データから自民党総裁選を読み解く

9月28日に、毎日新聞出版から「データサイエンス「超」入門 嘘をウソと見抜けなければ、データを扱うのは難しい」が刊行されます。

本書の刊行を記念して、本には載せられなかったんだけど、データだけは集めておいたネタをnote上にて公開させていただきます。

最初のネタは「自民党総裁選」です。


ど〜する?ど〜なる?自民党総裁選

自民党総裁選の火蓋が切って落とされました。明日20日にはすべて決着がつきそうです。

「小説吉田学校」以来の政治闘争ファンとしては、6年ぶりの権力争いとあって非常にワクワクしております。

今回は、安倍さんや石破さんどちらにも肩入れすることなく、過去のデータのみに着目して、どちらが総裁選に勝利するかという観点から分析を行いました。

その結果、

・石破さんが総裁選に勝利し、首班を指名される可能性は非常に低いとわかりました

・安倍さんがこの先安泰かと言えば、主に後継者育成で頭を悩ませそう

この2点が分かりましたので、その結果を報告します。


総裁選予測モデルの作成

田中角栄氏はかつて「総理総裁の条件として党三役のうち幹事長を含むニ役、内閣で外務・大蔵・通産のうちニ閣僚」と言っていました。(ただし実際に田中角栄氏が言ったとする一次資料はありません)

言葉に真実味があるのは、実際に総理総裁経験者の多くがこのポストについているからです。(こちらを参照ください)

特に幹事長ポストに就いた41人中12人が後に総理総裁に就任しており、総理総裁ウェイティングサークルのような存在ですらあります。

ですが、残り29人は総理総裁になれなかったわけで、運やタイミングなどの要素も少なからずあります。

その代表例が現首相・安倍さんの父親・安倍晋太郎氏です。幹事長、政調会長、総務会長、外相、通産相を歴任しながらも総理総裁就任のタイミングを逸し、失意のまま政界の舞台から退いています。

総理総裁交代のタイミングでリクルート事件というスキャンダル、さらに癌が発覚したからですね。つまり総裁選あるいは次期総裁候補選定のタイミングで、スキャンダル・病気が無く、さらに経験値の高い人にその道が開かれるというわけです。


そこで過去17回(1972年田中以降)行われた総裁選を参考に、就いたポストを数値化するモデルを作成してみました。ちなみに話し合いでスムーズに一本化された1974年三木選出、1976年福田選出、1980年鈴木選出、1989年宇野選出、2000年森選出は対象から外しています。

教師データはこちら等を参考にしております。さて、分析の結果は以下の通りです。

現役総裁:	10点

(党務)
幹事長:			3点
政調・総務会長:		1点

(閣務)
大蔵(財務)・外務:		3点
官房長官・通産(経産):	2点

得点は、その役職に就いた回数分で計算します。田中角栄氏の言うモデルでだいたい合っているのですが、実は官房長官は重要なキャリアパスっぽいですね。

また、派閥領袖であることがポイント化されることはありませんでした。実際のところは田中角栄氏、大平正芳氏、中曽根康弘氏、竹下登氏、宮澤喜一氏、小渕恵三氏、麻生太郎氏が総裁選立候補時で派閥領袖だったのですが、派閥領袖であっても敗れたパターンが多く、「一概には言えない」という結果になりました。

党務は1年の任期に対して、1年間勤めたから1点と数えず、途中で3役の交代があっても留任した場合は2回×1点=2点と数えます。

例えば、大平総裁下で櫻内義雄氏が32代幹事長に就いていましたが、総選挙中に大平総裁が死去、変わって鈴木善幸氏が総裁に就任します。その時、幹事長は変わらず櫻内義雄氏でした。この場合、櫻内義雄氏は33代幹事長として、3点×2が加算されます。

閣務は内閣改造に対して得点を数えます。

例えば、中曽根康弘氏は第2次田中角栄内閣 (第1次改造)の約1年で通産大臣を務めたので2点、さらに第2次田中角栄内閣 (第2次改造)でも続いて通産大臣を務めたので2点、合わせて4点です。

ただし第2次田中角栄内閣 (第2次改造)は30日足らずで瓦解します。つまり1年の任期も30日の任期も同じ2点です。なぜなら、内閣改造時点で30日後に退任するなんて誰も分からないからです。

ちなみに、現役総裁の総裁選立候補はめちゃくちゃ重く、それだけで10点加算されます。


予測モデルの精度は65%!

