「新規顧客獲得」に失敗する最大の理由は「人間」を見に行かないからだ

今回のnoteは、マーケティングの現場で新規顧客獲得が(当初思っていたよりも)上手くいかない理由と、その対処法である「人間を見に行く方法」について説明します。

今回の話も僕が勤めるデコムで実践済で、かつ色んなマーケターさん(元PG系が多い気も)が「それは当たり前の話でしょ?」という顔をされます。


なんだか、新規顧客の定義が変ではないか?

「新規顧客の獲得」は多くの企業にとって重要なテーマです。マーケティング計画やプロモーション戦略でも、重視しているマーケターは多いはず。

もっとも最近では、佐藤尚之さんや本間充さんが既存顧客の重視を訴えておられる印象を持っているので、必ずしもそうじゃないよね…というツッコミがあるのは理解しています。

一方で、新規顧客を獲得するためのインサイトや、新規顧客が自社製品を使って解決したい(とマーケターが想定している)困り事は、実際のところ、これまでの「既存顧客」に基づいている場合も多いのではないでしょうか。

すなわち「新規顧客」とは、今まで自社がまったく目を向けなかった人たちではなく、「既存顧客に非常に類似したデモグラフィックを持つグループの中から新しく獲得する顧客」を意味していないでしょうか?

エサや竿を変えたりするけれど、魚を釣ろうとする池自体は変えようとしない。それが「新規顧客の獲得」の実態ではないでしょうか。

そのエサで釣れるのは、なかなか現れない、もう釣り尽くした"既存顧客"だと私は思っています。

「新規顧客獲得」を目指しつつ、実際は「既存顧客獲得」と化したマーケティングを続けている日本企業は実は多いと感じています。

私の記憶に1番残っているものだと、2018年6月にNewsPicksが実施した「さよなら、おっさん。」キャンペーンです。

「ニュースアプリのユーザープロファイル調査」によるとNewsPicksの顧客層は男性が8割強、なかでも日本経済電子版アプリとデモグラフィック属性は似通っているようです。

それなのに、あえて日経新聞の面を丸々使って広告を出稿するという暴挙。茶吹いたわ。

「さよなら、おっさん。」というフレーズに共感する20代〜40代の意識高い男性の認知度を上げるために日経新聞へ出稿したとしか思えず、あれっ?それって既にNewsPicksの顧客じゃないの?と思いました。

例えば、GLITTERや美人百花に広告を出稿したなら「おっ、新規顧客のインサイトを見つけたんだな!こういう雑誌を読む人たちがNewsPicksを使う理由を訴えるクリエイティブは何になったんだ?」とワクワクします。

もしかしたら「さよなら、おっさん。」というクリエイティブ自体、今までNewsPicksが目を向けてきた20代〜40代の意識高い男性とは違う消費者に受けるインサイトなのかなぁ?と考えたのですが、じゃあなぜ日経新聞なのだろう…と考えはグルグル巡り、真相は不明です。

ちなみに、全く同じことを言っているのが、我らが大阪にあるUSJを復活させたP&Gマフィア森岡さんが書かれた「確率思考の戦略論」です。

第2章「戦略の本質とは何か?」にて、次のように述べています。

ブランドのプレファレンスを伸ばそうとするときに、実戦経験の浅いマーケターがよくやってしまう過ちは、既存の特定の消費者ターゲットの中でのプレファレンスを伸ばすことで頭が一杯になってしまうことです。(略)既存顧客の深堀りばかりが芸ではなく、むしろ市場全体から新規顧客を獲得する方法を常に意識しておく必要があります。

森岡さんが言っているから正しい!と言うつもりはないのですが、もし「お前の言っていることに裏付けなんてねーだろ!」と思われる方がいらっしゃれば是非、この本を読んでみて下さい。

この理論によってUSJは回復したと森岡さんは主張されています。


そもそも、なぜ「顧客」を獲得し続けなければならないのか

なぜマーケターは「新規顧客の獲得」を目指すのでしょうか。それは「売上」が以下3つの項目で成り立つからです。

<売上とは…>
・総購入者数 × 平均購入回数/1人当たり × 平均購入単価/1人当たり
 →すなわち人数 × 頻度 × 金額の3次式
 →以下図のような"体積"で考えれば良いと思います。

