二面性

【発言変遷】横浜カジノ誘致に関する林市長の全答弁

2017年7月30日に実施された横浜市長選挙。現職の林文子市長は地元住民からの反対が根強いカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の誘致は「白紙」と強調して再選を果たした。しかも、「IR誘致は市民の意見を踏まえた上で方向性を決定」と公約に明記した上での当選である。

しかし、2019年8月22日、林市長はこれまでの「白紙」方針を一転させ、カジノを含むIRの誘致を正式に表明。さらに、市民に誘致の賛否を問う住民投票を実施しない考えも明らかにした。

これまで横浜市ではパブリックコメントで9割以上の市民がカジノに反対の意思を示したが、その民意は完全に踏みにじられた。林市長はカジノ誘致への賛否、民意の問い方、候補地などについて、発言が二転三転しており、今回の突然の記者会見でのIR誘致表明は手のひら返しと言って差し支えない。

そこで、本記事では横浜カジノ誘致に関する林市長の発言の変遷を時系列に沿って視覚化する。具体的には、林市長が市長に就任した2009年から約10年間にわたって横浜市議会で「カジノ」もしくは「IR」と発言した79件の答弁を全て確認して、発言内容の変遷と手のひら返しを明らかにする。

*本記事の表1であげた答弁の映像をまとめた動画はyoutubeで公開中

表1 「カジノ誘致の賛否」

表1は、横浜市議会におけるカジノ誘致の賛否に関する林市長の主な答弁を時系列で整理している。誘致に積極的と判断できる答弁は赤字、誘致に消極的と受け取れる答弁は青字で示した。

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以下は表1から各年の代表的な答弁のみに絞ったサマリ版。

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初めて市議会でカジノの話題があがった2012年から2015年にかけて、赤字が目立っており、誘致に積極的と受け取れる答弁を繰り返していることが読み取れる。
そうした誘致に積極的な答弁の例を3つほど紹介する。

カジノを含むIRの積極的な導入についてですが、世界中の人々を引きつける魅力的な横浜を実現するためには、これまでにない大胆な手法も考える必要があります。IRについては有望なメニューの一つとして捉え、多方面から検討してまいります。
(2013/12/06 第4回定例会 林市長)
大人の施設というようなものをつくっていきたいということもございますので、いわゆる海外からいらっしゃる方にとって、そうした統合型のリゾートの中にはやはりカジノが必要であるというふうに考えています。
(2014/03/20 予算第一特別委員会 林市長)
横浜市が夜景がきれいだからといって、何回、人が来てくれるかという問題があります。ですから、私は非常に心休まる、心豊かな、わくわくする一体型IR、施設をつくりたいということで、その中にカジノというのがあるのです
(2015/03/18 予算第一特別委員会 林市長)

しかし、市長選挙が近づいた2016年頃から青字(誘致に消極的)が混じり始め、答弁のトーンに変化が見られる。

私は、カジノをやるということは申し上げていないので、IRというものが選択肢の一つだと考えているところでございます。
(2016/05/27 第2回定例会 林市長)
カジノ誘致の件でございますが、先ほども御答弁申し上げましたように、今本当にカジノ誘致とかIRを導入するか否かも全く決まっておりません
(2017/02/24 第1回定例会 林市長)

そうした中で迎えた2017年7月30日の横浜市長選挙で林市長は再選を果たした。
対立候補は明確に「カジノ反対」を掲げる中、林市長は「カジノ誘致は白紙」と強調して、カジノ誘致を選挙の争点にさせない中での当選だった。

この市長選挙の後も一貫して、林市長は誘致に消極的(青字)の答弁を繰り返す。ただ、選挙後に明確な変化があり、カジノ誘致の賛否を質問された際、「白紙」という表現を必ず用いるようになる。市長選挙後の7回の答弁で、実に7回とも「白紙」と発言していることが表1で確認できる。

そうした「白紙」答弁の例を3つほど紹介する。

IRについてでございますけれども、国において検討が進められているわけですけれども、いまだ全体像は明らかになっていないというふうに私は感じております。ですから、この状況の中で全くもって私自身は白紙でございます。
(2017/09/13 第3回定例会 林市長)
国で検討中のIR構成施設の例示の一つに、委員からお話がありました劇場が記載されていますけれども、IRについては、まだ全体像が不明で、現在横浜市としては白紙なわけでございます。
(2018/03/20 決算第一特別委員会 林市長)
IRについては白紙であるということは何度も申し上げております。それ以上ではございません。委員のおっしゃることがちょっとわかりません。
(2018/09/26 基本計画特別委員会 林市長)


