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畜産獣医学の名著

帯広畜産大学の研究生をしているとき、図書館で素晴らしい本に出会いました。それがこの「酪農家の獣医学」(酪農事情社・昭和43年)です。ちょうど牛乳の需要が高まり、日本各地で酪農を始める農家が増えていた時代です。獣医師ではなく、そうした農家の方向けに作られたテキストであったようです。

1 この本のここが素晴らしい

「酪農家の獣医学」(酪農事情社・昭和43年)

執筆されているのは、大学の先生やが異常獣医師の方々です。一般の農家それもいままで牛を飼ったことのない農家向けに書かれているので、大変わかりやすいのです。しかし、ホルモンの作用機序などはきちんと説明されています。昭和40年代で、かなりのことがわかっていたことも知ることができ、興味深いものです。

「酪農家の獣医学」より

さすがにPGF2αの説明はありませんが、当時の最先端を説明していると思います。

最新の知見

2 どういう結果を想定しているか?

この本で筆者が最も気に入った点、それは
「一戸の農家で、一人の人間が30頭の牛を世話する」ことを想定している点です。北海道で200頭ということではなく、日本各地で同じことができるように解説をしているのです。それが当時の農家のニーズであったと思われます。最近はエコーで卵胞の空洞まで見分けられるようになりましたが、そうした機械のない当時、しかも一人でどれだけのことができるかをよく考えています。「できないことは書いていない」のです。すべてのことが実践的です。

乳房帯の作り方

3 書籍の実証

さて、筆者はこの本が大変気になりましたが、古い本でしかも図書館の所蔵です。入手も難しいと思ってあきらめました。ところが、帰宅してから、徳島でもと酪農をされていた農家さんから、いろいろ頂いたものがあったことを思いだしたのです。段ボールにはいっていた荷物を開けたところ、膣鏡(高いので嬉しかったです)のほかに、この本があったのです。
今はもう亡くなった一代前の方が、酪農を始められ、この本を持っておられたようです。価格は850円とありました。
まだお元気な先代の奥様のお話では、いろいろ研究して牛を飼い始められたそうです。そして、その収益のおかげで息子さん二人は大学に進学されました。まさに絵にかいたような戦後の酪農経営だったのです。
先代がこの本を残してくださったことに感動するとともに、数年前徳島に移住されて家を片付けられた現当主の奥様に感謝しました。片付けなしには出てこなかったものです。牛小屋はまだ残っていて、これから活用されるとのことで、そちらも楽しみにしています。

似内惠子(獣医師・似内産業動物診療所院長))
(この原稿の著作権は筆者に帰属します。無断転載を禁じます。)
似内のプロフィール
https://editor.note.com/notes/n1278cf05c52d/publish/
ブログ「獣医学の視点から」

オールアバウト「動物病院」コラム
https://allabout.co.jp/gm/gt/3049/










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