続かないお話 キムチ11

少しして赤黒いおじさんたちがそれぞれの我が家へ、さくらちゃんと学友たちが高井家に引き揚げてからは、久林は尚子さんと一緒にこれ以上お酒はいらない者同士、テントの下に避難してしゃべっていた。

最初は安保さんが教えてくれなかった尚子さんへのプロポーズの言葉などを久林がニヤニヤしながら聞いていたが、いつの間にか聞き手と語り手が逆転していき、久林の過去の駄恋をいろいろとうまく聞き出されてしまった。しかも聞き手の顔は全く楽しそうではない。どこかイライラしている。
そして、とりあえず頭で考え過ぎ。あかんで。
とのお言葉を頂戴した。そこからはさくらちゃんの事を集中して聞かれて、それにつらつらと答えていたら、めちゃくちゃ怒られはじめた。

やから頭でっかちやめ!
さくらちゃんも同じタイプやねんから久ちゃんが押して押すしかないよ。仕事とか収入とか常識とか気にしてたらもったいないねん!きゃぁりぃわ。

そらたまたま就職先が大阪とかやったら僕もスイッチ入りますけど

関っ係っない!

本人も遠距離無理って言ってましたし、僕も昔いろいろあっ

不安なだけで100パーちゃうやん!
もう最後まで言わせてもくれない。

そこは久ちゃんが熱いもんぶつけたらええねんやろ。

いや、別にさくらちゃんの事はそういう、

ほんま都会の男はじめじめしとんなあ!
連絡先聞いてんからもう今ここに呼び出しいや

いや友だちといますからそれは

一瞬で済むやん。

だから好きまではいってないですから

そんなんやってもうたら後からすぐついてくるやん!

さくらちゃんそんなん嫌いですって。

きゃぁりぃな!
あとはあんたが押しまくれるかだけやで!今日はええからとりあえず大阪帰ったら飲みに誘いよ!

それは、はい。

ったくきゃぁりぃわ。

久林は尚子さんのその見た目の柔らかい雰囲気と、内側の男勝りな性格とのギャップに圧倒されて、アルトゥーベくらい小さくなってしまった。

安保さんがそろそろ帰ろか、とテントに来た時にはもう2時を回っていたし、尚子さんの叱咤激励も二周していた。
全員ヘトヘトで安保さんの家に着いてそのまま倒れこむように眠った。

朝起きてお風呂をいただいてリビングへ顔を出すと、おはよう!昨日ごめんね。
と尚子さんが謝ってきた。

全然です、勇気付けられました。

それなら良いんやけど。

一緒に朝食をいただきながら、昨日とは別人のような尚子さんに驚いた。今朝はただの明るくて言葉遣いの綺麗な気の利く美人なお姉さんなのだ。

安保さんに話を聞くと、実は昨日の尚子さんはベロベロで、しかも手のつけられない酒乱とのことだった。久林は顔色ひとつ変わっていなかったのと、初めてお話ししたので全く気づかなかった。
安保さんのお母さんの前だからと言うわけではなく、本当にお酒で人が変わるので地元でも有名な人らしく、安保さんと出会ってそのまま熱い夜を過ごした日も全く記憶にないのと笑っていた。

これもその朝に知ったのだが、尚子さんが何度か言っていた「きゃぁりぃ」とは、まじでうっとおしい、しばきたい、という意味だった。あの時に認識していなくて良かったと久林は思った。

汚い言い方やったかもしれんけど思っとる事はほんまやからね。応援しとるよ!

ありがとうございます。

アクアを暖気して、みんなに挨拶して家を出た。
昨日とは違い、尚子さんに素直に感謝しながら、安保さんは素敵な人を見つけて羨ましいなと久林は思った。宝塚でいつもの渋滞に捕まるまで、久林はぼーっと結婚について考えたりしていた。

大阪に帰ってきたのと同じ週にさくらちゃんとかほちゃんがお笑いのライブを見に来てくれた。

この日だけは絶対に滑りたくないので、久林は相方の長峰に無理を言って、試そうと思っている新しいネタから当時1番自信のあった昔話のネタに変更してもらった。チケットを買って観に来てくれた方には申し訳なかったといまだに思いだしては後悔しているのでどうか許してほしい。

そこそこ会場が沸いてくれたので、ライブが終わってから意気揚々と劇場の前のさくらちゃんに会いに行った。
さくらちゃんも、
お笑いライブ楽しかったし、舞台上だと別人みたいでかっこよかった!
とまんまと喜んでくれていた。

かほちゃんがこの後彼氏とご飯に行くといういうので、さくらちゃんを飲みに誘ったら、快いいきましょうが返ってきた。
嬉しくてにやけてしまったのがバレないように笑顔を逃した時に、きむらバンドと目があってしまい恥ずかしくなった。
下戸の久林にお洒落な飲み屋の知識など無かったので、そのままきむらに聞こうかなと思ったが、
最近めっちゃ鳥貴にハマってるんです。
と言ってくれたので助かった。

最寄りの鳥貴族までのほんの3分ほどとはいえ、人の多い道をさくらちゃんの隣を歩いていられて少し鼻が高かった。

忙しい時間だったのでテーブル席が開くのを待つか一瞬迷ったが、面と向かうより横向きの方が話しやすいというエゴを引っ張り出し、すぐに入店できるしええかな?
とさくらちゃんにうそぶいてオッケーをもらい、カウンター席に通してもらった。

とりあえず杏露酒のソーダ割りで良い?

なんだそれ 笑
良くないよ 笑

さくらちゃんはツッコミがうまくてよう笑ってくれるからボケたくなるなあ。

おおー、プロに言われた。嬉しい。へへ。

まじで笑顔がかわいいなと思うと同時に、久林は自分が緊張していない事に気づいた。
尚子さんにはきゃぁりぃと言われそうだが、
楽しく喋って次の遊ぶ約束をするという今夜の最大目標は、2人でミックスジュースを頼む頃にはスムーズに達成できそうだなと久林は思った。

つづく。

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