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犬との信頼は終生続く・唯一無二の存在

1 不本意ながら飼う犬

飼いたくない犬を飼った苦い経験があります。それは私のメンターでもあった方が飼っていた2頭の柴犬から生まれた子供でした。
すでに半年くらいになっていたでしょうか。
一見してすぐ、脳か脊椎に障害があり、旋回運動などをして、行動がおかしいことがわかりました。飼い主さんは私に飼ってほしいとおっしゃるのです。「獣医さんなら安心だ」とも言われました。

ここで「飼います」と言ってしまったのは、当時の若さゆえのおごりであると今も思っています。問題のある犬も、自分なら何とかなると思ったのです。

しかし、その犬は私たちになつきませんでした。そして、予想外の行動をとることが多かったのです。最初にこの犬を診断した獣医師の方が、「安楽死の方がいい」と言われたそうです。それは正しかったのです。

何度も庭から逃走しました。前の飼い主のところに行きたかったのでしょうか。最後に鎖をつけたまま逃走し、そのままになってしまいました。可哀そうですが、家に帰ってこない犬をどうしようもありませんでした。

2 妥協して良い場とそうでない場

これがその「本当は飼いたくなかった犬」を飼った顛末です。もしあなたが車が欲しいとき、「中古だけど10万にしておくよ」と明らかに問題のある車を勧められたらどうでしょうか?
よほど経済が厳しくない限り、「お金を貯めて本当に乗りたいものに乗るので結構です」と答えるでしょう。犬も同じことです。私は犬を飼ってほしいといわれたメンターの方を尊敬していたので、良い関係を築きたいという下心もありました。

日本犬は最初の飼い主にしかなつかないのも知っていたのです。そして、一見して神経症状があるので、どこかに奇形があることも予測できたのです。結果として、その犬と私の一家の関係は最悪でした。

3 生後すぐ飼う犬

そうした苦い経験から、生後3か月くらいまでの犬をブリーダーさんで見て飼うようになりました。今のもみじという名前のラブラドルレトリバーです。ほかに兄弟犬もいましたが、この犬がいいと言って選びました。

早くに来たので、もみじにとって私と夫は絶対神です。コンラート・ローレンツの著書を引用するまでもなく、犬は生後半年までの間に飼い主と強い絆が生まれます。まさにお互いが唯一無二の存在です。
途中から飼ってもある程度の関係は築けるのですが、この深い関係を知ってしまうと、大きくなってから飼った犬には不満が残ります。何か違うことを考えているような気がするのです。

雪の散歩も平気です。

先に飼った柴犬は私のメンターさんの家に戻ることばかり考えていました。
そうした不満から、新しい飼い主がいったん手に入れた犬を手放すケースもたくさん見てきました。保護犬を飼うという場合も、成功例ばかりではないのを知っています。
犬から見ても、飼い主から見ても「妥協がなく、絶対である」というスタンスが必要であると確信しています。「まあいいか」と思って飼うには、お互いの人生が長すぎるのです。場合によっては会社の同僚や妻あるいは夫より長い時間を過ごすのです。お互いにとって「絶対」であるために、その信頼を求めて人は犬を飼うのではないかと私は思っています。

似内惠子(獣医師・似内産業動物診療所院長))
(この原稿の著作権は筆者に帰属します。無断転載を禁じます。)
似内のプロフィール
https://editor.note.com/notes/n1278cf05c52d/publish/
ブログ「獣医学の視点から」

オールアバウト「動物病院」コラム
https://allabout.co.jp/gm/gt/3049/





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