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うるさい冷蔵庫

まだ妻の元気だった頃、実家の近くに義母の姉が住んでいた。持ち家で夫の年金で悠々自適だったが、少しのことでも便利屋のように用を言いつけてきた。蛍光灯の交換やテレビの具合など、街中の隣の町内で5軒くらい離れた所に電気屋があるのに、あの電気屋はケチだから直ぐに金をくれと言ってくる、と言うお前の方がケチだろう。

行くと毎回、「チー、チー、チー」と虫の鳴いてるような音が聞こえてくる。その音があまりにも低いので、高音だがわずかな音なので見つけにくい。ある日やっと音源が分かった。冷蔵庫の一番下、冷凍庫が完全に閉まっていなくて、警告音が鳴っていた。


高齢者になると、加齢性難聴といって耳の感覚細胞が少なくなる。そのために高音域から聞こえにくくなる。警告音のHzが高音域で、長年鳴り続けていたので音量が小さくなり、聞き取れなくなっていたようだ。

このバアサン、年金は遺族年金の他に国家公務員の共済年金からも入り、普通の勤め人くらいの収入は有った。一人暮らしであの収入なら、毎日外食でも暮らせるのに、とにかくケチでタダだからとハッキリ言って、何でも言いつけてくる。義母のパチンコ依存症を見張るためにと、妻が手を合わせてくるので、仕方なく受けていたが・・・、蛍光灯や接着剤など料金さえも出さない。

食べもしないのに、何でも冷凍庫に仕舞い込んで保存しようとする。腰が悪いので中途半端な姿勢で入れるものだから、中の整理も出来てないで、完全に閉まっていない。しかも夫の健在中に補聴器を買って持ってるのに、電池を使うからと使っていない。いくらか耳が悪いていどで、少し大きな声を出せば会話は成り立つ。中途半端な難聴のために、この警告音が聞き取れてなかった。

修理をして帰るときに、この冷凍庫から出してお礼にと、中身の解らない物を渡してくる。カピカピになっていて、食べられそうにないので台所に置いてくるのだが、解凍したそれをまた仕舞うらしい。形が悪いまま入れるから、また「ピー、ピー」となる。

高齢者になると、若いときのように動けないのに、何でも仕舞い込んでしまう。食べ物が少しでも余ると冷凍庫に入れ、安売りの物は買い込んで段ボールに入れて、車の無い駐車スペースに積み上げてる。狭いところに、まさに所狭しと積み上げているので、中に何が入っているのかも分からず、整理も出来ない。ネズミにとっては実に住み良い環境で、狭い茶の間でテレビを見てると、すぐ後ろをネズミの親子が走り通って行く。


家の中は独特な老人臭がヒドく、部屋の隅は綿埃が長く繋がっていて、冷蔵庫や台所の様子を見ても不潔で、金のあるくせにケチで、何でも捨てられずに仕舞い込んでる。行ってもお茶を飲む事も出来ない。茶渋で汚れてるだけではなく、湯を注ぐと上にゴミが浮いてくる。むかしは四人姉妹のなかで、うるさいくらい綺麗好きで面倒見の良い長女だったと言うが、絶対に信じられない。

こういう年寄りには成りたくない。成るようなら、自分の恥をさらす前に自分自身を消してしまいたい。こういう婆さんは世のために早くいなくなるべきだ。

そう思っていたが、今朝冷蔵庫の近くに行ったら「ピー、ピー」と聞こえてきた。まさかと思ってみたら、冷凍庫がわずかに開いていた。夜中に確かに中を見てキッチリと閉めたが、ジップロックが邪魔をしてわずかに開いていた。

ム ム ム ム ム ・・・


義母とこのバアサン、同じ特養ホームの施設に入り、未だにヘラヘラとしてノンビリ生きている。憎まれっ子世に憚るとは・・・。

はばかる【憚る】
①さしさわりとして距離を置く。②幅があって入りかねる。満ちふさがる。いっぱいにひろがる。③幅をきかす。のさばる。④恐れつつしむ。気兼ねする。

広辞苑 題七版 2381頁



我ながら情けない。今朝は4時から冷凍庫内を整理した。一番下には、直ぐに食べられるような加工品や調理済みが入ってる。下から2番目には、下処理済みの食材が入ってる。野菜室の野菜を合わせれば、ほぼ2週間は買い物をしなくても良いくらいの量がある。なのに買い物に行っては、仕舞い込んでる。

段ボールも潰してゴミの日に出せば良いのに、何かに使えそうだと積み上げている。衣類もサイズが合わないのに、もしかしたら痩せて着られるようになるかも、などと思って洋服タンスの中が一杯になってる。旅行の記念にとタオルを貯めていたが、使うのは4枚程度で、タンスが一杯になり、着替えの洗濯後は部屋の中の物干し竿に下がったままになってる。部屋や廊下はいくら掃除をしても、猫のトイレ砂が撒かれたようになってる。

嫌だ嫌だ、あんな醜態を晒すくらいなら・・・などと思っていたのに、いつの間にかバアさん達の仲間に入っていた。情けない・・・。



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