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King of kings 2018 現場レポート

何それ?という方へ:「MCバトル」というのは、ラップの技術や言葉によって勝敗を争うエンターテイメントです。フリースタイルダンジョンを見た事がある方は、あれです。

毎年「各大会のチャンピオンが戦ったら誰が勝つのか知りたい」という漢 aka Gamiの欲求により2015年に始まった「日本一を決めるMCバトル」通称KOK 2018大会に行ってきました。大会全体を振り返る記事があまりない為、朧げな記憶の中書き記したいと思います。
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第1章 KOKという大会について

1, 日本一の大会なのか?
理想と現実がある。日本一でありたいという野望の元にできた大会は賞金日本一の300万円。しかし、大会規模で言えば、正直戦極UMBの方が参加MCの層が厚く、勝つのが難しい。伝統も含めればUMBのチャンピオンがまだ日本一のイメージが強い。それらのチャンピオンが集う大会のはずが、半分は「予選」という地方大会の勝者。KOKの予選は実際、48もあるUMB予選並みの規模で、それに勝てば本戦に出られてしまう。今回も東京、大阪はまだしも、福島と小倉で行われた予選は規模も小さくレベルもやはり高く無かった。それだったら、UMBのベスト4や戦極も18章だけでなく17章のチャンピオンGILの方が、参加者として圧倒的に相応しい。「厳選された実力日本トップの16名」が参加してこそだが、現実はまだ遠い。
一方でKOKの良さは、何と言っても「バトルが集中して行われる環境」を重視している点。
 1)バトル以外のライブなどを間に行わない。
 2)MCの集中力を大事にする為にバトルの合間を空けず、短い時間で終わらせる。
 などの工夫をしている。これは完全にUMBに対するアンチテーゼで、「全国都道府県の代表から1番を決める」がコンセプトのUMBは48名という3倍の人数でトーナメントをする為、長いと5時間という無茶苦茶なイベントになる。MCのレベルもバラバラな為、確実に中だるみが起きるのも特徴だ。見る側としても、KOKの方が有難い。
2, これまでのKOK
大会としては、実はかなり未熟な運営であった事は問題になった。特に2016年は「DJが小節数を間違え途中で止めてしまう」と「司会が票数の数え間違いをし延長すべき所を敗退にさせてしまう」という大失態を続けて行ってしまう。それをバトル中に輪入道にディスられるという恥ずかしい事態に。責任者DarthRaderが退任するなど、運営側も真摯に反省を見せ、さあどうなるかとなった2017年は「おおむね改善した」ものの、決勝戦の観客投票の判断が物議を醸し出した。人により「GADOROが多かった」「mol53が多かった」という難しい状態で司会MASTERは全て「ドロー」と確定させるも、明らかに迷った態度が見えた事もあり、意見が飛び交った。またこの決勝戦では因縁対決ながら「フリースタイルダンジョンに出ているGADORO」対「絶対出ないと宣言したmol53」の対決に対して、審査員であるダンジョンオーガナイザーのZeebraが4試合全てGADOROに上げた事も話題になった。
3, 今大会の注目ポイント
・過去に問題となった運営側の改善点

 >システムに大きな変更は無かった。審査員4名+観客投票1票で3票取った方の勝ち。そうでなければ決着まで延長。
 >審査員が変わった!漢 aka Gamiに代わり、Ken the 390が審査員に。これはこれで複雑で、 1)審査員が結局全員フリースタイルダンジョン関係者 = 積極的に関わっているメンバー(呂布カルマ、輪入道)が有利になるのでは? 2)Zeebraそのまま = RAWAXXX(旧名 mol53)がやはり不利なのでは? 3)Ken the 390を公でディスしたSIMON JAPに対してはどういう判定が下されるのか? などなど。
・オープニングアクトは?