このモデルに当てはめると、過去17回(1972年田中以降)行われた総裁選のうち11回を的中させることに成功しました。約65%の精度です。

年月日	        予想	予想経験値	結果	結果経験値	◯ / ×
1972年07月05日	田中角栄	30		田中角栄	30		◯
1978年11月26日	福田赳夫	39		大平正芳	42		◯
1982年11月24日	中曽根康	9		中曽根康	9		◯
1987年10月31日	竹下登	22		竹下登	22		◯
1989年08月08日	不明	0		海部俊樹	0		×
1991年10月27日	宮澤喜一	17		宮澤喜一	17		◯
1993年07月30日	渡辺美智	15		河野洋平	2		×
1995年09月22日	橋本龍太	17		橋本龍太	17		◯
1998年07月24日	小渕恵三	10		小渕恵三	10		◯
1999年09月21日	小渕恵三	20		小渕恵三	20		◯
2001年04月24日	橋本龍太	17		小泉純一	0		×
2003年09月20日	小泉純一	10		小泉純一	10		◯
2006年09月20日	谷垣禎一	15		安倍晋三	8		×
2007年09月23日	麻生太郎	11		福田康夫	10		×
2008年09月22日	麻生太郎	11		麻生太郎	11		◯
2009年09月28日	谷垣禎一	16		谷垣禎一	16		◯
2012年09月26日	町村信孝	13		安倍晋三	8		×

まずは7回のハズレを見てみましょう。

もっとも難しかったのが1989年08月08日、総裁選立候補者の海部俊樹氏、林義郎氏、石原慎太郎氏全員が0点のケースです。

指三本の宇野宗佑氏が参議院選挙で敗北して退任した後の総裁選でした。かつリクルート事件の余韻も冷めていません。したがって、リクルートから献金を貰っておらず、かつ女性スキャンダルもなく、そして若すぎず老いすぎない人が対象でした。

言い換えれば、政治的には非派閥領袖で、献金を貰えないほど先行きが明るくない人が対象なわけで、それぞれ海部氏は竹下派の傀儡、林氏は宮澤派の傀儡、石原氏は安倍派の傀儡だと考えればいいでしょう。まさにタイミングってやつでした。

んなもん当たるか。

他に1993年07月30日、渡辺美智雄氏ではなく河野洋平氏になったケース。これはキャリア的には渡辺美智雄氏で申し分無いのですが、健康不安説があったのと、後継総裁有力候補だった後藤田正晴氏の指名もあって総裁選に勝利します。

さらに2001年04月24日、小泉純一郎氏が橋本龍太郎氏を破って当選。これは政界の奇跡として定番ですね。

2006年09月20日、2007年09月23日、2012年09月26日は当てたかったのですが、当たりませんでした。おそらくは2001年から「国民の人気」「党内の人気」が得点化されるのではないかと感じています。

これまで派閥の有力者=結構なキャリアという絵図でした。しかし国民の人気とか党内の人気とかキャリアに関係無い部分で注目を集めるようになったので、相対的に重要な「党三役、重要閣僚」の重みが低下しているのではないかと考えます。


逆に、10回のアタリを見てみましょう。

中でも注目すべきは1978年11月26日、現役総裁の福田赳夫氏が大平正芳氏に敗北した総裁選です。予測モデルでも大平正芳氏の勝利を予想しました。

大平正芳氏はこれまで、池田内閣で官房長官、外務大臣。佐藤内閣で通産大臣。田中内閣で外務大臣、大蔵大臣。三木内閣で大蔵大臣。さらに福田内閣で幹事長を務め、圧倒的な得点を獲得しています。

実際のところは、田中派の支持を受けて予備選で勝利したことが理由ではありますが、十分に十分すぎるくらいのキャリアを既に得ていたということです。言い換えると、支援してもツッコミの無いキャリア(総裁を倒してまで必要な人材なのか等)だったとも言えます。

これらのことから、党務+閣務で実績を残す=>派閥内で幹部になる=>財務・外務・幹事長に就任する=>総裁候補になるという双六があると考えればいいでしょう。

派閥幹部あるいは領袖とは、総裁選で投票してくれる頭数を握ったと同じ意味です。

一方で小泉純一郎以降、「党三役、重要閣僚」の重みが低下したおかげで、モデルの精度が揺らいでおります。「党三役、重要閣僚で実績を残す」=投票してくれる頭数では無くなってきているのではないかと推察します。

むしろ「国民人気」=投票してくれる頭数になってるのではなかろうか、と。

「党三役、重要閣僚」で結果を残していなくても、人気があるから総裁候補になれる。それってどうなん?と思いますけどね。


モデルを安倍さん石破さんのキャリアに当てはめる

では、そんな多少の欠陥もあるモデルをもとに、安倍さん、石破さんのどちらが総裁選に勝利するかを占ってみましょう。

石破茂
69代政調会長+70代政調会長+72代幹事長+73代幹事長+74代幹事長
=11点

安倍晋三
現役総裁+60代幹事長+61代幹事長+第3次小泉内閣 (改造)官房長官
=18点

石破さんは閣務が少ないのです。安倍さんは現役総裁の強み(10点)を活かして勝利となりそうです。

ちなみに「党内の人気」で言えば石破さんは絶望的に無いようなので、こればっかりは、もうこの結果は覆らないでしょう。

本当の問題は安倍後継?

