マガジンのカバー画像

小説「何度でも、君を好きになる」

16
太陽を克服し、人間と同じ様に生活を送る様になった現代の吸血鬼の卓也は、人間に紛れ、大学生として日々を過ごしていた。 メッセンジャーのアルバイトをしながら昼間の生活を謳歌しているが… もっと読む
運営しているクリエイター

記事一覧

小説「何度でも、君を好きなる。」 第1話 人に近づくために

「血が欲しい」  唐突な渇きに襲われると、卓也は暗闇から駆け上がるようにして目覚めた。 昨…

SONE
5年前
1

小説「何度でも、君を好きになる。」第2話 生まれ変わった君と

 風が肌を舐める感覚が心地いい。太陽の光の温もりが生を感じさせてくれる。 車道を走る車を…

SONE
5年前
2

小説「何度でも、君を好きになる。」 第3話 江戸の記憶

 一目惚れだった。 田圃の中に浮かぶ遊郭の中の世界は、眩いばかりの光を放ち、人間の世界へ…

SONE
5年前
1

小説「何度でも、君を好きになる。」 第4話 フェア

「フェアじゃないと思ったんだ」  衝撃の再会の帰り、信二は満足げにそう言った。卓也はその…

SONE
5年前

小説「何度でも、君を好きになる。」 第5話 月と太陽のたもとで

 太陽の力が強い。吹きつける海風は心地よいが、どこか自分の理性を揺らす誘惑が混じっている…

SONE
5年前
3

小説「何度でも、君を好きになる。」 第6話 切ない枯渇を知った夜

「協会は人を募集しているぞ」  受話器越しの久々の父親の声は卓也を飽き飽きさせた。 卓也の…

SONE
5年前
2

小説「何度でも、君を好きになる。」 第7話 普通の将来

 風が乾いていた。御盆を過ぎてから急激に夜風から湿気が抜けてゆき、八月であるというのに肌寒ささえ感じる。  (今年は夏が終るのが早いのか)  吸血鬼の特性か、卓也は敏感に季節を感じとると直ぐに百年前の記憶に入り込んだ。  「もう夏は終わりや」  情事の余韻の残る火照った身体を冷ましていると勝山はそう言い、障子戸の縁にかかった風鈴に手をかけた。か細い勝山の手に乗った風鈴は微かに揺れ、どこか物悲しげな音色を響かせた。  「秋がきても吊るしておけばいいじゃないか」  卓也は何故か焦

小説「何度でも、君を好きになる。」 第8話 今に必要な言葉

 季節の廻りによって心の動きが左右されるのはなにも人間だけではない。生きとし生けるすべて…

SONE
5年前
3

小説「何度でも、君を好きになる。」 第9話 罪の味

 新聞を広げている幻蔵の表情がいつになく険しい。夏に太陽を心ゆくまで浴び、浅黒い筈の肌が…

SONE
5年前
3

小説「何度でも、君を好きになる。」 第10話 三日月

 瞼を開けると、そこには並んではいけないはずの二人の姿があった。心配そうに自分を覗き込む…

SONE
5年前
2

小説「何度でも、君を好きになる。」 第11話 恋と野性の狭間で

 卓也の直感が何かがおかしいと告げ始めたのは、かたちばかりの入院から三日ほど経ってからの…

SONE
5年前
3

小説「何度でも、君を好きになる。」 第12話  彼女の中にあるもの

「なんだ爺ちゃん。起きてたの」  血液補給をしようとリビングに向かうと、幻蔵がテーブルで…

SONE
5年前
2

小説「何度でも、君を好きになる。」 第13話 愛する時間

「おはよう。明日五時に渋谷ね」  いつも通りの何気ないメールの返信が美香から届くと、卓也…

SONE
5年前

小説「何度でも、君を好きになる。」 第14話 血と悲しみと

「ねえ、どうするの?就職」  また、一つ夏が過ぎた。  恋人達の為の様々な催しが入り乱れる冬は目まぐるしく過ぎ、麗らかでゆっくりとした春は二人の距離をとても近くしてくれた。  そして夏は、卓也の心のかさぶたを湿らすような暑さだったが、そこに邪魔するものは何もないと言い聞かせると、ジリジリと照る陽光さえ、祝福の光に感じる事ができた。 しかし、美香と出会って二度目の秋は憂鬱を卓也にもたらした。はっきりとした現実。つまり、自分は吸血鬼であって、彼女は人間であるという周知の事実が秋風