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「すごくよくできてるわ。この人形、顔にシワがあるわよ」…雛様とトラウマ少女マンガ

 そうだ、雛人形をかたづけるのは旧暦にしようという言い訳を思いつきました、じゅんぷうです。

 先週、訪れた神社では「桃まつり」が開催されていて、氏子から奉納されたという雛様たちが境内で盛大に迎えてくれました。4月上旬まで飾られているそう。実際、旧暦で雛祭りを行っている地方も多いのですよね。

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人形は顔がいのち

 わたしの地元は雛人形の生産日本一の「人形のまち」でした。だからといって実家のお雛さまは豪華七段飾りなどではなかったけど、それでも雛人形には親しんで育ったと思います。

 学年に何人かは家がお人形屋さんの子がいて、実家の斜向かいもお人形屋さん、同じ通学班のゆみちゃんのおうちは人形のケース屋さん、お隣りのおばさんは人形の本体・木目込み人形を作っていたりと、押しも押されぬ地場産業。市民の合言葉は「にんぎょうは」「かおがいのち」(嘘)。わたしの祖母も家で人形の着物を縫っていて、よく絢爛豪華な十二単のはぎれでお手玉を作ってくれました。学校で人形師さんの工房に見学に行ったりもしたし、夏まつりでは扮装した市民がパレードして段飾りに上がる「ジャンボ雛」などという催しもあったりして。

 それだけ身近な存在なのですが、さすがにいわゆる「お人形遊び」をするようなシロモノではないからか、距離感というか、御簾の向こうというか、親しんではいるけどディスタンス否めない存在、それが雛様。そしてあのころ、みんなが読んでいた少女マンガによって雛様=ホラーの象徴に…

 ここで! 

▼80年代に女子を震え上がらせたお雛様ホラー少女マンガ3選▼

①『妖鬼妃伝』美内すずえ|デパートと地下鉄はホラー空間と刷り込まれた作品

 みなさんご存じ『ガラスの仮面』作者の美内先生、ちょいちょいコワイのも描いてます!

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 女子中学生のつばさは、親友ターコとデパートへ。そこで不気味な「日本人形展」を目にします。ターコは忘れ物を取りにデパートにもどり、そのまま行方不明に。数日後、ターコの遺体が発見され、不可解な状況に納得できないつばさと友人の久美は、真相を探ろうと閉店後のデパートに潜入しますが…

「りぼん」派のわたしに「なかよし」派の友だちが貸してくれたか、友だちの家で読んだと思います。「なかよし」のほうが高階良子先生とか松本洋子先生とかミステリー&ホラージャンルの層が厚かった気がします。高階作品についてはまたの機会に。この『妖鬼妃伝』、今思えば無理があったり、シュールと解釈するしかない描写もありますが、もりだくさんの要素をドラマチックに展開していくのはさすが美内先生…!(ヒロインとそれ以外の顔面偏差値の高低差も無視できない)

②『悪魔の花嫁』あしべゆうほ・14巻収録「雛の宵に」|実際、流し雛の思想やルーツを考えるとなんだかこわい

 いとこの家とか母親が行く美容院あたりに置いてあるでおなじみ『悪魔の花嫁』。1話完結で人間の業を描く、後味わろしコミックの最高峰。全編とおして、めっちゃ人死んでます。悪魔(デイモス)=喪黒福造の役割。

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 自分の不幸を流し去ろうと、美奈子の家から流し雛を持ち去った翠。悪魔の忠告を聞かず、継母と継姉への呪いを雛に込め…

『悪魔の花嫁』で起こる不可思議な事件は、もれなく疑心暗鬼やねたみ、恨みといった人間の心に起因するもの。デイモスはそんな人間の愚かさを美奈子に見せつけ、人間界を捨てさせようとしています。「雛の宵に」も、翠という不幸な境遇の子が流し雛で己の不幸の原因を流し去ろうとするのですが、やはりそこから先は欲に憑りつかれてしまう、後味悪いお話。これに限らず『悪魔の花嫁』は今も時々思い出すほどの後味エピソードが満載です。スカラベの話、ドガの「スター」の話、「蝶の葬列」、月子先生、木造冷蔵庫の話、「愛は炎の中に」「蘭の組曲」…に、にがい。そして数々の嫉妬劇に巻きこまれてきたモテ女・美奈子に流し雛はそもそも必要ないのでは。

③『有閑倶楽部』一条ゆかり・17巻収録「雛人形は眠れないの巻」|悠里に生まれなくてよかったー!

 みんなだいすきスリルとサスペンスとアクションの『有閑倶楽部』。全員超セレブの有閑倶楽部メンバーの中でも中心的存在の剣菱財閥ご令嬢・悠里が「視えちゃう」体質で、「りぼん」連載中、年に1回ぐらいホラーやオカルト話が登場していました。

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「雛人形は眠れない」は、有閑倶楽部が「りぼん」から卒業して「コーラス」に連載されていた時代の話なので90年代ですが、これは怖い。雛人形も怖いしミイラも怖い。ほかの話もそうなんだけど、どうしてあんなに怖い絵が描けるんですか一条先生!!カットも構図も、セリフの間も…一条マンガは恐怖映画です。もっと初期のころの帯留めのエピソードは叫んだもんなあ。雛人形ではないけど「愛すればこその巻」も、もう人形の絵が怖い!

※おまけ※『わたしの人形は良い人形』山岸凉子|さいこうにこわい。

 雛人形ではないけど、ホラーのクオリティは夜眠れなくなるレベル。

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 山岸先生のお耽美な絵柄で淡々と進んでいくのですが…「気配」の描写がギクッとするほど怖い。恐怖の正体が「気配」というのは思い当たるふしありますよね。気配だけならよかったのにー!

 こうして見ると日本のホラー少女マンガ+(雛)人形の親和性の高さは抜群ですが、さすがに時代とともにマッチングは難しくなってくるかもしれませんね。(『有閑倶楽部』『わたしの人形』思い出したら怖すぎてあらすじ書けませんでした。このあと眠れない宣言)

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