ちなみに、この方程式が表す売上の期間とは1年間です。なので1人当たりの年間の平均で表現しています。

総購入者数は、(去年の総購入者数)ー(今年まだ購入していない人数)+(去年購入していなくて今年購入した人数)で表せます。今年まだ購入していない人数=その時点で離反している客と考えれば良いでしょう。

事業を成長させるためには、「ー(今年まだ購入していない人数)+(去年購入していなくて今年購入した人数)」の合計が0を越えなえればいけません。だから、商品を購入していない顧客を獲得しようとするのです。

そのために行う顧客獲得施策について、旧来言われている「新規顧客」は実際のところ「既存顧客」ではないか、というのは先述した通りです。

もっとも、単価や頻度を上げれば、合計が0を下回っても「売上」は増えます。が、よほどの緊急事態でも無い限り、そのような博打に出る人はいないでしょう。

昨今、サブスクリプションモデルが流行っています。これは頻度か金額、あるいはその両方を固定化するようなもので、3次方程式が多少楽になると考えている人もいるかもしれません。が、継続率(解約率)を考慮しなければならないので、結局は行って来いだと私は考えています

加えて、私が今までお会いしてきた優れたマーケターの方は、かなり強く、平均購入回数に目を向けます。もう1回来店して欲しい、もう1回購入して欲しい、そのためのプロモーション施策を考えておられます。

ただし厄介なのは、消費者調査の結果で平均購入頻度が年12回だと分かったとしても、全員が12回買っているわけでは無いのです。これはバイロン・シャープの記した「ブランディングの科学」で詳細が語られており「購入頻度はNBD分布(負の二項分布)に従う」とあります。

ちなみに、NBD分布とはこういうグラフです。横軸は購入回数、縦軸はその購入回数だった人が締める割合です。全部で100%になります。

このグラフのとおり、平均(Mean)と中央値(Median)にはかなりの違いがあります。平均12回と言えども、それが最頻値(Mode)でも中央値でも無く、代表的な消費者を表現する回数では無いことが伝わるでしょう。

「ブランディングの科学」では「多くの場合、ブランド購入者の大部分はごくまれにしか購入しないライトユーザーである」と説明します。グラフの左側を指しています。

右側のヘビーユーザーはブランドの購入自体が習慣化しているので、自身が死亡するか、習慣が無くならない限り離反しません。言い換えれば「飽きちゃった!」と言われれば離反します。

ちなみにNBD分布自体に大きな変化は無くても、ユーザー自体がノンユーザー→ライトユーザー→ミディアムユーザー→ヘビーユーザー→ミディアムユーザー→ライトユーザー→ノンユーザーと購入頻度が変化するそうです。(そして大半はヘビーユーザーどころか、ミディアムユーザーにすらならない)

ちなみに集中的にマーケティング資源を投資することで、分布が右寄りになる(ミディアムユーザーが増える)など専門的な話もありますが、長くなるので割愛します。

したがって優れたマーケターは購入回数が年1回のライトユーザーが、もう1度来店するか手に取って貰うために非常に頭を悩ませています。

ライトユーザーはブランドが好きで購入していないので、容易に「今年まだ購入していない人数」へ候補入りします。

ブランドが好きでもないのでTVCMには興味を持たないし、バナー広告にも気付きません。池で釣りをしていたら、たまたま、偶然、まぐれで釣れた魚がライトユーザーなのです。しかし多くのマーケターが必然だと信じ込んでいる。「ブランディングの科学」では、このように説明しています。

マーケターは消費者がなかなか自分のブランドを選んでくれないことをつい忘れがちだ。そしていつも平均的購入頻度指数の低さに驚いている(そして、この指数を簡単に増やす余地は大いにあると間違った結論に至っている)。

すなわちマーケターが行うべき「顧客獲得施策」とは、もう少し正確に言うならノンユーザー(=新規顧客)の1回目の購入と、既に1回買ったことがあるライトユーザーの2回目の購入なのでしょう。


「ロイヤリティ」「個客」という表現に対する疑問

日本にいる人口はおおよそ1億2000万人、上限は決まっています。しかも、この先に人口が減少していくのは間違いない。「重要なのは1人あたりの購入頻度をより高めるCRM的施策だ!」「個客を囲い込んで頻度を上げろ!」と考えるのは当然かもしれません。

ad:techやMarkeZineなどのマーケティングカンファレンスに行くと、やたらと「DMP!」「個客!」という言葉が飛び交っています。もしかしたら彼らは、ライトユーザーや増やす行為を「焼き畑農業だ!」とすら思っているかもしれません。

しかし、人間の購買行動はそこまでコントロールできるのでしょうか? 要は「興味の無いものに興味を持って貰い、興味を持ち続けさせます」と言っているに等しい。

そんなこと、できるんでしょうか?