 >前回2017のオープニングは個人的に素晴らしかったと思う。Hip Hop4大要素を全てステージ上で表現し、文化に対するリスペクトを表現した。今回は、(大麻で捕まったばかりの)D.O. feat 漢 aka Gamiの新曲披露という、身内ネタであったのが少し残念。でも演奏と共に流されたMVはかなり良く目が潤んだ。
・参加MCへの注目度
 >前回は大本命mol53、対抗馬ふぁんく、不安と期待のGADORO、大人気MU-TONという様相。この中で唯一ドラマ性があった組み合わせが「引退を宣言したGADOROは、最後の最後に因縁の相手mol53と戦う事があるのか?」というもの。同じ宮崎出身で「お互い大嫌い」という2人がぶつかるのかどうか、という期待が、結局判定に大きく影響を及ぼし、「望むべくして実現した」決勝戦となった。
 >今回はそういったわかりやすいストーリーが無いだろう、、、と思われる中、直前の12月に大きな事件が。大阪SPOTLIGHTの決勝戦で呂布カルマvsRAWAXXX(mol53)の戦いとなり、呂布カルマが勝つもののその時に発言した「お前借金してんだろ」という言葉に対し、試合後も2人は控え室でヒートアップ。優勝者をインタビューに来たKOKのカメラ前でかなりリアルな論争を繰り広げる。主催者側としては「オイシイ話」な為早速紹介ビデオを編集し直して再アップ。当日の観客になる人々へのドラマ提起を行う。
 >これの問題点は大きくて、観客が「その組み合わせを期待してしまう」のだ。前回も結局それにより実現したGADORO vs mol53。両者実力者な為確かに面白いし何もなくても当たるかもしれない。しかし、微妙な判定の場合、観客が「その組み合わせが見たくて」票を入れてしまう事は、その対戦相手にとっては不幸でしかない。主催者側がそれを十分に踏まえた上でRAWAXXXと呂布カルマを別ブロックに移した時点で、主催と観客の共犯関係は確立してしまった。特定のドラマの無い他のMCへの不利が出来上がってしまった。

第2章 各試合レポート


1, NAIKA MC vs CIMA
毎回思うが、KOKのトーナメントは、メンバー見て恣意的に決めている。それを確信する組み合わせ。
UMB2016チャンプでもあるNAIKA MCは、そのバイブスの高さとキャラクターによりベストバウトメーカーとして知られている。去年のKOKベストバウトも、間違いなく第一回戦第一試合のNAIKA MC vs Gadoro。その再現をしてもらい、スパンの短い本大会を最初から盛り上げてもらおうとする主催側の期待がありありと見える。
今回Gadoroが出場しない中、その相手に誰が相応しいか、試合を盛り上げる意味で間違いなく「選ばれた」のがCIMAだ。Boil Rhymeのユニット名、熱韻のあだ名を持つ彼もまた、ベストバウトメーカー。2人ともけして客を退屈させないという信頼も見て取れる。前回同様「この試合で勝った方が行くのかも!?」という客側の期待、そして両者大歓声の中試合は始まった。
「わっさKOK調子どうー!?」じゃんけんに勝って自ら先行を選んだnaika mcは客の99%が期待するお約束フレーズを、期待通りに披露。否応無く盛り上がる会場。自ら作ったお約束を自ら果たし、客の期待を理解し利用する。NAIKA MCが(風貌とキャラに似つかず)如何にクレバーなラッパーかはよくわかる。一方でその弱点は「役割を果たさずにいられない」責任感であり、時々それは勝つ事を邪魔する。予想通りに展開される1st verseに、百戦錬磨のCIMAが準備できているのは明白で「お前いつもそれしかない」と会場納得の反撃スタート。試合はCIMAの「ノリノリのフローで盛り上げながら決めてくる韻」への期待とNAIKA MCの「必ず盛り上がるパンチライン」への期待に、どちらがしっかりと答えるか、という勝負になった。MCバトルの難しい所がここで、有名MCともなると客は必ず「期待」を持って見てしまう。それが果たされない時、そのMCへの評価は下がり「期待していなかったMCが意外と良かった」という理由で相手を勝たせたりもする。どちらが良かった、うまかった、よりも「期待と驚き」のインパクトが上回るのだ。有名MCが負ける試合の多くが、実はこのパターン。
