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歴史小説家としての覚悟 【歴史奉行通信】第八号

こんばんは。
伊東潤メールマガジン「第八回 歴史奉行通信」をお届けいたします。

〓〓今週のTopic〓〓

1.伊東潤 第七弾 読書会のお知らせ
2.伊東潤が語る、歴史小説家としての覚悟
3.お知らせ奉行通信<年明け新刊速報>

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1.伊東潤読書会のお知らせ
「2/3(土)第7弾 読書会のテーマは・・・」
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伊東潤自らが主催し、ファンの皆さんと作品・歴史について語る読書会。
毎回参加者の皆さまと伊東潤が、読者と作家という垣根を超えて熱いトークを
繰り広げ、回を重ねるごとに盛り上がりを見せています。

第7弾の対象作品は、2018年6月に発売予定
伊東潤の『アンフィニッシュト・ビジネス』。

刊行前の新作の世界に、いち早く浸ることができる絶好の機会です。

(※『アンフィニッシュト・ビジネス』は現在noteにて週刊連載中。
以下から無料でお読みいただくことが可能です↓
https://note.mu/jun_ito_info/n/nb1c3bc5111f8)

「よど号ハイジャック事件」に材をとったミステリー。
なんと今回は
当日皆様からいただいたご意見を、
今後の作品に反映させていくという新しい試みを行います!

伊東潤の作品にダイレクトに関わることができる、
ますますインタラクティブな次回読書会。
皆様のご参加をお待ちしております。

日時:2018年2月3日(土) 15:00開場/15:30開始 18:00終了予定
場所:株式会社コルク(https://corkagency.com/access)

読書会詳細およびお申し込みは以下をご覧ください↓
http://ptix.at/vs6VWv

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2.伊東潤が語る
歴史小説家としての覚悟と
ショートエッセイ「衣鉢を継ぐ」掲載
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さて、今日は私の主戦場である歴史小説の話をしましょう。

司馬さんの死後、歴史小説というジャンルは
衰退の一途をたどっています。

歴史ファンは多くいても、
最近は史実に対するこだわりが極めて強くなり、
歴史小説ではなく歴史新書やMOOK本に手を出す読者が、
とても増えてきたと思われます。
それが中公新書の『応仁の乱』や『観応の擾乱』の大ヒットにつながっているのです。

つまりコックが調理した食材でなく、
生ものを食べたいというニーズです。

確かに十年ほど前の研究者たちとは違い、
磯田道史氏や本郷和人氏に代表される昨今の研究者は、
語りもうまく書くものも読みやすいものばかりです。

しかしわれら後進は、歴史小説の灯を消すわけにはいきません。
今の歴史小説は、多くの先達たちの苦闘の果てにあるからです。

これまでも多くの歴史小説家が、惜しまれつつも鬼籍に入っていきました。
とくに2010年以降に亡くなった歴史小説家では、
山本兼一氏と火坂雅志氏の死が印象に残っていると思いますが、
山本氏は57歳、火坂氏は58歳という若さでした。

何歳から始めるかにもよりますが、
50代後半というのは、小説家にとって最も脂の乗っている時期であり、
この時期に病魔に倒れた二人の無念が胸に迫ります。

「もし私がその立場だったら、何を望むか」を考えると、
途中まで書いた作品を誰かに終わらせてほしいこと以外にありません。
そうすれば、たとえ前半だけでも、
多くの読者に読んでもらうこともできるからです。

ちょうど火坂さんには『北条五代』という作品があり、
それが中ほどで絶筆となっていました。
私の得意分野でもあり、奥様のお許しを得て、
このたび、その続きを書かせていただくことになりました
(現在、『小説トリッパー』連載中)。

作家には、作家にしかできない先達への敬意の示し方があります。
口だけの哀悼ではなく、
こうして火坂さんの絶筆作品を完成させることで、
少しでもその無念を和らげることができれば、
後進として、これ以上の喜びはありません。 

「歴史小説の今」を担う者の一人としての自覚を持ち、
彼らの遺志を継ぎ、歴史小説という文化を次の世代まで伝えていくつもりです。

***************

『北条五代』第二部の連載開始にあたって
ショートエッセイ「衣鉢を継ぐ」
(「小説トリッパー」2017年1月号に掲載)

火坂さんのご自宅からは相模湾が臨める。

執筆に疲れた時、大好きな日本酒を飲みながら、
火坂さんがあの海を眺めていたと思うと、感慨深いものがある。
八年ほど前に某画伯の旧宅があった土地の一部を買い取り、
改築したというその邸宅は、落ち着いた佇まいの住み心地のよさそうな家だった。

執筆机の後ろには広い書庫があり、そこには大量の書籍が、
生前と変わらず並べられていた。
それを調べつつ執筆する火坂さんの姿が、目に浮かぶようである。

周知のことだと思うが、
火坂さんは2015年2月、
急性膵炎でお亡くなりになられた。
享年は58――。

奇跡的に病状が好転し、
退院の予定日まで決まっていたさなかに突然、訪れた死だった。

後には奥様が残された。
その悲しみを書きつづるのは、私の筆の及ぶところではない。
ただ、お二人がいかに仲睦まじかったかは、
火坂さんの手書き原稿を、奥様がすべて清書していた一事からでも推し量れると思う。

