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ロシアで役者の仕事をするには ①

モスクワでの外出禁止期間中、家でひたすら映画を観ている日々ですが、何か新しい事をと思い、遅ればせながらnote、始めてみました。

新しいこと始めてみたnoteですが、最初の記事はブログに3年前くらいに5本続けて書かせて頂いた「ロシアで役者の仕事をするには」シリーズ①〜⑤を若干校正し掲載させて頂きます。

時々、日本の記事やテレビ、Youtube などで私の事を取り上げていただく機会も増えて、その度に「ロシアで役者の仕事をしたいんだけど」という問い合わせを時々頂きます。

嬉しいことに、ロシアでの役者のお仕事にまあまあ興味を持っていただいているということではないかと感じています。演劇大学への留学の問い合わせなども入れたらさらに倍くらいになります。全てに深く答えることも出来ますが、同じような質問がほとんどだったので、今後のことも考えてこのブログに一度詳しく書いておこうと思いました。

何から説明していけば良いかと迷いましたが、最も質問の内容が多かった「ロシアのドラマや映画に出たいんだけど、どうすれば良いのか」と「ロシア語はどれくらい話せなければならないのか」という部分からいきますね。まずは、

質問「 ロシアのドラマや映画にでたいんだけど、どうすれば良いのか」

答え「ほぼオーデイション」

です。普段私がロシアで役者の仕事をする時のことを例にすると、私は外国人ですから、どれくらいロシア語で台詞がしゃべれるのかや、役に対する理解度(台本がロシア語ですから、きちんとそれを理解してるかどうか)などを監督やプロデユーサーはまず知りたがります。そりゃそうですよね。何者かわけのわからない外国人といきなり現場で初対面というのは、私が監督でもそれは怖いです。
最近は私も仕事を積み重ねて来たので、一度仕事をした制作会社からの推薦で役に選ばれてテレビ局のプロデユーサーと面接とかのパターンで決まることもありますが、監督が初めての人だったりしたらほぼ100%まずはオーデイションに呼ばれます。
例えばそれがロシア人の俳優さんだとして、連続ドラマのオーデイションを突破し1本主演を張ったとします。それでも他の作品になったら主演候補の何人かまでに選ばれて最終的には監督やプロデユーサーと面接し、誰かに決めるというような流れになります。そういうのを何度かクリアして出演作も比較的評価されていって、初めてノーオーデイションで名前でメインクラスにキャステイングされるようなランクになっていきます。そういうランクの中で仕事が出来れば役者としては本当に素晴らしいことですが、そういうランクまで来てる人は本当に人間性も実力も素晴らしく、芸術家としての生き方が身についている俳優さんばかりです。

ちなみに、オーデイションが事務所の力関係やスポンサーの関係で、ほぼ出来レース、という日本の芸能界でよく聞くような話はほぼありません。これは日本の芸能界が事務所とCMスポンサーの力関係で運営されているのと違い、役者さんにとって事務所はあくまでもエージェントであって、芸能事務所的な働きをするわけではありません。仕事やオーデイションもほぼ役者個人に来ますし、契約書の名義も役者個人です。そういう役者主導の動きの中でエージェントが制作会社と契約書の締結をしたり、ギャラや待遇の交渉をしたりという、イメージ的にはスポーツ選手のエージェントに近い形です。なので、契約書とか得意なタイプのロシア人の俳優さんならエージェントなしでも十分にやっていけます。日本のように芸能事務所が所属俳優さんを管理するという話をロシアの俳優さんにしても、「えっ、それってどういうこと?」的な感じで、まずそのシステムそのものを理解できません。「仕事の方向性が合わなくて事務所辞めたら仕事干される場合がある」的な話をしても、クエスチョンマーク出まくりな顔をします。さらにびっくりするのは、キャリアのある名俳優さんとアイドルが隣に座って、お笑いタレントさんから頭を叩かれるようなバラエテイがテレビの主流だ、というのも不思議らしいです。

