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上司なし、給料差なし、問題もなし

こんにちは(*'▽')

上のタイトルは、とある本の第三章のなかにある小見出しです。
左派の天才エンジニアであるコスタ氏と、彼がHALPEVAM(発見的アルゴリズムによって喜びと経験価値とを最大化する装置)開発を進めるなかでパラレルワールド?から呼びかけてくるコスティ氏の会話のようです。
どうやら、2008年秋の世界金融危機の頃に分岐した、わたしたちが《取らなかった道》の世界の住人であるらしいコスティ氏。
2008年、「経営難に陥った銀行を救済し、労働者にその尻拭いをさせることで、以前と同じ社会を築く取り組みをさらに強化した。そしてそのグローバル体制の中で、政治と経済の権力を、破綻した銀行に事実上、大規模に譲り渡してきた」道ではなく、それを苦い教訓として根本的に変わった社会の姿、いかに…!!


「いいかい、こっちの世界では企業はこんな感じだ」自分が働く企業の仕組みについて、コスティが話し始めた。「誰も誰かにこうしろと指図しない。一緒に働きたい相手かチームを自由に選ぶ。そのプロジェクトにどのくらい時間をつぎ込むかも自由だ。うちの会社ではなにもかもが流動的だ。メンバーは動きまわる。新しいチームを編成する。古いプロジェクトは消え、新しい仕事が生まれる。指示を出す上司もいない。自発的な秩序と個人の責任によって、混乱の不安を克服する」
 その不変の流動性こそ会社生活の大きな特徴だ、とコスティが説明した。ヒエラルキー、つまりピラミッド型の階層構造を使って、従業員を特定の役割やチームに落とし込むと、硬直し、非効率で息苦しい組織ができ上がる。地位や身分に対する不安が湧き、直属の上司を喜ばせる必要から、透明性が消えてしまい、従業員は情報を入手できなくなる。そのため、特定の上司や同僚と働く時の利点や欠点がわからず、そのチームは楽しく働けるのか機能不全なのか、あるいはそのプロジェクトはやりがいがあるのか退屈なのかもわからない。ピラミッド構造がなくなるどころか膨張し、個人の地位と実際の仕事ぶりとのあいだに大きな乖離が生じる。ピラミッド組織には、常にどのポストも埋められるという大きなメリットがあるにしろ、隠れた欠点もある。
 一方のフラット組織の場合、頻繁に欠員が生じることはコスティも理解している。だが、欠員は社内の誰の目にもつきやすいため、利点にもなる。たとえばデイヴィッドが使っていた6階のデスクが空き、彼が4階に移ってタミーやディック、ハリエットと一緒に働いていることがイントラネットで明らかになると、4階のその界隈で重要なプロジェクトが進行中だと誰でも気づくことになる。そのような移動によって、各プロジェクトの重要性をその都度、社内全体で評価することになる。メンバーが自主性を発揮すると予測が立てにくくなるという代償はあるものの、些細な問題にすぎない。
 「だけど、求人の場合にはもちろんピラミッド構造があるんだろう?」コスタは訊ねた。「誰も進んでやりたがらない退屈な仕事が当然あるはずだ」
 「いや、求人をかける際にもつまらない仕事を割り当てる際にも、どんなレベルでもピラミッド構造はない」コスティは答え、こう説明した。新しい人材は、人事部の関与なしに略式で採用できる。たとえばデイヴィッドとタミーに、グラフィックデザイナーが必要になったとする。だが社内で手配できなかった時には、人事委員会の設置をイントラネットで告知する。その募集プロセスに加わりたい者がいれば、誰でも参加できる。そして、社内の参加希望者が決まったところで、その即席の人事委員会が会社の公式ウェブサイトに広告を出して、募集をかける。その後、人事委員会が応募者の最終候補者リストを作成して、面接を実施する。面接の様子は社内の誰でもイントラネットを介して、あるいは直接、見ることが可能だ。最終的にデイヴィッドやタミー、人事委員会が採用者を決定して投稿し、社内の誰でもその決定にイエスかノーかを投票できる。