今回の試合は「変わらずノリノリのCIMA」と「前回ほどのパンチラインがなかったNAIKA MC」という比べ方で、決着したように思えた。その意味では、NAIKA MCは今後も非常に難しい立場に置かれると共に、MCバトルで必ず見たい一人として「必要とされ続ける」ように思う。その閾値をどこかで超えれば日本トップクラスと呼ばれるようになり得る。それを先に示した男が、この後1回戦最後に出てくるのだから。
2, ミメイ vs MU-TON
結果から言ってしまうと、気の毒な程のワンサイドゲームになってしまった。何より、それを感じたミメイ自身が自分のバースで「ワンサイドゲーム」という言葉を使ってしまっている。それくらい「戦う前から決まっていた」結果ながら、「戦ってみると予想を遥かに上回る圧勝劇」として、MU-TONが放った「メイウェザー 対 那須川天心」の試合のようだった。違いがあるとすれば、観客の人気も圧倒的にMU-TON側にあったという点。
・元々人気者な上に、年末に「UMBを取ってしまった」男は、余裕とノリが桁違いだった。何を言っても盛り上がる会場。相変わらず「何を言っているかわからない」のにカッコいいフローにウットリ、8小節の最後に締める「わかる一言」で歓声が飛び交う。今大会屈指の人気者、かつ完璧な実績を引き下げた男に会場は従うだけだった。
・ミメイからしてみれば、こんなにも辛い試合はなかったように思う。10代のバトルファンが好む長い韻を踏む技術で定評のある二十歳のMCは、甘いマスクも含めて若者に高い人気を誇る。しかし逆に言えばそれ以外に突出する技術もなく、音源やライブといったラッパーとしての実績も薄い事から、年齢制限の無いバトルではあまり高い成績が残せていない。School of Rapという20歳以下のチャンピオンである事から出場したが、今回のような日本トップクラスのMC相手となると、誰が相手でも分が悪かったのは明白。安易に韻を踏んでも「お前それだけじゃん」と返される、バトル以外の活動がほぼ無いことも弱点と分かっている。その難しさに対する答えが用意できなかったように、見えてしまった。得意の「みんなが知らない長い韻を踏む」ことをやめて正論勝負に挑んだが、フロー、実績、人気、パンチラインで全て上回られ、為す術なかった結果。本人の苦しさと悔しさが会場の奥まで伝わってくる程だったが、この舞台に立った経験は同世代では一つ飛び出るきっかけになるに違いない。
3, HARDY vs DDS
2試合目に続いて若者の登場。第14回を数えるようになった「高校生ラップ選手権」のチャンピオンHARDYとKOK予選を勝ち抜いたDDS。
現役高校生の HARDYの実力が高い事は誰もが知っていた。もちろん実績は薄いものの音源もかっこいいものを出しているこのませたMCは、ラップの実力だけでなく立ち振る舞いも高校生を感じさせない。前の試合で若者が痛い目にあった事を微塵も感じさせない抜群のグルーブ感で先行から突っ込む。
・DDSは音源やライブでヘッズには十分知られている沖縄出身のMC。出場者からもリスペクトを得ている一人だが、バトルの実績はそこまで高くない。この大会に出た事を驚く人もいるだろう。彼のバトルで皆が記憶しているのは「同じ沖縄ならチコカリートの方がヤバかったな!」の決め台詞でR指定に完敗したフリースタイルダンジョンの一戦。いわゆる現場叩き上げであり、玄人好みのラッパーながら、低いドスの効いた声が聞き取りづらい事もあり、バトルでは勝てていなかった印象。しかし今大会、勝ち上がった東日本予選からそうだが、バトル向けに聞き取りやすさを改善していた。
