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「言葉を超えたピュアなエッセンスを伝えたい」ルーマニア出身の華道アーティスト、ニコレッタ・オプリシャンさん

大学時代は母国ルーマニアのブカレスト大学で日本語を専攻し、日本での留学経験もある、ニコレッタさん。言語学者でありながら、華道アーティストとして活躍されている彼女の作品に込められた思いを伺いました。

【NICOLETA OPRISANさんプロフィール】
出身地 ルーマニア
現在の活動地 東京
現在の活動 
5SENSES 株式会社 代表取締役社長
華道家 草月流師範 生け花インターナショナルメンバー
服飾デザイナー 調香師・パフュームスタイリスト
学歴
ブカレスト大学 言語学 学士号
レスター大学 コミュニケーション学 修士号
主な職歴
2015-2016 ペニンシュラホテル東京 レストラン PETER(週替わりにて生花 デザインを担当) 
2015-2017 ブリティッシュスクールイン東京にて生け花レッスン  
2015「AAP パルファン・グランプリ2015」優秀賞 
2017 WEB マガジン YEO 萩庭桂太氏によるインタビュー記事掲載 
2017 東京アメリカンクラブにてフレグランスについてのワークシ ョップ開催 
2018 3 月 NHK E テレ あしたも晴れ!人生レシピ「外国人が教えてくれた!すばら しきニッポン文化」出演 
2018(9/10) インターFM THE GUY PERRYMAN SHOW ゲスト生出演 
2018(9/15) NHK ラジオ 「ちきゅうラジオ」ゲスト生出演  
2019 年 1 月よりアスプレイ銀座本店にて年間を通してのイベント等店頭ディスプレ イを担当
主な展示
ANA インターコンチネンタル東京  
東京国立博物館 庭園内茶室  
GINZA SIX 
サンモトヤマ・アスプレイジャパン  
川口文化会館 田中家 
広尾 霊仙院 等 
座右の銘 一期一会

記者 ニコレッタさんはどのような夢やビジョンを思い描いていますか?

ニコレッタ・オプリシャンさん(以下、ニコレッタ。敬称略) 一般的に、華道の作品って、目で見て綺麗だなと感じたりしますよね。でも、よく見ると視覚的な美しさだけではなく、香りもあったり、触ってみると棘があったり、花の中にはいろいろなものが隠されています。私は目で見るだけではなく、色んな感覚と相乗効果で楽しめばもっと綺麗に、もっとエモーションが伝えることができるなと思ってます。

また、昔の生け花ですと、床の間とか、茶道の時の演出など、ディスプレイされているところが限られていましたが、今の時代はいろんな場所に飾れるじゃないですか。レストランとか、ショーウインドウに飾ってあっても全然違和感がありんませんよね。
また、和太鼓や DJなどの音楽、ダンスや料理などと生け花を組み合わせることで、より人間の感覚や感性に訴えかけられる、新しい生け花の可能性を探っていきたいです。

現代社会はスピードが速くて、リラックスしづらい環境が多いですから。一瞬だけでもいいので、本来私たちが持っている人間らしい感情や感性を思い出してもらえたら嬉しいです。

◆次のステップは自然に来るもの

記者 その夢に向かっての目標や計画はありますか?

ニコレッタ 私が立ち上げた5sensesという会社では、生け花を切り口にしつつ、ただ見て綺麗なだけでなく、人々の5感覚を刺激して、人々の感覚や感性に訴えかける作品を作ることをコンセプトとしているので、生け花を香りや音などとコラボレーションさせながら、様々なライフスタイルを提案していきたいと思っています。
ただ、アーティストとしては、長期的にこうなりたいという目標はありませし、ターゲットも定めていません。
今ここの感覚や感性を大切にしています。次はどのステップに行きたいのか、先は見えないんですよ。次のステップは自然に来るもので、そうじゃないと多分エモーションにならないんです
頭の中で言葉で考えると、エモーションが離れて行ってしまうんです。
エモーションは言葉の前にあるものなので。

◆言葉のバリアの裏側にあるピュアなエッセンスを表現したい

記者 日々の創作活動では、どういったことを心がけていますか?

ニコレッタ クライアントさんから依頼を受けた時、お店、お寺、ライブコンサートなど、場所のコンセプトがあるので、その場所の色味や香りや歴史などをリサーチしながらどのような花が合っているかを考えます。照明がどこに当たっているか、お客さんの目線はどこに向けられるのか、空間全体の色味や背景などですね。それから、アイディアを出して、スケッチに落としてから、花を用意して作品作りに入ります。
作品は、ただの自己満足ではなく、その場所、その時にしかない気持ちを込めるようにしています
例えば、三味線と笙とのイベントでは、和風の日本の和室の床の間に飾ったのですが、私がお花を活けていた時にちょうど別の部屋でリハーサルがあったんですね。その時は、三味線や笙の音楽を聴きながら自分の中に入り込んで集中して、あまり言葉では考えないで、楽器の音の響きからその瞬間に感じたままの気持ちを花で表現しました。

記者 言語学者でもあるニコレッタさんですが、ニコレッタさんの中で、言語とエモーションはどんなつながりがあるのですか?

ニコレッタ 私の場合、考えるときは、ルーマニア語、日本語、英語など、色々な言語で考えています。日本語で話してる時は日本語で考えてますね。
最近はルーマニアを20年離れているので、生け花や作品に集中して自分の世界に入ってる時も、日本語で考えている場合が多くなってきて、英語とかルーマニア語とかがどんどんどんどん少なくなってきてます。

記者 言語によって、出てくるエモーションも変わったりするんですか?

