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葬儀費用の保険

風邪をひいて、ボーっとテレビの前で寝てるのも良いものだ。CMを見たりウツラウツラと夢見心地でいると、我が人生いろいろな事を思い出す。これって単にムダな年を取ったのではなく、多くの経験を積むことが出来たという、喜ばしき事なのかな。

たまたま85歳まで入れます、などという葬儀用の死亡保険のCMを見た。豪勢な葬儀を行うならまだしも、普通の葬儀では、通夜と告別式で葬儀費用が賄えてしまう。母の時には、相当むかしだが、花輪が50を超えて並び、近所に迷惑までかけた。この時は葬儀屋も父も驚いていたくらい、かなりの収益、というのは不謹慎な表現だが、普通の葬儀がもう一回行えるくらいの香典の現金が残った。

父の葬儀の時もけっこう残ったので、10年前の妻の葬儀では当然そのくらいはと思っていた。残念ながら・・・、足が出た。やはりこれは個人と施主の、普段の付き合いと言うべきモノだと感じた。父は自営でそれなりの功績があった。それを受け継いでからは相当な落ち目だったが、現役を引退して長かった父の葬儀では、想像を超えた人達が参列に来てくれた。父の存在の大きさを感じたモノだった。

妻の時に足が出たといってもわずかで、差し引き10万円程度だったと記憶している。参列者は多かったのでその程度だが、少なかったらもう少し出していたかな。出したとしても、驚くほどでもない。残された子供に迷惑をかけたくない、などと考えることもない。

戦後間もなく生まれたベビーブーム世代は、親の面倒をみながら子育てもしてきた。しかも大人数の中で競り合って生きてきた。そして最後の最期で「子供に迷惑をかけたくない」では、余りにも情けない生き方だと感じる。なので自分の子供達には、「美田を残さず」というほどの美田など無いが、全て使い切るので、後は任せると伝えてある。葬儀代など考えたこともない。


葬儀費用といえば以前、知人から困ったと、面白い相談を受けた。

戸建て借家に親子、と当時は思っていた、母と息子らしき二人が越してきた。余り近所付き合いはせず隠れるように暮らしていた、と後に思えば感じられたそうだ。母親は家に籠もりきりで、数日に1回位の買い物だけ。若い男は近所の町工場で働き、一切同僚との付き合いもなかった。

1年が過ぎた頃から女の方が病気になり、隣近所も心配したが、医者には掛からなかった。そのせいか家賃も滞るようになり、家賃よりも病気が気になり、金が無いなら貸すとまで家主が言い始めた。

ついにある日、女の方が亡くなってしまった。金が無いというので、大家と近所で相談して、近くの葬儀社に頼んで普通の祭壇を設えた。葬儀となると、親族への連絡や火葬許可証などが必要になる。そういう事さえ男は知らなかったそうだ。

葬儀も火葬も、キチンと役所に届けなければならない。細かく段取りや役所関係を説明して、男に親族の連絡先などを聞くが、ハッキリとしない。明日までに書いておくと言い、一晩一人にさせて欲しいと言う。

翌日訪ねていくと、男の姿は無く連絡先の電話番号だけが残されていた。そこに電話して、初めてこの二人の関係が明らかになった。

女性は東京の人で若い男と不倫をして、駆け落ちをしたという。すぐに東京から霊柩車が来て、近所の人達に何も言わずに乗せて行ったという。この辺の霊柩車は、病院からの搬送はセダン型で、火葬場へは小型バスで行く様になってる。如何にもテレビで見るような霊柩車という、豪華な金色に輝く屋根の車が来たので驚いたようだ。

霊柩車が去って、さて葬儀の祭壇費用や数ヶ月分の家賃はという問題が起こった。子供を置いて若い男と不倫して駆け落ちしたのだから、そんなお金など夫が払うわけがない。あるいは男の生まれ故郷を聞いて、男の親に請求すべきではないかとか。隣近所も数日休んで手伝いもしてる。

簡単なことで、要は不倫で駆け落ちという単語で惑わされているだけではないか。女性の正式な夫が生きているなら、そこに連絡をして相談するのが筋ではないか、と自分の意見を言った。そういう答えを望んでいたようで、直ぐに連絡をしたが・・・ガチャリと切れた、そうだ。

祭壇などの費用は大家を含めて近所で折半し、家賃は大家が涙をのんだ。後日談として、あの時は近所の人達は偉いと思ったと話したら、けっこうな金額が後日送金されてきたらしい。文面は「各種費用」だったか、そんな文面で他には何も書かれていなかったそうだ。さすが都会と地方では葬儀費用が違うのだろうと話し合ったそうだ。葬儀祭壇費用と家賃を払い、差額の残りは返さずに、その年の忘年会費用に回した。

忘年会の話題はこの事件一色で、様々な憶測で楽しめたようだ。聞いていて、何とも人生とは風雨と長短と、人それぞれ不可思議なモノであると感じた。

そもそもの問題の元は、大家がシッカリと身元の確認をしていなかった事が原因だ。そして大家が仕事先まで紹介して、その工場も人手不足ということだけで履歴書や身元保証人も求めていなかった。如何にも田舎の付き合い方で、いい加減な事ばかりで、その隙をついて起きたことでもあった。

またまた葬儀費用の保険から、余計な事にまで拡げてしまった。
若い男はかなり真面目だったそうだ。さてさて、この手の痴情関係の駆け落ちとは、どちらが悪いのだろうか。世間知らずの男か、親子ほど歳の離れた女か、逃げられるほど問題のあった夫の方か。

長く生きていると、話題は尽きないものだ。
こういう変わった出来事にも遭えるのだから、生きているのも良いものかもしれない。

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