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「10分間の思い人」

ゴールデンウィークの谷間の昼過ぎ
買い物に出ようとふらっと電車に乗った
わずかに空いた一席にひょいっと滑り込むように座り
何気に前に目をやると一人の男性が目に入った
その人は私の方を見るとはなく見ているような気がした
そして、目線が合いそうになると少しそらし
「見ていませんよぉ~」のアピールをしたように思えた
「ふふっ、何か可愛い!」と思えたので
しばらく暇つぶしに観察してやろう
髪型は七三で耳が出ていて
サラサラした髪質整髪料はつけていなさそう
逆光のせいか栗色がかった髪色だ
鼻筋は通っていて少し日焼けした肌で眉毛は太目
二重の目に茶褐色の瞳でまぶたが多少重たそう
あれれ、40代かと思ったけれど50歳超えている?
黒色のスニーカーに濃紺の綿パンをはき
シャツは襟付きの明るめの紺色の綿シャツ
首元からは何と明るい黄色いTシャツがのぞいている
そして、スニーカーと綿パンの間からは、こちらも明るい黄色いソックス
おじさま、なかなか攻めていますねぇ~!
どぶねずみカラーの多いウチのお父さんじゃこうはいかないわ
そこまで観察したところで手元を見た
先ほどからスマホを目から遠い位置において
人差し指で画面をツンツン突いているやり方
ウチのお父さんと同じじゃん!(笑)
ほどなくして降りる駅に着いたので
上体を前に傾けて立ち上がろうとしたら
あちらも同じタイミングで上体を前に傾けたものだから
顔と顔の距離が30cmくらいに近づいた
私は驚いて「エッ!?」と言う顔をしたのだろう
オジサマは「失礼!」と小声で言った後
「ごめんなさいね」と満面の笑みで片手を軽く上げて降りて行った
私が宙に浮いたような感覚のまま
かろうじてホームに降りたとき
オジサマは軽やかな足取りで階段を昇って行った

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