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翔くんね、サンタさんから猿ぐつわもらうんだ!

食えず、食えず、ものの見事に消耗してゆく。腹が減らないので仕方がない。だが定期的にグウと鳴る。カラダは危険だが、アタマは安全だ。つまり心身の連携が取れていない。颯爽と歩き出そうした矢先に何かにつまずいたりする。それはきっと2、3mmぽっちの齟齬なのだが、たしかに生き物としての退化が、はじまりつつあるのだ。

とりあえず、スニーカーを履いて家を出る。革の財布を買いに仕立て屋に向かったが、気付いたら図書館に来ていた。なぜだろうか。仕方がないので、自動ドアをくぐる。「いらっしゃいませ」と女の声がする。新車販売店にいた。

「今日はどのようなお車をお探しで?」とにこやかに微笑む若い女に「間違えました」と答える。「Eクラスですね。お色は?」。女は立て続けに車を押し付け、「いえ、車はいらないんです。結構です」と返すと「スモーキーシルバーですね」と言いながら、私を椅子に座らせた。

もうなんか、言葉を吐く気力もなく、背もたれに埋もれていると、眠たくないのにまぶたが落ちてくる。思わず眠りそうになる。眠たくもないのに。するとだんだん「ころしてくれ」といった気になる。なにもかもどうだっていいので、服毒させてくれ、と。空腹でもないのに腹が鳴り、眠たくもないのにまぶたが落ちる。心身の乖離は、自分が自分で無くなっている証拠だ。だんだんと、私は私を操作できなくなっている。これは悲しいことで、どうしようもないこと。

おそろしく初歩的で原始的な問題は、二度と解決できない場合が多い。たとえば火を起こしたいがライターやマッチはおろか、石すらない。これは、解決できない問題となる。通称「プラティビの法則」という。1930年代にスイスの社会学者プラティビが提唱した。だからプラティビの法則なのだ。いや嘘だ。そんな法則はない。プラティビとかいない。嘘つきました。ごめんなさい。

女はヒールをかつかつ鳴らしながらこちらにやってくる。スーツ姿は、薄ぼんやりと見えていた。まぶたが降りようとしているものの、まぁ分かるでしょう。彼女はクレジットカードを読み取る機械と、クソ鬱な煉獄と、うつむき加減の奇想奇天烈ならっきょ全身体操を持ってやってくるね。我々はひれ伏すしかないのよ。地獄。地獄。サッと逝って、おしまいにしよう。と、まどろんでいると、なにか大きな動物に、頭を噛まれた感触があった。

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