・どちらもグルーブがありながら決め手に欠けたこの試合は延長となったが、これは正直乗りにくいビートのせい。hokutoビートは聞いている分にはカッコ良いが、独特の間がやり辛そうだった。延長でBPMが速くなった瞬間、両MCがノリノリになり、会場もヒートアップ!攻め続ける若さがウリのHARDYに言う事がなくなってきた印象が決め手となりDDSが2回戦へ。
4, がーどまん vs RAWAXXX
これも絶対仕組んだろ!」と疑わざるを得ない「プロレス的」組み合わせ。話が噛み合う訳のない両者のスタイルウォーズは、1回戦ベストバウトに選ぶ人も多いだろう。
カセットテープでHip Hopを聴き始めたクラシックなMC RAWAXXXに対し、CD, MD, mp3も飛び越して「Youtubeでしか聴きません」世代の代表がーどまん。
・悪いことだけやってきた、アングラ代表RAWAXXXに対して、ラッパーではなくYoutuberとして名前が知られているがーどまん
事前インタビューで「ラップをやっている意義が違いすぎる」とRAWAXXXが評した通り、同じなのは「ラップをしている」と言う事くらいしかない2人の戦い。しかし、プロップスの高いMCに大金星を上げたいがーどまんは、気合十分に先行から突っ込んでいく。ラッパーとしての実績に欠ける一方でYoutuberとして人気のあるがーどまんは、若手を除けば出場者の半分が「知らない」もう半分が「ふざけるな」と言う完全アウェイ状態。しかし西日本予選をきっちり勝ってきただけあり、フリースタイルも非常にうまく、盛り上げ方も分かっている。大阪スタイルをきっちり継承しているタイプ。バイブスで上げながら毎試合きちんと決めの韻を持っているタイプで、地元で強い理由がよくわかる。しかし今回は観客に対してもそこまで言いたい事が刺さらなかったように思う。説教くさい、接着剤、そのあとにアロンアルファ、と「ここで沸くはず」の韻が意外と盛り上がらず。
・一方のRAWAXXX aka MOL53は去年のファイナリストであり、去年は大阪のSPOTLIGHT、今年は予選を勝ち上がって出場するも、実力的には優勝候補。前回の決勝も判定でだいぶ意見が割れた事もあり、心情的にもRAWAXXXを押す空気は強かった。そう言う「客が勝たせたいと思っている空気」はMCバトルにおいて圧倒的な影響力を持っている。余程の差がつかない限りは、そう言う勝たせたい側に軍配が上がる事が多く、これがいわゆる「バトルにおけるプロップス」の正体。決して人気や知名度ではなく、「美しいストーリーへの期待度」だ。去年までの覇者GADOROはこれを圧倒的に持っていた。そこに最後は屈したRAWAXXXだが、今回それを持っているのは、間違いなく彼の方なのだ。
 そういった事を除いても、彼のワードセンスやBPMを完璧に捉えたアプローチ力、高くて聞き取りやすい声は、やはり圧倒的に優れている。がーどまんが良かっただけに、それを淡々とやり返すだけで勝利を軽く手に入れた彼の勝因は試合前から持っているモノの差だった。これにより若手3人は一回戦で敗退。
5, DARK vs BASE
人気者が続いたこれまでの試合と比べて、言い方は悪いが地味な対戦に。
・BASEはバトル好きには知られているし、人気も高い。名古屋出身で後から出てくる呂布カルマのJET CITY PEOPLE所属で、イリーガルなキャラクターがとても立っている。ザ・悪いやつという風貌としゃがれた低音ボイス、ほとんどクスリや性的な話題しかしないバトルスタイル。当然人気が割れ、万人ウケしないタイプ。
・DARKは初開催となった福島での予選覇者だが、正直レベルの高い予選では無かった為、期待はそこまで高く無かった。名前もほとんど知られておらず、彼にコメントするMCもほぼ無し。「Mu-tonと同じクルー」というのが唯一ピンとくる説明だ。