 秘書であろうと経理職であろうと、どの職種についても、それと同じ採用プロセスを経る。そしていったん採用が決まったら、誰も彼らに秘書や経理職を強要できない。実際、もとはその職種で採用されたが、最終的にもっとクリエイティブな仕事に就く者も多い。ピラミッド組織ではとても考えられないだろう。とはいえ、おそらく道義的な責任感からか、ほとんどの者はかなり長いあいだ、本来採用された職種で働く。
「それなら、給料はどうなんだ?」フラット組織のすばらしさは認めたものの、コスタはまだ懐疑的だった。「誰がいくら受け取るか、決める人間がいるはずだ」
「いいや、給料もピラミッド構造で決まるわけではない」それがコスティの答えだった。企業の収入は5分割される。まず、総収入のちょうど5%を政府に納める。そして残りの95%次の4つに分割する。第一が固定費(減価償却費、ライセンス費、水道光熱費、地代家賃や支払利息など)。第二がR&D(研究開発)費。第三が毎月の人件費(基本給)。そして第四がボーナス。
 4分割の割合は、一人一票の原則によって総意で決定する。現在の割合を変えたいと望む者は誰でも、新たな割合を提案しなければならない。たとえば基本給の割合の拡大を望む者は、代わりにどの分野を縮小するのかについて、自分の考えをプレゼンテーションする必要がある。もし来年度の割合の変更について、提案がひとつしかなかった場合には、単純にその是非を問う投票を実施すればいい。だが、たいていはたくさんの事業計画が、詳細な資料付きで提案される。その場合は、もっと複雑な投票方法が必要になる。
 投票前の準備期間として最低でも一ヵ月が与えられ、社内のメンバーはみな、それぞれの提案書を読み込んで議論し、選択する。そして各提案を優先順にランク付けして、電子投票を行なう。もし最初の投票で過半数に達する提案がなければ、第一候補としての得票数が一番少なかった提案がまず脱落する。そして脱落した得票数は、その投票者が第二候補に選んだ提案に加算される。こうして特定の提案が過半数を獲得するまで、この単純なアルゴリズム的プロセスが繰り返される。いわゆる「優先順位付き投票制」と呼ばれる方法だ。
 そのようにして、企業が4つの分野に充てる総額が決定し、基本給の総額が決まると、その総額を全メンバーで均等に分配する。つい先日採用されたばかりの新人秘書から、会社のスターデザイナーや人気エンジニアまでが、同じ基本給を受け取るのだ。
 コスタはそのシンプルなシステムについては高く評価したが、ボーナスを民主的に配分する方法は想像できなかった。「誰がどれだけボーナスを受け取るかという決定は、もちろんピラミッド構造で決まるはずだ」コスタは食い下がった。
「ユーロビジョン・ソング・コンテストを覚えてるかい?」コスティが訊ねる。あの毎年恒例の「欧州国別対抗歌謡祭」を忘れるわけがない。あれは低俗で悪趣味の極みだった。
「だったら、各国の代表がおぞましい歌を歌ったあとの投票システムを思い出してほしい。参加国は各国の持ち分であるポイントを、自国以外の国の歌に投票する。そして、最も多くのポイントを獲得した歌が優勝する。うちの会社でボーナスの配分を決定するのも、基本的にはあれと同じシステムだ」そして、コスティが具体的な説明を加えた。
 毎年、クリスマス休暇が近づく頃、コスティは自分の持ち分である100ポイントの報奨ポイントを同僚に配分する。その100ポイントを、すばらしい仕事をしたひとりの同僚に与えることもできる。あるいはよく頑張ったと思う同僚に、万遍なく配分することもできる。彼の同僚も同様にする。その結果、各メンバーが受け取る報奨ポイントの割合が決まり、その割合に従ってそれぞれが受け取るボーナスの額も決まる。たとえば、コスティが全報奨ポイントの3%を獲得したとする。その場合、コスティは会社のボーナス総額の3%を受け取ることになる。会社のボーナス総額は、先に述べたように、優先順位付き投票ですでに決定している。