火坂さんは、愛してやまない奥様と
閑静なご自宅、
そして膨大な作品群を残し、
この世から足早に去っていった。
残された作品群は火坂さんの確かな足跡であり、
いつまでも読み継がれていくべきものである。

私も多数の火坂作品を読んできた。

その作品個々の素晴らしさを語るのは別の機会に譲るが、
火坂さんは故山本兼一さん同様、わたしたち後進の目指すべき高峰だった。

その流麗な文章で書かれた作品群は、
どれもが面白いのはもちろん、凜(りん)としたさわやかさに溢れており、
まさに王道を往く作家としての風格が漂っていた。

火坂作品は、そのお人柄を反映してか下品なところが一切なく、
ひたすら清廉で真っすぐである。
おそらくご自身が、歴史小説界のメインストリートを歩んでいるという自覚をお持ちだったのではないだろうか。

それゆえ、作品中に出てくる主人公が徹頭徹尾、正義なのはもちろん、
悪役でも、なぜか品格があって憎めないのだ。
その清浄で一点の曇りもない作品世界の前では、
私のような凡百の作家の一人は、ひれ伏さざるを得ない。

作家としての火坂さんは、私生活同様、実に幸せだったと思う。

作家は、その生命の灯が消えても作品が残る。
作品は作家が確かに生きていたという証拠であり、
生々しい息づかいを未来永劫に伝えていく。

とくに火坂さんのように完成度の高い作品群を残せた上、
大河ドラマの原作となる作品まで出せた作家は、
死を迎える最後の瞬間、充足感に包まれていたはずだ。

私もいつか死を迎える。
おそらくその時、自分の歩んできた轍(わだち)を振り返り、
充足感に包まれているはずだ。

だが一つだけ、不安がある。

それは、途中まで書いていた作品が
日の目を見ずに埋もれてしまうことだ。

火坂さんは、『北条五代』と題した大作に取り組んでいる最中に病を得た。

『北条五代』の執筆を始められる時、
火坂さんは「さあ、次は北条だ」と明るい声で言われたという。
おそらく火坂さんは、新たな挑戦に胸を弾ませていたはずだ。
しかも列車はずっと走り続け、さほど遠くない将来、
『北条五代』も過去の停車駅の一つになっているはずだった。

しかし火坂さんは、その完成を待たずに列車を止めねばならなかった。
その無念はいかばかりか。

今、冥府におられる火坂さんに唯一、悔いがあるとしたら、
『北条五代』を脱稿できなかったことであろう。

わたしたち後進にできることは、
その無念を無念として終わらせることなく、
バトンを引き継ぐようにしてゴールまで走りきることだと思う。

このほど、火坂さんの奥様のお許しを得て、
不肖私が『北条五代』のバトンを受け取ることになった。

火坂さんの衣鉢を継ぐ限り、
火坂さんに対して恥ずかしくない作品を書くつもりである。
しかも火坂さんがメモで残した構想を、
できる限り実現させたいと思っている。

かくして『北条五代』が再開される。
その重責を喜びに変えつつ、必死の思いで取り組んでいくつもりだ。

***************

さて、今回はいかがでしたか。

作家にとっての死は、あくまで生命体としての死であり、
その作品は生き続けます。

われわれ後進は、先達の作品を、
いかに次代に伝えていくかを真剣に考えなければなりません。

先達の作品を重んじ、
その轍を踏んでいくことに真摯な気持ちを持つことで、
自らの作品も輝きを放つと私は信じています。

さらに、それがジャンル自体の継続性(Continuity)につながるのです。

今回は、あえて「衣鉢を継ぐ」という大胆なタイトルのエッセイをお読みいただきましたが、
私が火坂さんに限らず、先達を尊重する気持ちには強く深いものがあります。

先達は、きっと
「われわれを踏み越えていけ(Get over it!)」
と仰せになられるでしょうが、
先達の作品を尊重していかなければ、
それを成し遂げられないと私は信じています。

山本さんについても書いたものがあるので、
折を見て公開していきたいと思っています。

次回もお楽しみに。

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3.お知らせ奉行通信
年明け新刊速報
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【みなさまからのお悩み大募集】
インタラクティブを心がけている、伊東潤のメルマガでは
皆様のお悩みを、歴史上のエピソードになぞらえてお答えしていきたいと思います。
来年以降こちらのコーナーも活性させていきたいと思いますので、
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諦めることを最も嫌った幕臣、大鳥圭介の知られざる生涯

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クリスマスイヴに城郭攻防戦の変遷を語るなんて、
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伊東潤の担当は「西郷隆盛の死の謎」です。
詳細は後日。
http://www.tv-tokyo.co.jp/nanafushigi_d/

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