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「箱入り息子の恋」はエロい

「ホニャララの恋」ってしとけばとりあえずフィクションのタイトルになる説ある。と、「フランケンシュタインの恋」を見ながら思う。
古今東西みんなラブストーリーが大好き。別に男女でなくとも。もしかしたら昨今、男女ではない方が、殊に。
待受をGQの表紙にしたらスマホ開くたびに呻く類の人間になってしまいました。ほんとに品がよくて芯の通った立ち姿ですごい。こんばんは。

今日はタイトルの通り…というか綾野さん以外の映画も見てますアピールのために(?)盟友(?)源ちゃんさんの若かりし日の主演作を引っ張ってきました。
そんなに若くもないか。ノン子のときのほうが若いか。中の人のリアル二十代の頃はあんな感じではちゃめちゃカワイイということがわかったんですが、シマカズミはあれに比べると二十代でも相当オトナだな、とやや失礼なことを考えてしまいました(香坂回想の志摩は20代のはず…ギリギリ)

「箱入り息子の恋」、結構テンプレ的な純愛かと思いきや、思ってたのと違う…というか、いい期待の裏切られ方をしたので、そこに言及したくなりまして。

見た人! はい!(挙手)
思いませんでした?
エロくなかったですか???
いやそう、このタイトルでこの雰囲気、このサムネでベッドシーンが2回もあるとは全く予測してなかったんですが、ありました。結構な山場で、言い訳のできない状況で始まるものだから、ははあこれはただ童貞を茶化していじる映画じゃねえんだなと思い直しました。

2013年の映画なので、今の基準から考えるとそんな言い方する?(すべきではない)みたいな言い回しが結構あって、父親の言う「結婚してまともな人間になってくれ」とかは8年前でギリギリ、いや8年前でも割と厳しい、このまえなんかそんなことを地上波で垂れ流してたドラマがあったみたいで案の定炎上していてなんとも言えない気分になった……と普段そんなに言葉尻にうるさくない自分も引っかかる部分は多々あったのですが、過去の価値観は過去の価値観として今と切り離せるし、そうした価値観に基づくからこそ主人公の親は代理見合いというイベントに出向くわけで、このあたりは演出としてまあね…と納得できる範疇ではあった。どんなにフィクションの中の言葉が綺麗になっても、現実がこれじゃあね…みたいなこともままあるので。そういうとこややセンシティブな表現があるので、これから視聴ですという方はご留意を。

箱入り息子こと健太郎、我らが源さんはこの映画でこの年の新人賞を(地獄でなぜ悪いと併せて)わりと総なめにしてるみたいなんですが、わかる。
初主演作でこんなに鮮烈な印象を残すなら納得でもある。特に女性ファン、めちゃくちゃ増えたんじゃないでしょうか。
地味で内向的な公務員が恋をして、そこからの気遣いと行動力の表出もさることながら、なにより少しずつ自分のことを好きになる過程がものすごく上手かった。ストーリーにやや突飛なところがあって、終盤の叫び出すシーンや職場の女の子と謎の恋愛相談をするシーンは戯画的な表象に陥ってしまっているにせよ、硬い殻に閉じこもっていた独身男性が恋愛を通じて少しだけものの見方を変えていく描写は、誤魔化しのない良いものだったような気がします。それを何より星野源という人が体現してくれていたので、思ったより高齢童貞を茶化す露悪的な側面が鳴りを潜めていたというか、いわゆる「恋愛啓蒙」的な押し付けを(してないとは言わないにせよ)うまく主題から逸らしたなーという印象を得ました。

恋愛至上主義には辟易するけど、別に恋愛はしてもいいししてなくてもよくて、しないって言ったからしちゃダメなことはない。何かを好きになって人生が良くなるならいいと思うよ、というメッセージ性は、もしかしたら製作側が意図したものではないかもしれないけど、星野源氏の演じ方としてなんとなく感じ取れたので、最後まで見ることができた。彼女の親と会うシーン、あそこの啖呵はとても素敵でした。よく言った、と思ったし、みんな好きになっちゃうよね。知性派のキャラ付けらしい名シーンでした。

