見出し画像

なぜ日本アイドルは前髪あり、韓国アイドルは前髪なしなのか

コロナってやつをやっつけたいね。

私自身、取材がいくつか飛んだ。で、なかでも最もやりたかった取材ができなかった。これが以前書いた「祝いと呪い企画」である。金は一線も入ってこないが、やりたいものはやりたいのである。

第1回目は「バンギャはなぜメンヘラなのか」という話をした。これが思ったより好評で、バンギャで調べてもらったら検索トップに来る。タイトル間違えたから恥ずかしいぜ。

今回は第2弾「日本のアイドルにはなぜ前髪があるのか」です。「日本のアイドルは前髪を作る」というステレオタイプが生まれた理由から、なぜ前髪を作るのかといった話まで、知り合いの元地下アイドルにインタビューして聞いてみた。

日本のアイドルと前髪とは相関関係にある

いや、最近こそK-POPブームの煽りを受けて髪をアップにしているアイドルも増えたが、キャンディーズから48グループに至るまで、日本のアイドルにはほぼ前髪がある。

この画像って、かなり驚異的なのではないか。この46人の写真を見ても、ほぼ前髪を作っているだろう。ぱっと見、単細胞分裂でもしたのかと不安になる一枚だ。

では国内女性グループの比較対象としてアイドルではないE-Girlsの宣材写真を見てみよう。

ないんです。圧倒的、色落ちジーンズ率にもびっくりだが、前髪がないでしょう。では続いて国内外のアイドルの比較対象として、BLACKPINKとTWICEの宣材を見てみよう。

いやもう一目瞭然ですよね。前髪含有率が著しく低いんですよ。この異様なほどの前髪率は、日本のアイドル特有のものといっていいでしょう。

日本のアイドルが前髪をつくる理由を本気で考えてみる

これは何を意図しているのか。なぜ日本のアイドルは髪を上げないのか。額に第3の眼でもあるのか。

これはもう一種の呪いだと思うわけです。「アイドルといえば前髪命でしょ」というステレオタイプをひた走る彼女らは、もはや「国内アイドル像」に呪われていて、もう抜け出せないのかもしれない。本当は髪を上げたくても、上げられないのかもしれない。

ではなぜ日本のアイドル像には「前髪」というアイテムがくっ付いたのだろう。その理由はいくつかあるんでないかと思います。まずは個人的に考えてみた。

アイドルに前髪がある理由=自立してはいけないから

日本ってもうずーっとロリコン文化なので、アイドルが自立した大人になるといけない気がするんです。常に「守ってあげたくなるアバター」でなければならない。

すると、あどけなさを演出するために前髪が降りてくるのかな? と思ったり。つまり自立できない、キャラ的なモチーフというのが仮説の1つ。

アイドルに前髪がある理由その2=基本的に内気だから

これも「自立できない」に紐づくところはあるが、やはり前髪がある人は、自身なさげに見える。

私はアイドルの方々にインタビューをしていた時期があってよく話を聞いていたのだが、意外にもアイドルには比較的内気な方が多い。メディアに出るお仕事なので陽の方が多そうだが、意外と「普段は家でゲームしてます」という話を聞く。特に地下の子たちは90%くらい陰の者だ。陰の沼の霞を食って生きている。

自分をスパァンと解放できないので、ある種のバリア的に前髪を作っているのかもしれない。

これは男子も一緒である。やはり漫画や映画などのエンタメを観ても、前髪はうまくしゃべられない人とか、自分を解放できていない人とか、そんな陰のモチーフによく使われる。

果たして「アイドル前髪問題」の仮説は合っているのか? インタビューで検証!

と主観の仮説を作ってみたが、やはり餅は餅屋だろう。以前のバンギャの記事では、ライブハウス前で待ち受けて初対面なのにインタビューさせてもらったのだが、今回は知り合いに話を聞いた。

ただ今回も顔出しはなし。でも顔が出ないからこそリアルなインタビューを書ける。ポジティブに捉えてほしい。

インタビュイーの紹介をしよう。

アヤさん(仮名)。現在26歳。高卒後にアイドルグループに所属。19から22までアキバや池袋の地下で歌ったり踊ったり握手したりしていた。しかし「根が暗すぎて笑顔がきつかった(本人談)」とグループを脱退。

もともと絡みのあった雑誌編集者に誘われてフリーライターとなり、今でもアイドル雑誌などで書いている。アイドルを軸に文章を書いているので、アイドルカルチャーに聡く、非常に話がおもしろい。

私は彼女のアイドル姿を見たことはないが、同じ雑誌で書いていた時期があり、たまたま某アイドルグループの取材でご一緒した。ちなみに既婚。

※できる限り温度感を出したいので過度な編集はしていません。悪しからず。

「日本のアイドルにはなぜ前髪があるのか」を本人に聞いてみた

私:いや〜、お久しぶりです。すみません、コロナで大変な時期に。

アヤ(以下ア):いやいや、ぜんぜん! 超、暇してたので、ご無沙汰でした。今年初?

私:そう! 終盤にして今年初。依然、お仕事はアイドル誌が中心? コロナは影響はどう?

