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そうか、売れる営業が改革を殺すのかもしれない 書評:V字回復の経営

こんにちはカワナミです。今回のnoteは田端大学の課題図書である「V字回復の経営」についての書評を書いていきます。

■はじめに~誰にこの書評を届けたいのか

本書を読むのは10年ぶり2回目。しかし10年たった今、見え方が随分違う…読みながら襲い来るのは心臓と胃が鷲掴みにされたような苦しさ。。。考えると原因は10年前はイチ営業マンで、今は営業企画側にいるから。
自分のやり方で売ればOK!ではなく事業・組織としてどう生きるのか?を考える時にとにかく躓きに躓いたわけです。もっと早く本書を読み返していれば、、、。
そういうわけでイチ営業メンバーからリーダーや組織長になり、これから事業が主語になっていく方が「お、危ないから自分も読んでおこうかな」と思ってもらえたらなと思って書いていきます。

■前提:V字回復の経営ってどんな本?

まず簡単に「V字回復の経営」がどんな本かお伝えをすると

○実際に行われた事業改革をベースに、架空の太陽産業という会社のアスター事業部が、2年でV字回復するまでを描くドキュメンタリー仕立て
「不振事業の症状50」×「改革を成功に導くための要諦50」の「あー!あるある!」な具体事象を元に「改革9つのステップ」にて整理される

また田端さんのブログから引用させていただくと

単なるエンタメ本や、サルでも分かる式に「シュガーコート」された本では決してない。「ビジネス小説としての娯楽性」・「企業再生ノウハウ本としての実用性」・「組織論としての普遍性」これら三つの要素が実に高い次元で融合した奇跡的な名著。(田端さんのブログTABLOGより抜粋)

400ページの長さを感じさせないくらい没入感があり読みやすいのが特徴です。

■読んで感じた素直な思い

今回本書を読むのは2度目になるわけですが、10年経って1点気になることがありました。「V字回復の経営」を読んでいて思ったこと、それは20年来の実践的かつ実戦的名著で多くのビジネスマンに読まれているにも関わらず、なぜ身の回りでV字回復の報をそれほど目にしないのか?ということ。みなさんはいかがでしょうか?

もしかして、見えないどこかで今日も「V字回復に向けた改革が殺されている」のではないか?(たしかに、本書でも改革が死ぬ死なないの分水嶺があると語られている。)そんなことに思いを巡らせ50の症状を見返し続けてみると「もしかしたら売れる営業が改革を殺しているのかもしれない」という考えが頭に浮かんできました。

■「売れる営業が改革を殺しているのかもしれない」と考えた理由

不振事業の症状50を追っていくと何度も目につく項目が出てきます。
※症状50はこちらのnoteからどうぞ

僕でいうと、下記の4つが特に突き刺さりました。

症状10 昔のことばかり引き合いに出す「語り部が多い」
症状42 抜本的に構造を変えるべきものを、個人や職場の改善の話にすり替える人が多い。
症状46 事業全体を貫くストーリーがない。組織の各レベルで戦略が骨抜きにされている。
症状48 会社全体で戦略に関する知識技量が低く、戦略の創造性が弱い

なぜこの症状が目につくのか、それはリクルートでの実体験をともなう2つの理由からきていることがわかりました。

理由①リーダーや組織長への任用の多くは「売れた経験をもつ営業」
「V字回復の経営」内では、グループ会社の立て直しに成功した黒岩と外部からのコンサルタント五十嵐の存在があり戦略については検討フレームと推進手順をしっかり持った上で進んでいる。

しかしながら、実際大企業の任用シーンで散見されるのは「売れた営業」がリーダーや組織長になること。しかもプレイングも兼任して。この場合どうしても「自分のやり方」が戦略に投影されがちで、「打ち手中心」になることが多いように思われます。メンバーとの面談で「お前さ、これはこの課題をこう捉えてこう打ち手を打ってこう伝えればいいんだよ」「なるほど!そういうことなんですね(なんか凄いけどそんな簡単にできねーよ)」なんていうやり取りが目に浮かんでしまう。。。うーん。
更に戦略の知識技量を学ぶことも無ければ、検討をしている時間・猶予も与えられないから余計その場しのぎの「打ち手主義」が加速するのではないかと。結果として強烈な反省も無ければ、シナリオもない。
そして任用直後は「別の誰かが書いたシナリオを走りながら修正を考えなければならない」。つまりぼーっとしていると僕らは「名選手、名監督にならず」のように「戦略に関する技量が乏しい」リーダーになってしまう危険性を秘めている。
あなたが売れる営業であれば、あなた自身が改革を殺すかもしれないということ。これが1つ目の理由。
※「V字回復の経営」以外に野村元監督のインタビュー記事も参考になります。

理由②改革における戦略推進は「やらないことを徹底的にやらない」が難しい
本書内では、勝ち戦を見い出し、勝てる仕立て(体制・商品)、事業全体を貫くストーリーで戦略を徹底することが語られています。
ところが、売れる営業は戦略を徹底する以外にも売れる方法を持ってしまっている打ちての天才。つまり「何でもあり」。もし、短期的な売上が怖くてこの「売れる営業のなんでもあり」を許してしまえば、一貫したストーリーは時に無味乾燥な型化に見えてしまって守られなくなる。これでは組織として成果を出していくのは難しい。これが2つ目の理由。
想像してみてください、特定のテーマを決め、ひな壇でのテーマコミットを約束したがゆえにどんなニッチなテーマでも面白さが担保され、長く愛されるアメトーク。そのひな壇に2~3人の明石家さんまが投入された光景を。番組がやりたいことなどできるはずがありません。あぁ恐ろしい・・・。

■それでは僕らが打席に立った時何をしていくのか?

上記に書いてきた「改革が殺される理由」は簡単に言ってしまえば、戦略検討スキル及び時間的猶予のなさから周りを動かすだけの圧倒的に一貫したストーリーを作れないことに端を発しているのだと思います。
リクルートでは経営人材を考えるのに「見立てる」「仕立てる」「動かす」の3つを大事にしますが、この3つの武器は「自分が責任を負う立場の一歩前」から助走をはじめないといざという時に使えない。
今タスクフォースを組んでまで0から機会を与えてくれる企業は少ないでしょう。だからこそ、イチ営業マンである間に、V字回復の経営を読み「改革を成功に導くための要諦50」と照らし合わせながら「自分だったらこの事業をどうするのか?」を考えることをおすすめしたいのです。そう冒頭申し上げたとおり、イチ営業マンからリーダーや組織長になろうとしている方には特に。(というか自分も本当にやっておけば良かった。詳しくはかけませんが2年は遠回りました。)

■さいごに

余談ではありますが、「V字回復の経営」を読んでいくと使命感と熱い気持ちになります。しかし前回読んでからの10年間当時期待していたほどの変革への関わりを持つことはできていませんでした。
一度燃えた思いがそのまま行動に移し、続けられるのか?今一度問うことも大事なのではないかなと思った次第です。
もし同じように感じてくださる方がいれば、黒澤明監督の「生きる」をオススメしたい。

志村さんになるのか、はたまた一度は燃え上がったものの気づいたらまた何も動かない行政職員の様になるのか。そんなことを思いながら4月からのタスクフォースに身を投じたいと思います。

以上、長々とした文章になりましたが、「V字回復の経営」の書評でした。
最後に、もしこのnoteを気に入っていただけたら、フォローやスキをいただけるととっても嬉しいです!
川波 佑吉(twitter @ykch_

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