 地中海沿岸の国で生まれたせいか、そのようなシステムは簡単に悪用できるのではないかと、コスタはすぐに心配になった。「ギリシャやイタリアの企業なら」その数週間後、コスタはイヴァにこう漏らしている。「友だちや仲間と共謀してポイントをまわし合うのは、目に見えてるよ。『俺が100ポイントまわすから、そっちも頼むよ』って」だが、コスティから戻ってきたのは、なるほどと思うような答えだった。
 コスティはこう説明した。実際、誰でも同じことを考えないわけではない。だが、優れた社会規範を維持するために、自分の会社では特殊な装置を利用している。社内には、会社のメンバーや友人が制作した芸術作品が並ぶ大きな薄暗い部屋がある。そこにはほかにも、レーザー式のインスタレーションが常設してある。そのインスタレーションではホログラムを投影し、会社で働くメンバー全員が、彼ら自身が選んだアバターで映し出される。もしその姿がすぐに見つからない時には、単純なインターフェースを使えば即座に探し出せる。アバターどうしのあいだには、報奨ポイントのやりとりを示す矢印がある。矢印の太さは、同僚が配分した報奨ポイントの量によって変わる。そのため、同僚のあいだで疑わしい約束があったかどうかは一目瞭然だ。こういうことだ。デイヴのアバターからタミーのアバターに向けて太い矢印が現れ、同時に同じくらい太い矢印がタミーのアバターからデイヴのアバターに向かっていた時には、その “偶然” について、デイヴとタミーは会社のティールームで、おおぜいの同僚から容赦ない質問を浴び、しどろもどろで説明するはめになる。
 コスタはすっかり感心していた。コスティの会社は、上司とピラミッド構造を排除しただけではない。資本主義の極めて重大な不正までも排除したのだ。企業の所有者が利益をコントロールし、そこで働く者は賃金を受け取るだけだ、という資本主義の不正を。コスタはこう考えた。そんな会社なら、自分もぜひ働いてみたい。
「誰かひとりが鎖でつながれていたら、私たちの誰も自由じゃない」ふと気がつくと、コスタはよくこのリズム&ブルースを口ずさんでいた。もとは、歌手のレイ・チャールズが歌っていた曲だ。あらゆるかたちの隷属が全面的に根絶されない限り、個人は自由になれないのだ。そして隷属の最悪のかたちが、「ほかに取りうる現実的な選択肢がないために、承諾せざるを得なかった隷属」であることが、コスタにはわかっていた。

『クソったれ資本主義が倒れたあとの、もう一つの世界』(ヤニス・バルファキス著、江口泰子訳、講談社、2021年)より


へえ~、へえ~、こんな会社があるなら働いてみたい。Me too!
プロジェクトが立ち上がるごとに興味ある人が集まってくるって、巷ではNPOとか街づくり・町興しのときにあるかもしれないけど、会社の中でっていうのはあまり聞いたことがありません。

「優先順位付き投票制」というのは、気になります。うまく使えば、おおぜいの人が関わりのある問題の解決法を民主的に選べるとか、そういうものでしょうか。報奨ポイントの使い道&ズルを防ぐ対策も、なんかおもしろい!! 身近でこの手法を使うとしたら、なんだろう?

さいきん思うのは、20コ年上の人からも、20コ年下の人からも学ぶことが沢山あること。&逆も然り(といえたらカッコいいけど…!)。あまり上下関係・縦関係をそこまで意識しないでもいいのかなぁ!? 周囲と違いがありすぎて自分や他人を異星人のように思えても、それでも同じプロジェクトで協力して何かしら達成できたらベストかも~(*´▽`*)

No More Pyramidal Organization ☆ 

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