見出し画像

小説タイトル傑作選  【歴史奉行通信】第四十号

こんばんは。

今夜も伊東潤メールマガジン
「歴史奉行通信」第四十号を
お届けいたします。

〓〓今週の歴史奉行通信目次〓〓〓〓〓〓〓

1. タイトルの大切さについて

2. リズム感のいいタイトル

3. 格好いいタイトル

4. 想像をかきたてるタイトル

5. ここ十年のタイトル大賞決定

6. 伊東潤Q&Aコーナー&感想のお願い

7.お知らせ奉行通信
新刊情報 / 読書会 / その他

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

1. タイトルの大切さについて

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

いよいよ四月も中旬です。
この時期、われわれ作家には、
GW進行という壁が
立ちはだかっています。

これはGWは版元や印刷会社が
休みとなるため、
作家が通常の月よりも
締め切りを5日から10日も
早めねばならないことで、
作家にとってたいへん厳しい
ハードルとなっています。

それでも締め切り仕事があるのは
作家にとって幸せと心得、
全力でやり遂げなければ
なりません。

さて今回は、
小説のタイトルについて
考えていきたいと思います。

皆様は小説を購入する時、
何を基準に選びますか。

作者名、題材、カバー、
帯コピー、版元名、
といったところだと思いますが、
まず目に入るのが
タイトルではないでしょうか。

タイトル次第で
売れゆきが左右されるのはもちろん、
タイトルによって
歴史に名を残す作品になるかどうかさえ
決まってくるのです。

だからといって、
内容を端的に表したタイトルがよい
というわけではありません。

それでは、どのようなタイトルが
「よいタイトル」なのでしょうか。
今回は、そのあたりを
考察していきたいと思います。
(*登場する作家名は
敬称略とさせていただきます)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

2. リズム感のいいタイトル

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

私が中学生だった頃は
横溝正史のリバイバルブームで、
『犬神家の一族』や
『八墓村』が
ベストセラーとなっていました。

かく言う私も、横溝によって
小説の面白さを知ったといっても
過言ではありません。
横溝の作品は
おどろおどろしいタイトルが常ですが、
とくに秀逸なのが
『悪魔が来たりて笛を吹く』
です。

このタイトルの
気味の悪さと語呂のよさには、
子供心に強いインパクトを受けました。

タイトルには、
こうした言葉のリズム感が大切です。
最近の作品では、森見登美彦の
『夜は短かし歩けよ乙女』
が抜群ですね。

この作品は語呂のよさもさることながら、
乙女が何のためにどこを歩くのか、
読者に想像させる余地があります。

タイトルをつける際、
こうした語呂を常に意識しているのが
伊坂幸太郎です。
『アヒルと鴨のコインロッカー』
にしろ
『陽気なギャングが地球を回す』
にしろ、購買検討者に
「何が書いてあるんだろう」
と思わせると同時に、
忘れ難い語感を植え付け、
初見では迷った末に買わなくても、
脳内に語感が残り、後で買う
というマジックを生んでいます。

ハードボイルド作家の
矢作俊彦が三島由紀夫賞を受賞した
『ららら科學の子』も、
何とも印象に残る
リズム感を持つ作品です。

最初は違和感しかありませんが、
慣れるとたまらない味わいがあります。

また字余りの美しさからすると、
歌野晶午の
『葉桜の季節に君を想うということ』
が素晴らしいです。

歌や句ではないので、
厳密に言えば
字余りではないのですが、
「君を想う」で終わらせずに、
「ということ」を付けたことで、
純文学的な深みが醸し出されています。

また100万部を売った
『世界の中心で愛を叫ぶ』は
「セカチュー」という流行語さえ
生んだほどの作品ですが、
こちらも語感のよさでは
引けを取りません。

しかし当初、作者の片山恭一は
『恋するソクラテス』
というタイトルにしたかった
といいます。
それを担当編集がダメ出しし、
このタイトルに変えたそうです。

『恋するソクラテス』では、
小峰元のライト・ミステリーを
連想させてしまうので
(『アルキメデスは手を汚さない』
『ピタゴラス豆畑に死す』
『ソクラテス最期の弁明』など)、
あれだけのベストセラーには
ならなかったかもしれません。

このように語呂や
リズム感のいいタイトルは、
本を買ってもらう上で
極めて大切です。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

3. 格好いいタイトル

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

船戸与一、逢坂剛、大沢在昌、
今野敏、堂場瞬一、佐々木譲、
馳星周といった面々の作品は、
どれもタイトルが格好いいですね。

ミステリーというのは
シンプルで格好いいタイトルが似合います。

ここから先は

5,537字
この記事のみ ¥ 300

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?