ニコレッタ エモーションの表し方は違いますね。例えば、ルーマニアの文化では、ラテンなので情熱的で、もうちょっとうるさい感じ。
それが言葉にも影響しています。
もともとのエモーション同じなんですが、そのエモーションの表し方、表現の仕方が違ってきます。
私は、その言語のバリアの裏側に入りたいんです。ハードルと言うのでしょうか。ハードルの裏側。言葉の裏側。
それができるのが、私にとっては生け花なんです。

◆生け花が持つ表現の力と日本の美的感覚

記者 生け花を通して、言葉を超えたエモーションの表現ができると気づいたのはいつ頃ですか?

ニコレッタ 夫の仕事の関係で、2度目に日本に住み始め、草月流のお稽古の見学をした時です。たまたま華道教室の近くを通りかかったので入ってみた瞬間、華道の魅力に惹きつけられました。
たった1輪の花だけで、あんなに表現ができるのか」と気づいて、すっかり華道にはまってしまいました。
私が育ったルーマニアは、自然の豊かな所なんです。だから、お花は家の外はもちろん、家の中にはそのままドンっと花瓶に入れて飾ってある感じだったんですけど、季節感もあって香りもあって、とても身近なものでした。ただその時は、花で表現することは全然考えてなかったですね。「花は綺麗だな、香りもあっていいな」というレベルだったんですけど、生け花という表現と出会ったとき、単純に美いという感覚をこえて、色んな感覚、いろんな表現ができるなと思いました。そこが私にとっての華道という表現スタイルのスタートですね。

ヨーロッパと日本では、美的感覚が違うんですよ。西洋のフラワーアレンジメントに比べたら、生け花は一輪だけでもお花の綺麗さを表現するんですが、向こうのお花は飾りとしてインパクトがあって華やかですし、使い方が違います。フラワーアレンジメントはお花そのものを楽しむのではなく、雰囲気としてインパクトをくわえてるという感じ。日本の生け花はもっと深みがあって、見るだけでエモーションが出てくると感じました。

私はフラワーアレンジメントをやったことはないんですけど、ただ見てるだけで綺麗だなって思ってそこで終わります。生け花を見ている時は、「これは力強い」とか、 線一本が生きている個性的な作品があったり、また、私の活けた作品を見ていただいたお客さんが、「風の音が聞こえてくる」、「おばあちゃんのお庭の香りを思い出す」とか、「これは冬のイメージ」など口々に感情を吐露するのを聞いた時、自分もエモーションを込めて作っているんですけど、それ(エモーション)を、花の力で伝えていけるんだ、と思ったんです。

日本の感性はとても深いんですよね。侘び寂びとか物の憐れとか幽玄とか。
西洋でも歴史の長いものを大事にしていますが、そんなに長く考えないと思うんですよ。日本では器そのものの美しさを愛でる感性があります。西洋では大事にする気持ちはあるかもしれませんが、それを美として楽しむ感覚がたぶんないと思うんです。

◆どうやったら言葉なしで伝えることができるのか

記者 華道を通して言葉を超えた交流ができると確信するまでには、どんな日々の蓄積がありましたか?

ニコレッタ どうやったら言葉なしでコミュニケーションをとるというか、感情を表現できるかということはたぶんずっと前から考えていました。言語学として、もともと言語に興味がありましたので。そして、様々な言葉やその背景にある様々な国と文化にも興味があったんです。
私が生まれ育ったヨーロッパ圏の英語やルーマニア語や、大学時代に学んだ日本語もそうなんですけど、その後結婚して夫の仕事でいろんな国を訪れたのですが、言葉が通じない時ってあるじゃないですか。そんな時はどうやったらコミュニケーションをとれるんだろうなと。
例えば、素敵な絵を見ている時に感動することがあります。また、素敵なクラシック音楽を聞いてる時に、心が響くことがあるのはなぜでしょうか。
そこには言葉がないんですよ。どうやって言葉なしで伝えるかというのは、エモーションで伝えないといけないんですが、私は言葉になる前のピュアなエッセンスを活かしたいんです。複雑なエモーションじゃなくて、もうちょっとシンプルな喜びとか嬉しさ悲しさ寂しさですね。

それから、私は自然の中で育ったので、季節の香りだとか、冬の綺麗な空気とか、緑の中に入ってる時の森林浴の感じですとか、それが本当に当たり前にある環境でした。香りに関しても小さい頃から興味があって、自然の香りだったり、おばあちゃんが作ってくれたお菓子の香りが、記憶の中に残っているんですね。香水を創作するのも、エモーションとつながっているんです。でも、大きな都市に入ると、そういう自然の感じがなくなってくる。だからこそ、華道にはまったのかもしれませんね。

記者 ニコレッタさん、今日は貴重なお話しをありがとうございました。

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ニコレッタさんの活動や連絡先についていはこちら↓

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【編集後記】
取材を担当した、山田、平野、三笠です。
知性と品性を兼ね備えながら、とても自然体でフレンドリーなニコレッタさん。
5感覚を巧みに使って、西洋と東洋、生け花と音楽や香りや空間などを融合させながら、華道の新しい可能性を見せてくれています。その背景には、人生を通して言語学者としての追求があり、だからこそニコレッタさんの言葉を超えたエモーションの表現には、とても説得力があると感じました。
ありがとうございました!

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この記事は、リライズ・ニュースマガジン”美しい時代を創る人達”にも記載されています。


薬剤師×教育ベンチャー 子供の頃から、人の身体と心のつながりや仕組みに興味がありました。 インタビューを通して、相手の方の人生のエッセンスと出会うことや、それを多くの方と共有できることが嬉しいです。