ちなみにアイキャッチの画像覚えていますでしょうか。渋谷の雑踏を写したものですが、写真右側はあるTVドラマの宣伝看板でした。

さて何でしょう?

あえて、文中にも同じ画像をもう1回挿入しました。すなわち、2回リーチされていることになります。



…。



……。



………。



…………。



正解はテレビ朝日系列「ハゲタカ」でした。

あの写真を見て「あっ!」と思ったのは実際に見ていた人か、綾野剛のファンか、真山仁のファンか、大森南朋版ハゲタカのファンぐらいでしょう。思い出せなかったのは、あなたが「ハゲタカ」に興味が無いからです。

どうして、あの写真に映る「ハゲタカ」を見落としたのに、特定顧客にクロージングされたCRMを通じて消費者に訴え続ければ、いずれ熱狂的なファンになってくれると思うのでしょう。

消費者が能動的にメールアドレスを登録したから、商品を購入したから、きっと好きになってくれる要素はあるはずだと思うかもしれません。しかしながら、たった1回ちょっと飯を食べただけの異性から、何度も「だぁ~い好き!」って連絡きたら、あなたは相手を好きになりますか?

「ブランドが好きでもないのでTVCMには興味を持たないし、バナー広告にも気付きません」と述べた意味が伝わったでしょうか。

消費者はほとんどのブランドに対して興味が無いんです。実際に商品を買う「真実の瞬間」に、どれだけの人がTVCMや広告のことを覚えてくれているでしょうか。

購入頻度を高めたいのは事実ですが、CRMに強く依存して、囲い込んだ特定顧客の頻度を高めようというのは相当危険な思想だと思います。無理があるのではないか、とすら感じています。

幅広く消費者に訴えかけ、ライトユーザーの頻度向上とノンユーザーの獲得を目指すべきです。

ブランディングの科学では次のように説明します。

通常、マーケティングが成功して売り上げやマーケットシェアが伸びているとき、そのブランドは、今まで以上に多くのヘビーユーザーやミディアムユーザーを獲得し、それ以上に多くのライトユーザーを獲得する。これは、ブランドの成長を継続的に維持していくためには、マーケティング戦略が最終的にはそのカテゴリー全体の消費者に到達しなければならないことを意味している。

「ブランディングの科学」を記したバイロン・シャープは終始、CRM的なものに厳しい姿勢を見せています。このあたり是非、有識者の反論を待ちたいところです。

それに焼き畑農業と言いますが、1度商品を買ってくれた人は2度と買わないのでしょうか。「離反」と言いますが「買わなくなった」のではなく「最初から買うつもりが無かったが偶然買っただけだから、買わないのが普通」なのです。

それは単なる一毛作です。

ロイヤリティマーケティングを否定したいのでは無く、効くブランドとそうではないブランドがあると言いたいのです。


ノンカスタマーを探す旅に出る

話を本筋に戻します。マーケターが行うべき「顧客獲得施策」とは、もう少し正確に言うならノンユーザー(=新規顧客)の1回目の購入と、既に1回買ったことがあるライトユーザーの2回目の購入という話です。

それを、まだ釣っていない池で魚を釣るか、今まで釣ってきた池で魚を釣るか。選ぶなら当然前者を選ぶでしょう。しかも、なるべく多くの魚がいそうな池が良いですよね。

しかし、多くの企業が「新規顧客獲得」と言いながら「既存顧客」に目を向けています。どうすればまだ釣っていない池=「新規顧客」に目が向けられるでしょうか。

方法を2つ紹介します。

①人間を見に行く生活14カテゴリ

「新規」なのですから、ブランドが提供している価値の外に目を向けるしかありません。「既存路線」ではなく「新路線」を探すのです。新路線とは何ぞや?という方は、以下を参照ください。

そのためにブランドの位置するカテゴリーからは離れて、人間の興味・関心に寄り添うべきです。デコムでは、それを「人間を見に行く」と表現しています。

新しい顧客を獲得しようと考えるとき私たちは、やれ4Pだ、やれ競合比較だ、やれブランドだと、製品やライバルや顧客に目を向けます。商品を買うのは本来なら人間なのに。

なぜ人間そのものと向き合わないのでしょうか?

