Cashmere Catがアルバムを出すこと Vol.2(男性ヴォーカル編)


Vol.1 の末尾で挙げたArcaとKanye West、Kanye WestとCashmere Catの関係性は、2015〜2016年と続く音楽トレンドの変遷を見事に説明している。決してArcaが勢いを失ったわけではないし、Cashmere Catがトレンドセッターとなったわけでもない。現にArcaはFrank Oceanの『Blonde』、ではなくその前日にリリースされたビジュアルアルバム『Endless』にて多大なる成果を残している(Cashmereではなくビートレスで内省を映し出すArcaを選んだこと、ビートはあるがハネモノではなく空間的なサウンドテクスチャーをモチーフとするJames Blakeが選ばれていることが、何よりの結果である)。

Arcaがプログラミングを務めたFrank Ocean「Mine」(『Endless』より)

さて、Vol.2ではVol.1の延長線上で語るのはもちろん、性別を反転させた点から考察してみたい。副題通り、まずは男性ヴォーカルとの化学反応を見ていこう。

あれだけ歌姫たちとの相性の良さを述べた後の言うのもなんだが、Cashmere Catと最も相性が良いのは男性ヴォーカルの方である。特にファルセットを特徴として、ウィスパーな声色の持つ主。ソウルやR&Bを基盤にするシンガーなどを想像しもらえば分りやすいかもしれない。

Cashmere Catと男性ヴォーカル。その代表的な仕事が去年Miguelと共に作り上げた「...goingtohell」だ。

上のMVを再生してみればわかる通り、まずベースとするサウンドが生音であり、Cashmereの姿が全く見て取れない。このトラックが収録された彼の3rdアルバム『Wildheart』(2015)は同じ年にリリースされたKendrick LamarTo Pimp A Butterfly』同様、ほぼ全ての曲が生音の質感にこだわってレコーディングされている。メキシカンとアフリカンの血を持つMiguelもBlack lives matterの流れに乗るように、改めて自身のルーツを振り返ったのだろう。そこにUsherやBeyonceなどを支えるソングライターとしての前歴も踏まえ、2015年のトレンドをアルバム全体の起伏と絡めて引用したとしたら、彼がCashmereに声をかけた理由も見えてくる。

しかし、何もMiguelが人気者という理由だけで彼を起用したわけではない。明確なビジョンと相性を思考した上で、彼をプロデューサーとして招いている。それはさらに1年前の2014年、米R&BにおけるヒットチューンとなったKid InkBody Language (featuring Tinashe and Usher」(2014)をCashmereがプロデュースしていたからだろう。R&Bのアーバンでセクシャルなムードがどこから聴いても漂ってきて(まぁこの3人が絡んだら嫌が応にもエロくなるが)、甘ったるい世界に思わず胸焼けしてしまいそうだ。

人脈を通した音楽的シナプスを巡って見出した人選においても(Tinasheとは直接、UsherとはStargateを介して繋がる)間違いなく、Miguelが彼を起用するに至った基準の1つであるに違いない。

改めておさらいしたいのが、彼がメロウなR&Bやバウンシーなヒップホップトラックを好み、それをクラブでプレイしてきた”DJ”であるということ。必然的にジャンルやアーティストに対してマニアックになるし、BPMにおけるリスナーのリアクションもダイレクトに見てきたはず。経験に裏打ちされた実力は実績につながり、実績は人を集め、また経験を生む。彼のトラックメイカー/プロデューサー業において、"DJ"という出自は何者にも代えがたい唯一無二の原点でもあると言える。

MiguelはR&B/ソウルを潮流にヒップホップの素養も合わせ持つシンガーである。ヒップホップにおけるセックスやマッチョイズムをMiguelはファッショナブルに変換する術を敬愛しているPrinceなどから参照しているが、ジェンダーレスを象徴するPrinceと、男性か女性かも確認しにくいCashmere Catのビジュアルは知らず知らずのうちにMiguel越しに重なる部分があるように思える。

Princeに代表されるは何もジェンダーな事柄だけではない。Cashmere catもPrince等しく、肌の色すら超越したプロデュースセンスを持ち合わせている。今まで並べた男性ヴォーカルは黒人たちによる魅惑的な声もあり、特別に心地よく聞こえたようにも思えるが、白人ラッパーであるG-Easyとともに認めた「Drifting feat.Chris Brown, Tory Lanez」でも聴き劣りすることのないトラックメイク能力を存分に発揮していることがわかるだろう。

G-Easyと言えばきゃりーぱみゅぱみゅをサンプリングしEminemに似た容姿でありながらドゥーワップなどの影響を口にする、白いDrakeとも称されたラッパーだ。1989年生まれ、日本で言えば平成っ子であるG-Easyとのコラボレーションは非常にタイムリーではある。そこに花を添えるは 伊達男 Chris Brownと若干24歳にして10本以上のミックステープを発表し、次世代のJohn Legendと呼び声高いTory Lanez。このあたりの客演も頭に入れておくと、Cashmereの功績を確かめる際に大変便利である。

Tory Lanezが手掛けた直近のMixtape三作(「Cruel Intentions」「Chixtape 3」「The New Toronto」)はどれも高品質なので是非

Vol.1からここまでを総括すると、とにかく彼がアルバムを出すまで多くの伏線をバラまいてきたという事実で、それは2015年を起点に「アルバムに向けた」方向性にシフトしていく。ここに挙げなかった作品でもR.KellyTy Dolla $ignなど、名前を出せば”おっ!?”と反応するアーティストも多く、それらが今後どのようにCashmereと絡んでくるかも気になるところではある。


Cashmere Catがアルバムを出すまでの軌跡を大雑把にだが振り返ってきた。女性と男性、その性別の両極において80's的なグルーヴを下地に、10年代以降のネットミュージックを余白にバブルガムポップなどを独自の解釈でインプットしてきたことが、彼がたった4年でビッグネームから期待のルーキーまでと肩を並べてこれた理由である。

そしてここまで張った伏線を回収すべく、いよいよ話をアルバム『Wild Love』に移していこうと思う。


と、あまりにも長くなったので引き続き Vol.3

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m.jun

考察と総括

音楽にまつわるアレソレ
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