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真鶴ローカルフォト番外編:どんど焼きを観に行く

「どんど焼き、観に行きませんか?真鶴まで。きっと楽しいですよ。」
急な仕事にテンパってる最中にそんなお誘いが来た。それもどんど焼き前日に…
行っても良いけどこれ終わらせないと無理と思いつつ、何となく行くんだろうなとも思った。
結局、仕事はざっくり片付けてロマンスカーの予約をした。
新宿からカップルと家族連れで、ほぼ満席のロマンスカーに一人で乗って真鶴を目指した。

思い出のパズル
真鶴は子供の頃、父親のスバルで遊びに連れて行かれた街だった。大人になりそのことはすっかり忘れていた。そう真鶴でのローカルフォト講座に参加するまでは。
曖昧だった思い出は街を歩いていて次第に形を成していき、不意に記憶のパズルがカチリとはまった。ああ、ここだった。子供のころ、父親に何度か連れて来られた海の街だ。
あれから半世紀も経てば人も景色も変わるのが当然。賑やかだった商店街は静かに店を閉じていたりしたが、坂道の途中で振り返って見た港は記憶の断片と重なりすごく懐かしかったのだ。
その後、何となくご縁がある様な気がして年に一度、真鶴に写真を撮りに行くローカルフォト講座を受講し始めた。

ローカルフォトってなにするの?
真鶴で暮らし働く人に会って、お話を聞き、働く人のポートレートを撮る。
事前の座学ではコミュニティと写真の関わり、写真とメディアの変遷、現地に関わる方々による講義、写真史的なことも学び現地で撮影実習及び写真講評をする講座である。
実は自分にとってハードルが高い内容だった。
まず人を撮るのが苦手。人の顔にフォーカスすることが、何となく怖くて出来ない…
インタビューも苦手、決定的瞬間なんて大体逃す。鈍臭いくせに飽きっぽいから集中も切れる。ほぼほぼ、適性がないと言っても過言ではない。

では何故、やろうと思ったか。そんなの、面倒くさいだけなのに。
確かに面倒だけど、多分私は苦手意識と向き合ってみたかった。明るく閉じてる自分を開きたかったと言えば聞こえは良さそうだけど、他人との付き合い方を見直し作り直したかった。仕事しかしてこなかった時間とは違う作法で人と繋がること。
今にして思えばふるまいを変えたいと思ったのかもしれない。
子供の頃の思い出とリタイヤ後の学びが結びつく。思えば真鶴とは不思議なご縁で繋がっている。

別に無理してカッコいい写真じゃなくて良いのだ。大事なことはそこにいる人の物語を読むこと。その人を通して街と繋がること。何より自分の好奇心に忠実な方が良い。
笑顔だったり、ちょっと怒っているような、照れているような表情。その瞬間に垣間見えるその人の物語を読む。ほんの数行でしかなくても、耳をすませ体温を感じること。
この時、自分の心が開かないと相手の物語は読めない。結局は自分と向き合うことでもあるかも知れない。
自分が見て素敵だと思った瞬間を切り取って写真に物語らせる。そういう写真は大概カッコいいのが不思議なんだけど。

お囃子の練習を見せて頂く。太鼓の音が心地よく海辺に響く。
火をつける手順の打ち合わせ中。だるまやお飾りが積み上がっている。



どんど焼きに明るい未来?はある
真鶴町は神奈川県内における過疎地指定されながらもしぶとく元気に見える。
どんど焼き当日、お焚き上げが近づくと近所の人たちが家族を伴って集まり、そこここで歓談の輪ができていた。幼稚園で作った紅白の餅花を持ってくる子供もいた。
海辺に組み上がった竹の櫓は、地元の男衆が刈り取った竹で作られている。お囃子も含め、全ては地元有志に支えられて成り立っている行事である。それが特別と言うわけでもなく、日常として継承されている様子が好もしい。
竹で組まれた櫓にはランダムに大小のだるまが取り付けられ、青空との対比が美しい。今年はてっぺんのだるまが神社の方向に向いてくれず、苦労したというお話を地元の人に聞くのも楽しかった。

点火前に、男衆が櫓の裾にある海に向かい設られた祭壇に整列、礼儀を糺し、御神酒を頂く。その様子はどんど焼きがただの行事ではなく、一年の無事を祈る大切な神事でもあることを意識させた。
お囃子が鳴り響く中、櫓に火がくべられ炎が上がった。燃え上がる炎と煙に伴われ、それを見上げる人々の祈りが天に昇っていく様にも見えた。
この間もご近所の歓談は続き、子供たちもその輪に加わっている。その様子は冬の午後の日差しの中で穏やかで優しく明るかった。

いくら文明が進歩しても、結局のところ人の振る舞いや願いはそうそう変わるものではない。行事に込められた想いが変わることがないのと同じかもしれない。
美しい冬の空に登っていく煙を見上げながら、土地と繋がる安堵感にふわりと包まれたような気がした。そう、何とかなるから大丈夫みたいな感じ。
近道だからと言われて漁港の脇にある階段を登りきったら、瓦屋根の上にとらねこが1匹、空を見つめていた。その様子はシーサーみたいに見えた。

帰りがけ、友人と駅に向かって歩きながら「うーん、どうする?」と言いつつ、駅前のKennyでうずわピザと生ビールでサクっと乾杯して帰宅。
やっと真っ当な関係人口になれた気がして嬉しくなった。
諸縁吉祥、笑門来福、今年も楽しく笑っていこう😊

櫓下に設けられた祭壇。海に向いていた。御神酒は点火前にお清めとして頂く。
櫓に向かって礼。安全祈願🙏
点火が始まるとあっという間に燃え上がった。
燃えている間、ずっとお囃子が聞こえていた。
熾火でお餅を炙って食べると風邪予防になり、灰は家の周りに撒くと病避けにもなるという。
凛々しい顔で周囲を睥睨してる様にも見える。

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