それは人間をデモグラフィックに捉えることに慣れ過ぎてしまったので、向き合い方が分からないのではないかと考えます。

そのための道標として、デコムでは「生活14カテゴリ」を開発しました。これは「人間は、だいたいこの14カテゴリに時間を費やしているし、お金を消費しているよね」と取り纏めたもので、言い換えると人間の興味・関心はこの14カテゴリに収斂されます。以下の通りです。

例えば、プロスポーツであるサッカーを観戦する人たちを増やすために、新規顧客の獲得を考えましょう。普通ならサッカー好きを探そうと考えるかもしれませんが、それは既存顧客に過ぎません。もっと拡張すべきです。

「何が変わると、プロスポーツ観戦が変わるだろうか?」

このように自らに問い掛け、因果関係が近そうなカテゴリを選びましょう。ただし、14カテゴリの中で「プロスポーツ観戦」に近そうな領域は「遊び・エンターテインメント」ですが、それだと近視眼すぎます。

例えば、僕は「ヘルスケア」「学び・教育」を考えました。「大声で絶叫して体内の澱みを発散させるヨガのようなプロスポーツ観戦は新路線かもしれない」「実際の試合を通じて数ⅡBレベルの確率を学べるプロスポーツ観戦は新路線かもしれない」と思い浮かべました。

ヨガに興味を持っている人や、確率論など数学に興味を持っている人は「新規」っぽいですよね。

これが正解、というものはありません。みんな新規顧客になる可能性を秘めています。どこに居る人が新規顧客になり易いかを14カテゴリの観点から探すのです。

この辺りはプロスポーツ観戦に携わっているマーケターこそ詳しいですし、答えられないなら「顧客」は知っていても「人間」は知らないと言えます。もし、そんなマーケターがいたら「どの口がカスタマージャーニーとか言ってるんや!」と非難しましょう。


②人間を見に行くテーマ設定:LIV

生活14カテゴリ以外に「Value」「Issue」「Layer」という3つのテーマ設定があります。

「Value」…ブランドの価値に目を向ける
「Issue」…ブランドが抱えている課題に目を向ける
「Layer」…ブランドを抽象・概念化したカテゴリに目を向ける

例えば、「百貨店」で考えてみましょう。

百貨店の「Value」は、言わずもがなラグジュアリーな体験です。百貨店には近所のスーパーに行く寝巻きみたいな格好ではよう行きません。普段はちょっと良いドラッグストアでALBIONを買っている嫁も「たまには百貨店で良い接客を受けたい」と言います。

百貨店とは「自分をラグジュアリーな存在だと錯覚させる空間、人」の集まりだとも言えます。

だから、百貨店以外で「自分をラグジュアリーな存在だと錯覚させる空間、人」を満たしてくれるブランド(物、場所…etc)を探しに行きましょう。そこに集まる人たちこそ、百貨店にとって新規顧客になり得る存在です。

百貨店の「Issue」は、若者不在・高齢者偏重です。近所の三越に用事があって言ったとき、エレベーターの中の人が私以外全て60歳以上に見えて、いよいよえらいこっちゃと思いました。

言い換えると、若者に「ラグジュアリーな体験」がウケていないわけですから、代わりに何がウケているのか探すことが大事です。

「TikTokがウケてます」だと話になりません。その背景に隠されている価値を探しましょう。

最後に、百貨店の「Layer」は、単純に考えれば"買い物"です。が、やれ催事だ化粧品だ財布だ服だ小腹が空いたから休憩だと過ごしていたら半日ぐらい経っているので"旅行"かもしれません。


このように①生活14カテゴリ、②テーマ設定「LIV」を活用して、まずは「顧客」ではなく「人間」を見に行きましょう。

そこで「新規顧客」に出会える池に巡り会えるはずです。


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松本健太郎

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