・しかし、予想以上にかっこいいDARKの先行と、この日不思議なくらいハマっていたBASEの対決はとても楽しめた。DARKの認知度は確実に上がったし、得るものは多かっただろう。しかし、バトル経験値なのか底力なのか、観客を乗せるのがうまく、最後のバースでもうまく沸かせたBASEの勝利。
6, MULBE vs 輪入道
今大会、大本命2名に対する対抗馬はMu-tonと輪入道。その輪入道の登場。実績は言うまでもなく。人気と実力、結果がここまで揃っているMCはそうはいない。全国的な大会でも常に上位、それ以下の大会となると敵無し。KOKでも一昨年のファイナリストで名勝負を繰り広げている。UMB2017 TCIYでMu-tonが名を挙げたのは、この輪入道戦で間違いない。相手の良さをとにかく引き受けまくる度量を持ち、韻もバイブスもある。人間性も素晴らしく、全くブレない。
・対するMULBEは、個人的感覚ではDDSと同じく「現場での実績が高いがバトルにはそこまで出ていない」タイプ。キャリアが長いことから出場MCの多くと親交があり、リスペクトされている。今年はバトルの主な大会に出まくっており「全部惜しい!」と言うシルバーコレクターに。しかし年末のENTA DA STAGEでついに優勝して出場。
・試合の相性は実はMULBE有利。輪入道の唯一の弱点は「自分に正直すぎる」為、良いMCには嫌なこと言えない点。どんな相手でも仮面をつけて相手を100%粉々にできる呂布カルマと違い、バトル中に相手を褒めたり、勝つためには不必要だがすべきと思った会話を始めたり、それが人気の理由でもある難しさ。
 この試合でも早速MULBEに「お前引きつった顔してるじゃん、調子悪いの?」と突っ込まれるも「そりゃそうだよ、一回戦目からあんたを倒さなきゃなんねえんだから」とアンサー。今回から採用された両者の顔を映すカメラにより本当に神妙な顔をした輪入道が映し出される。本当に良いやつなんだなあ。。。二人の出会いであった思い出の「池袋BED」が閉まる事をトピックに、この大会一番のピースフルでリスペクト溢れる戦いを繰り広げる。勝ちたいのならば邪魔だが、こう言う瞬間があるから輪入道もまた、名大会に欠かせない逸材でもある。かっこよかったのが、おきまりのセリフ「レペゼン千葉」を言うときに「千葉」だけマイクを離して言い放った瞬間。相手MCはもちろん、会場中がこのフレーズを知っている為、そのまま言ってもマイナスにしかならないと判断した輪入道のとっさの判断(もしくは作戦)は、観客への最高のサプライズとなる。大きな歓声が上がり、そのまま輪入道が勝利。
7, PONY vs 智大
ベテラン同士の対決。玄人好みの戦いとなった。
・PONYはかつてB-boy Parkのバトルで優勝したことで名を挙げた古豪。もう7年も前。ヘッズには良く知られている山梨を背負うMCだが、以降大舞台では勝てていない。フリースタイルダンジョンでも完敗し「クリティカルヒッターズ」と自虐的に呼んでいた程。フローが上手で音楽性の高さが定評がある一方で、誰にでもわかりやすいパンチラインを出すタイプではない。韻もわかりやすく踏まない。あくまでビートに乗るためのラップ、と言うスタイルがバトルで結果が出にくく、本来実力で劣る若手相手でもコロッと負けてしまう時がある。今回は「もう怒らない」を盛んにテーマにして挑んでいた。mu-tonとのバトルで怒ってしまって負けた事を奥さんに言われて反省したらしい。。。かわいいエピソード。
・智大(ちひろ)は九州では名が通ったMC。個人的には「まだバトルしていたんだ」と言う印象で、バトルに頼らずとも十分なキャリアを持っているラッパー。対戦相手からも多くリスペクトあるコメントを受けていた。
・試合は「勝ちにきた」智大と「自分を保ちたい」Ponyの対決と言う印象。思ってないけど勝つためには仕方ない、と言う感情が伝わりつつの智大のきついディスに対して「怒らない」をテーマに決めたPonyがなんとか返す構図。しかし、そのテーマそんなに抱え込む必要あるのか?と言う程、方向が観客でも相手でもなく自分に向いており、相変わらずフローが良いがちょっと自滅した感のあるPony。ディスられ続けるので最後ディスり返しちゃった所も含めて、観客はポカーーんとした感覚。
