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「葛藤」から逃げたらあかん

こんにちは(*'▽')

ガネーシャは、ゾウの姿をしてて、「金運」「恋愛運」「仕事運」「健康運」…多くの運を司る神様だそうです。インドの神様って独特。右半身は美しい天女、左半身は邪悪な魔女、という二面性を持つ神様。男の生首をつなげた首飾りをして、目が正気でない、鬼子母神のような神様。そういった神様に比べると、ガネーシャはたぷたぷしたお腹やつぶらな瞳が優しそうで、お部屋にいつも居てもいいよ!って思えるかも。本日は、ガネーシャの教えを拝聴。


「要件は何?」

すると黒ガネーシャは「せっかくのお稲荷さん断るとは、あんさん相当追い込まれておますなあ」と薄笑いを浮かべながら、稲荷寿司をわしづかみにして口の中に放り込んだ。

「いや、そろそろ期限も迫ってますよってに、最後に一つ、とっておきの商売の秘訣教えたろかと思いましてん」

黒ガネーシャの、あまりの余裕ぶりにカチンときた私は言った。

「そんなことしてる暇あったら、偽ガネーシャ像売った方がいいんじゃないの?」

すると黒ガネーシャは言った。

「いや、あんさん言いましたやろ。ワテよりも『ガネーシャの教えの方が正しい』て。勝負はワテが勝つに決まってまんねやけど、そこをはっきりさせとかんと腹の虫が収まらんのでおます」

そう言うと、黒ガネーシャは引き出しから何かを取り出して机の上に置いた。

それは、銀色、金色、紫色……様々な色のガネーシャ像だった。

値段を聞いて私はびっくりした。黒ガネーシャ像でもとんでもなく高いのに、新しいガネーシャ像はさらにそれの上を行く値段だったのだ。紫色のガネーシャ像にいたっては、値段が一桁違っていた。

並べられたガネーシャ像を指しながら、黒ガネーシャは言った。

「なんでこんな商品作るか分かりまっか?」

「……儲かるからでしょ?」

「そのとおりでおま!」

黒ガネーシャはパン! と手を叩いて言った。

「ま、細かいコツは言い始めたらキリないでっせ。一つの商品の値段をとんでもなく高くすることで他の商品をお買い得に見せるとか、色々な種類を用意することで全部集めとうなるようにするとか……せやけど、今日あんさんに教えたいのはそんな小さい話やおまへん。商売する上での最強のコツですわ」

「最強のコツ……」

黒ガネーシャの言葉に警戒しつつ、一方で興味を持ってしまう私がいた。

そんな私の心を察したのか、黒ガネーシャは目を細めていやらしい笑みを浮かべた。

「商売ちゅうのは、いわばお金の流れを作ることでおます。そして、一度作ったお金の流れをいかに絶やさんようにしていくか、これこそが商売のキモなんでおます。じゃあどないしたらお客を逃がさへんようにできるかちゅうと……」

そして、稲荷は十分に間を取ってから言った。

「『中毒』ですねん」

「中毒!?」

不穏な響きの言葉に眉をひそめた。稲荷は楽しそうに続けた。

「中毒ちゅうのは一度その商品を買うてしまうと、その次も、またその次も欲しゅうなるちゅうことですわ。これこそまさに究極の商売法でっせ」

「究極の商売法って……そんなの間違ってる」

すると黒ガネーシャは、ひょひょひょひょひょ! とひときわ大きな笑い声をあげた。

「何言うてまんのや! あんさんは世の中をもっと冷静に見なあきまへんで! 儲かってる商売は全部お客さんを『中毒』にしてますがな。流行ってる食べもんは『砂糖』や『油』を大量に使てる。この二つこそは、まさに人間を中毒にするもんなんでっせ。ギャンブルやお酒、ゲームやテレビ、携帯電話かてそうでっせ。儲かるのは全部、お客さんを、それなしでは生きていかれへんような『中毒』にしてしまうことなんですわ! ひょひょひょ!」

「で、でも」

私は黒ガネーシャに向かって言った。

「それはお客さんのためになってるとは言えないでしょ」

「何言うてまんねん!」

黒ガネーシャは一段と声を大きくして言った。

「喜んでますがな! お客さんはそれで喜んでますがな! 中毒ちゅうのは、めちゃめちゃ気持ちええもんなんでっせ。せやからウチにガネーシャ像を買いに来るお客も、それはそれはみんな幸せそうな顔してまっせ」

私は……黒ガネーシャにどうやって反論していいか分からなかった。確かにお客さんがそれで良いと思っているなら、とやかく言う筋合いはないのかもしれない――。

私は、「お客さんを喜ばせる」ということの意味がよく分からなくなってきた。

そんな私の様子を見て、黒ガネーシャは勝ち誇るように言った。

「さあ、あんさんらがどうやって稲荷像売るか、楽しみですなぁ」

そして黒ガネーシャは、口の中に稲荷寿司を放り込んでひょひょひょ! と笑った。

ただ、黒ガネーシャが話している間、赤城さんはずっと考えごとをしているようだった。

『夢をかなえるゾウ3 ブラックガネーシャの教え』(水野敬也、飛鳥新社、2014年)より

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ガチャガチャの大人買いで、全種類そろえたくなる気持ちはわかるし、お買い物中に「今ここで買わなかったら、もうお目見えできないかもしれない!」と思って手に入れる気持ち、わかる…!! すごく疲れたとき、ありったけのハチミツかけて甘々のホットケーキを頬張るときの至福といったら、たまりません( *´艸`)

