オンラインツールで気を付けたいこと~FBの「寄付ボタン」から考える

~営利・非営利のソーシャル事業の成長が、社会課題の解決を加速させ、より良い社会を築くと信じて執筆~

最近、日本でもチャリティ・イベントが少しづつ見られるようになってきました。特に、東京及び大阪マラソンのチャリティランナー制度では、応募者自身が寄付を集め、その集めた金額によって参加資格を得られるという、いわゆる『Pear to Pear(P2P)』という支援者が支援者へ寄付のお願いをする、という仕掛けがなされています(※1)。

この「P2P」ですが、アメリカではファンドレイジングの手法として、広く浸透しています。そして近年、その手法に大きな転機が訪れているようです。

世界最大の非営利向けデータベース提供企業「blackbaud」によると、2016年には「P2P」を行う人数及び金額が減少傾向にありました。例えば、「P2P」の寄付額が全米でTOP3に位置付けられる「Alzheimer’s Association」(アルツハイマー病協会)が例年開催しているチャリティーサイクリングでも参加者が減少傾向にありました。しかし、2017年から、Facebookを利用した寄付集めを積極的に行ったところ、他のP2Pを行っている組織が前年比を割っているなか、同協会は大きく数字を伸ばしたそうです(※2)。

1.FBの寄付ツールの有用性

2015年にFacebookが、そのプラットフォーム上で寄付の決済までが簡潔できる機能をリリースしました。

(1)非営利組織が、自団体のFBページ上に「寄付する」ボタンを追加できる
(2)一般の人は、上記のボタンを追加した非営利組織を指定したキャンペーンページをFB上に作成できる
(※3)

2018年11月時点では10億ドルに達し、2,000万人以上の人が寄付を集めるためのキャンペーンページをFB上に作成されたようです(※4)。

なお日本では、2019年8月6日現在、上記の(2)だけが利用できるようです

2.FBの寄付ツールの課題点

しかし、この機能には課題点があるようです。特に、寄付を受ける非営利組織では、寄付した人の情報が「姓」「名」「メールアドレス(任意)」しか得られないという点です。

ファンドレイジングを行う上では、既存の寄付者の方へのコミュニケーションが欠かせません。それは、寄付者一人を得るためのコストと、継続してもらうためのコストを比較すると、圧倒的に後者の方が低いことも関係してきます。何より、ファンドレイジングの目的は、一緒に社会の課題を解決する仲間を増やし、その解決をはかるものでもあり、既存支援者との関係性は重要視されています。

そのため、アメリカの多くの組織は、FBを介した寄付者を1件1件、FB上で検索して支援者リストを作成しているそうです。しかも、たまにスパムとして報告されるようです。(大変すぎます…)

チャリティーサイクリングやチャリティランなどでは、2019年のデータでは、寄付者の25-29%がFBでの寄付になっており、その影響は無視できない状況になっている様子です。

3.オンラインツールの利用で気を付けたいこと

このようにツールとして魅力的でありながらも、それがファンドレイジングの考え方にマッチしてきれていない状態になることは多くありえると思います。つまり部分最適となってしまい、全体から捉えると最適ではない場合です。上記の例では、P2Pによる新規獲得には最適だけど、ファンドレイジングで大切な継続寄付には繋がりにくい。

また、非営利組織としてもツール自体(が高度で)正しく使えず、成果を出し切れていない、という場合もあります。FBの例では、「トランザクションレポート」という機能があるものの、その内容が複雑すぎて理解できない、という意見があったり、支援者がキャンペーンページを立ち上げるには、団体としてはその文章や方法をサポートする必要があるものの、それをやらずに成果がでないとして、利用をやめるケースがあるようです。

こうしたことは、日本でも、ファンドレイジングを行っている非営利組織の方とお話すると、しばしば耳にします。

おそらく、ツールを提供している企業としては、非営利組織の事業やファンドレイジングについての知見が多くないことから、非営利組織としてはそれを織り込んで使うことが求められるかもしれません。

一方で、ツールが社会を変える可能性も秘めています。おそらく、日本でもFBの寄付ツールが解禁されると、P2Pが急拡大するとともに、今まで寄付したことがない人にも、寄付が拡がる可能性がある気がします。

~営利・非営利のソーシャル事業の成長が、社会課題の解決を加速させ、より良い社会を築くと信じて執筆~

※1
https://www.runwithheart.jp/entry

※2
http://hi.blackbaud.com/p2p/

※3
https://www.facebook.com/help/android-app/1640008462980459

※4
https://japan.cnet.com/article/35128702/


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