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郷愁と愛

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すきだからね。
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ペパーミント神保町

ペパーミント神保町

神保町が好きである。非常に。
多くの文豪が過ごした街だからというのは勿論、この街が湛える独特の哀愁というか、僕の知らない過去の面影だとか、そういうものが特に魅力的に映るのだと思う。

さて、神保町にある学士会館が2024年12月に再開発の為一時休館をするとの情報が入った。歴史ある建物だから仕方がないとはいえ、物寂しいものである。まだ1年ほどの時間はあるが、悠長にしているといつの間にか時は過ぎてしま

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逃宿:西郊ロッヂング

逃宿:西郊ロッヂング

2023年12月28日の手記より。前記事はこちら

荻窪南口の方へ下り、閑静な住宅街を、西日の中歩いていく。当時を過ぎたとはいえ、まだ日が沈むのは早い。いつの間にか僕の後ろに影が長く伸びている。

細い路地の間を抜けていくと、本日のお宿が目の前にそびえたっていた。
建築マニアであればもっと垂涎になっていたであろう外観。もちろん、マニアではない僕の心も十分に踊らせてくれる。今から数十年前から何も変わ

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喫茶への逃避

喫茶への逃避

2023年12月28日手記より。

もう年越しである。年の瀬に、ふと逃げたくなった。
僕の逃避癖は今に始まったことではないのだが、今回は一段と激しい。ここでは伏せるが、今年は色々なことがありすぎた年だった。

さて、今日のことを記していこうと思う。
今日はまず朝起きてから新宿へ向かった。数日前、突発的に予約を入れた宿は荻窪に位置していたため、新宿での乗り換えを要した。入館は16時を予定していたので

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映画館で名画を見る幸福

映画館で名画を見る幸福

※2022年の下書きから投稿。

最近、名画座にハマっている。サブスクやレンタルなどで家で映画も手軽に楽しめる時代。こんな時代だからこそ、僕はわざわざ映画館に足を運び、映画を鑑賞したいと思う。
さて、名画座とは何か。

現在、僕の住む帝都にはいくつかの名画座が存在している。レトロな構えの映画館もあれば、改装してずいぶんきれいになっているものも。映画だけではなくその空気感を楽しめるものも多い。
7月

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【覇王別姫】さらば、わが愛を見よ。

【覇王別姫】さらば、わが愛を見よ。

とんでもない映画に出会ってしまった。
二十数年生きてきて、それなりに映画を観てきたつもりだった。そんな自分でも、人生のベスト映画を塗り替えられるとは思ってもみなかった。
そんなとんでもない映画が、「さらば、わが愛」である。

1993年に公開された中国・香港・台湾合作映画であり、カンヌ国際映画祭パルム・ドール賞を受賞したこの作品が、公開30周年、レスリー・チャン没後20年特別企画として4Kでこの夏

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れもんぱい

れもんぱい

夏なので、レモンパイが食べたくなった。
しかしレモンパイを置いている喫茶店はなかなかみつからない。

ある時、僕は友人と映画を見に行く約束をした。
時間より早くに集合場所へ到着してしまった。少しだけ付近を散策していると、友人が遅れてくるという連絡が入る。
なんとなく、映画館の横にある喫茶店が目に入った。

それは偶然だった。
足を踏み入れてみて、ふと、店の看板を見ると、そこにはレモンパイの文字が。

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京都紀行文④

京都紀行文④

4日目の朝である。あいにくの曇天だがまだ泣き出しはしないらしい。安心した。ホテルの食堂で流れているニュースを見ながら朝食を摂り、今日の予定をぼんやり頭の中に描いていく。行きたい場所は決まっているので後はどう回るかである――(3日目はこちら)

八木邸今日は新選組巡りをすると決めていたので、まずはホテルの西側に位置する八木邸へ向かうことにした。一駅分電車に乗って四条大宮へと到着し、住宅街を縫うように

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京都紀行文③

京都紀行文③

京都3日目。曇天続きだった京の都に、晴天が垣間見える。季節はもう秋だというのにどこかじっとりとした夏の空気が混じる。朝食を済ませた後、何も決めていなかった3日目をどう過ごすか逡巡した。足の向く方へ行こう。僕はとりあえず外へ出てみることにした——(2日目はこちら)