黒ガネーシャの教えは、一見とても魅惑的です。でも、始めたそのときは良くても、長続きしなさそう。なにか必ずシワ寄せが来るでしょう!? 神奈川県の自治体Yで、カジノも含んだ総合リゾート(IR)開発の計画が進んでいたとき、関係者は黒ガネーシャの教えを信奉してたのかしら。ギャンブルの依存症患者が増大して、その一人ひとりの人生と周りの家族や友人との人間関係を破壊するという負の側面は見ないふりして、ただただ、お金の流れを一度作ってしまえば儲かり、儲かった分だけ税収も増えるぞ~、ぐはははっ(*´Д`)て考えたのかしら。そんで、県内には依存症治療専門の施設もあるんだし、面倒はそっちに押し付けてしまえばいいや、と。「あとは野となれ山となれ」作戦!?……う~ん、無責任の極み。親族にアルコール依存症の人間がいた身としては、やめてほしいなぁ、と率直に思います。あまりいい死に方でもなかったですし…。

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「他の教えも全部、錯覚を利用してるの?」

するとガネーシャは「せやで」と言って話を続けた。

「『自分の不利益になることを言う』ちゅう教えも、人間は知らん人と会うたとき、まず最初に『この人は信用できるか、できないか』を見極めようとすんねや。でもいったん『信用できる』と思てまえば、その後の言葉は全部信用してまうんやな」

そしてガネーシャは言った。

「『お客を中毒にする』ちゅうのは錯覚の最たるもんやろ。本当は自分にとってマイナスになってるもんやのに、そのことを判断できん状態にしてるちゅうことやから」

ガネーシャの話を聞いていて、私は稲荷から言われた言葉を思い出した。私が反論できなかった稲荷の言葉について、ガネーシャにたずねた。

「でも、中毒になることでお客さんが喜んでいるとしたらどうするの?」

するとガネーシャは真剣な表情で言った。

「『お客さんを喜ばせる』んと、『お客さんが求めるものを、何も考えず与える』んはちゃうんやで」

ガネーシャは続けた。

「たとえば、子どもが『甘いものが欲しい』言うから甘いものを与え続けたら、その子どもは虫歯になったり、身体が丈夫になれへんかったりするやん。それは長い目で見たらその子を喜ばせることになれへんやろ」

そしてガネーシャは言った。

「自分の仕事がほんまに人を喜ばせるためのものかどうかは、『そのサービスを自分の子どもに買ってほしいか』が一つの基準になるかもしれへんな。もし自分の子どもに自分の売ってるものを買ってほしないなら、人を喜ばせるために仕事をしてへんかもしれへんで」

(なるほど……)

私はガネーシャの話に深く考えさせられた。本当に相手のことを考えるとしたら、自分の売っているものでも「これ以上は買ってはダメだよ」と言うべき場面もあるのかもしれない。しかし、儲けを増やすことだけを考えていたら、そういう発想は生まれないだろう。

(あ……)

そのとき私は、あることを思い出した。それは、赤城さんがお客さんに対して言っていた

「ガネーシャ像を買ってはいけない」

という言葉だ。赤城さんは相手の信用を得るためのテクニックとして使っていたけど、相手のためを思っても出てくる言葉だ。この二つの違いは何だろう?

この疑問に対してガネーシャはこう答えた。

「稲荷の使てたテクニックちゅうのはな、相手を喜ばせることを突き詰めていったら、結果的にそうなってることも多いんやで。相手のことを深く考えた結果、自分にとって不利益なことを言う場合もある。そん時はお客さんの信用を得ることができるやろ。ほんで、お客さんが本当に喜ぶ商品作ったら、その商品はどんどん売れるから品薄になる。そしたら別にウソついて希少価値を演出せんでも、物は少ななるからみんな欲しがるようになるんや」

すると赤城さんが「そのとおりです」と言って会話に加わった。

「今、ガネーシャ様がおっしゃった考えで商売をするのが、長く繁栄するために必要なことなのです。でも、私たちは表面的な部分だけをテクニックとして使ってしまいました。この二つの違いを見分けるのは難しいですが、相手をだますのと、相手を喜ばせるのとでは、天と地ほどの差があります」

そして、赤城さんは、「周囲の人間関係を断つ」ということについても教えてくれた。

「周囲の人間関係を断ちなさい」ということは、つまり「あなたが成功していないのは、周りの人のせいなんですよ」ということを暗に言っているらしい。そう言われると「今の人間関係をなくしていまえば解決する」と錯覚してしまう人もいるという。

その感覚は――なんとなく分かる気がした。成功してない原因を自分に求めるより他人に求める方が楽だから、ついそちらに飛びつきたくなるのだ。

ガネーシャは言った。

「でもな、成功するために大事なんは、あくまで『人を喜ばせる』ことや。せやったら、いままで仲良うしてくれた人をいきなり断てるはずないやん」

「確かに……」

「『葛藤』から逃げたらあかんねん。友達から誘われたけど、他にやりたいことがある。せやったら友達を傷つけんように気い遣いながら断ろうとかな。もしくは、やりたいことを頑張って早よ終わらせて、少しだけでも会える時間作ろうとかな。そういう葛藤の中でなんとか答えを見つけてくことで、人は成長するんやで。せやけど、みんなそうするのが嫌やねんな。なんでかっちゅうと……それはもうワシが言わんでも分かるやろ?」

「面倒だから?」

「せやねん。せやから稲荷の教えみたいな――成功の特効薬に飛びついてまうねんな」

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そもそも、ありとあらゆる生き物は『苦しみから逃げ、楽しみに向かう』というシステム・性(さが)で動いているのだそうです。えぇ、えぇ、言われなくても、わかっております(^^;) だからこそ『苦しみを楽しみに変える方法』が見出せたり、成長に『痛み』は伴うものだと腹を括れたりしたら、最強ですね。

Stay on your mental conflict ☆


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