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このカバーがすごい!(名曲カバー10選)



開幕から余談だが、昨今の音楽では、サンプリングやオマージュによって過去の名曲が再利用、再評価されることが頻繁に見受けられる。アーティストの許諾を得ない場合はトラブルにつながることもあったり、飽和な音楽市場の中で行われる再生産により「パクリ」と揶揄されることもあり、肯定的な面だけではないのが現状だ。

さて、本記事ではそのサンプリングやオマージュの前段階、もしくはもう一つ進んだ段階ともいえる「カバー」についての記事だ。

余りにも我々が昨今聴取する音楽では当たり前の文化(10〜30代は歌ってみたが身近だろう)なので忘れがちだが、曲を広めることに関しては、サンプリングやオマージュに引けを取らないどころか最もその効力を発揮する。なんてったって演奏、アレンジする人間が変わるだけで他は普遍なのだから。

ある人は元のアーティストの意向、特徴を忠実に再現してみたり、またある人は全く異なった視点から曲を解体し、アレンジすることもある(remixとさほど変わらないかもしれない)。

今回は、そのようなcoverの面白い試みを存分に感じる、名coverをいくつか紹介してみたいと思う。

選出するのは基本的にオリジナル曲を出しているアーティストによる他のアーティストのcoverに限定した。
歌ってみた界隈にも面白いのがあるのだろうが、個人的にそそられない。トリビュートは良いものが多すぎるので、今回は外した。
ジャズのような、スタンダードナンバーとして演奏する行為も今回はカバーの一例として採用している。


クラムボン「サマーヌード」(original:真心ブラザーズ)

クラムボンのカバーアルバムに収録されている真心ブラザーズ「サマーヌード」のカバー。
極度に脱力した演奏であり、途中で演奏が止まったり、雑談があったり、アレンジが足されていったりと自由闊達なアレンジとなっている。なんといっても原曲の力強い演奏とはかけ離れた、アコースティックかつローファイなテイストに料理するクラムボンの才覚に驚かされる。収録アルバムの他の曲もカバーの選曲、アレンジ共に冴え渡っているので、ぜひ聴いて欲しい。

角銅真実「いかれたBaby」(original:フィッシュマンズ)

フィッシュマンズの名曲のカバー。山崎まさよしやモトーラ世理奈など性別に関わらずカバーされ、広く愛されている名曲だが、今回はその中でも異質なものを選んだ。東京藝大出身の打楽器奏者/シンガーソングライターである、彼女によるカバーは、他のものとは少しスタンスが違い、歌唱として演奏される主旋律は原曲と同じだが、バックで流れるピアノのメロディは完全にオリジナルであり、簡素なアレンジによって異質な雰囲気の漂う人力remixに成功している。

Nirvana「Where Did You Sleep Last Night - live」(original:レッドベリー)

言わずと知れたNirvanaのMTV Unpluggedからの選出。原曲はアメリカの伝統的なフォークソングであり、100年以上の歴史を持つ。一応のカバー元はレッドベリーのものだが、演奏するものによって様々な顔を持つ曲だ。Nirvanaは、どうしてもバンドがその後に辿るストーリーを意識してしまいがちだが、当時の会場では、カート・コバーンの卓越したソングライティング、アレンジ、演奏の力と原曲の持つ普遍性だけが発揮されており、悲劇のロックスターという安易なストーリーに回収されない、人間の力強さが音楽を通して我々に語りかけてくる。


DEVO「(I can't get no)Satisfaction」(original:The Rolling Stones)

The Rolling Stonesの代表曲をテクノポップ・ニューウェーブバンドのDEVOがカバーしたもので、名カバーで真っ先に思いついたのがこれだった。原曲のキャッチーさを活かしながらDEVOのひねくれた脱力サウンドを発揮しており、カバー曲の理想型といえる。

Lianne La Havas
「Weird Fishes」
(original:Rediohead)