ア:ね。コロナね〜。春夏ごろはかなり減ったけど、最近は取材もさせてもらってるのでそこまでかな〜。でもイベントレポとかね。イベントがないことには呼ばれないから笑。はっはっはっ。だーっはっ!

私:いや怖い。笑いすぎだよね。本編いっていい?「どうして日本のアイドルには前髪があるのか」!

ア:笑。いや笑うわこのテーマ。ある種、タブーでしょこれ笑。

私:え? タブーなの?

ア:だってこれ日本のロリコン文化に切り込みまくる感じでしょ? 間接的にファンのおっさんに「ロリ趣味やめろや」っていうようなもんでしょ。

私:違うわ。履き違えてるわ。そんな尖ってねぇわ。単純に「なんで前髪つくるの?」って。だってE-GIRLSもTWICEもないでしょ?(写真見せる)。

ア:いや、じゃあもう断言するけど、おおかた「日本に神話的に流れているロリ信仰」ですよ。少女趣味なのよ。ちょっとこれ語っていい? 持論なんだけどさ? 名前出さないでよマジで。

私:いいもなにも、そういう企画なのでね。アヤさんに好きに語って欲しいやつだからね。

ア:いやこの話はもうフェミ思考にまで及ぶよ? まず日本の男は基本的に大多数がロリコンですよ、と(ここからアヤさんの超絶持論トークです)。

私:それは俺の仮説にもあるやつだね。分かります。

ア:で、なんでだろうって、昔考えたんですよ。これねボトルネックは、日本人の父系文化なんじゃないかなっていう。

私:ほう。

ア:日本って比較的、男尊女卑が長いじゃないですか? で、戦後のアメリカ教育で、欧米文化と融合するでしょ? そっからなんとなく「女は男に守られるもの」っていう暗黙の了解ができるわけじゃん? 歪んだレディファーストだよね。日本独特の。根底には「女性は守られるべき存在」ってのが根づいちゃった、と。

私:なるほど。

ア:でさ男子からすると「強い女より弱い女が魅力的」ってなってるわけだよ。若い子はまた別の価値観だよ? あくまで。でもアイドルはとにかくおじさんからモテなきゃいけない。すると前髪がこう……生えてくるわけさ。ぐんぐんぐんぐん伸びるのね。

私:そんな、ヘチマみたいな……。でもたしかにロリコン文化は日本独特なものらしいよな。宮崎あおいの写真を見せても、他の国の人はまったく魅力を感じないらしい。

ア:そう。これがもう日本のアイドルに前髪がある理由。だから本来は言及すべきはフェミニストなんだよね。フェミ大歓喜案件なのよこれ。

私:なるほどね。アヤさんはそこに糾弾したい感じ?

ア:いや、別にそこはどうだっていいよね。というか、もうアイドルで飯を食うなら割り切って少女であれ、と。思い切りロリになれ、と。アイドルたちも、そこはちゃんと分かってるからね。ただ、このプロモーションというかブランディングも最近変わってきてて……。

私:お。

ア:女性のアイドルファンが増えてきてんじゃん? 女性ファンって、逆に前髪上げたほうがウケるんだよね。アップにしたり腹筋鍛えたりしたほうが女ウケするのよ。だから最近、髪上げててメイクもかっこよくて腹筋も鍛えてる薄顔のアイドル増えてるでしょ?

私:あぁ〜たしかにね。

ア:私もその筋から聞いたわけじゃないけど、オーディションとかキャラ設定の方向性が女子ファン向けに変わってきてると思うんだよ。まぁK-POP流行ってるのもあるけど。韓国の女性アイドルがそもそもBeauty系のブランディングだから。

私:あぁ、なるほど。たしかにかわいいジャパニーズアイドルは男性ファンが多いけど、かっこいいコリアンアイドルは女性ファンが多い……。ここに新たな市場があったと。

ア:そう! だからたぶん今後は日本のアイドルの前髪率も下がってくるんじゃないかな?

私:なるほどね。たしかに論理構築されてる。今回はここにもう一歩踏み込みたくて……じゃあなぜ前髪があることはロリモチーフなのかと。

ア:いやそれはもう、女性の視点から答えますよ? ずばり丸顔に見えるからでしょ。こども顔に見えるからでしょ。顔って年取るにつれて伸びるからね?

私:ああそういうことか!

ア:うん。だから触角とかできたんじゃない?

私:ああ、ロリかつ丸顔に見えない。攻守最強か。触角すごいな。ネーミングセンス絶望だけど。

ア:カマキリだもんね。そうだと思う。いや〜でもここはもう美容師案件だよね。

私:なるほどね〜。ちなみにあの日本のアイドルの前髪って絶対ブレないじゃん? 昔、でんぱ組のピンキーが逆さまになったときに、前髪だけ重力無視してたのすごい覚えてて……。やっぱり前髪キープはかなり努力してる?

