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越えられない壁はない~組織成長を望む非営利組織が直面する「創業者シンドローム」とは

~ソーシャルセクターの成長が、社会課題の解決を加速させ、より良い社会を築くと信じて執筆~


組織と事業を成長させ、社会課題を解決していくには当然のことながら様々な壁にぶつかると思います。そうした壁の一つに、「創業者シンドローム(Founder’s Syndrome)」(※1)というものがあります。米国では長年、非営利組織が直面する課題として取り上げられてきました。あまり聞きなれない言葉かもしれませんが、この課題は日本でも同じようにあると感じています。

1.組織成長を阻害する「創業者シンドローム(Founder’s Syndrome)」とは何か

「創業者シンドローム(Founder’s Syndrome)」(※1)についてまずは見ていきます。

・創業者(※2)が、組織(さらにミッション、ビジョン、バリュー)と一体化しているという感覚を抱いており、周りのスタッフもそのようにみなしている。
・あらゆる意思決定が、創業者に集中している。その結果、決定は迅速に行われるが、その決定に至る仮定や根拠が他のスタッフに伝わらないことがある。あるいは、常に一緒にいるなど距離が極めて近いため、自然と耳に入ってくる。
・理事会のメンバーは、創業者個人を応援する動機で就いている。
・スタッフは、年間の活動計画や予算、事業の範囲など実務上必要な情報を、創業者に聞かないと仕事を進められない。あるいは、創業者の考えがある程度精確に推測できるスタッフに限っては、独自の判断で進められる。
・創業者に、スタッフの採用や昇給、理事の変更など、あらゆる権限が集中している。

※1 Wikipediaを参考に加筆修正
https://en.wikipedia.org/wiki/Founder%27s_syndrome
※2 創業者に限らず、その後継者など組織の最高責任者を指すことが多い

2.「創業者シンドローム(Founder’s Syndrome)」には良い効果と悪い効果がある

「シンドローム(症候群)」というネガティブな名前がつけられていますが、組織運営においては決して「悪」という訳ではないと思います。それは、しばしば組織の成長ステージによって変わってきます。

アーリーステージ(創業から3~5年ぐらいまで)
創業間もないこの頃は、創業者と想いを同じくする少数のメンバーが集まって、密度も熱量も濃い時間を送ることが多くあります。
創業者の強い熱意は多くの支援者を惹き込み、組織成長の起爆剤となります。また意思決定の早さは、組織のフットワークを軽くし、多くのチャンスを手中に収めます。体制としては、創業者を中心に理事やスタッフがサポートする形になれば、1点集中で事業を進めて成果を上げられます。一方で、創業者と同じ視座で個々のスタッフが独立して動ける体制を採った場合は、多くの事業を仮説検証的に進められることで成功の可能性を高められます。
職場環境は、創業者とスタッフ及び理事の距離感も近く多くのコミュニケーションが取れ、さらに皆が似た想いで関わっていることもあって必然的に強固な信頼関係が築かれ、組織としての一体感・安心感が備わることも多くあります。このように、アーリーステージでは「創業者シンドローム(Founder’s Syndrome)」が良い形で出てくることが多くあります。

ミドルステージ or レイトステージ
組織が成長することで、事業も増え、多くの新しい人が関わってきます。
この頃は、意思決定においては、スタッフの専門的な見地からの意見やアイデアが考慮されない形での決定が増え、誤った方向に組織が進んでしまう危険性があります。また、スタッフの日常の仕事では、権限と責任がないまたは不明確なために、些細なことでも創業者に確認し判断を仰がないと進められず、組織運営のスピードが低下してしまうこともあります。さらに、理事会が創業者の追認機関と化して、ガバナンスが効かない状態になってしまうこともあります。
こうした状態が続くと、創業者とスタッフとの間に溝が生じ、お互いに不満を抱き、不信感が反発心が組織内に生まれがちになります。そうなると職場の雰囲気も重くなり、加えて仕事の成果も出にくくなることから、スタッフのモチベーションが下がるだけでなく最悪の場合は離職に至り、結果として創業者(と一部の人)が孤軍奮闘する、という構図が出来上がってしまいます。このように「創業者シンドローム(Founder’s Syndrome)」が悪い形で出てきてしまうことが多くあります。
(※全部の創業者や組織がこうなる訳ではないと思います。またステージやスタッフの人数が違ってくるケースもあります)

3.創業者という"人"中心の組織運営の限界と転換を目指して

この「創業者シンドローム(Founder’s Syndrome)」の本質は、創業者という"人"を中心とした組織運営にあるのではないかと思います。
創業者と組織(特にミッション・ビジョン・バリュー)が一体化していることから、スタッフの精神的な依り代が、また意思決定及び権限が創業者に集中していることから、実務的な依り代が、それぞれ創業者という"人"に集中していると考えられます。その結果が「創業者シンドローム(Founder’s Syndrome)」として表れてきているのではないでしょうか。
つまり、人数も事業も少なく、想いや考えがわかりあった人が集まったアーリーステージぐらいまでは、創業者が自ら決めて、自ら動くことが、そのまま組織の力に直結し、成長に繋がられます。
一方で、人数も事業も増え、様々な想いや考えの人がいるなかでは、創業者が中心となって動くだけでは、組織や事業が大きすぎて、コントロールが難しくなります。それを無理にコントロールしたり、放置したりすることで「創業者シンドローム(Founder’s Syndrome)」の悪い面が出てきてしまうと考えられます。

これを解決するためには、組織(または事業)が大きくなるにつて、精神的にも実務的にも"人"に集中している状態から変化させることが必要と考えられます。
精神的な依り代は、例えばミッション中心に転換します。このとき、ミッションは創業者だけが納得してものではなく、他のスタッフも納得しているという工夫が求められます。ミッションの理解のためのワークショップを行ったり、ミッションの再定義や詳細化を皆で行うなどが手段として考えられます。
では実務的な依り代がどうかというと、例えば権限と責任の委譲を行い、他のスタッフに分散させたり、協議で決めるといった制度を設けたりして、創業者から移していきます。このあたりは、いわゆる経営におけるリーダーシップ論や組織マネジメント論など、既存の知識やスキルの力を借りるとよいかもしれません。

こう書きながら思うのは、組織運営の転換は本当に難しく、創業者としては身が裂かれるような気持ちになることも多々あり、書くのは易し、と感じが強くあります。
ただ、「創業者シンドローム(Founder’s Syndrome)」はしばしば創業者の資質といった問題として捉われることもあるため、それでは解決が極めて難しくなってしまうのではないかという危機感を覚えています。そうではなくて、組織の仕組みの問題として捉えて解決を目指していきたいと思っています。

~ソーシャルセクターの成長が、社会課題の解決を加速させ、より良い社会を築くと信じて執筆~

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