四条~祇園四条方面へ裏道を進みながら新京極の方面へ向かう。新京極のカフェで時間でも潰そうかと思ったが、時刻は9時30分。さすがに店が開

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京都紀行文②

京都紀行文②

2日目。行きつけのホテルは四条烏丸あたりなので非常にアクセスが良い。僕は四条辺りが好きで、夜散歩に出かけたりする。
お世話になっているホテルは朝食が非常においしく、(写真は撮っていない)満腹の状態で出発できるのが助かる。(1日目はこちら)

御金神社烏丸を北上し、二条城の方面に歩いていくと、閑静な住宅街の中に御金神社が現れる。金属と鉱物の守り神である「金山毘古命」を祀った神社である。
どこに行こう

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僕と紅茶と…

僕と紅茶と…

僕はゆるゆると紅茶を飲むことが好きで、それはその紅茶の香りだとか味とかに固執するわけではなく、ただひたすらに紅茶を飲むという行為、またはそれによってもたらされる空間や時間が好きだという意味に近い。
ふわりと立ち上るはるか遠くの国を想像させる香り。じんと腹の底から熱くなってくる感覚。ゆったりと流れていく時間と纏まらない思考が落ち着く瞬間。
そういうモノが好きで、僕は紅茶を飲む。
だから、正直言って茶

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京都紀行文①

京都紀行文①

先月、気晴らしに京都へ足を運んだ。
梶井基次郎は京都から逃げ出して何百里も離れた仙台や長崎にいってしまいたいと檸檬で述べていたが、僕の逃げ出す先はこの京都だった。
東京のギラギラとした喧騒と希薄な人間の佇まいなどから離れたくなって、逃げるように京都へ向かったのだ。
先に断っておくが、療養のためではない。僕は僕自身の心の安寧を求めて京都へ足を運んだ。

京都へ向かう時の僕は実に乙女的で、まるで京都に

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初めて推したアイドルが生まれた日

初めて推したアイドルが生まれた日

昔からぼんやりとアイドルの存在は見ていた。それが日本のジャニーズだったり、AKBだったりしたが、表舞台に立って人々を笑顔にする人たちのことを尊敬すると同時に羨ましいとも思っていた。
ユニットとして、曲として好きなものは多く、音楽としてもパフォーマンスとしても楽しんでいたが所謂「推し」と呼ばれる存在はいなかった。舞台俳優ではそういう存在がいたが、アイドルにはいない人生を送っていたのだ。流行りの良いな

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夏の読書に【百鬼夜行シリーズ】

夏の読書に【百鬼夜行シリーズ】

纏わりつくような厄介な熱とその空気をよりいっそう増長させる蝉の声が耳につく季節になった。
もう夏だ。
梅雨が明けたのか否か、あやふやな状態ではあるが、からりと晴れ渡った青空を見上げれば、もう気分は夏である。

蝉の声が聞こえてくると、必ず読みたくなる本がある。

京極夏彦著「姑獲鳥の夏」である。

京極氏の鮮烈なデビュー作・姑獲鳥の夏はタイトルの通り、夏が舞台になっている。劇中の描写に蝉の声や暑さ

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ミッドナイト・イン・パリを深夜3時に見た

ミッドナイト・イン・パリを深夜3時に見た

20時に眠りについたせいで夜中の3時に目が醒めた。これはいけない。如何にか眠ろうと努力してもうまくいかない。醒めてしまったものは仕方がない。入眠を諦め、映画でも見ようとしたところ、友人から「ミッドナイト・イン・パリ」が面白いと言われた。

現在3時。「ミッドナイト」と言っていい時間。家の外の道路を走る車もなく、家の中の外もしんと静まり返っている。わずかに窓枠にぶつかる雨音しか聞こえない。「ミッドナ

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