8,呂布カルマ vs SIMON JAP
ついに出てきた呂布カルマ
は、本大会においては確実にラスボス感溢れていた。そもそもが大本命と言われた今年、事前インタビューでも「敵無し」と言う自信に溢れていた。確かにメンツ的に優勝候補となるのはRAWAXXX, Mu-ton, 輪入道だが、その誰よりも「格上」感があり、実力でも上である事は、決して本人のバイアスでは無い。最有力のRAWAXXXにSPOTLIGHTで勝っていたことも尚更説得力を増していた。
・一方のSimon Japは、一時期はバトルを引退したベテランながら、最近はダンジョンやMurder GPなどで活躍し、もう一度名を知らしめているラッパー。かつての悪ガキノリを武器に、気弱な若手には怖さで勝ち、強い相手には韻の連打で戦うと言う器用なタイプ。今のバトルシーンでも独特のポジションをキープしている。この年齢(40歳)でこれだけ即興ができる事は驚異的だと思うものの、今回はちょっと相手が悪すぎた感がある。
・期待通りの両者。会場の期待値を完全に理解している呂布カルマは「俺の登場 会場全体に走る緊張」と見事な表現で自分の立ち位置を表現。わざわざ相手をディスる必要なく、既に持っている自分の存在感を示せば自然と勝てると言う事を確信した横綱相撲。呂布カルマは本当に器用なタイプで、大会ごと、相手ごとにやり方を変えられる。攻めるところがあれば徹底的に攻め、何もしなくても勝てる相手なら、その事を言葉にするだけで勝つ。元々の独特のセンスに加え、長いラッパーとしてのキャリア、バトルブームの中を完全に泳ぎ切った自信、タイミング的に今が自分である事を完全に理解している客観性。King of Kingsと言う大会において、皇帝としての振る舞いを見せる。冷静に見れば、それ程素晴らしいバースやテクニック、期待値である震えるようなパンチラインを出していないものの、初戦は正直「省エネで勝った」とも言える勝ち方。ウサインボルトのオリンピック予選の力の抜き方を思い出した。散々ディスをし「お前はストリートじゃねえ」と言ってきたSIMON JAPに「今度でる曲、お前俺をフィーチャリングしてるじゃん」の一言で叩き切った。フィーチャリングしてるんかい、、、そんな穴を塞がずに攻めてたSIMON JAPがお茶目に見える。ダンジョン特番で揉めていたジャッジのKen the 390へのディスを入れるのが精一杯で散る。

第一回戦の8試合は、正直「完全に順当」な結果。初戦を除けば誰もが予想する通り。ベストバウトはもちろん初戦(NAIKA MC vs CIMA)で、一番期待が上がったのがMu-ton。やはりKOKは面白い、そう言う滑り出しだった。

9, CIMA vs MU-TON
実力者と人気者の対決。初戦のNAIKAを倒したと言うオーラが、CIMAに宿っていた。一方のMU-TONもUMBを取った貫禄と一回戦を圧勝した余裕を纏う。バチバチの韻を踏んで攻めまくるCIMAに対して、飄々と返していくMU-TON。個人的には1,2バース目はMU-TONの勝ち、しかし4本目にCIMAがガツンと盛り上げた一方で、MU-TONが少し大人しく終わってしまい、全体の印象ががくんとCIMAへ傾く。本大会で引退を示唆しているMU-TONがここで敗退してしまうのはかなり忍びないが、ジャッジは冷静で間違っていないと言う印象。
10, DDS vs RAWAXXX
