風穴をあけてくれる、おじさん!

こんにちは(*'▽')

わたしにとっての風穴をあけてくれる存在は、映画の登場人物に多くいました。破天荒なおじさんに「おまえ、寝てんのか?」と言わんばかりに揺さぶられたり、お子さまは知らない世界に誘(いざな)ってくれたり、思わず「かわいいな❤」と胸キュンしたり。

本日は、おしゃれなおじさん、アートなおじさん、おいしいおじさん、あそぶおじさん、はたらくおじさん、いまを生きるおじさん(もくじより)、総勢67名のパリに住むおじさんの人生における美学やエピソードの奥にある広大な世界を感じられる一冊。


はじめに

「少年である僕がいるとする。僕は両親が押しつけてくる価値観や物の考え方に閉じ込められている。(中略)ある日ふらっとやってきて、両親の価値観に風穴をあけてくれる存在、それがおじさんなんです」と、伊丹十三は言った。

あぁ、わたしが若かった頃、どれほどたくさんのおじさんがふらっとやってきて風穴をあけてくれたことか。親戚のおじさん、学校の先生、仕事場の先輩、飲み屋のマスター、旅先ですれちがったおっちゃん……。

わたしはとりわけ風穴を欲するタイプだったのだろう。「このおじさんのはなしを聞いたらおもしろそう」という勘がよくはたらいた。経験を積めば積むほど、「選おじさん眼」は磨かれた。気づいたらわたしは無類のおじさんコレクターになっていた。いまでは自分もおばさんだから、コレクションには年下のおじさんまでずらりと取り揃えている。

本書は、パリ在住四十年のジャーナリスト・広岡裕児おじさんと一緒に作った。初めて会ったのは一年ほど前。その夜、鴨料理を食べながら広岡さんは言った。

「ぼくの商売道具は好奇心」

おぉ、なんという名言。わたしも、そういうふうに仕事をしたい。

何度目かに会ったとき、本を作ろうと盛り上がった。パリの路地のすみずみまでを知っている広岡さんと、どんな本を作って遊ぼうか。パリの歴史?パリの街案内?うん、それもいいが……。

「パリのおじさん!」

ひらめいた。パリでおじさんを集めよう。

商売道具である好奇心、と広岡さんが自在に操るフランス語、とわたしの選おじさん眼。この三本の矢を携えて、パリの街を歩きまわり、おもしろいはなしをしてくれそうなおじさんを探した。二週間の取材で、集めたおじさんは六十七人(だったと思う)。

ボールを蹴るおじさん、ギターを弾くおじさん、古本を愛するおじさん……。下は二十五歳(自称)から、上は九十二歳まで。肌の色も宗教も支持政党も性的指向も、てんでばらばら。どうやら世界は、思っているよりずっと込み入っていて、味わい深いようだ。

集めてきたおじさんを謹んで陳列する。ひとりひとり味わっていただけたら幸いである。

金井真紀

『パリのすてきなおじさん』(柏書房、2017年)より


男女問わず素敵な年の重ね方をしている人を見かけると、ほわぁ!いいなぁ!と思い、自分もそんな風になりたいと夢をもちます。

Salut ☆


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