これはもう「日本の芸能事務所主導型のシステムとロシアの芸術システムの中の役者の立場の違い」以外の何物でもありません。「 ロシアではどうやって役者になるか 」編で、これを解説しますね。

話がそれちゃいましたが、メインクラス以外の役もほとんどがオーデイションです。私が現在(2017年夏現在)参加しているコメデイ映画「На край света」はメインキャストが全員オーデイションで選ばれました。前述のようにメインは実績を踏まえた上での首脳スタッフの誰かの推薦があった上でのオーデイションです。運良く私はそれを突破してリハーサルに臨んでいるときにも、タクシーの運転手さんの役や警察官の役など、1シーンか2シーンの役でも隣の部屋でオーデイションを行っていました。

だいたいパターンとしてメインキャストはクランクインの2ヶ月から3ヶ月前くらいにオーデイションがあります。イン直前だったり、連続ドラマ撮影中のオーデイションだったりしたら、それはメイン以外の役のオーデイションなんですね。
そもそもロシアには日本のように芸能界的な売り出しとか作戦というものがありませんから、役者さんは役者としての仕事だけで自分のランクを上げていくのです。日本のようにバラエテイ番組で面白くてCMとかでも売れてるから連続ドラマや映画の主役にいきなり選ばれるような、マスコミ的な話題性のあるキャステイング、という概念がそもそもロシアにはありません。役者はほとんどの人が役者の仕事以外はしません。それはなぜかというとロシアでの役者になるためのなり方が日本とはまったく違うという部分があるからです。

「どうやって役者の仕事をするか」の前に「どうやって役者になるか」という部分が日本とまったく違うのです。この部分はロシアで役者をやっていく上でかなり重要な部分なのです。これは前述したように「日本の芸能事務所主導型のシステムとロシアの芸術システムの中の役者の立場」の違いとも言えます。この部分は次回詳しく書きたいと思います。

そして、「ロシア語はどれくらい話せなければならないのか」

答えは「ゼロでも大丈夫かもしれない」

です。日本の俳優さんに日本や他の外国から来ていただいて出演していただく場合は、それだけの予算がある場合がほとんどですから、日本人の役、がほとんどです。ですからセリフも日本語ということが多いです。監督やスタッフとのコミュニケーションも通訳が付きますし、普段も何とかなります。少しロシア語や他の言語を喋らなければならない場合も事前に準備すれば良いことですから、それほど問題ではありません。
「ゾルゲ」の場合、オーデイションの時も日本で最初にビデオを作ってもらったのですが、セリフは日本語でした。ロシアの場合、何語でも良いので芝居がきっちりできることが重要なのです。ですから日本の俳優さんで若手ベテラン問わず、「大丈夫かな、この人の芝居」と思われてるくらいの実力なら、ロシアではかなり厳しいです。ロシアだったら俺も受けるかもしれない、とかいう考えでロシアで仕事しようと考えているとしたら、根本的に違っています。

ですから基本的な考え方としては「ロシア語よりも芝居重視」です。

その芝居重視とはどういう芝居なのか、もおいおい記したいと思っています。要するに何が必要なのか、何が出来なくてはいけないのか、の具体的な技術の部分ですね。たとえセリフが何語であろうとも、その部分を見抜く眼力は、良い監督さんであればあるほどロシアの場合かなり高いです。

そして、ロシア語に話を戻すと、ロシアの国立演劇大学に若くして入学して卒業後ロシアの劇団に入りやってやろうという若者や、日本でのキャリアを踏まえた上でこちらに移住してロシアで一発やってやろうということでしたら、通訳もつきませんしロシア人扱いになるので、ロシア語が重要になってきます。とは言うものの、私の無茶苦茶なロシア語で十分やれてるわけですから、真面目な日本人がきちんと勉強して身につけたロシア語力があれば、ロシア語に関しては問題なくやっていけると思います。

そんなわけで、第一弾はこの辺で。

第2弾は「どうやって役者になるか」すなわち、「日本の芸能事務所主導型のシステムとロシアの芸術システムの中の役者の立場」の違いについてです。

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