「昔から知っているし、リスペクトしている」RAWAXXXのコメントはそのままDDSの感情のような気がするお互いの対決。ディスり合いにはならないだろうなと言う予想通り。こう言う時はビートアプローチやフローの変化がでがちなので、技術勝負として面白くなる印象。そこまで速いラップをしない印象のDDSが見事に高速で載せていく一方で、RAWAXXXの相手を透かすような乗り方、しかし完璧に音にあうはめ方は音楽として面白かった。この試合の結果は、実力というよりは前述の「プロップス」によるもの。RAWAXXXも勝利を確定させる為に恐らく使った「呂布カルマ」の一言で、観客に「その二人の決勝が一番美しい」と印象づけさせ、決定打となった。まあ、ずるいっちゃずるいけど、仕方ない。それがMCバトルなのだ。あれだけ事前に盛り上がった宿敵の名前を出せば、ここで負けさせたく無い気持ちは働く。
11, 輪入道 vs BASE
実力者同士の対決ながら、プロップスにはやはり大きな差。観客の頭の中には、「この勝者が呂布カルマと当たる」という想定が当然行く。輪入道なら「2代目モンスター」対決。BASEなら「同じクルー同士の身内対決」。面白いのは当然前者だ。その思いが完全に乗っかった観客判定は輪入道の圧勝。しかし、ジャッジ4人の内3人がBASEに上げる。逆転でBASEの勝利。
今大会唯一(という事自体が珍しいが)評価の完全に別れた試合。しかも観客とジャッジが逆転する現象は非常に珍しい。観客はどうしても「見たい試合、勝ってほしい方」を基準に選ぶが、ジャッジはそれだけで決着するのを防ぐ為に技術的な点も含めて判定する。その差が唯一現れた試合かもしれない。BASEは普段と言うことも乗り方も変わっていなかったが、確かに後述された通り、妙にリラックスしていて、Hip Hop的な乗り方として非常にハマっていた印象。輪入道の真っ向勝負感を、少し小馬鹿にしながらいなした感じが評価されたのかもしれない。しかし、、、うーん、ちょっと納得がいかない
 とはいえ、ただでさえ「ダンジョンびいき」と言われるジャッジ4人が出演者側である輪入道を落としたと言う点では、特に意図を疑う余地は無い。また、恐らく正しい直感として、もう輪入道はバトルへの情熱がなくなってきている気がする。もう十分にやった、という感覚があるのではと。それを示唆するインタビューもあった。もしかしたら、そろそろ大会には出ないのかもしれない。
 何れにせよ、呂布カルマを倒せる可能性のあるMU-TON、輪入道が消えた事で、このあたりで既に予感が「計画」に変わり始めていた
12, 智大 vs 呂布カルマ
この試合もバチバチにディスりにきた智大だったが、もはや観客には結果を疑う状態はなかった。正直この日の呂布カルマはそこまで凄くなく、肩透かしを感じるバースも多かった。妙に韻を踏んでいたり「らしく無い」一面もあった。しかし、智大のバースに「大番狂わせ」を許していい余地も感じなかった事もあり、またやっぱり4バース目できっちりと相手の主張を潰してくる呂布カルマの器用さもあり、全員呂布カルマに上げ、順当に勝ちが決まる。
13, RAWAXXX vs CIMA
納得の実力者対決となった準決勝。しかしドラマとしてはかなり不利なCIMA。観客はもはやこの時点で例の「因縁ビデオ」が頭にこびりつき、たった1パターンの決勝しか望んでいない状態となっていた。これは本当に良く無いし、MCにかわいそう。しかしドラマが必要なのもまた真実。スポーツかエンターテイメントか、で言えば、やはりMCバトルはエンターテイメントだ
 CIMAの先行は、ラップとしてめちゃめちゃかっこよかった。一番良い時のCIMAのバイブス、ビートアプローチ、ライムが完全に揃ったイケイケの一発がヒット。「フード被り ルート確認 今年こそつくRAWAXXXに核心」観客の歓声が高まる。これ以上ない良いスタートだったが、RAWAXXXのターンになると不思議と言葉が耳に入る。声量も明らかに小さいのに、聞き取りやすくビートと完全にシンクしている言葉は説得力がある。この大会唯一の「完全に同点」感のある延長。延長が見たい延長。しかし勢いのCIMAと経験+ドラマを持っているRAWAXXXでは、武器の量により勝負が決した印象。去年のKOKを思い出す発言をするあたり、RAWAXXXは器用でずるいなーとは思うが、それも武器だ。「去年のチャンプも吠え面かくさ」
