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ぼくはインタビューしながら泣きそうになったことが一度ある。ひまわりの約束と幕張の海岸。

2年くらい前の秋。ぼくはとある番組の取材、街行く人にインタビューをしていました。「あなたにとって泣ける歌はなんですか?」。かなりプライベートな内容を聞き出すヘビーな取材。老若男女、いろんな方から、泣ける歌とその歌にまつわる思い出を語っていただき、その姿を撮影していました。撮影の最終日のこと。ぼくはカメラを持って幕張の海岸に出かけることにしました。泣ける歌という、ある意味下世話な、ある意味壮大なテーマを扱うにあたって、あまり人がいない場所の方が、深い話が聞けるかもしれないと思ったのです。その日はすっかり晴れていて心地の良い風が吹いていました。西向きの海岸はとても広く、体が軽くなるようでした。海岸線を犬と散歩をしてる人が見えました。波の音と、遠くから女子高生が遊んでる声が聞こえました。目線の100メートル先くらいに大きな平べったい石に座っている40代くらいの夫婦と思われる二人が目に留まりました。二人からはとても明るい雰囲気が感じられて、ぼくは話しかけることにしました。「こんにちは、今歌番組の特集でいろんな方に泣ける歌とそのエピソード聞いてるんですけど、少しお時間いただけませんか?」男性から「いいですよ」とお返事いただきました。「突然なんですけど、泣ける歌と聞いて思い浮かぶものはありますか?」

通常ここで、うーんとなる方が多いのですがその方は、にこやかに「ありますね。」とお答えいただきました。その方は続けました。「なんだっけ、ドラえもんの曲」隣の女性に穏やかな口調で尋ね、女性は「ひまわりの約束?」「そうそう秦基博、ひまわりの約束。」

「どうしてですか?」

「まあ色々ありまして」

お話を聞くと二人は夫婦で、ご主人は癌の治療中とのこと。昨日まで抗がん剤の副作用でぐったりしていたが、今日は体の調子も天候も良かったので、海を見ながらマクドナルドのハンバーガーでも食うか、と二人で出かけてきたとのこと。

ぼくはその時「ひまわりの約束」についてぼんやりしか知りませんでした。のび太とドラえもんの友情の歌だっけ?くらいの認識。

その場で僕は「ひまわりの約束」の歌詞をスマホで調べました。こんな歌い出しです。

どうして君が泣くの まだぼくも泣いていないのに

歌詞を読みながら反射的に鼻がツンとしました。

目の前にいるこの男性が癌を家族に打ち明けるシーンと重なるのです。

歌詞の続きはこんな感じ。

自分より悲しむから  つらいのがどっちかわからなくなるよ

ぼくは、自分自身が癌になって家族に告白する心境を想像したことがないと、その時気づきました。

秦基博の「ひまわりの約束」。この曲は多分そもそもが、『STAND BY ME ドラえもん』のタイアップとして、ストーリーに宛て書きしてあるのだと思います。でも、その歌詞が全く別の状況の人の人生に重なってしまう。

普遍的なポップソングというのは、そういうものなのだなと改めて、思いました。

その方のインタビューを撮影した後ぼくは、100メートルくらい離れた場所でぼけっとしてました。

一時間後くらいでしょうか、二人は立ち上がり、遠くにいるぼくに対して大きな動きで、手を振って去って行きました。

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