも凶行が行われた際の教室での生徒・犯人の動きを示した見取り図。様々な推理・推測によって目まぐるしく変わっていく、「犯行当時の教室内で何が起こっていたか」の仮説を読者に提示する役割を果たしています。

 この図に加えて、生徒たち、教師、保護者、警察、マスコミなど次々に焦点を変えていくプロット、時折挟まれるインタビューや尋問形式での語りも相まって、迷宮に誘われるような読書体験を味わえるはずです。

 そういった特殊形式を積み上げて、辿り着くその「瞬間」――物語の終盤近くで示される、凶行時の教室の異様な「光景」には、戦慄を禁じえません。この一瞬を作り出すために「図」が置かれ続けてきたのだということも読者は悟ります。実はミステリの新人賞を受賞した作品なのですが、超常的な部分もあり、審査員である綾辻行人も「SFやホラーの志向性を」見抜き、更に名作ホラー『六番目の小夜子』の体育館シーンにも似た戦慄を感じ取って推したとのこと。私自身も、恐るべき「決定的な一瞬」めがけて構成された、異形のホラーとして取り上げさせてもらいました。

(CM)学園ホラーも多数受賞。「ジャンプホラー小説大賞」原稿募集中。第5回〆切は6月30日! 第4回金賞受賞作にして、ゾンビ化大学生のタイムリミット付きモラトリアムノベル『マーチング・ウィズ・ゾンビーズ』は6月19日発売!