本題に入ると、この映画はカテゴリ的にはコメディとされてたけど、割としっかり恋と欲を描いているのでラブコメにしてはやや重めです。もちろん笑えるシーンもたくさんあるんだけど、そもそも盲目女性に恋をする設定の時点で「よりかかる」部分が非常に多いわけで、ちょっと付き合ってお互いに可愛い嘘をついて楽しい思いをして別れて、とはいかないんですが、こういう「負い目」を「自分にも欠点はたくさんある」と真正面からカバーする健太郎のキャラクターは、普通に掛け値なしにいい男でした。オカン正解なんよなあ。いい男なんですよ。前半で散々非モテ、童貞、地味、ゲーマー、引きこもり、カエルと話してる(?)などと露悪的な紹介をされまくったせいで視聴者にもその前提が共有されちゃうんだけど、顔は可愛いし(眼鏡からコンタクトに変えたシーンめっちゃ可愛かったね)、何より紳士的でいい奴なので、まあ身を置いてきた環境がよろしくなかったか、学生時代に尖り過ぎて孤立したかのどちらかだろうな、と踏んでいる。
あと脱いだらすごい。脱ぐシーン2回もあるって聞いてない。こういうところは大人の恋ならではですね。もっとこう、指一本触れられずに2時間モダモダやってるかと思ったけど、変にひよらないところは良かったなあと。失敗はしてるんだけど、失敗してしまったと素直に申告するところ、状態の良し悪しを打ち明けたり相手の状態を考えてその先を決めたり、細かいところに欲と愛情を感じる良いベッドシーンで、エロスってこういうことだよなあとしみじみ感動しました。独善的な性行為がスタンダードな性表現として扱われがちな中、稀なくらい丁寧に行為を描いた名シーンだと思う。とくに邦画は普段、もっとふわっとさせるか、もっとハードに暴力的に描くかの二択が多いので、いい塩梅でした。このへんは監督の撮り方が良いのかな。シーツを頭から被った中で、という舞台演出もよかったです。箱ではなく繭のような。膜のひとつ内側に、大事な人を迎え入れるような。考えたらあの部屋は彼女の部屋なので、彼女の「見えない世界」にすこしだけ踏み込んだというメタファーなのかもしれないですね。距離が近過ぎても、光を遮っても、視野が狭くなって見えなくなってしまう。頼りになるのは匂いと、音と、感触。それを伝えるラブシーンだったので、突飛な成り行きとは別に良いシーンだったと自分は思いました。しかし不法侵入の上に関係するとは、親目線からするとたまったもんじゃなさそう。ロミジュリ意識し過ぎかなーとは思った。まあロミジュリ踏襲しとけば恋愛フィクションとしてハズレはしないから…
ロミジュリにしてはマキューシオがいないんですが、健太郎さんの交友関係が謎すぎます。あのヤリマン疑惑の女の子もいい味出してたけど、あの子の描写はなんとかならんかったもんかなあ。好きな人にはブス呼ばわりされてたし、そういうとこの言葉遣い、脇のキャラクターの設定にやや粗雑さを感じたのが惜しいといえば惜しいポイントでした。高圧的な社長も結局何してる人かわかんないから、ただただ老害おじさんに成り果ててたし。大杉漣さんがお元気で泣きそうになったけどそれはそれ。健太郎と菜穂子に当てたような繊細でやさしいスポットライトを他の人にも少しでいいから分けられなかったか、というのがやや惜しい。そこだけテンプレ的で、記号的なんですよね。

ただトータルとしては見て良かったです。人物もゴチャゴチャしてないので、サクッと見て役者・星野源の存在感を感じ取るにはもってこいな作品でした。
これを経ての「逃げ恥」、さらには「引っ越し大名」なので、源さんが役作りの上でこの作品から得たものをめちゃくちゃ投球してる、というのを感じられました。でもやっぱり平匡さんと健太郎は全然違ってて、そこも星野源っていう変態的才能のなせる技なんだなと思うとフフッてなります。
星野源って人は私にとって「古参の前川さんP」という印象を結局拭いきれずにここまで来てるんですけど、これだけ日本中から、それこそ老若男女問わず愛されてモテるのに、モテない、という役をしれっと演じてしまう演者ぶりに深く項垂れます。さりげに志摩みたいな、モテの権化みたいな、女子ウケの塊みたいな男も捜一時代に「忙しすぎて振られた」っていう設定があったところ、この上なく「星野源の演じる男」みがあって好きです。なぜ。なぜなの。

すぐ綾野さんの話をするんですが、反面「モテない綾野さん」の役は見たことがない気がするので、どなたか「モテない綾野さん」を知ってたら教えてください。あの勝地涼を非モテ童貞に貶めた「シュアリーサムデイ」ですら「出会って5秒で女を落とす男」と言われていたので綾野剛と非モテの可能性を探りたくなってしまった。なんやねんそれは。小栗旬の綾野剛観どないなってんねん。ごちそうさまでした。

これは書いとかないと! という映画の感想文をワーワーワー書くので、つぎはなんかまた書きたくなったものについて書こうと思います。感想文楽しいです。採点されないレポートみたい。
またよろしくどうぞ。では。

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