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ただ

ただ

思い出せ

人はただ生まれ
ただ生きて
ただ死んでいく
それだけのことだと

他人は僕を殺せない
僕を殺せるのは僕自身だけ
そして僕はもう二度と 
他人の顔をした己に
殺されたくはない
だから
一生決別することのない半身に
心臓をつけ狙われながら
共に生きると決めたのだ

証

証を探す暇もなく

飼いならされた身体の奥で

死滅しかけた闘争心がお前を呪っている

岸壁にさしかかったら下を見るな

骨を溶かす回顧を免れる術を身に付け

屍を背に負ったまま

生き恥を晒す覚悟を決めろ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

縦読み遊び

足

病の名を借りた虚無が僕の脳細胞を腐らせ始め

少しずつ死んでゆくのを自覚しながら

怠惰と諦観に身を任せると

言葉は僕のもとを離れていった

自らの感情に呼び名をつける術さえ失って

それでも尚生きたがる自我を持て余す歪な器の中で

とうに発酵した自己憐憫が鼻をつく

酷く胸焼けのするその酩酊にも飽きた頃

やっと踏み出したこの足は

恒久的な怯えを刻むように

今も震えている

枯井戸

枯井戸

僕は ずっと 枯井戸の底にいる

この枯井戸から水が湧いてくる事がもしあるのならば

それは僕を 上まで運んでくれるだろうか

それとも 溺れさせるのだろうか

どちらでもいい

この枯井戸から解放されるなら

探る

探る

真っ暗な公園のベンチに腰掛けて

どこまで手が届くのかを

探ってみる

光と闇のハイコントラストの境界線に立ち

両側に片足ずつを置いたまま

卑劣な自己憐憫に溺れなくても存在を確かめられるのかを

探ってみる

何も不幸な事など在りはしない

それでも闇に沈まなければ何も掴めない自分に

イヤフォンで耳を塞いで外界から身を守るのはやめろ と

もうひとりの僕が 

逆らい難

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滲み

滲み

生きたい と 紙に書いた

見つめ続けるとそれはただの記号になった

蛾がひらひらと舞い降り

中身のない頭蓋に卵をびっしり産み付けると

生きているかどうかすら判らなくなった

苦悩は未だ形を成さない

累積した紙屑の上で

屍を晒すインクの滲みの造形に

生きる意味を見出す僕が潜んでいる

────────────────────

これは、昔文筆スランプに陥った時 ある敬愛するアーティストの

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長い年月を独り同じ場所で
黙って佇んでいたそのピアノは
そっと弾いてみると 
調律の狂った哀しい音をたてた
僕の一番最初の友達
ずっと傍にいてくれた友達
夢中になって遊んで
そして 
嫌いになった友達

また遊んでくれる? と聞いたら
調律師を呼んでくれ
話はそれからだ
と言った

残骸

残骸

この期に及んで奇跡を待つ惨めな残骸が

所在なさげに転がっている小さな部屋で

口にするのも馬鹿馬鹿しいくらい仕様のない後悔を宥める

始まらない物語

それなのに終わらない 再生され続ける過去

同じ季節が溶かし出す かの甘い夢を 

獏が食べてくれるまで

僕は食み続ける

微かに香を残すこの指を

部屋に鏡はない

もうずっと昔に

自己憎悪に焼かれてしまったから

  

朦朧

朦朧

存在が溶解していく

己にたったひと匙分の価値も在りはしないという苦しみも

幾多の甘やかな想い出も

どちらも虚ろで

まるで海の中で浮遊しながら他人の夢を見ているかのよう

ここは何処だ?

思考が散り散りに霧散して

何ひとつ形を成さないのに

縋り付くようにペンを取る

すべてが小さな羽虫の見ている夢ではないと

証明してくれる何かを

黄ばんだ紙の上で探す

探す

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瓦礫の下

瓦礫の下

意識の右斜め後方から僕に無益な指示を与え続けていた声が聞こえなくなってからというもの
僕は彼の沈黙のリズムに合わせて
精神的貧乏揺すりを繰り返していた
その振動はあまりに激しき為
やがて家屋を破壊し
僕自身を瓦礫の下に埋めてしまうだろう
絹を裂く風音だけが聴こえる 瓦礫の下に