しかし、2019年8月22日、林市長は突如として、手のひらを返す。
これまでの「白紙」方針を一転させ、カジノを含むIRの誘致を正式に表明
した。

*カジノ誘致の賛否に関する答弁については、下記のハーバー・ビジネス・オンライン記事に詳しく掲載

表2 「カジノ誘致の民意の問い方」

表2は、横浜市議会におけるカジノ誘致の民意の問い方に関する林市長の主な答弁を時系列で整理している。「民意を問わない」と判断できる答弁は赤字、「民意を問う」と判断できる答弁は青字で示した。

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一貫して青字の答弁が続いており、カジノ誘致にあたっては民意を問う考えを林市長が示し続けてきたことがわかる。

関連法案(IR推進法、IR整備法)の国会成立前にあたる2014年〜2017年頃は、国の動きを見ながら検討する旨の答弁を繰り返している。

導入の判断に市民意見を反映させるべきとの御意見ですが、IR推進法も成立していない状況ですので、成立した後に市会の御意見もいただきながら検討してまいります。市民意見を組み入れる時期ですが、現在、具体的なスケジュールが国から示されていませんが、IR推進法成立後に国から示される予定である具体的な手順を踏まえ検討してまいります。
(2014/09/09 第3回定例会 林市長)
現在の考えですが、国において検討が進められておりますが、実施法の成立時期も定かではございません。制度の全体像も明らかになっていないことから、現在、白紙の状況でございます。今後、市民の皆様や市会の御意見も踏まえて検討してまいります。
(2017/09/13 第3回定例会 林市長)

いよいよ関連法案が国会で成立した後の2018年も答弁の内容はあまり変わらず「今後検討」に終始しているものの、民意を問う意思はあると十分に判断できる内容(青字)が続いてることが表2で確認できる。そうした2018年の答弁を2つほど紹介する。

IR整備法は成立しましたが、今後、政省令などで定められる項目が数多くあると言われていることから、現時点で市民の皆様に御意見をいただける状況にはないと考えています。御意見を伺う時期や具体的な方法については、今後検討していきます。
(2018/09/11 第3回定例会 林市長)
IRの方向性についての民意の問い方ですが、IR整備法では、IR区域の整備を希望する自治体が区域整備計画を作成する際は、公聴会の開催など住民の意見を反映させるために必要な措置を講じなければならないとされています。また、国に計画の認定申請を行う際は、議員もお話しなさったとおり、議会の議決を経なければならないとされています。市民の皆様から御意見を伺う時期や具体的な方法については、政省令などが示される時期を踏まえて今後検討していきます。
(2018/12/11 第4回定例会 林市長)


しかし、2019年8月22日、林市長は突如として、手のひらを返す。これまでの「白紙」方針を突如として一転させ、カジノを含むIRの誘致を正式に表明したことに加え、カジノ誘致の賛否を問う住民投票を実施しないことを明らかにした。


表3 「カジノ誘致の候補地」

表3は、横浜市議会におけるカジノ誘致の候補地に関する林市長の主な答弁を時系列で整理している。「候補地は山下埠頭」と判断できる答弁は赤字、「候補地は未定」と判断できる答弁は青字で示した。

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「候補地は未定」という答弁を林市長は繰り返している。表3でも青字が圧倒的に多い。

ただ、候補地が山下埠頭であると実質的に認める答弁も2回ある。その2つの答弁を紹介する。

IRの導入の場所についてですが、横浜市都心臨海部再生マスタープランでは、山下ふ頭については、埠頭の再開発による大規模集客施設の整備を位置づけております。IRについては、新たに導入を検討する施設として記載しておりまして、場所を含め立地を決定しているものではありません。
(2015/05/21 第2回定例会 林市長)
(山下ふ頭を候補地から)全く除外するということではございません
(2017/10/03 決算第一特別委員会 林市長)

特に、この2017年10月3日の質疑では候補地に大きな焦点が当たっており、質問後に井上さくら市議(無所属)は重要な指摘をしている。

横浜市の政策局が出した報告書で4カ所あるんですね。候補地だと4カ所言っています。その中で、普通に読んだら一番有力なのは山下ふ頭なんです。だから、今は山下ふ頭は候補地の一つなんですよ。
(2017/10/3 決算第一特別委員会 井上さくら市議)


そして、2019年8月22日、この懸念は現実のものとなる。
林市長は突如として、手のひらを返す。これまでの「白紙」方針を突如として一転させ、カジノを含むIRの誘致を正式に表明したことに加え、候補地が山下埠頭であることを明らかにした。

表4 「カジノ誘致に関する全答弁」

これらの表1〜3を作成するに当たって、林市長が市長に就任した2009年から約10年間にわたる横浜市議会で「カジノ」もしくは「IR」と発言した答弁を横浜市議会 会議録検索システムで全て確認した。エビデンスとして、その記録を掲載する。

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参考情報

横浜市議会 会議録検索システム
http://giji.city.yokohama.lg.jp/tenant/yokohama/pg/index.html

更新履歴

2019/8/24 22:18
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