初体験(仮)12.5

千疋屋で女性チーフがホテルとの電話を終え、ちょうど受話器を置いた。そこにさっきカメラマンをやらされていた男の子のアルバイトがやってきた。
さっきはフォロー助かりました。結構いっぱいいっぱいになっちゃって…と苦笑している所にまだ少年の面影が見えかわいらしいが、こういう特殊な事例は一応伝えておくべきだろうと思い、一瞬緩んだ口元を引き締めた。女性チーフはホテルのレセプションとの電話の内容を話すことにした。
あの宿泊客はUGの可能性があって、その報告を今ホテルにしていたのよ。
ユージー?と首を傾げるアルバイト、千疋屋は飲食店でありホテルとは直接関係ないから解らないのも無理はない。
Undesirable Guestの略で直訳すれば、望まれざるゲストって事なんだけど、あのお客さまは年齢的にはあなたと変わらないくらい若いのに、お1人で来店されて会計はホテルの部屋付けにしていたじゃない?

はい。見てましたよ。すごいなぁって思いましたよ。よっぽどのボンボンなんでしょうね〜。

その違和感を感じた事を大事にして。今度はそれを感じたらすぐに私や上に報告を入れるようにして。

解りました。ただ、それがUGと繋がるんですか?

あのお客さまはお土産をお部屋で召し上がるとおっしゃってラッピングをお断りになったでしょう?さんざんフルーツバイキングを楽しんだあとに更に2人前のフルーツをお部屋に戻ってから更に食べようって普通あんまり思わないと思うの。

あ!確かに!

つまりその味をこの後に共有したい誰かがいる。ただ一緒には来店できない。今回の雰囲気の場合それって、こっそり後でお気に入りの娼婦を呼ぼうとしているヤツの行動なのよ。今回の場合は男娼だろうけどね。
肝心の貰う側は案外と迷惑みたいだから…そういうの誰も得しないんだけどね。

へぇ!やっぱりチーフはもの凄い観察力ですね。普通絶対そこまで行き着かないですよ!

私はここに来る前はパリのホテルにいたからね。向こうは日本よりもそういう問題が深刻でね。あぁいうお客さまをみんなより沢山見てきたってだけ。だからあなたも今日の違和感を1つの経験としてレベルアップして貰いたいなって思って。

ここでまた電話が鳴った。プルル……レセプションからの内線の所が赤く明滅している。ちょっとこの場で待っててね。と言うと、チーフは電話を取った。もしもし…はい…やっぱりそうでしたか。…いえいえ。お疲れさまです。失礼します。

どうやら今回は私のカンがビンゴだったみたいよ。お連れ様のご住所が男娼の斡旋事務所の住所になってるみたいだから。

えー!?本当にすごいですね!エスパーみたい!

違うから!経験の蓄積!あなたもこれから増やして自分なりの引き出しやカンを築いていきなさい!

そうしてレセプションでサイトウケイタと藍渕頼直は要チェックの対象となった。

#小説 #セクシャルマイノリティ #大人向け

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