ちなみに、石破さん以外に高い得点を示しているのが岸田文雄さん(16点)ぐらいでした。

後の有力候補って茂木敏充さん(2点)、石原伸晃さん(6点ですが野党時代の幹事長職だしなぁ)、甘利明さん(7点)ぐらい。

後の高得点者は麻生太郎さん(32点)、二階俊博(15点)、菅義偉(12点)…みんな立ち枯れた政治家か、絶対に寝首をかかない政治家しかいないんです。麻生さんが河野太郎さんを推すなら有力候補になりますけども。

つまり安倍政権の問題点は、実は「安倍の次」にあるわけです。

安倍さんは、重要ポストである財務大臣と官房長官を代えないばかりに、育成をおざなりにしているのではないでしょうか。しかも、幹事長は絶対に寝首は掻かない(代わって総理に立候補する意欲は無くNo,2で旨い汁を吸おうとする)谷垣禎一氏や二階俊博氏を起用している。

次の党三役・改造内閣で、幹事長・政調会長・外務大臣・財務大臣・経産大臣・官房長官の何れかに育てようとする候補を据えないと、いよいよ安倍四選とか言い出しかねないですよ。

日本を代表する企業は、こうやって人材不足に悩んで潰れていったんだぞ。シャープとかシャープとか東芝とかシャープとか。


後継候補が岸田さんしかいないのもマズい。後継者が1人と分かると、自然と権力がそちらに移行してしまいます。少なくとも股裂きになろうと二股はしておきたいところ。

橋本政権は保保派の梶山静六さんと自社さ派の加藤紘一さんに二股をかけていたのに、梶山さんを官房長官から外したがために一気に政権敗北に走ってしまいました。

河野太郎さんを外相として育てるのか?稲田朋美さん復活か?実は今回の総裁選の目玉は、総裁選後の党役員・内閣改造ではないでしょうか。


石破茂はなぜ立候補したのか?

負けると分けっていて、なぜ石破さんは立候補するのでしょう。言わずもがな、安倍後継を見据えてでしょう。(本人は否定するでしょうけど)

所属政党を問わず、現在の日本国憲法制定後に首相に就任した30名のうち、まだ退任されていない第2次安倍以前の29人の首相の辞める理由は以下のように表現できます。

辞める理由は選挙敗北、任期満了、体調不良、不信任案、法案トリガー、不祥事、行き詰まりの7タイプに分類できます。

それを4象限にまとめたのがこの図です。

任期満了タイプは29人中3人で、ほとんどが志半ばで退任しています。つまり安倍三選だったとしても途中で内角が倒れる可能性は高いのです。

しかも、辞める際に後継を指名できたのは池田勇人氏、中曽根康弘氏、竹下登氏、小泉純一郎氏の4名です。任期満了型の佐藤栄作氏ですら、後の角福戦争を止められませんでした。

体調不良型だとおよそ話し合いで解決していますが、自民党政権下における選挙敗北型、不祥事・行き詰まり型、法案キッカケ・不信任型は総裁選挙になりやすい。

その場合のデータを振り返っておきましょう。初めての総裁選でそのまま総裁になったのが田中角栄、竹下登、海部俊樹、河野洋平、橋本龍太郎、小渕恵三、安倍晋三、福田康夫の8名。つまり確率的には五分五分で「出とくにこしたことはない(言い換えると総裁選に出られるぐらいの仲間は確保できているのが望ましい)」のです。

しかも、総裁選に出て、以降政治的に干されて復活すらしなかったのは中川一郎氏ぐらい(自殺されたからですね)。

自民党は「振り子の論理」といって、右に行くと左にいくようにできています。擬似政権交代が党内で起こるからですね。

8年近い長期政権に飽きた国民・党員は、安倍後継に安倍亜流が出てきた場合、必ず揺り戻しで俺を支持するはずだ…というのが石破さんの読みではないかと感じています

一方、安倍さんは後継者をこの3年で誰をどのポストで育成するのか、相当頭を抱えて明日の総裁選を迎えるのではないでしょうか。

データジャーナリズムって楽しい!

とまぁ、こんなことをつらつら書き連ねておりますが、基本的には「データを使って社会現象を読み解くって意外と楽しい!」ぐらいの感覚を抱いていただければ幸いです。

ちなみに上記本では、オープンデータを使って様々な社会事象を読み解き、いかにバイアスを持って判断しているかを明らかにしております。

書籍のお題を挙げると…

・「世界から愛される国、日本」に外国人はどれくらい訪れているのか

・なぜネットと新聞・テレビで支持率がこんなに違うのか

・結局、アベノミクスで景気は良くなったのか

・東日本大震災、どういう状況になれば復興したと言えるのか

・経済大国・日本はなぜ貧困大国とも言われるのか

・人手不足なのにどうして給料は増えないのか

・海外旅行、新聞、酒、タバコ…若者の◎◎離れは正しいのか

・地球温暖化を防ぐために、私たちが今できることは何か

・糖質制限ダイエットの結果とデータにコミットする

・生活水準が下がり始めたのか、エンゲル係数急上昇の謎

経済問題からダイエットまで、幅広くデータで読み解いております。書籍で見かけたらぜひ立ち読みして頂き、面白かったらぜひお買い求めください!

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