14, BASE vs 呂布カルマ
この試合のディテールはあまり意味ない。二人の仲の良さは周知だし、その上で実力とプロップスの差も周知。奇跡的なパンチラインでもあれば別だが、そもそもBASEはそれを起こすタイプでもない。なので、輪入道が負けた時点で、この試合の勝敗も決まっていた。観客含めて全員が呂布カルマ。BASEもそうだろうなぁと言う苦笑い。結局、観客が望むドラマを演じさせられる役者なのである、MCは。
15, 呂布カルマ vs RAWAXXX
本当に良くない事だが、大会側が望んで仕組んだ通りの決勝。ただジャッジに問題があったとは思わない。だが組み合わせがランダムならこんな風にはならなかったと思う。発展途上のジャンル、ビジネスとしては必要な措置だろうが、本来そうでなくても起こるドラマに信頼を寄せる事もできたと思う。UMB, 戦極はそうやってドラマを作ってきた。SPOTLIGHTで出来上がった大物同士の因縁を軸に盛り上げ、その通りに決勝を行わせる。去年も、そうだった。
 この試合も呂布カルマは「やりやすい」と思ったに違いない。一発のある輪入道、スタイルが違いすぎる上に1度負けたことのあるMU-TONと違い、RAWAXXXは、「勝ってる上に読みやすい」相手で、かつ「ラッパーとしては(俺より)ランクが上だと思っている」とコメントまでさせている相手。SPOTLIGHTの後の揉め事でも、恐らくディベート力の圧倒的に高い呂布カルマに説得された事が見て取れる。そういった大人力まで含めると、RAWAXXXはピュアすぎるかもしれない。もちろん、それが人気の理由だけど。
もう因縁はない。俺が上という事で話は付いている」呂布カルマの最初のバース。この話をここまで取ってきているのが呂布カルマの賢さだし、その前の試合までで、誰かが話を降って出させていたら、ここでの武器も1つ減っただろう。しかし、それをしてくる相手もおらず、つまづく程の対戦相手もいなかった事で、「体力満タン」で挑んだ呂布カルマ。がーどまん、DDS, CIMAと毛色の違うタイプ連発でトピックを減らされた上に、「こいつが優勝するべきだ」というドラマやパンチラインも生まれていなかったRAWAXXX。ジャッジは全員ダンジョン関係者。その1人は明確にアンチRAWAXXX。結果は延長を見る事もなく呂布カルマの完勝で終わった。

去年から戦いのトピックとなっていたTV出演に関して「いや、別にテレビが悪いとかじゃなく、かっこいいラップしてれば、それでいいんじゃないの?って言いたいだけなんだ」と残してステージを去っていく彼の姿には、孤独と、弱さ、そして美しさがあった。
完全に包囲網が敷かれていたこの戦いで精一杯のスピットをするRAWAXXXには、逆に勇者の姿があった。判官贔屓の日本人が惹かれる健気さがあった。これまでも優勝するMCには必ずこういった瞬間がある。現場の観客が誰しもこの瞬間「次はmol53(あえてこう呼ぶ)に勝たせたい」とフィールしたように思う。彼がまだバトルを続けるのかは、わからないが。

呂布カルマは、このタイミングで勝つ為に、圧倒的に条件が揃っていた。彼を脅かすMCはいないし、観客にも十分に説得力がある。ダンジョンでR指定に勝った事も(実際にあれがどちらの勝ちと思うかは置いておいて)あの大敗北への禊がすみ、ヒーローとしての資格を十分に持ちすぎていた。だからこそ、今大会自体は、そこまで面白みがあると思えなかった。サプライズが無かったからだが、それは観客の一人として、ちょっと勝手すぎる意見かもしれない。願わくは、本当に日本一だと思える16人で戦ってほしい。そうであれば、結果が誰でも、説得力は十分あると思う。偏ったメンバーだから、ドラマを作らないと盛り上がらない大会では、日本一の価値はないのである。


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