ア:いやもうやばいよ。地下アイドルですら、ひくほど楽屋にケープあるからね。火つけたらライブハウスが爆散するから笑。やっぱ「踊っても前髪だけは静止画」なんだよね。目指すべきは。

私:笑。

ア:アイドルはまさに前髪命って感じで、ミリ単位で調整してるからなぁ。みんな。すごいよアイドルってほんと。

私:たしかに。ちょっと美容師にも聞いてみるわ。ありがとうございました。

美容師にも国内アイドルの前髪問題を聞いてきました

ということで、そこまで色落ちてなかったけど、取材とカラーリングをしに新宿区の美容室に

普段はまったく指名などしないけど、なんとなく縁がありそうなので、前回切ってもらった方を名指し。染め終わってシャンプーしてるときに聞いてみました。

美:はーい。じゃあシャンプーしますね〜。しみなかったですか?(シャワーがジャー)

私:大丈夫でふ(顔面の紙が口に)。あ、そういえば聞きたいことあるんですけど。

美:はい? なんでも聞いてください。

私:いや、この前知り合いと「日本のアイドルに前髪あって韓国のアイドルに前髪ないのなんでだろう」って話になりまひてね……。

美:ああ〜、なるほど。たしかに。

私:美容師さん的にみて、なんでだろうって思いますか?

美:そうですね〜。いったんシャンプー終わりますね。お席のほうに……(髪わしゃわしゃ〜)。

私:あ、変なタイミングで質問してすんません(着座)。

美:いえいえ笑。そうですね。たしかに韓国のアイドルって前髪上げてて、最近は若い子も真似する方が多いですね。オルチャンヘアとか言われてるんですけど。

私:へぇ。やっぱそうですか。

美:僕は単純に骨格かなって思いますね。韓国の方って鼻高くしたり輪郭細くしたりするじゃないですか。もちろん全員じゃないですよ? まぁ比較的、整形をされている方が多い。良いことだと思うんでね。髪を切ることと整形することって、ぶっちゃけほぼ同じな気がするので笑。

私:同意見ですね。外見を整えてメンタルも向上するってすごく効率的ですしね。骨格的には前髪上げたほうが似合うんですか?

美:いや〜そう思いますね。やっぱり顎のラインですかね。シャープだと眉下の前髪が合わないんですよね。眉上だとおしゃれな感じになるんですけど。鼻の高さもそうですね。やっぱり大人っぽくしたほうが似合うかな。

私:なるほど〜。おもしろい。

美:あ、あとおでこにヒアルロン酸を入れてちょっと丘を作ってる方も多いそうなので、そこも強調したりするんじゃないかな。

私:は〜、たしかに。美容師的視点だと、ものすごく分かりやすくておもしろいですね。

美:いや、そこに注目したのいいですね。こちらこそおもしろいです。

私:やっぱり毎日何十人って頭見てると、そういう職業病というか、骨格を考えるようになったりするんですか?

美:そうですね〜。電車とかで人の髪型と顔のラインは見ちゃいますね。「ああ、あと1cm上のほうがいいな」とか「この人、顔出したほうがいいのにな」とか。でもアーティストじゃなくてサービス業なんでね。自分がいちばんなりたい髪型を作るのが仕事なので、お客さんには言わないですけどね笑。

私:すごい。ちなみに僕の髪型どう思いますか? 似合ってますかね。

美:(苦笑)

私:え。

美:(苦笑)

私:(絶望)

日本のアイドルに前髪がある背景には「ハード面」と「ソフト面」の理由がある

なぜ日本のアイドルには前髪があるのか、一応のその答えとしては「ソフト」と「ハード」の両方がある。

ソフト面で言うと「日本ならではのロリコン文化」がある。

そしてその根底には古来から受け継がれてきた「父系制度」などに代表される「男性=守るもの、女性=守られるもの」という歪んだレディファーストがあるはずだ。マインドとして男は前髪を求めている。

ハード面でいうと日本人の平らで丸い顔に前髪が似合うから、という部分もある。これは美容師さんが言っていた通り、beauty系の韓国人にはあまり似合わない。

ハードとソフトの二面によって、日本のアイドルに前髪がある理由がわかった。

ただしアヤさんが提言したように、今後は日本のアイドルにも前髪がだんだんなくなっていくだろう。その理由としては「1.男性のファンだけでなく、女性ファンが増えているから」が挙がる。また「2.男性の若いファンは、だんだんとロリ嗜好を脱してきている」のも大きな理由だ。

もはや父系文化はなりを潜め、だんだんと女性が強い時代になってきている。そんななか「女性=守られるもの」というイメージが覆りつつあるのだ。

実はこの「女性=か弱い」というイメージを守っていること自体が「呪い・祝い」なのかもしれない。自分に自信がなく率先して行動できないアイドルほど前髪を作れないのかもしれない。

そう考えると序盤に提案した「内気だから前髪をつくる」という考えもまた当てはまる可能性がある。今回はその部分の議論ができなかったが、コンプレックスの1つになっていると考えていいのではないか。やたら指輪やネックレスをつけている人が、実は気が弱いという構図と同じだ。

今回も取材してすこぶる楽しかったので、次回もコロナが落ち着き次第、このインタビューを続けていこうと思う。

次回の企画は「ラーメン屋の店主はなぜガタイがいいのか」。その背景にはどんな呪い・祝いがあるのだろう。乞うご期待でございます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?