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アヒルを飼う

私は高校生のとき1年ほどあひるを飼ったことがあります。
庭があったとはいえ、「アヒルが飼いたい」といったとき、全く抵抗なしに「飼おう!」といった母は普通の母ではなく、サイエンティストでした。

私の獣医師のルーツはこのあたりにあります。そのアヒルは友達の友達がアパートで飼っていて、管理人に叱られて飼えなくなったものでした。母と一緒に駅まで受取りに行きました。それもわくわくする体験でした。

小さい画像ですみません。これがそのアヒルです。

アヒルは裏庭で飼われ、当時いたロードアイランド種の鶏と同居していました。餌をやるとアヒルが断然有利でした。スプーンが箸に勝つのと同じ理屈です。

あひるの卵

アヒルは時々卵を産んでました。メスだったのです。 当時英語を習っていたアイルランド人の先生によれば、アヒル卵はケーキによいそうです。しかし使わないままに終わりました。

そのアヒルが最後どうなったかというと、宇治川上流のダムに何羽かアヒルがいるのを発見し、家族でそこに放しにいくことになりました。

アヒルを抱えてダムの斜面を降りたのは私で、ちょっと怖かったです。母は上から指示だけ出してました。アヒルの餞別と称して、おにぎりを作ってやっていました。

水に放しておにぎりを置き、帰ろうとすると、なんとアヒルが追いかけてくるではありませんか!それを振り切って帰りました。
「追いかけてくるのを見て、泣きそうになったわ」と母は言いました。

さて、お宅でもこうした「〇〇を飼いたい」という局面があると思うのですが、いくつかに分類しますと、

一番理科系マインドの育つ対応:子供が飼いたいものを飼う。その前に一緒に餌や飼い方をしらべ、世話については子供から一筆取る。 飼っているときに観察していろいろ話し合う。

次に理科系マインドの育つ対応:飼えない場合も、なぜ飼えないかよく説明する。代わりに動物園に行ったり、飼っている人にさわらせてもらったりする。

最低の対応:即座にNO!という。

もっと最低の対応:NO!のあとで、「うちがいまどんな大変かわかってるのか?」とか「お母さんが朝から夜まで働いているのに、その気持ちを考えたことがあるのか?」などと親の感情をぶちまける。更に「そんなことを言う閑があったら勉強しなさい」などいう。

思えば母は素晴らしい人でした。

旧制女学校の段階ですでにカナヘビの研究をまとめたりしていたそうで、受験だけで尻をたたくそこらの母親とは格が違ったのです。彼女自身にも、アヒルを飼ってみたいという希望があったのです。
私と同じ目線になってくれたことに今も感謝しています。勉強せよという監督者でなく、いわば実験室の同僚になってくれたのです。

もし今、牛を飼いたいといったら、「さすがに無理」と言われたかもしれません。「搾乳はあなたがするのよ」と言われた可能性もあります。


【画像解説】アヒル画像が小さく、アイコンに向かないので牛です。初めて飼いたいと思った畜産大農場の牛・832さんです。

似内惠子(獣医師・似内産業動物診療所院長))
(この原稿の著作権は筆者に帰属します。無断転載を禁じます。)
似内のプロフィール
https://editor.note.com/notes/n1278cf05c52d/publish/
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オールアバウト「動物病院」コラム
https://allabout.co.jp/gm/gt/3049/

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