Radioheadに関しては、名カバーしかないのだが、一番普遍的かつ良アレンジのこちらを。レディへにはジャズの要素というものがもちろんふんだんに含まれているのだが、ポリリズムとそれに基なう陶酔感を持つ原曲から、ジャズ、もっといえばブラックミュージックの成分を抽出したのが、本楽曲の説明といえるだろうか。個人的にレディへのカバーには、女性のヴォーカルがよく合うと感じる。それは、本家本元のトムヨークの歌唱に同じ男性による歌唱は分が悪いというのもあるが、女性の声ならではの、儚さと艶かしさ、それらを経由して迫ってくる覇気が、どこか冷めた印象のあるレディへの楽曲に新たな陽を当てているのかもしれない。


Goose house 「創聖のアクエリオン」(original:AKINO)

歌ってみた界隈からは出さないと先ほど述べたが、これを外すわけにはいかない。一応彼らはれっきとしたプロなのでセーフなはず……。
このカバー、もといこの動画は筆者がYouTubeの動画を見始めて、最初に好きになった動画であり思い入れが強い。また、SNSや動画サイトでの「歌ってみた」特有の雰囲気とは違い、YouTube黎明期特有のDIY感がすごく良い。

星野源、高田漣「薔薇と野獣」(original:細野晴臣)

細野晴臣の1st収録曲の白眉を星野源と高田渡の息子、高田漣がカバーした一曲。星野源は特にYMO並びにメンバーの関わった諸作に影響を受け、親交も深い。楽曲をカバーすることは誰にでも開かれているものだが、薔薇と野獣は難易度が高く、楽曲に込められた意匠も本記事で紹介する中で最も入り組んでいるといえる。よって、細野晴臣本人と近しい彼らだからこそできるカバー、というとなんだか胡散臭いが、楽曲として成立するに足りる技量を持った人間、つまりアーティストによるアーティストの模倣やリスペクトを最も意識させられる楽曲といえる。

Poppy Ajudha 「Watermelon  Man(under the sun)」(original:Herbie Hancock)

ハービーハンコックの代表曲をサウスロンドンのジャズシーンで活躍するネオソウルシンガー、Poppy Ajudhaがカバーした一曲。原曲であるWatermelon Manも元々は、通常のジャズアレンジだったが、ハービーハンコック本人が1973年作「headhunters」においてジャズ・ファンクアレンジしており、今回のカバーの原曲はそれが元となっている。様々なシンガーやジャズマンがアレンジしてきた名曲であるが、彼女はその上に自分の色を重ね塗りし、新たな解釈を見出したといえる。後半になって、原曲のイントロダクションのメロディを挿入する才覚はヒップホップ的であり、歴史に負けぬ「個」の力を感じる。

柳瀬二郎「時の旅人」合唱曲

betcoverのフロントマン、柳瀬二郎が合唱曲の代表曲、時の旅人をカバーしたもの。これは私情でしかないが、個人的に合唱曲が好きで、かつロックサウンドによるアレンジというのが琴線に触れた。というか、心のどこかで好きな合唱曲のロックアレンジというのをどこか夢見ていて、それが目の前に顕現したといったを方が正しいだろうか。

有吉弘行「青空」(original:THE BLUE HEARTS)

水ダウで知られる、藤井健太郎が企画する「クイズ☆正解は一年後」にて、出演レギュラーが参加したブルーハーツトリビュートの中の一曲。流石ミリオンセラー歌手なだけあって、有吉の素朴な歌唱が非常に良い。今やテレビのトップに登り詰めた彼が、歌の中だけであっては爽やかな要素を失っていないことが、なんとも良いギャップを生んでいる。



サブスクにあるカバー曲と原曲のプレイリストはここに……


以上、稚拙な文章ですがご覧いただきありがとうございました。




番外編:human beatbox cover

完全に趣味の領域です。

モーネスキンのカバー

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